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(ヤング・)ラスカルズ全曲完全アップ計画 その08 Collectionsの01
 
ヤング・ラスカルズのデビュー盤については、なぜあのような特別待遇の契約になったかを探るために、あれこれ脇道にはまり込んで長くなったが、今回からはセカンド・アルバムのCollectionsに入るので、もうまっすぐで平坦な道、ただどんどん音楽を聴くだけになる。

しいていうと、セカンドはまだカヴァーが多いので、その大もとへと遡ったり、「ブランチ」(後続ヴァージョンのことを「ルーツ」の反対で勝手にこう呼んでいる)を聴いてみたりといったことに、それなりの時間をとられるだろう。ざっと見た限り、ヴァージョン数はかなりの多数にのぼる。

デビュー盤は、手元にはモノ/ステレオ盤があるのに、クリップはモノしかつくっていなかったが、ここからは両方をすでにアップしてある(モノ・ミックスがあるのは4枚目のOnce Upon a Dreamまで)。

昔、ビル・イングロットのマスタリングとクレジットの入った、アトランティック時代のボックスがリリースされたが、あれは偽のビル・イングロットではなかったのかと思うほど、近年のビル・イングロットによるリマスター盤は、飛躍的に音質が改善された。

ここに貼りつけるラスカルズのクリップは、アトランティック時代に関するかぎり、そのリマスター盤から起こした。YouTubeであっても、それなりのシステムで聴けば、違いはわかるはずだ。

◆ What Is the Reason? ◆◆
さっそく、アルバム・オープナーへ。ステレオ・ミックスで。

The Young Rascals - 01 What Is the Reason (remastered stereo mix, HQ Audio)


日本でのリリースは、記憶ではこの盤からだった。Good Lovin'すらリアル・タイムではリリースされず、68年になってやっと45回転盤が出た。

当然、わたしもこの盤からヤング・ラスカルズを買うようになった。いや、ラジオではすでにつぎの盤のタイトル曲がかかっていたし、そのLPもすでに出ていたと思うが、たぶん、友だちとの分担で、こっちにしたのだろう。

どうであれ、これは感動的な盤だった。1曲目の1小節目で盛り上がった。フロア・タムもすばらしいが、タムタムが出てきた瞬間、おおと唸るほどいい音で録れている。

いや、そのまえに2拍目に鳴っているスレイ・ベルの響きがすばらしいが、これはリマスターのたまもの。2~8トラックの時代(大雑把に60年代の十年間と重なる)には、パーカッション類はたいていオーヴァーダブなので、他の楽器より録音のジェネレーションが若く、きれいに響く。ビートルズのタンバリンなどをお聴きになるといい。

いや、中学生は、録音の善し悪しなど、ほとんど無意識に受け止めているだけで、まず聴くのはプレイの質、とくにドラマーだった。ディノ・ダネリがどんなドラマーか知らなかったので、このWhat Is the Reasonでのプレイにはおおいに満足した。

この盤から聴いたので、当時は気づかなかったが、さんざんデビュー盤のプレイを聴いたあとでこの曲が流れると、あっという間にディノ・ダネリが上手くなったことに驚く。ディノのタイムが安定しただけなのだが、それだけでバンド全体が大人になったような印象を受ける。ドラムというのはつねにサウンドを決定するものなのだ。

終盤に登場する、ステレオ定位を左右に揺らす部分のフィルインの使い方は、デビュー盤唯一の内部オリジナルだったこの曲にも出てくる。他の楽器は消え、ストップ・タイムになってドラムフィルだけになるのだ。これと比較すると、セカンドでのディノの成長が明白になる。

The Young Rascals - 05 Do You Feel It


なにがいけないのか、簡単には原因を解明できないのだが、そもそもこのテンポ、このグルーヴで、ストレート8分のフィルインというのが、中途半端で収まりが悪かったのだと思う。よほどうまくアクセントを付けないと失敗フィルインに聞こえてしまう。また、フィルインの入りの一打が微妙に遅れていることがある。

