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【ブリティッシュ・ビート根問い】サーチャーズ篇2 1963年の2
 
用語のことを少々。

わたしが「初期ブリティッシュ・ビート」または略して「ブリティッシュ・ビート」と呼んでいる音楽は、われわれが子供のころの日本では「リヴァプール・サウンズ」と呼ばれた。

リヴァプール・サウンズという言葉を使わない理由は自明で、この一群の音楽をになったグループやシンガーはリヴァプール出身とはかぎらない、という一点に尽きる。

また、イギリスでは「マージー・ビート」という言葉がよく使われるが、これも「マージー河周辺のビート・グループ」という意味で、要するに日本語の「リヴァプール・サウンズ」の謂いにほかならず、同様に地域が狭く限定されている。

この用語は、地元の人々が好むものとして尊重はするが、われわれが使うのに適した言葉ではない。まあ、たまに気分転換として使うかもしれないが。

つまり、ロンドンやらグラスゴーやらトテナム(!)やらマンチェスターやら、そうした細かい差違はすっ飛ばし、イギリス全体を包含する用語が必要で、アメリカでよく使われる「ブリティッシュ・ビート」を選択した。

「初期ブリティッシュ・ビート」と、わざわざ「初期」というのにも理由がある。

65年あたりからのストーンズやヤードバーズの台頭以後、ブルース・ベースのグループが「表側」でも一大勢力となり、マージー勢を中心とする「イギリスの侵略」(「ブリティッシュ・インヴェイジョン」)の先鋒となったグループの(相対的に)ハーモニー重視のスタイルは、やがて押しのけられていくことになる。

この二大勢力は、重なる部分をもっているのだが、大きくニュアンスの異なる面もある。じっさい、ヤードバーズから語り起こすような「ロックな人」たちは、たとえば、ビリー・J・クレイマー&ザ・ダコタスには興味を示さないだろう。

The Yardbirds - Jeff's Blues


Billy J. Kramer & the Dakotas - Bad to Me


後年になると、仕切り線が引かれて、わたしが「初期ブリティッシュ・ビート」と呼ぶ一群のグループは、切り捨てられていった。あるいは「別扱い」にされた、といえばいいだろうか。

歴史的に見て、なんの影響力をもたなかった、一過性の商業主義音楽、というように扱われたような印象をもっている。ストーンズ、ヤードバーズ、フーといったあたりから線を引っ張ったものが「ブリティッシュ・ビート」とされたようだ。

それはそれでいいのだが、そのために一群のシンガー、プレイヤーたちが、「まつろわぬ民」として、荒野に放り出されたことには、異議を唱えておきたい。

◆ Stand by Me ◆◆
それでは前回のつづき、デビュー・アルバムMeet the SearchersのA面の5曲目は、ドリフターズのリード・テナーだったベニー・キング独立後の大ヒット。作者であるジェリー・リーバーとマイク・ストーラーがプロデュースもした。

The Searchers - Stand by Me


Ben E. King - Stand by Me


あまりくどくどいう必要のない曲だろう。この録音の時はもうフィル・スペクターがリーバー&ストーラーに弟子入りしていた。この曲にハル・ブレインのヘヴィー・バックビート加えると、スペクターのスタイルができあがりそうな気がチラとする。

サーチャーズのヴァージョンはあまりしっくりこないが、たぶんこのデビュー盤は、ビートルズ同様、当時の彼らのステージでのレパートリーを再現したものなのではないかと思う。

ストレート・ロッカーと、このStand by Meのようなバラッドは、昔のバンドの両輪だった。チーク・タイム(などというものがリヴァプールのクラブにあったかどうかは知らないが)にこの曲をやっていたのだろうと想像する。

◆ Money (That's What I Want) ◆◆
デビュー・アルバムA面の6曲目は、バレット・ストロングのヒット、というより、モータウンのオーナーであるベリー・ゴーディーがジェイニーブラッドフォードと書いた、モータウン・レコード最初のヒットのカヴァー。

The Searchers - Money (That's What I Want)


