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大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー その16
 
今日はエンディングに入るような予告をしてしまったが、あまり時間をとれなかったので、箇条書き的にいくつか小さなことを並べる。

しかも、大滝詠一のことというより、はっぴいえんどのことを。ファイナル・ストレッチに入る前の小休止、お中入り、箸休めとお考えいただきたい。とりとめのない話になること必定の夜。

『風街ろまん』のリミックス盤というのを聴くことができた。tonieさんのお話では、どちらかというとファンには不評だったそうだが、それも無理ないか、というほど、ドラスティックな変化で、聴きながら何度か、「ええっ」と声が出た。

たとえば、「風をあつめて」はファースト・ヴァースからオルガンが入っている、といった明白な違いもあるのだが、なによりも、ミックスが異なり、ステレオ定位が異なり、各音の分離がまったく異なっていることに驚かされる。

このシリーズの「その13」で「春らんまん」のヴォーカルは、ハーモニー上=大滝詠一 メロディー(中)=大滝詠一、ハーモニー下=細野晴臣のように聞こえると、確信なさげに書いた。

オリジナル・ミックスでは、ヴォーカルは3パートともすべて右チャンネルにまとめられているという団子状態、しかしリミックスでは、下のハーモニーは左チャンネルに振られていて、おかげで、やはりこれは細野晴臣、残りは大滝詠一と確認できた。

いちばん驚いたのは「暗闇坂むささび変化」だった。

サンプル 「暗闇坂むささび変化」リミックス

問題はベースである。ラインではなく、トーンと弾き方である。細野晴臣は人差し指と中指によるフィンガリングの人だと思っていたが、この曲ではフラット・ピッキングか、または爪で引っかけての親指フィンガリングでやっている。

なぜそうなったのかというと、フィル・レッシュ・スタイルを模してみたからではないだろうか。このシリーズの「その10」でこの曲を取り上げた時、元になったと考えられるグレイトフル・デッドのFriends of the Devilにふれた。

Grateful Dead - Friend of the Devil (Studio Version)


デッドのフィル・レッシュはデビュー以来ずっと一貫して、現在もフラット・ピッキングでプレイしている。一音一音をはっきりと出すのが好みのようだが、とりわけ初期は、ジェファーソン・エアプレインのジャック・キャサディーが好きだというとおり、キャサディー・スタイルのトレブルの強い音でやることが多かった。

これは細野晴臣とは正反対といえるほど違うのだが、しかし、「暗闇坂むささび変化」では、じつは、誰が聴いても、ジャック・キャサディー=フィル・レッシュ・スタイルと感じるトーンで、しかも(たぶん)フラット・ピッキングでプレイしていたことが、リミックスで判明した

ここまで念を押す必要はないのだが、なんなのだろうか、やはり誠実さなのだろうか、デッドのFriend of the Devilとの近縁性を、ベースによっても強調していたのである。

しかし、それがオリジナル・ミックスでは、いつものようにフィンガリングでやったように思えるトーンになっているわけで、ここがまた不思議ではある。ミックス・ダウンの際に、やはりいつものようなやわらかい、すこしくぐもったようなトーンのほうがいいと判断し、加工したということだろうか。

ちょっと斜めの方向に連想が流れた。大瀧詠一作曲で、いずれも1976年リリース。最初の吉田美奈子盤は村井邦彦プロデュース。

吉田美奈子「夢で逢えたら」


つぎは同じ曲のカヴァー。こちらの編曲は大瀧詠一(ベーシック・トラック)と山下達郎(弦と管)、プロデュースは大瀧詠一。なお、ずいぶん昔のことだが、歌手の時は略字で「大滝詠一」、それ以外の作曲、執筆などでは正字の大瀧詠一という使い分けだと書いていたのを読んだ記憶があるので、このシリーズではそれにしたがっている。

シリア・ポール「夢で逢えたら」


吉田美奈子は素晴らしい歌いっぷりだし、シリア・ポールはなんとも可愛らしい。ジョーニー・サマーズとシェリー・ファブレイの対照のようだ(呵々)。

いや、サウンドの話である。昔、これを聴いた時、ダイナミック・レンジの狭いラジオだったこともあって、ストレートにフィル・スペクターを想起した。

いま聴くと、そんな単純な話ではないのだが、まあ、とにかく、若造はそう思ったということで、いちおうロネッツを。ドラムはもちろんハル・ブレイン、ストリング・アレンジメントはジャック・ニーチー。

The Ronettes - Be My Baby


吉田美奈子盤のカスタネットはやはりフィル・スペクターの引用だろうけれど、ハンド・クラップはあるいはレスリー・ゴアの時のクラウス・オーゲルマンのアレンジから来ていたりする可能性も感じる。

いや、ハンドクラップなんてめずらしくもないから、60年代初期のガール・グループ/シンガーの音の記憶総体、と考えるべきだろうが、まあ、とにかく、彼女の曲を。ドラムはおそらくゲーリー・チェスター。

Lesley Gore-That's The Way Boys Are


ハル・ブレインのように、フェイド・アウトでキックの2分3連踏み込みをやっているが、やはり、「ヘイ、ハル、借りたぞ」という呼びかけだろう。呵々。

大滝詠一は、ソロ・デビューでフィル・スペクターのDa Doo Ron Ronを下敷きにした「うららか」を録音した時はおろか、この76年の時点でもまだ、フィル・スペクターのサウンドを掘り下げてみよう、とまでは考えていなかったのではないだろうか。

あるいは、この方向に添って探っていけば、どこかに突き抜ける道が見つかると考えるようになったのは、このシリア・ポール盤を録音した直後あたりからなのではないかと、根拠なしに思ったりする。

そこが、フィル・スペクターのすぐそばにいて、スタジオでフィルがなにをしているかを見てしまったブライアン・ウィルソンとの違いではないだろうか。

ブートからの切り出しでちょっと音質はよろしくないが、ブライアン・ウィルソン作編曲プロデュース。

サンプル Sharon Marie - Thinkin' 'bout You Baby

大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー その16_f0147840_234497.jpg
シャロン・マリーとビーチボーイズ。ひとり足りないが!

いま聴けば、Todayへの前奏曲、ひいてはPet Soundsも地平線に姿をあらわしている、という管の使い方だが、この時のブライアンの意図は、どうやればフィル・スペクターのような効果を得られるかという考察の、最初の素案というあたりだろう。

つぎも同様の、外部プロダクションでのスペクター・サウンド研究論文とでもいうべき一篇。ブライアン・ウィルソン作編曲プロデュース。のちにビーチボーイズも同じトラックを流用して歌ったが、当時はリリースされなかった。

The Castells - I Do


連想があちこちに跳弾しただけのことで、なにかまとまった結論があるわけではない。

大瀧詠一のサウンド・プロダクションにおける、英米音楽との向き合い方というのを考えつつ、ずっとこのシリーズを書いてきたのだが、「暗闇坂むささび変化」リミックス・ヴァージョンにおける細野晴臣の真っ正直なコピーぶりに接して、またひとつ、考える素材が増えたのだった。


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by songsf4s | 2014-01-21 22:56 | 60年代