マーク・ルーイソンのThe Beatles Complete Recording Sessionsには、序文がわりにポール・マッカートニー・インタヴューが収録されている。
そのなかで、まだライヴ・バンドだったころ、将来をどう考えていたかという質問に、ポールは、レコーディング・アーティストになることが目標だったと答え、さらにこう云っている。
細かいことはどうでもよくて、「たとえばShot Of Rhythm And Bluesのように、われわれはB面からレパートリーを見つけた」と云っていることと、lesser known stuff、あまり知られていない曲、と云っていることが目を惹く。
なぜB面なのかということを、ポールは説明していないが、それは了解事項だからだろう。A面またはヒット曲をカヴァーするのは垢抜けないことだったからに決まっている。
わたしだって、中学の時ですら、B面やアルバム・トラックをやろうという意識はあったくらいで、すでにヒットした曲をカヴァーするのは野暮、というのは、バンドをやった人間の多くが思っていたことだ。
むろん、ヒットしたばかりの曲は、聴き手の誰にでもすぐ了解できるので、そういう曲もやるべきであり、レパートリーは単純な構成にはならないのだが、しかし、B面曲、アルバム・トラック、lesser known stuffはつねにヒット曲以上の価値があった。
サーチャーズも当然、ポール・マッカートニーと(そして、しいて云うなら、我々日本の子供とも)同じ感覚を共有していたに違いない。
プレイする人間というのは、多くの場合、ヴェテランのリスナー、根性の入ったリスナーである。ふつうの音楽ファンより深く音楽に入り込んだ結果として、自分でもやってみようと思い立つ。
だから、当然、ふつうのリスナーが知らないような曲をやるのは、プライドの問題として、きわめて大事なことだった。
◆ Hey Joe ◆◆
Hey Joeといったって、ジミ・ヘンドリクスが有名にした、ビリー・ロバーツの曲ではない。ケイデンス時代のエヴァリー・ブラザーズの「座付き作者」同然だったブードロー・ブライアント作で、オリジナルは1953年のカール・スミス盤らしい。
サーチャーズ盤のクリップはないので、サンプルにした。イントロがWhat'd I Sayそっくりだが、ちゃんとHey Joeになるので、ご心配なく!
サンプル The Searchers - Hey Joe
Carl Smith - Hey, Joe!
カール・スミス盤は大ヒットしたそうだが、どうもピンとこない曲で、じゃあ、歌詞かな、と思うのだが、これが面白いかなあ、昔は面白く感じたのか、という微妙な話だ。
ジョーという友だちに向かって、その娘はすごいな、どうだ、俺に譲らないか、とかなんとかいう品のない歌詞で、その品のなさがウケたのか、なんだったのか。
カール・スミス盤がアメリカでヒットしたのと同じ1953年に、イギリスではつぎのヴァージョンが大ヒットしたのだそうな。
Frankie Laine - Hey Joe
こちらのほうが、きちんとアレンジされていて(プロデューサーのミッチ・ミラーのアレンジか)、華やかな雰囲気があり、まだしも納得のいく「ヒット曲」である。ペダル・スティールの間奏も魅力的だし、バッキング・コーラスも、おお、いいな、と思う一瞬がある。
たんなる状況からの判断だが、サーチャーズは、オリジナルのカール・スミス盤ではなく、フランキー・レイン盤か、またはいまでは忘れられてしまったイギリスのローカル盤を元にしたのではないかと想像する。
◆ Always It's You ◆◆
もう一曲つづけて、ブードロー・ブライアントの曲で、こちらはHey Joeより新しく、オリジナルはエヴァリー・ブラザーズ。
サーチャーズ盤は、一応クリップはあるのだが、エンベッド不可なので、サンプルにした。
サンプル The Searchers - Always It's You
The Everly Brothers - Always It's You
この曲についてはややこしいことも、紆余曲折もなく、うちのHDDを検索しても、エヴァリーズ盤が数種類と、サーチャーズ盤しか出てこない。
エヴァリーズのオリジナルは、WB移籍後2枚目のアルバム、A Date with The Everly Brothersに収録されたもので、シングル・カットはされていない。WB移籍後にしては、作者もケイデンス時代と同じブライアント夫妻、サウンドもケイデンス時代のようにシンプルで、WBのアルバムのなかではちょっと据わりが悪い。アウトテイクを利用したのか?