Barrett Strong - Money (That's What I Want)


会社設立後まもないので、作者でもある社長の陣頭指揮の録音なのだろう、バレット・ストロングのオリジナルも、時代を考えれば、なかなかのサウンドだ。いいビートがあり、ちょっとした薬味程度のえぐさもあり、それでいて、白人市場から閉め出されない程度には洗練されている。

歌詞が歌詞なので(いや、それがこの曲のポイントだが)、あまりグリージーにやるわけにはいかず、そのへんの匙加減はわかっていたのだろう。そうでなければ、モータウンは成功しなかった。

サーチャーズはバレット・ストロングのオリジナルに依拠したのだろうか? たぶんそうではない。例によってこの四人がやっているのに刺激されたのだろう。

The Beatles - Money (With Pete Best, at the Cavern)


ビートルズはブライアン・エプスタインのネムズでバレット・ストロング盤を見つけたといわれている。エプスタインがファブ4を「発見」するに至るあの有名なエピソードをよもやお忘れではあるまい。ネムズは充実の品揃えを誇っていたのだ!

ビートルズがこの曲をやった結果、リヴァプールのキャヴァーンやら、ハンブルクのスター・クラブあたりをぐるぐる廻っていたバンドのあいだで、このMoneyは共有されるに至ったのだろうと想像する。

このようなシンプルなダンス・チューンというのは、ライヴ・バンドには必須のもので、やる側から云えばやりやすく(酔っぱらっていてもなんとかなるだろう!)、客の側から云えば、盛り上がりやすく、踊りやすい。

サーチャーズのキャラクターに合った曲だとは思わないが、以上のような事情から、彼らもこういう曲をレパートリーに入れておく必要があったに違いない。

以上三者のほかに、わが家には、エヴァリー・ブラザーズ、ルー・クリスティー、バディー・ガイ、ジュニア・ウォーカー、ハイ・ナンバーズ(ザ・フー)、トッド・ラングレン、スタンデルズ、ランディー&ザ・ラディアンツ、アンダーテイカーズ、リチャード・ウィリー&ヒズ・バンド、ローリング・ストーンズなどなど多数のカヴァーがあるが、やはり、With the Beatlesの最後に収録された彼らのスタジオ録音がベストだと思う。

以上のなかでは、このカヴァーがなかなか好ましい。やはりモータウンのロースターだが、このヴァージョンはヒットしなかった。

Richard Wylie & His Band - Money 1961


◆ Da Doo Ron Ron ◆◆
B面のオープナーは、フィル・スペクター・プロデュースによるクリスタルズの大ヒットのカヴァー。ジェフ・バリーとエリー・グリニッジ夫妻、およびフィル・スペクターの共作。すばらしい4分3連のライド・シンバル・プレイはもちろんハル・ブレイン。

The Searchers - Da Doo Ron Ron


The Crystals - Da Doo Ron Ron


とくにサーチャーズに合った曲には思えないし、ハーモニーの面白さもあまりない。アルバム・トラックとして、さしたるアレンジも施さずに録音したものだろうから、フィル・スペクターの金も時間もかけたプロダクションと比較しては気の毒だ。これまた、アメリカのヒット曲の軽いローカル盤のつもりだったか、あるいはライヴでのレパートリーだったのだろう。

フィル・スペクター=クリスタルズのDa Doo Ron Ronオリジナルは、ビルボード・チャート3位までいく大ヒットになった。チャート・トッパーになったクリスタルズの前作He's Rebelには、チャート・アクションの面では劣ったが、スペクターのプロダクション・テクニックはこの曲でさらに深まり、巨大な音のボールはサイズと強さを大きく増した。

He's a Rebelでフィル・スペクターが惚れ込んだハル・ブレインは、Da Doo Ron Ronでは正確で美しい4分3連のライド・シンバル・プレイでわれわれを圧倒する。

