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大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー その14
 
まだはっぴいえんどのラスト・アルバムが残っているのだが、記憶では先に大滝詠一のソロ・デビューを聴いたはずである。ディスコグラフィーを見ると、やはり、そういう順序らしいので、今回はそちらへ移動する。

あのあたりの記憶は錯綜しているのだが、大滝詠一ソロがリリースされた時点では、まだはっぴいえんど解散ということにはなっていなかったと思う。

ただし、ラスト・コンサートとか解散コンサートなどと云われている73年9月の文京公会堂は、わたしの記憶のなかではワン・ショットの「再結成コンサート」になっている。

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あの時、どう呼んでいたのであれ、わたしは、もうだいぶ以前にバラバラになっていたメンバーが、一晩だけ、また一緒にやるコンサートだと思って見に行った。

じっさい、はっぴいえんどとしてのプレイもしたが、大滝詠一とココナッツ・バンク、キャラメル・ママ、ムーン・ライダースも登場したわけで、それぞれが、すでにべつのプロジェクトをやっていた。

そもそも、あの会場の熱気は、もう見られないと思っていたバンドを、一晩かぎりのことだが、もう一度だけ見られる、という喜びから来たものだろう。後にも先にも、人が入り切らなくて、通路に補助椅子をびっしり並べたライヴというのは、あの73年9月の文京公会堂しか知らない。

たぶん、73年に入ってほどなく、春ごろだろうか、なんらかのアナウンスがあったのではないだろうか。

どうであれ、大滝詠一のソロ・アルバムのリリースは、はっぴいえんどがすでに過去のプロジェクトとなりつつあることを、ぼんやりと示唆するものだった。

そのデビュー盤のオープナー。

大滝詠一「おもい」


ディミニッシュでマイナーにしたり、その対句のようにオーギュメントを使うという、まるでシュートとスライダーで揺さぶる投球のような、直球中心のポップ・ミュージックでは少数派に属するコード進行パターンで、こういうのもやってみたかったのだろうなあと思う。

ハーモニーにバリトン・パートがないのは、ビーチボーイズに通じるのだが、もう少し向こう側も考えていたのかもしれない。ビーチボーイズもカヴァーした曲だが。

The Four Freshmen - Graduation Day


大滝詠一といった時、わたしの頭の中に流れる曲はいくつかあるが、筆頭はこの「おもい」である。大滝詠一というシンガー、あの時代、あの時の自分、あの時の出来事が、この一曲にからまって重層的によみがえる。

しかし、変則的ハーモニーではなく、オーソドクスな、古典的スタイルのヴォイシングなので、分析欲はそそられないし、ギターをもって歌う時も、ハーモニーのことは気にしたことがなく、ソロのバラッドと見なしていた。

ハーモニーの面で驚いたのは二曲目、というか、「おもい」は前奏曲のような雰囲気があり、実質的には一曲目だと思うが。

大滝詠一「それは僕ぢゃないよ」

この記事をアップした時に貼り付けておいた、LPヴァージョンのクリップを失礼にも削除した団体があり、かわりにシングル・ヴァージョンを貼り付けたが、こちらは歌詞が異なるし、メロディーやハーモニーも異なっている箇所があると思う。しかし、記事本文を書き換えるのは手間がかかるので、「半採譜」はLPヴァージョンのままにしておく。当方の責任ではないので、どうかあしからず。

いやはや、これはもう、「なんだよ、上のラインはどうなってるんだ、どこを歌ってるんだ」だった。

ヘッドフォンで繰り返し聴き、わかるところは上のラインをなぞって歌ったが、今日の今日まで、よくわからないところがたくさんあった。

以下に、音長抜き、音程のみの「半採譜」を書く。これは、一緒に歌ってくれ、ということではなく、ここは変だ、妙なところにジャンプした、と感じる箇所が、じっさいのピッチとしてはどうなっているかを(お読みになっている方ではなく、自分が)考える土台にしようとしたものにすぎない。

したがって、過去に一緒に歌ってみたことがある人はべつとして、みなさんは気にせずに流していただきたい。後段で改めて、どこがとんでもないかを示す。

ファースト・ヴァースはソロ・ヴォーカル、そのつぎから、大滝詠一自身のオーヴァーダブによる上のハーモニーが入ってくる。以下、「メ」はメロディー、「上」はハーモニーである。その注記も途中から省略した。可能な限り間違いは取り除いたが、まだかなり残存するものと思う。どうかあしからず。

