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【ブリティッシュ・ビート根問い】サーチャーズ篇8 1963年の8
 
前回の補足。

サーチャーズのSick and Tiredを聴いて、ああ、サム&デイヴのあの曲からイントロをいただいたのね、と納得してから、それでは時間的順序が合わないことに思い至り、首をかしげた。

Sam & Dave - I Take What I Want


もう一度、サーチャーズのSick and Tiredを貼り付けておく。

The Searchers - Sick and Tired (live at The Star Club, Hamburg)


どう考えても同じリックなのだが、サーチャーズは63年、サム&デイヴは65年リリースの45である。

アイザック・ヘイズとデイヴ・ポーターがサーチャーズのライヴ盤を聴いた、という線はどうにも考えにくい。ひょっとしたら、両者が土台に利用したのが同じ曲で、いとこ同士の関係なのだろうか。とりあえず、疑問はまったく解消せず。

◆ Mashed Potatoes ◆◆
マッシュ・ポテトというダンス・ステップが流行した関係で、60年代はじめには、タイトルにMashed Potatoと入った曲がむやみにある。いちばん有名なのは、ビルボード・チャート・トッパーになったディー・ディー・シャープのMashed Potato Timeで、わたしも、真っ先にこれを思いだす。

サーチャーズのマッシュ・ポテトはこれとは異なる曲で、たぶんジェイムズ・ブラウンがDessie Rozierの変名で書き、彼のバンドのドラマーであるナット・ケンドリックの名前で1969年にリリースした45回転盤をベースにしている。

The Searchers - Mashed Potatoes (Live)


Nat Kendrick and The Swans - (Do The) Mashed Potatoes


しかし、サーチャーズが参照したヴァージョンは、こちらの可能性もある。ジョーイ・ディー&ザ・スターライターズのヒット・アルバム、Doin' the Twist at the Peppermint Loungeより。

Joey Dee and the Starliters - Mashed Potatoes


しかし、以下の曲のように、基本的にはほとんど同じものがほかにもある、という込みいった事情もある。ドラムはハル・ブレイン。豪快なギターは、グレン・キャンベルかトミー・テデスコあたりだろう。

サンプル Bruce Johnston - Hot Pastrami, Mashed Potatoes, Come on to Rincon Yeah!!!

スターライターズのほうのソングライター・クレジットはRozier、すなわちジェイムズ・ブラウンになっているが、ブルース・ジョンストンのほうは、むろんタイトルが違うからでもあるが、ジョンストン自身の名前がクレジットされている。

もともと、曲と云うほどの特徴的なメロディーまたはリックがあるわけではなく、3コードと「Mashed potatoes!」という叫びを組み合わせただけのものなので、これを変形して自分の曲と云っても、原曲の作曲者だって、いや、それは俺の曲だとは云いにくかろう。

【ブリティッシュ・ビート根問い】サーチャーズ篇8 1963年の8_f0147840_20275090.jpg

どうであれ、こういう曲は、ライヴ用に、歌詞を覚える必要もなければ、コードを間違える怖れもない、楽な曲としてレパートリーに組み込まれていたのだろう。Hanky Pankyみたいなものだ。

さらに加えて、マッシュ・ポテトのブームはまだ続いていたはずで、こういう曲をやれば、ごくお手軽に客の共感を得られたにちがいない。そもそも、ジェイムズ・ブラウンは、ライヴの客がマッシュ・ポテトによく反応するので、この曲を録音したそうだし。

◆ I Sure Know a Lot About Love ◆◆
めずらしくも、アメリカの曲のカヴァーではない。イギリス人であるアラン・クラインが、映画化もされた芝居「What a Crazy World」(1963年)のために書いた曲のカヴァー。といっても、オリジナルはクリップがないし、わたしももっていないので、聴けなかった。

The Searchers - I Sure Know A Lot About Love (live)


結局、サーチャーズがめずらしくもイギリスの曲をカヴァーしたケースとして、スコアボードに「イギリス1点」と書き込んでおけばいいのかもしれない。

だが、疑問のトゲが残る。それは、この曲には以下のヴァージョンがあるからだ。

The Hollywood Argyles - Sho Know a Lot About Love (1960)


ハリウッド・アーガイルズというのは、キム・ファウリーとゲーリー・パクストンがでっちあげたスタジオ・グループ。Alley Oopという曲をリリースするためにつくったといっていいほどで、すぐに消滅した。

しかし、そのAlley Oopはビルボード・チャート・トッパーになってしまった。そして、その大ヒット・シングルのB面がほかならぬSho Know a Lot About Loveだったのだ。

ハリウッド・アーガイルズはタイトルをすこし変えているし、ソングライター・クレジットも、アラン・クラインではなく、パクストン=マイズとなっているが、これを別の曲と言い張るのは無理がある。事実上、同一の曲だ。

こうではないだろうか。サーチャーズは、Alley OopのB面として、ハリウッド・アーガイルズのヴァージョンを聴き、カヴァーしようと思った。しかし、著作権管理団体で調べると、この曲はイギリス人、アラン・クラインの作として登録されていた――。

