人気ブログランキング |
June Night by Betty Everett
タイトル
June Night
アーティスト
Betty Everett
ライター
Abel Baer, Cliff Friend
収録アルバム
The Very Best of Betty Everett
リリース年
不詳(1960年代)
他のヴァージョン
The McGuire Sisters, Jimmy Dorsey, Gloria Lynne, Miles Davis他多数
f0147840_2349755.jpg

◆ スタンダード曲? ◆◆
ベティー・エヴァレットには、The Shoop Shoop Song (It's in His Kiss)、You're No Good、Getting Mighty Crowdedなどのヒットがあり、またジェリー・バトラーとのデュエットでもLet It Beなどがヒットしています。メインストリーム的な後者はともかく、R&B的な前者のほうはいまでもよく聴いています。

大昔の曲のことはよく知らないのですが、このJune Nightはスタンダードらしく、The Great Song Thesaurusという本によると、1924年につくられたそうで、上記以外にも数々のヴァージョンがあるようです(1955年以降にビルボードにチャートインしたヴァージョンはジミー・ドーシー盤のみ)。

f0147840_23494194.jpgそれで、ふだんのエヴァレットのR&B調とは異なり、ちょっと変形した4ビートが使われている意味がわかりました。昔風にやってみた、または、だれかジャズ・ヴォーカルの人(マグワイア・シスターズでしょうか)のヴァージョンを参照したのだと思います。

エヴァレットはブラック・シンガーにしてはディクションがよく、歌詞を聴き取りやすいのですが、一カ所、よくわからないところがあって、ウェブで調べてみました。わたしが聴き取れなかった箇所について、意味不明の聴き取りをしているところもあり、正確と思われるものを見つけるのに手間取りました。

◆ ベティー・エヴァレット盤の歌詞 ◆◆
その正確と思われる歌詞も、エヴァレット盤とは異なっていますし、エヴァレット盤を元にした歌詞は発見できなかったので、以下に、他のヴァージョンを参照しつつ、書き写してみます。

June Night
(modified as Betty Everett sings)

Just give me a June night
The moonlight and you
In your arms with all your charms
Neath skies above and we'll make love

I'd hold you, enfold you
Then dreams will come true
Oh give me, give me, give me a June night
The moonlight and you

(repeat both verses)

わたしが聴き取れなかったのは、enfold youというところです。I'll hold you in full viewなどとしているところがありましたが、そんな風には聞こえません。enfold youのほうがずっと理にかなっていると感じます。

◆ 「お月様と六月の花嫁派」と「星菫派」 ◆◆
日本でいえば大正時代に書かれた曲ですから、甘ったるいところが賞味のしどころでしょう。女性の側から積極的に誘う(というより、六月の花嫁にしてね、というプロポーズですが)というのは、当時としては冒険的な設定だったのかもしれませんが、でも、時はロアリング・トウェンティーズ、ギャツビーとチャールストンの喧噪の1920年代ですから、たぶん、それほど違和感はなかったのだと想像します。

作詞家は、Juneというと、すぐにMoonで韻を踏むことになっています。日本で「星菫派」(「せいきんは」と読みます。広辞苑では「星や菫(すみれ)などに託して恋愛を歌う浪漫詩人の一派」と定義されています)の少女趣味を皮肉るように、「MoonとJuneの詩」とあげつらったエッセイを読んだことがあります。日本の「お星様とスミレ」同様、「お月様と六月の花嫁」は少女趣味の象徴です。

しかし、歌詞というのはおおむね星菫派、じゃなくて、「お月様と六月の花嫁派」的なものですし、とりわけ大昔のものはそこによさがあると思います。現実主義が浪漫主義を圧倒している現代だからこそ、そういうたわいのないものが好ましく感じらるときがあるのではないでしょうか。