  ほっぺたのべにを
メ A-C-C-C-D-C-A-G-F
上 C-F-F-F-F-F-F-D-C
  とかしながら
メ F-Bb-Bb-F-D-C
上 C-D-D-Bb-Bb-A
  きみはねむっている
メ A-C-C-C-C-E-D-C
上 C-E-E-E-E-G-F-E
  とてもきもちよさそう
メ C-C-Bb-Bb-Bb-Bb-A-G-F
上 E-E-D- D- D- D- C-C-C

一行目からして、ハーモニーはお経である。メロディーも動きは小さいが、ハーモニーはそれに輪をかけて動かない。ファの6連打!

しかし、そのおかげで、とかし「なーが」らのBbへのジャンプが鮮烈に響く。ここはメロディーも高くジャンプするので、やむをえない選択だったのだろうが、なんとまあ、よくやるよ、である。

多数派は、ここは単独ヴォーカルを選択するだろう。こういうところを強引に押し渡るのが、はっぴいえんどからソロ初期にかけての大滝詠一の大きな魅力だった。

細野晴臣がラジオで、大滝くんはビージーズの物真似が上手くてね、と云っていたが、そのディクションというか、ヴィブラートの使い方と、独特の発声が、この曲には強く表れている。

そのヴィブラートと、口の中に押さえ込むような発声が、「とても気持よさそう」のラインに心地よい響きを与えている。

また用語がややこしくなるが、つぎはヴァースではなく、コーラス・パート。ハーモニーのことではなく、楽曲構成上の「コーラス」部分である。

まぶしいひかりのなかから
A-Bb-Bb-Bb-F-F- D- D-C-C-C
C-D- D- D- F-Bb-Bb-F-F-F-F
のぞきこんでいるのは
A-Bb-Bb-Bb-A-G-G-A-A-C
C-D- D- D- C-C-C-C-C-F
それはぼくぢゃないよ
E-E-E-E-F-E-D-C-C
(ハーモニーなし)
あれはただのかぜさ
D-D-G-F-F-E-E-D-E
          C(high)

「の中から」がいちばん不可解で、採譜しにくかった。はっきりとは聞こえないのだが、二回のオーヴァーダブをやったように感じられる。

ひとつは「まぶしい光」のみ、もうひとつはそれ以後の部分、というように、分離して聞こえるのだ。

ひ「かり」でBbまでジャンプするので、そのあと、「の中から」でFに下ろすところがうまくいかず(フォールセットから地声に戻さなくてはならない)、分割して録音したのではないか、などと七面倒な想像をしてしまう。それくらい、ここは音が聞き取りにくかった。

そのあとのハーモニーは例によってお経ラインがつづき、「それは僕ぢゃないよ」のところで、ハーモニーを消し、単独ヴォーカルにする。タイトルになった部分の歌詞を目立たせる狙いなのだろう。

しかし、最後のかぜ「さ」だけに加えられる、高いド一音のみのハーモニーにはビックリする。

作者、アレンジャーの狙いは、まさに「ビックリさせる」ことなのだろうが、もうひとつ、ここにドの音を置いた意味があるように感じる。

メロディーは「ミ」Eで終わっている。コピーしていて、うっかり「ド」Cと書いてから、間違っていることに気づいた。なぜ間違えたかというと、ミで終わると落ち着きが悪く、ここのコードはCなので、自然にドに行ってしまったのである。「終止感」の問題だ。

それで、ハーモニーでドを加えて、終止感をつくろうとしたのではないかと想像する。たんに、その落ち着きをよくするはずの音が、とんでもない高さだっただけである。

いや、そのとんでもない音を、これは面白いといって、使ってしまうところが、大滝詠一という人のおおいなる魅力なのだが。

「それは僕ぢゃないよ」はまだつづくのだが、コピーだけで十分に手間取ったし、細部を検討してみると、やはり話は簡単ではないので、残りは次回へと持ち越させていただく。

自分で歌ってみようかという方は、ギターコードについては、以下のページを参照されたい。

「おもい」コード譜

「それはぼくぢゃないよ」コード譜


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by songsf4s | 2014-01-19 22:36 | 60年代