◆ Hully Gully ◆◆
ほとんどがオブスキュアな曲で、タイトルを見ても、オリジナルがそらで出てきたりしないアルバムなので、昔からよく知っている曲が出てくると、ホッとする。
作者はフレッド・スミスとクリフ・ゴールドスミスで、オリンピックスを共同プロデュースしていたといった程度のことしか判明しなかった。後者はLAのワッツの生まれとあるから黒人だろう。のちにジョニー・テイラーをプロデュースしたこともあるとか。
オリジナルを歌ったのはスミス=ゴールドスミスのコンビがプロデュースしていたLAのオリンピックス。ヤング・ラスカルズのビルボード・チャート・トッパー、Good Lovin'のオリジナルを歌ったのも彼らだ。
The Searchers - Hully Gully (live)
The Olympics - Hully Gully
オリンピックスのオリジナルはたいしたヒットではなく、ホット100の下の方に潜り込んだ程度。それでもハリーガリーというダンスステップは流行し、多くのカヴァーが生まれた。
したがって、オリンピックスのHully GullyとサーチャーズのHully Gullyのあいだには多くのヴァージョンがあり、出自がはっきりしているわりには、考えどころには事欠かない。しかも、サーチャーズないしはイギリスのビート・グループが聴いていたであろうシンガーやグループが多い。
まずは前回も登場したこのスタジオ・グループ。
The Hollywood Argyles - Hully Gully
ハリウッド・アーガイルズと関係の深かったスキップ&フリップ(前者はのちにバーズでベースをプレイするスキップ・バッティン)のヴァージョンもあるが、クリップがないので飛ばし、つぎはトゥイストで売れに売れたこの人。
Chubby Checker - The Hully Gully
気になるのは、サーチャーズのライヴと同時期に、やはりハンブルクのスター・クラブで録音された、イギリスのグループ、クリフ・ベネット&ザ・レベル・ラウザーズのカヴァー。
Cliff Bennett & the Rebel Rousers
クリップは間違ってビートルズとクレジットしている。ビートルズのブートに収録されたかららしいが、これを聴いて、ビートルズじゃないとすぐにわからないのも、いわゆるひとつの才能かもしれない!
こういうライヴ向けの曲は、誰かが取り上げると、あっという間に他のバンドもレパートリーにしていくもので、イギリスのバンドでどこが最初にやったか、もはやなんとも言い難い。
イギリスで誰が最初にやったにせよ、まったくの山勘だが、ハリウッド・アーガイルズのヴァージョンが参照されたのではないか、と思う。
サーチャーズのこととは関係ないが、この曲がその後も聴かれたのは、つぎのカヴァーのおかげのような気がする。ボンゴはハル・ブレイン(ボンゴをやってもすごい!)、ベースはジョー・オズボーン。
The Beach Boys - Hully Gully
ドラムレスなのに、ざまざまなヴァージョンのなかでこれがもっともソリッドなビートで、なんだかなあ、と溜息が出る。
◆ What'd I Say ◆◆
なにも考えずにすむ曲は嬉しい。作者はレイ・チャールズ、オリジナルを歌ったのももちろん作者自身。わたしが子供のころは、しじゅうラジオから流れてきた。
サーチャーズのクリップは、63年のスター・クラブでのものはなかったので、別のもので代用した。
The Searchers - What'd I Say
Ray Charles - What'd I Say
山ほどカヴァーがあり、サーチャーズと同時代のブリティッシュ・ビート・グループに限っても、ビートルズ、ジェリー&ザ・ペースメイカーズ、ビッグ・スリーのヴァージョンがある。
あれこれ聴きはじめると話は長々しくなるだけなので、ひょっとしたら、イギリスの子供たちはこのヴァージョンではじめてこの曲を聴いたのかもしれない、というものだけを。
Cliff Richard & the Shadows - What'd I Say
ハンク・マーヴィンのギターがなかなか魅力的で、案外いいじゃないか、である。
わたしはレイ・チャールズのEPを買うはるか以前にこの曲を知っていたが、日本では誰が歌っていたのか、いちおう考えてみたものの、まったく思いだせなかった。
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サーチャーズ
Definitive Pye Collection
サーチャーズ
Meet the Searchers
サーチャーズ
Sugar & Spice
サーチャーズ
Sugar & Spice
サーチャーズ
Live at the Star-Club Hamburg
マーク・ルーイソン(書籍)
The Complete Beatles Recording Sessions: The Official Story of the Abbey Road Years 1962-1970
カール・スミス
20 All Time Greatest Hits
フランキー・レイン
The Collection
オリンピックス
Doin' the Hully Gully/Dance By the Light of the Mo
ハリウッド・アーガイルズ
The Hollywood Argyles featuring Gary Paxton
チャビー・チェッカー
Five Classic Albums Plus
ビーチボーイズ
Party / Stack-O-Tracks
レイ・チャールズ
Ray Charles The Ultimate Collection [Import]
クリフ・リチャード
Seven Classic Albums