アルバムでつぎに置かれているGood Lovin'とほとんど同じテンポなのだが、そちらはギターのカッティングのせいで、シャッフル・フィールになっているためか、ディノはフィルインを目立つようには使わず、コーラスの終わりとつぎのヴァースのつなぎ目の、8分の裏拍のライド・ベルによるフィルインの尻尾にタムタムの8分を薄く入れて(そこはトム・ダウドの操作だが)、スムーズにつないでいる。シャッフル・フィールに合わせて、ストレートなフィルインをやめたおかげで、うまくいったのだと思う。

デビュー盤でこのWhat Is the Reasonの終盤と同じような、ストップ・タイムでのフィルインをやったら、失敗した可能性が高いが、セカンドではすでにディノのプレイは安定していて、ほとんどのフィルインは成功している。

Collectionsは、リズム・セクションに関するかぎりはまだ4人で録音しているので、ジーンはこの曲では2度のオーヴァーダブをしたのだろう。ベース、コード・カッティング、ソロを弾いたと思われる。イントロのベースによるミュートしたストレート8分はきれいだし、全体にタイムが安定していて、ベースでの貢献も大きい。ドラミングの善し悪しは、一面でベースとの関係で決まるので、両者の相性は重要だ。

ピアノはおおむね左右に2台のように聞こえるが、ひょっとしたら部分的にもう一回オーヴァーダブをしているかもしれない。さらにハモンドのオブリガートもあるので、フィーリクスはヴォーカル以外に、4度の録音をしたのだろう。

ドラムをセンター付近に定位してオン・ミックスにし、複数のピアノを左右に振って、ごく薄くミックスするというトム・ダウドの選択は、ふつうは思いつかないのではないだろうか。バンドもブースのスタッフも、ここからはまったく違うステージに入る。乗ってくるのだ。

この曲をシングル・カットしなかったのは謎というしかない。シングル曲が速いペースでたくさんできすぎて、つぎのもっといい曲に場所を譲った、ぐらいしか解釈を思いつかない。

◆ Since I Fell for You ◆◆
2曲目はエディーが歌うやや古風なバラッド。いや、微妙にブルーズの味があるが。

The Young Rascals - 02 Since I Fell for You (remastered stereo mix, HQ Audio)


もう「アルバム」の時代は終わっているし、ましてや、LPの曲の置き方なんていうのは古い話、ヴェテランの方々にも念押しとしてそのあたりを少々。

ひとそれぞれではあるけれど、アルバム・オープナーはアップテンポのストレート・ロッカーにするのが多数派なのはご存知のとおり。それを受ける2曲目は、勝手に「受けのバラッド」と命名しているのだが、テンポの遅速に拘わらず、バラッドを置くことが多い。

ビートルズの、というか、そのあたりはジョージ・マーティンの仕事だったそうだが、曲順を思い浮かべてくれれば、明かだろう。Drive My CarでスタートしてNorwegian Woodで受ける、Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandで入って、With a Little Help from My Friendsで受ける、そういったスタイルのことだ。

いまの耳で聴くと、What Is the Reasonでも、一気に大人になったという印象を受けるが、Since I Fell for Youはさらにその感が深い。ギター、オルガン、ドラム、いずれもいいプレイだし、デビュー盤のI Believeですでに明らかになっていたが、エディーのバラディアぶりにも磨きがかかって、申し分ない。

とくにこういう曲では、ディノ・ダネリの4ビート・ドラミング好きがきいて、バラッドでのプレイがきちんとできている。まっすぐに突進する香車タイプのドラマーではあるのだが、見た目ほど単純ではなく、意外に懐が深いところがあり、その片鱗がここにあらわれている。

他のヴァージョンと比較すると、またべつのことが見えてくるので、以下にすこしクリップを並べた。

◆ Since I Fell for Youのルーツ ◆◆
デビュー盤のカヴァー曲は比較的新しいものが多かったし、このセカンド・アルバムでもおおむねそうなのだが、この曲はやや古い。といっても第二次大戦後の曲だが、1947年に作者自身によるこのヴァージョンでデビューしたらしい。

Buddy Johnson featuring Ella Johnson - Since I Fell for You (HQ)


ジャンプ・ブルーズをスロウにしたようなムードで、エディー・ブリガティーの解釈がバラッド寄りなのに対して、このオリジナル盤は、バディー・ジョンソン楽団のプレイも、エラ・ジョンソンのレンディションも、ブルーズ寄りである。いや、かなり好みだが。

