サーチャーズの30周年記念3枚組というものに、そこそこ詳しいライナーノーツが付属しているのだが、この盤のディスコグラフィーでも、デビューLPはMeet the Searchers、セカンド・アルバムはSugra and Spiceとしている。
前回、allmusicのディスコグラフィーでは逆になっていると書いたが、ほかに逆順のディスコグラフィーは見つけられなかったので、多数決で、Meet the Searchersのほうをデビュー盤と確定する。いつものallmusicのデタラメにすぎないようだ。
◆ Listen to Me ◆◆
サーチャーズのセカンド・アルバム、Sugar and SpiceのA面5曲目は、バディー・ホリーのロッカ・バラッド。作者はホリー自身とプロデューサーのノーマン・ペティー。
The Searchers - Listen to Me
Buddy Holly - Listen to Me
バディー・ホリーの両輪のひとつはPeggy Sue、Not Fade Away、Rave Onに代表されるような、パワー・コードのロックンロールだが、もうひとつの車輪は、このListen to Meや、ビートルズがカヴァーしたWords of Love、映画『スタンド・バイ・ミー』でも使われたEverydayといった、シンプルなコードのロッカ・バラッドである。
バディー・ホリーの曲は、速いのも、遅いのも、おおむね3コードだし、歌いやすいし、ほんとうにパフォーマーに「やさしく」できていると思う。呵々。
サーチャーズは例によって、オリジナルよりすこしスピードアップしているが、これはテンポの変更がいい結果につながった例だろう。ちょうど、ビートルズのWords of Loveと同じぐらいの速さだ。
◆ The Unhappy Girls ◆◆
A面の最後におかれたThe Unhappy Girlsは、おそらくカール・パーキンズがオリジナル。作者はフレッド・バーチとマリジョン・ウィルキン、前者はカントリー系のソングライターで、代表作はトーマス・ウェイン&ザ・デルロンズやフリートウッズがヒットさせたTragedy。後者はナッシュヴィルで活動したシンガー兼ソングライター、といった程度のことしかわからなかった。
The Searchers - The Unhappy Girls
Carl Perkins - The Unhappy Girls
聴けばわかることを書いて恐縮だが、カール・パーキンズのヴァージョンは、ロカビリー・スタイルで、カントリーに半分重心がかかっている。そのあたりはBlue Swede Shoes以来、変わっていない。
サーチャーズ盤は、主としてトニー・ジャクソンのトレブルをきかせたギターのせいで、カール・パーキンズ盤よりロックンロール・ニュアンスが強くなっていて、これはこれで好ましい。
しかし、トニー・ジャクソンというプレイヤーも、ナメていると、期待以上のプレイをすることがあって、あらら、と思う。この曲なんか、わたしがジャクソンに期待するものの5割増しぐらいの出来である。呵々。
ほかに、ジェイ・チャンス&ザ・チャンセラーズという、ロンドンはソーホーのグループのヴァージョンがみつかった。
Jay Chance & The Chancellors - The Unhappy Girls
録音、リリース時期がはっきりしないのだが、50年代から活動していたそうだし、音からいっても60年代はじめのスタイル、サーチャーズとほぼ同時期のものと推測できる。こちらのヴァージョンのほうが先で、サーチャーズはチャンセラーズ経由でカヴァーした可能性もある。ドラムのタイムは不安定だが、ギター・プレイはなかなか魅力的。
余談。
カール・パーキンズのThe Unhappy Girlsを聴こうとしてフォルダーを開いたら、前回あつかったOne of These Daysをパーキンズも歌っていたことに気づいた。
このカール・パーキンズ・セッショノグラフィーによると、パーキンズのOne of These Daysは1964年10月8日の録音で、サーチャーズよりあと、したがって、重大なミスではなかったのだが。
Carl Perkins - One of These Days
このヴァージョンもなかなか好ましい。パーキンズのヴォーカル・レンディションとギターがいい。
◆ Ain't That Just Like Me ◆◆
B面トップのAin't That Just Like Meはコースターズがオリジナル、作者はキャディラックスのリード・シンガーで一時期コースターズにも在籍したアール・キャロル。プロデューサーは例によってジェリー・リーバー&マイク・ストーラー。
サーチャーズのクリップはライヴしかなかったので、スタジオ録音をサンプルにした。
サンプル The Searchers - Ain't That Just Like Me
The Coasters - Ain't That Just Like Me
たんに慣れているだけなのかもしれないが、コースターズよりもサーチャーズのテンポのほうがいいと感じる。
ライヴを見るとヴォーカルの分担がわかる。
The Searchers - Ain't That Just Like Me [The ES Show - 1964]
後半でシャウトしている聴き慣れない声は誰かと思ったら、ドラムのクリス・カーティスだった。いや、クリス・カーティスの声はサーチャーズ・ファンなら知っているが、それはあのハイ・ハーモニーであって、こんな低い音域で歌うのはめずらしい。トニー・ジャクソンもマイク・ペンダーも、シャウトはイヤだといって、カーティスが歌うことになったのかもしれない。
この曲はホリーズのヴァージョンがもっとも人口に膾炙しているのではないだろうか。パーロフォンからの彼らのデビュー・シングルだった。
The Hollies - (Ain't That) Just Like Me
オフィシャル・ホリーズ・ウェブサイトのディスコグラフィーによれば、彼らのAin't That Just Like Meは1963年3月1日リリースなので、サーチャーズより早いことになる。サーチャーズは、コースターズ盤ではなく、ホリーズ盤に依拠してテンポを決めた可能性が高いと思う。
ボビー・カムストックのカヴァーというのもあるが、このディスコグラフィーが正しければ、カムストック盤は1964年3月14日リリースで、ホリーズないしはサーチャーズのヴァージョンをベースにしているのではないだろうか。
Bobby Comstock - Ain't That Just Like Me
◆ Oh My Lover ◆◆
B面の2曲目はまたオブスキュアなもので、オリジナルはシフォーンズ、作者はシフォーンズの生みの親であり、彼女たちの大ヒット、He's So Fineを書いたロニー・マック(Memphisのヒットがあるギター・プレイヤーのロニー・マックとは別人。RonnieとLonnie)。
The Searchers - Oh My Lover
The Chiffons - Oh My Lover
この曲自体はまったく有名ではないが、シフォーンズはHe's So Fineの大ヒットがあり、イギリスの連中はみなガール・グループを聴いていたのだから、B面かアルバム・トラックとして知り、カヴァーしたのだと推測できる。
ロニー・マックはHe's So Fineのプロデュースをし、このシングルがチャートを上昇しはじめた時までは生きていた。彼の雇い主であったトークンズが急いでゴールド・ディスクを手配したが、出来上がった時には、マックはガンに斃れていたという。
ジョージ・ハリソンは後年、My Sweet LordはHe's So Fineの盗作であると、ロニー・マックの楽曲出版権をもつトークンズの会社に訴えられ、敗訴しているが、まあ、それほどまでに、あの時代のイギリスの連中はガール・グループをよく聴いていたのだ、と云える(苦しいw)。
ということで、サーチャーズはまたしても、人気のあるシンガーの非有名曲を選択し、他のバンドに「渋いじゃん」といわせようとしたのだと思う。あはは。
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サーチャーズ
Definitive Pye Collection
サーチャーズ
Meet the Searchers
サーチャーズ
Sugar & Spice
サーチャーズ
Sugar & Spice
バディー・ホリー
The Very Best of Buddy Holly
カール・パーキンズ
The Classic
コースターズ
Four Classic Albums Plus
ホリーズ
The Hollies Greatest Hits
シフォーンズ
Sweet Talkin Girls: The Best of