この曲の歌詞はわずか2ヴァースしかありませんが、フランク・シナトラは「2ヴァースの歌はいいんだよ」と、娘のナンシーにいったそうです。その理由は記憶していなかったので、改めてナンシー・シナトラ著『Frank Sinatra: My Father』を開いてみましたが、説明はありませんでした。想像するに、短くて、歌う側にとっても聴く側にとっても覚えやすい、あるいは、間奏のあとは、自由に2つのヴァースを変形してインプロヴできる、というあたりでしょうか。

f0147840_2350574.jpgこれだけ短いと、ストーリーを語るわけにはいかないので、勢い、俳句や短歌のように情景や心理を描写するものにならざるを得ません。その場合、俳句がそうであるように、ある言葉がもつ広がり、文化的な共有財産に頼ることになります。月と六月は、それだけである雰囲気を提示できるので、こういう歌詞になったのだろうと思います。女性にとって、六月はもっとも端的な幸福の象徴ですから。

◆ 六月の由来 ◆◆
六月といえば、ジューン・ブライドを思い浮かべます。これはローマ神話の女神ジュノー(ユノ)からきているのはご存知のとおりで、「彼女はもともと女性の結婚生活と密接な関係をもつ女神で、広く女性の崇拝を集めていた」(世界大百科)そうです。ユノ(Juno)から英語のJuneという言葉が生まれたわけで、六月生まれの女の子に「ジューン」という名前を付けるのも、将来、幸せな結婚生活を送れるようにと願ってのことでしょう。

星の名前には、ギリシャ・ローマ神話の神々の名前が利用されます。ユノは小惑星の名前になっているそうですが、彼女の夫のユピテルは、英語ではジュピター、すなわち木星のことですから、とてつもないサイズの差があります。ノミの夫婦どころか、ゾウの夫にバクテリアの妻ぐらいの差でしょう(正確な比率じゃないですよ!)。

ジュピターは、ギリシャ神話の太陽神ゼウスにあたる神だそうです。それで、なるほどと思ったことがあります。アーサー・クラークの『2010年』のラストで、木星がミニ太陽化してしまうのは、この連想が生んだものだったのではないでしょうか。

◆ 歌詞の変更 ◆◆
よけいな話はともかく、Juneという言葉からはこのような事柄が連想されるので、この曲では天空に関わる単語が使われ、「天にも昇る気分」のメタファーとして援用されているわけです。日本的にいえば「縁語」の使用ですね。

エヴァレット盤ではNeath skies(大空の下で)となっているところは、通常はNeath stars(星々の下で)と歌うようで、うちにあるグロリア・リン盤もそのようになっています。skyに変更することで、文字通り「星菫派」的ニュアンスが弱められ、ニュートラルに響くと思います。60年代にあってはちょっと甘すぎる歌詞なので、甘みを抑えようとして変更したのかもしれません。

f0147840_23503096.jpgもうひとつの大きな変更は、一般に「In my arms」わたしの腕のなかで、とされている部分が、「In your arms」あなたの腕のなかで、となっていることです。In my armsでは、女性が強すぎる、または、女性が年上のような印象をあたえかねません。他の部分との整合性を考えると、「あなたの腕のなかで」のほうが自然に聞こえます。skyに変えたところでは甘みを抑えましたが、ここは逆に甘みを強めたという印象です。差し引きで糖度はプラス・マイナス・ゼロ。

ベティー・エヴァレットのJune Nightは、The Shoop Shoop SongやGetting Mighty Crowdedのようなヒット曲ほどすばらしいわけではありませんが、嫌味のない声と歌い方の持ち主なので、「古典」を教えてくれる歌手としては歓迎できます。グロリア・リンはメインストリーム・シンガーのように歌い上げるタイプなので、聴きくらべると、さらりと歌っているエヴァレットのよさがいっそう引き立って聞こえました。

自分が生まれるはるか以前につくられた音楽を聴くのも、たまには悪くないものです。
by songsf4s | 2007-06-26 22:52 | 六月をテーマにした歌