こちらはヒットせず、同じ年のアニー・ローリー盤がヒットして(あるいはこちらが初出で、バディー・ジョンソン盤はセルフ・カヴァーの可能性もゼロではない)、つぎにこの曲がビルボード・チャートに顔を出すのは、ずっとあとの1963年。

Lenny Welch - Since I Fell for You (HQ)


レニー・ウェルチはブラック・シンガーではあるけれど、R&Bシンガーではなく、ジョニー・マティスやブルック・ベントンのようなタイプの、ブラック・メイン・ストリーム・シンガーである。

このレンディションも、ストリングスのせいもあってバラッド化してい、バディー・ジョンソン盤のジャンプ・ブルーズの名残のようなものは消し飛んでいる。じっさい、知るかぎりではラスカルズ盤と並んでもっともブルーズ色が薄い。

レニー・ウェルチ盤の大ヒットが刺激になったのだろう、以後、カヴァーが増える。そして、ほとんどがブルーズ寄りの解釈をしている。つぎは、おそらくウェルチ盤ヒット直後の録音。

Dinah Washington - Since I Fell for You (HQ)


久しぶりにダイナ・ワシントンを聴いたが、さすがにたいしたもので、ビリー・ホリデイやエラ・フィッツジェラルドのように厭な味が舌に残ることはなく、非常に好ましい歌いっぷりである。楽器は上手さの勝負だが、歌はいかに上手さを隠すかの勝負だ。

ダイナ・ワシントンは「ブルーズ寄り」ではあるものの、むしろ「自分のスタイル」で歌ったという感じだが、つぎの人は、まあ、もともとこういうスタイルとはいえ、ブルーズどっぷりのレンディションである。

Big Mama Thornton - Since I Fell for You (HQ)


バックはマディー・ウォーターズ・バンド、ピアノはオーティス・スパン。

白人メイン・ストリーム・シンガーはやはりバラッドとして歌っている。つぎは64年リリースのドリス・デイ盤。プロデュースは息子のテリー・メルチャー。この時、いっぽうでブルース・ジョンストンとデュオで歌いながら、すでにコロンビアのスタッフ・プロデューサーになっていたようで、まもなくバーズのデビュー盤をプロデュースすることになる。

Doris Day - Since I Fell for You (HQ)


ハリウッドならではのゴージャスなオーケストレーションのおかげで、いっそうブルーズから遠ざかっている。編曲と指揮はトミー・オリヴァー。

オリヴァーは綺羅星居並ぶハリウッド・アレンジャー界のビッグ・ショットたちの息子ぐらいの世代にあたるせいか、あれこれ妙なこともした。ヴィック・デイナ、ウェイン・ニュートン、ヴィック・ダモーンといったメイン・ストリーム・シンガーの仕事があるいっぽうで、まだグレイス・スリックのいない、ジェファーソン・エアプレイのデビュー盤をプロデュースしたりしている。

もうひとつ、ラスカルズがカヴァーするすぐ前、1965年リリースのウィルバート・ハリソン盤。意外にもブルーズ色は強くない解釈。

Wilbert Harrison - Since I Fell for You (HQ)


ウィルバート・ハリソンはKansas Cityのヒットで知られる。分類するならばR&Bシンガーだが、同じ曲を先に歌ったリトル・リチャードの対極にあるような、ゆるいスタイルで歌う。ジャンプ・ブルーズ時代のムードを保存したような印象で、ファッツ・ドミノ、ロイド・プライスなどに通じる味がある。

◆ リファレンス盤はいずこ? ◆◆
ほかにラスカルズより前のものとして、スパニエルズやハープトーンズなどドゥー・ワップ・グループのものが数種あるのだが、ラスカルズのカヴァーの直接のきっかけになったような盤は見あたらなかった。

であるなら、大ヒットしたレニー・ウェルチ盤をエディーが好きで、なにかバラッドを入れようというところでこの曲を思いだし、メインストリーム・シンガー風にならないようにアレンジした結果、ああなった、ぐらいの解釈でいいのではないかと思う。仮にそういう結論でいいと思うのだが、ひとつだけ引っかかりが残る。