派手なフィルインは、ハル・ブレインのフロアタムではなく、ニーノ・テンポがマレットでキック・ドラムを叩いたと云われる。

フィル・スペクターにとっても、ハル・ブレインにとっても、文句なしの生涯の代表作である。

◆ Ain't Gonna Kiss Ya ◆◆
Ain't Gonna Kiss Yaはオリジナルを確定できなかった。

リボンズというLAベースのガール・グループのものがオリジナルである可能性が高いと感じるが、ノン・ヒットなので、さらにそれ以前に、誰も注目しなかった盤があった可能性は残る。

ソングライター・クレジットはJames Marcus Smithとなっていて、これはP・J・プロビーの本名。プロビー自身の盤は当時はないようで、ずっと後年の懐古的なアルバムで歌ったらしい。

プロビーはアメリカ人だが、シンガーとしてはイギリスで成功することになる。しかし、それは64年のこと。この時はまだアメリカ、おそらくはLA住まいだろう。

その根拠は、プロビーという芸名をつけたのがシャロン・シーリーであり、イギリスに渡ったのはジャッキー・デシャノンの紹介による、ということ。LAのソングライター・サークルと付き合いが深かったことがわかる。

The Searchers - Ain't Gonna Kiss Ya


The Ribbons - Ain't Gonna Kiss Ya


リボンズについてはほとんどなにも発見できない。LAのグループであり、メンバーはEvelyn Doty、Arthetta Gibson、LovieおよびVessie Simmonsの四人といった程度の記述しか見あたらなかった。

Discogsのリストには、Ain't Gonna Kiss Yaを含む2枚の45があるのみ。「のちにシークィンズ、サンドペイパーズになった」とあるが、「紙ヤスリ」なんてヤケクソな名前を選ぶようでは、もう先がなかったのがわかる。

リボンズ盤Ain't Gonna Kiss Yaのプロデューサーはマーシャル・リーブ、すなわち、テディー・ベアーズでのフィル・スペクターの相棒である。レーベルはMarshとなっている。マーシャル・リーブの会社なのだろう。

テディー・ベアーズのLPではアール・パーマーがドラム・ストゥールに坐ったが(最初のシングルのドラマーはサンディー・ネルソン!)、リボンズのAin't Gonna Kiss Yaも、どうもアール・パーマーのプレイに聞こえる。

ハリウッドのサウンドにはなってはいるものの、ハリウッド的洗練が強く感じられるものではないし、あまり叮嚀なアレンジでもなく、インスピレーショナルな録音とはいえない。マイナー・ヒットの可能性はあっただろうが。

惜しい、と思って拾い上げる気持はわかるが、サーチャーズの録音もそれほどインスピレーショナルとはいえない。少し速くしようという考えはけっこうだが、ちょっと速すぎて、かえって印象が薄くなった。

こんなノン・ヒットのオブスキュアな曲をどういう経緯で見つけたのやら。偶然、リボンズのシングルを聴いたのか、あるいは、パブリッシャーからデモがまわってきたのか……。

サーチャーズのヴァージョンは63年、それも秋のリリースらしいが、同年にはもうひとり、レイ・ピルグリムというイギリスのシンガーが、You'll Never Walk Alone b/w Ain't Gonna Kiss Yaというシングルをエンバシーからリリースしている。のちにスターリングスというグループ名でも再リリースしたようなのだが、逆の可能性なきにしもあらず。

レイ・ピルグリムの盤はサーチャーズとほぼ同時で、しかもシングルだが、B面ではあるし、この人のディスコグラフィーを見ると、ほとんど後追いばかりで、なんだか、パチモン専門のように感じられる。誰かがヒット・ヴァージョンと間違えて買うのを期待していたのか、なんて、厭味なことを思ってしまうほどだ。

興味が湧いてしまった方は、仕方ないから、ウィキのレイ・ピルグリムのエントリーの63年から64年ぐらいのリストをご覧あれ。この臆面のなさ。月に2枚ぐらいのペースで他人のヒットをじゃんじゃんリリースしている!


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by songsf4s | 2014-02-08 22:43 | ブリティシュ・インヴェイジョン