それほどたいした曲ではないのだが、ポール・マッカートニーが何度か繰り返して云っている「馬鹿げたものへの情熱」ということと関係してくるようにも思う。サーチャーズのライヴを聴いていると、しきりにこのポール・マッカートニーの言葉が思いだされるので、いずれ、この点もまとめて検討しようと思う。

ハリウッド・アーガイルズ盤もひどいが(ひどいはずだよ、ドラマーはサンディー・ネルソン!)、さらに後年のこのカヴァーもひどさもひどし、ゲラゲラ笑ってしまった。

The Rainbows - I Sure Know a Lot About Love


レインボウズは、Balla Ballaのインターナショナル・ヒット(といっても欧州止まりで、アメリカではダメだったが)だけが有名で、あれはそれなりにやっているのだが、ライヴのクリップなど見ると、ドラムばかりでなく、リード・ギターもベースもタイムがめちゃくちゃで、なかなか楽しい。いや、馬鹿笑いしておしまいで、まじめに聴くほどのなにかがあるわけではないが!

◆ I Can't Go On (Rosalie) ◆◆
allmusicはいつものボケで、ソングライターをコール・ポーターとしていたため、あさはかなわたしは、「ええ? コール・ポーターがこういう曲を書くのかよ」なんて思ってしまい、ひとりで赤面した。

それは、Rosalieという同題異曲、戦前のミュージカルのテーマ曲であり、サーチャーズがやった曲とはまったく無関係。

いやはや、allmusicのチョンボは毎度面白くてけっこうだが、データベースとしては役立たずの域を超えて、これはもう有害というべきではないか。

サーチャーズがカヴァーしたRosalieは、ファッツ・ドミノと彼のプロデューサーであるデイヴ・バーソロミューの共作、歌ったのもむろんファッツ自身。

サーチャーズのライヴ・ヴァージョンはクリップがないので、かわりにデモを。

The Searchers - Rosalie (demo)


Fats Domino - I Can't Go On (Rosalie)


サーチャーズは歌詞もメロディーもずいぶんと変えている。基本的には泥臭いファッツのレンディションを、軽快なロックンロールに再構成しようと試みたのだと思う。いや、デモではなく、ライヴ・ヴァージョンについてだが。

以前にも書いたが、サーチャーズのドラマー、クリス・カーティスはファッツ・ドミノが大好きだったそうで、リード・ヴォーカルは当然カーティス、「俺が歌う」といってカヴァーしたのだろう。スタジオ盤では、べつにファッツ・ドミノ・ファンという印象は受けないのだが、このあたりがやはりライヴの面白いところだ。

なお、この曲にはほかにディオン&ザ・ベルモンツのカヴァーがある。おっと、そういうアレンジかよ、と戸惑わせるところが愉快なので、いちおう貼り付けておく。

Dion And The Belmonts - I Can't Go On (Rosalie)


ドゥーワップ・グループというのは、じつにいろいろなナンセンス・シラブルを思いつくものだ!

◆ Learning the Game ◆◆
なんだか今回は、あっちに傾き、こっちに揺れ、出自に疑問が生まれて、どうも落ち着かないのだが、最後はすっきりとバディー・ホリーの曲。

The Searchers - Learning The Game (live)


Buddy Holly - Learning The Game


コード進行はいかにもバディー・ホリーという感じで(ただし、チェンジのタイミングはいつもより早いが)、例によって非常にやりやすそうな曲で、サーチャーズもそのつもりでカヴァーしたのだろう。ライヴ向きである。

バディー・ホリー自身のものもいくつかのヴァージョンが出回っているが、カヴァーも面白いものが多い。もっともドラスティックに変化させたのは、つぎのアンドルー・ゴールドのヴァージョン。

Andrew Gold - Learning the Game


なんだかひどく懐かしい音だ。70年代はじめのシンガー・ソングライター時代の音に重めのバックビートをつけたという雰囲気。リリースは78年だったと思うが。これは2枚組ベストに入れるべきだっただろう。

ほかに、サー・ヘンリー&ヒズ・バトラーズも、いわゆる「バロック・ロック」風のバラッド・アレンジでなかなか面白いのだが、クリップがないので省略。ボビー・ヴィーのカヴァーも悪くないのだが、これまたクリップがない。

アンドルー・ゴールドやサー・ヘンリーとは逆方向の解釈をしたバンドもある。ストーンズだ。といっても、ミック・ジャガー抜きで、キース・リチャーズが歌っているのだが。

The Rolling Stones - Learning The Game - Live


キース・リチャーズのヴォーカルがこれでいいかどうかは、ストーンズは昔からこうだからとサラッと通り過ぎ(呵々)、アレンジの方向性はよくわかる。

バディー・ホリーの曲の特長は、このLearning the Gameのように、バラッドにしても面白いし、ストレート・ロッカーにしても面白い点にあることを、アンドルー・ゴールドとストーンズの両極端の解釈は教えてくれる。


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by songsf4s | 2014-03-01 22:23 | ブリティシュ・インヴェイジョン