うちにあるすべてのSince I Fell for Youを棚卸ししてみたら、妙なヴァージョンが出てきた。ラスカルズがカヴァーする直前の1965年というタイミングでのリリース、ラスカルズ以外ではうちにある唯一のセルフ・コンテインド・バンドによるこの曲のカヴァーである。

The Sonics - Since I Fell for You


ううむ。音としてラスカルズ盤につながっているようには思えない。ふつうにやっている、というか、このバンドはふつうではなく、きれいな音で録ると気に入らないという、後年のパンク・バンドに似たセンスなので、そもそもこんな曲をやること自体どうかしている。アルバムの流れで聴くと、まるでセックス・ピストルズのMy Wayのように浮いている。

どんなバンドかということを知るためだけの意味で、ふだんの音のサンプルを置く。好きになれるものならなってみろ、とでも云うようなサウンドだが。いやまあ、デビュー当時のキンクスのサウンドの雑なコピーと思っていただければ、ノー・プロブレムじゃないかと!

The Sonics - Louie Louie


なるほど、たしかにきれいな音が嫌いだったのだろうな、とは思う。いつものように、可能な限りの高音質でクリップをつくったのだが、音がよくないので、「HQ」マークはつけずにおいた。

ソニックスというバンドの両極端の音を示したので、もう一曲、そのあいだをとったような、ふつうに下手くそなやつをひとつ。ヒューイ・ピアノ・スミスの曲ではあるけれど、そんなことはどうでもよくて、グループ・サウンズがよくカヴァーしたその元はスミスではなく、どこかヨーロッパーのバンドのヴァージョンだったと思う。

The Sonics - Don't You Just Know It


これくらいだと、? & the Mysteriansぐらいの雰囲気で、懐かしくないこともない。ドラムは頭抜けた低レベルで、仮に当家がかわりに叩いたとしても、まるでハル・ブレインかジム・ゴードンが登場したかのように聞こえるに違いないというほどひどい。

ラスカルズが天翔る馬だとするなら、地虫のように下手なバンドだが、とにかく、両者は「セルフ・コンテインド・バンド」という、同じカテゴリーに収まる。同じ時代にやっていたのだから、どこかのクラブで両者が出合い、ソニックスがはじめてセルフ・コンテインド・バンド文脈に引きずり込んだSince I Fell for Youをエディーや他の面々が聴いた可能性はゼロではないし、レコード店やラジオで聴いた可能性なら、さらに高い確率になるだろう。

アレンジやレンディションで、ラスカルズがソニックスのSince I Fell for Youに影響を受けた可能性はない。両者はまったく似ていない。たんに、ロックンロール・バンドがこの曲をやっているのを知って、自分たちもやってみようと思いたった可能性はある、というだけだ。

◆ オマケ ◆◆
以上、各種のSince I Fell for Youを並べた。わが家にはこの数倍のヴァージョンがあるので、基本的には好ましいと感じるヴァージョンに絞った。ソニックスは例外である! とくに好きなのはエラ・ジョンソンとダイナ・ワシントンのヴァージョン。

最近リリースされたヴァン・モリソンのIt's Too Late to Stop Nowの拡大版ボックスに2種類のSince I Fell for Youが収録された。なかなか興味深い出来で、ここに置きたいような気もするのだが、ヴァンのものは著作権問題でやられる可能性があるので、断念した。

歌ものばかりで、インストがなかったので、最後にオマケとしてケニー・バレルの1972年の録音を。

Kenny Burrell - Since I Fell for You (HQ)




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The Young Rascals - Collections(紙ジャケット仕様)
コレクションズ(紙ジャケット仕様)


Buddy Johnson - Jukebox Hits: 1940-51
Jukebox Hits: 1940-51


Lenny Welch - Since I Fell for You
Since I Fell for You


Big Mama Thornton with the Muddy Waters Blues Band 1966
With the Muddy Waters Blues Band 1966


Doris Day - Latin for Lovers / Love Him
Latin for Lovers / Love Him


Wilbert Harrison - Gonna Tell You a Story: Complete Singles As & BS 1953-1962
Gonna Tell You a Story - Complete Singles As & BS 1953 - 1962


The Sonics - Boom
Boom


Kenny Burrell - Round Midnight
Round Midnight
by songsf4s | 2016-10-02 14:34 | 60年代