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大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー その5
 
はじめにお断りしておくが、今回と次回はとっちらかること確実である。これまでと違って、アメリカ、イギリス、日本と土地も移動するし、時代も十数年の振幅で、何度もジャンプしなければならないからだ。

論理は不明瞭になるだろうから、人やグループの名前、そして楽曲名などの名詞だけ読んでくださればそれで十分、と割りきって取りかかる。

さて――。

初期ブリティッシュ・ビート、という言葉を説明なしに使ってきたので、どのような集合体なのか、定義を試みる。

「クラウド」的に(あはは)表現すると、ビートルズ、サーチャーズ、マージービーツ、ハーマンズ・ハーミッツ、デイヴ・クラーク5、ゾンビーズ、スウィンギング・ブルージーンズ、フォーモスト、ビリー・J・クレイマー、ホリーズ、(時期的には合致するものの、スタイルとしてはやや異なり、境界線上にあるが)キンクス、といったあたりである。

彼らの特長は、初期ロックンロール(チャック・ベリー、リトル・リチャード、エルヴィス・プレスリー、バディー・ホリーその他)の強い影響下にあると同時に、エヴァリー・ブラザーズや同時期のアメリカのガール・グループのような、メロディーとハーモニーを重視するスタイルにも、同等の影響を受けていたことだ。

この後者の性質、「メロディーとハーモニーの重視」が消えると、ローリング・ストーンズ、ヤードバーズ、アニマルズ(いや、時期的にもスタイル的にも境界線上にあるが)、スペンサー・デイヴィス・グループ、フーといった、後年の、「ロール」が略された「ロック・ミュージック」の出現に強い影響を与えた、べつの集合体になり、わたしの考える「初期ブリティッシュ・ビート」からははずれる。

キンクスやアニマルズのように、どちらに重心があるとも云いかねるグループがあるのはご寛恕を。「自然現象」にあとから定義を与えようとすると、はみ出すものがあるのは当然なのだ。

文字ばかりつづくとうっとうしいので、わたしのイメージする「初期ブリティッシュ・ビート」の特長を濃厚にもつサンプルを。

The Swinging Blue Jeans - Promise You'll Tell Her


32小節のギター・ソロ、などというバカバカしいものは、襟苦倉布団さん(検索でやってきて怒り散らすお馬鹿さん対策なので、許されよ)がゴミを違法積載して疾走するトラックのように、そこらじゅうにばら撒きはじめるまでは存在しなかったので、ギターはあくまでも伴奏楽器であり、メロディー、ハーモニー、叙情性という三位一体が、すくなくともB面には必要だったし、A面に進出することもあった。

このシリーズの最初の記事へのtonieさんのコメントに引用された、大滝詠一のラジオ番組での発言に「この当時ピーター&ゴードンの曲が非常に好きで」とあったので、もう一曲このデュオのものを。

Peter & Gordon - I Don't Want to See You Again


ブリティッシュ・ビートの背景は、スキッフルがどうこうなどという意見もあることを承知で、そんな些末なことはあっさり無視して云うと、50年代のアメリカ音楽、なかんずく、エルヴィス・プレスリー、チャック・ベリー、リトル・リチャード、バディー・ホリー、ジーン・ヴィンセント、エディー・コクランといった人々である。

しかし、こういった人々だけでは、初期ブリティッシュ・ビートのハーモニーへのこだわりは説明できない。では、あとは誰なのだ、と云うと、むろん、エヴァリー・ブラザーズなのだ。そして、もうひとつ、同時代のアメリカのガール・グループ・ブームも彼らに強い影響を与えた。

64年以降のいわゆる「英国の侵略」に、アメリカのガール・グループが壊滅的打撃を受けたのは皮肉なことだったが、同時に、当然とも云えた。

ブリティッシュ・ビート・グループは、じつは「ボーイ・グループ」であり、ビートとハーモニーと叙情性の結合、という意味で、ガール・グループと同質のものだったから、併存がむずかしかったのだ。

以下にずらずらと、初期ブリティッシュ・ビート・グループにカヴァーされたガール・グループ/シンガーのヒット曲を並べる。順に、ビートルズ、同じくビートルズ、ハーマンズ・ハーミッツ、サーチャーズにカヴァーされた。

The Cookies - Chains


The Shirelles - Baby It's You


Earl-Jean - I'm Into Something Good


Betty Everett - The Shoop Shoop Song (It's in His Kiss)


以上は昔からわかっていたことにすぎない。今回、エヴァリー・ブラザーズ、ブリティッシュ・ビート、大滝詠一と、音楽史三題噺をやってみて、以前は深く考えたことのなかった点が意識にのぼった。

デイヴ・クラーク5やピーター&ゴードンやビートルズやサーチャーズが、当然のように使った、あのイレギュラーなハーモニー・ラインはどこから湧いてきたのか?

