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大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー その2
 
(承前)
前回は意図的に迂回したが、本来なら、初期ブリティッシュ・ビートの2パート・ハーモニーといえば、なにをおいても、あの二人の話にならなくてはいけなかった。

The Beatles - There's a Place


ビートルズのヴォーカル・アレンジのパターンはいくつもあるのだが、ジョージやリンゴがリードを歌ったケースを除いて、Revolverあたりまではよく使われた主要なものを取り出すと、

1 ジョン(リード)+ポール&ジョージ
2 ジョン(下)+ポール(上)
3 ポール(リード)+ジョン&ジョージ
4 ポールのみ(ただし、しばしばダブル・トラックでユニゾンまたはハーモニー)
5 ジョンのみ(ただし、しばしばダブル・トラックでユニゾンまたはハーモニー)
6 ジョン+ポール+ジョージの3パート

そして、多くの場合、同じ曲のなかで、このパターンがいくつか組み合わされているし、たとえばジョン&ポールのデュエットでも、二人ともダブル・トラックになっていて、声の分離が困難なケースもめずらしくない。

しかし、細かいことは、この記事の主眼である、大滝詠一やフィル・エヴァリーとは関係ない。ジョンとポールのデュエットだけが問題だ。

The Beatles - She Loves You


あたりまえすぎてどうも失礼てなものだが、やはりジョンとポールのハーモニーといえば、まずこの曲をあげるしかないわけで、かつては、レコード屋に飛び込んで、ビートルズだの、シー・ラヴズ・ユーだのとくどくどいわず、「イエー、イエー、イエー」と歌えば、シングル盤が出てきたといわれるほどだ。

一瞬で聴き手の心を捉える「イエー、イエー、イエー」の響きは、ジョン、ポール、ジョージの三人のすばらしい声のミックスによるのだが、落ち着いて聴いてみると、ヴァースになんだか変な手触りがあることに気づく。

それはたぶん、こういうことだ。

リード・シンガーのように思わせる、もっともオンにミックスされた声はジョン・レノンなのだが、彼はメロディーを歌わず、下のハーモニーを歌っている。メロディーはジョンより薄くミックスされた(いや、声の質がそういう印象を生むだけかもしれないが)ポールなのである。

The Beatles - If I Fell


この曲はビートルズにはめずらしい前付けヴァースがあり、そこはジョン・レノンが単独で歌っている。しかし、ヴァースに入ったとたん、ジョンは下のハーモニーへと移動し、ポールがメロディーを乗っ取る。

ジョンはたぶんファが限界、ポールはほかならぬIf I Fellでラまで出している。この二人の音域の違いと、あくまでもジョン・レノンのヴォーカルを親柱とする初期ビートルズのあり方というふたつの条件を満たすために、このような、ジョンが主体でありながら、彼はしばしば下のハーモニーにまわる、という変則的なスタイルが生まれたのだろう。ただし、これはビートルズだけがやった特殊なアレンジではなく、たとえば、サーチャーズもやったことがあるのは、前回の記事に例示した。

The Beatles - I'll Be Back


いつ聴いても涙が出そうになる曲だが、それはさておき、この曲もまた、ジョンが主体でありながら、ヴァースのメロディーを歌うのはポールというアレンジになっている。「ジョンが主体」「ジョンの曲」という印象が生まれるのは、ヴァースが二人のデュオであるのに対して、ブリッジ(イギリスではミドル8=中間部の8小節と呼ぶ)では、ジョンのユニゾン・ダブル・トラック・ヴォーカルだけになるからである。

ジョン・レノンとポール・マッカートニーという、二人の傑出したシンガーの声の組み合わせだけが問題なのではない。

The Beatles - I Don't Want To Spoil The Party


いやはや、まさに「秘された宝」だなあ、と溜息が出るが、それはさておき、この曲の場合、ブリッジ(Though tonight以下のパート)ではメロディー=ポール、ジョンは下のハーモニーに移動といういつものパターンをとっているものの、ヴァースでは、メロディー、ハーモニーともにジョン・レノンが歌っている。

そして、このヴァースのハーモニー・ラインは、かなり変だ。

キリがないので、ジョン&ポールのハーモニーはこれくらいにする。ジョンの狭い音域を補うための措置だった、リード・ヴォーカルの途中交代と関係があるのかどうかは微妙なところだが(相応の関係があると考えているが)、彼らもしばしば、おや、そこへ行っちゃうのか、というイレギュラーなハーモニー・ラインをつくった。

それはジョンとポールのあいだの閉鎖されたやりとりだけで生まれたものではなく、ギター・プレイヤーがリックを交換するように、同時代のビート・グループが、お互いに相手のやっていることを観察して、「暗黙の合意」として発展していったヴォーカル・スタイルだと考える。

これには、やはりなにか種があり、さかのぼることができるはずだし、時間線の逆方向、下流へも流れていったと思う。

ここまでくればあと一歩で、本題であるフィル・エヴァリーや、大滝詠一に話を戻すことができるのだが、そのまえに、ブリティッシュ・ビートとはっぴいえんどの中間に出現した、耳を引くハーモニー・スタイルをもつグループを聴く。

The Flying Burrito Brothers - Sin City


フライング・ブリトー・ブラザーズは、手品のようにバーズを一夜にしてカントリー・ロック・バンドに変身させたグラム・パーソンズが、バーズをやめたあと、バーズのクリス・ヒルマンを引きずり込んでつくったグループで、ジャンルに押し込むなら、やはりカントリー・ロックというしかない。グラムは「カントリー・ロック」という言葉に対して、何度も嫌悪を表明しているのだが。クリス・エスリッジやスニーキー・ピートなど、興味深い他のメンバーについては、この文脈では無関係なので、省かせていただく。

さて、Sin Cityだ。左にはグラム・パーソンズ、右にはクリス・ヒルマンのヴォーカルが定位されている。はじめての方は声の区別がつけにくいかもしれないが、それはかまわない。右と左でよい。

3ヴァース、3コーラス構成で、ヴァースーコーラスーヴァースーコーラスーヴァースーコーラスと律儀に並び、ブリッジはない。短いものと相場が決まっているコーラスが、この曲は長く、ヴァースと同じ4行1連になっているところが、ややイレギュラーといえる。

そして、ここが問題なのだが、グラムとクリスは、メロディーとハーモニーのパートを交換する。ヴァースでは右のクリスがメロディーを歌い、左のグラムは上のハーモニーを歌う。コーラス・パート(This old earthquake's以下の4行)では、持ち場を交換し、グラムがメロディー、クリスがコーラスを歌っている。

もう一曲、グラム・パーソンズとクリス・ヒルマンのハーモニーを。

The Flying Burrito Brothers - Christine's Tune


TV出演時のクリップのおかげで、グラム・パーソンズ(白のヌーディー・スーツに帽子)とクリス・ヒルマン(青いスーツ)のパートの交換は一目瞭然だろう。

ブリトーズをはじめて聴いたとき、わたしはまだ十六歳、たいした知識はないので、ジョンとポールのスタイルを真似たのか、ぐらいのことしか思わなかった。

それも間違いとはいえないが、おそらくグラム・パーソンズとクリス・ヒルマンは、彼らがミドル・ティーンの時、つまりビートルズ登場以前に、夢中になったデュオをワーキング・モデルとしたのだろう。

これでやっと、次回はドンとフィルのエヴァリー兄弟にたどり着ける。


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by songsf4s | 2014-01-06 22:06 | 60年代