彼らに強い影響を与えたと考えられるエヴァリー・ブラザーズは、きわめてスムーズなハーモニーをやっていて、その点がブリティッシュ・ビート・グループと決定的に異なっている。

それが書きはじめる前の認識だった。書きながらあれこれ考えて得た中間的な解釈はこうだ。

エヴァリーズが、イレギュラーなところのほとんどない、スムーズなハーモニーを実現したのは、彼らの資質やスタイル以上に、ブードロー・ブライアントの書く曲が、必然的に、そのようなハーモニーを要求する構造をとっていたからなのではないか?

前回、ブライアント夫妻のソングライティング・スタイルと循環コードの問題にふれたのは、これがあったからだ。

少しその話を繰り返す。循環コード、たとえばC→Am→F→G7にはドレミファソラシドのCメイジャー・スケールの音階がすべて含まれている。これは前回述べた。

そして、この4コードの循環のなかでメロディーを動かしているかぎりは、たとえば機械的にメロディーの3度上にハーモニーをつけても、メロディーがどう動こうが、まずまちがいなく音は合う。スケールからはずれた音は入ってこないのだから当然だ。逆に云うと、循環からはずれたコードがあると、この原則は崩壊する。

ハーモニーはメロディーの副産物として生まれる。ブードロー・ブライアントのメロディーが、ドンとフィルのエヴァリー兄弟に、とりわけ、主として3度のハーモニーをつけたフィル・エヴァリーに、あのようなスタイルを「強制した」と見ていいのではないだろうか。

(作曲のほうを担当したのは夫のブードロー・ブライアントだったと思われるが、彼はシンフォニック・オーケストラのヴァイオリニストも経験したものの、いっぽうで、南部出身者らしく、カントリー・フィドリングも好んだという。循環コードへのこだわりは、そのあたりに源泉があるのかもしれない。)

ブリティッシュ・ビートのハーモニーの基礎はエヴァリー・ブラザーズである。だが、エヴァリーズそのままでは、ブリティッシュ・ビートの特長である変則的なハーモニーは生まれない。

なぜ、あの量子的跳躍が起きたのかと云えば、シンプルな循環コードからの逸脱がそれを要求したからだ、というのが目下の結論である。

くどいようだが、話の筋道がはっきりしたところで、すでに提示したサンプルの一部を再度貼り付ける。

The Beatles - If I Fell


The Dave Clark 5 - Beacause


Peter & Gordon - I Go to Pieces


The Searchers - Someday We're Gonna Love Again


最初の二曲、ビートルズのIf I Fellと、DC5のBecauseは、コード進行が要求した結果、ハーモニーが変則的な響きになった例である。

たとえば、Becauseのヴァースの冒頭は、G→Gaug→G6→G7→Cという進行になっている。それほどめずらしい進行ではないが、メイジャー・スケールからはずれない循環コードでもない。

では、ハーモニー・ラインはどうなっているかというと、じつは、素直にメロディーの5度を歌っている。ただ、コードが変化しても、主音(ルート)であるソが動かないのに対して、5度の音がコード進行の関係で、レ→ミ♭→ミ→ファというように、半音ずつあがってしまうため、結果的に、変則的な響きになってしまったのである。

ビートルズのIf I Fellはもう少しコードが面倒なので、ピーター&ゴードンやサーチャーズともども、次回に、ということにさせていただく。

気がつけば、またしても、大滝詠一とエヴァリー・ブラザーズと初期ブリティッシュ・ビートの関係に踏み込めなかった。次回はそこへたどり着けるだろう。


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by songsf4s | 2014-01-09 22:56 | 60年代