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ロバート・ゼメキス監督『抱きしめたい』に描かれた1964年のビートル・クレイズ その3
 
ロバート・ゼメキスの『抱きしめたい』、前回途中になってしまったパート6から。

『抱きしめたい』パート6


警備の警官に捕まったロージーとリチャードは、幸い放免になって、リチャードのビートルズ・コレクションの話をしていると、グレイスとラリーが通りかかり、リチャードがビートルズが寝たシーツを売っているというネタを仕込みます。

楽屋から忍び込むために50ドルを必要とするグレイスは、リチャードのアイディアを拝借して、ニセモノのビートルズ・シーツを売って一儲けします。

ジャニスとピーターは警官に追われ、エド・サリヴァン劇場の外で追いつめられますが、群衆の女の子たちが騒いで、警官にジェリービーンズをぶつけ、おかげでこれまた放免されます。

なぜジェリービーンズが投げつけられるかというと、昔のファンなら誰でも知っているように、ジョージはジェリービーンズが好物だという話が広まった結果、ビートルズのライヴではジェリービーンズが飛び交うことになっていたので、みな持参していたからです。いやはや!

ジャニスは、この光景を見て、ビートルズとビートルマニアへの見方を変えます。ビートルズのレコードばかり売っている父親に「どうしてもっとボブ・ディランやジョーン・バエズを売らないの」と迫ったリベラリストなので、「民衆」(というか、たんに劇場の前に並んでいるビートルズ・ファン)が、「権力」(というか、たんなる劇場警備の警官隊)に抵抗するのを見て、感動してしまったのです!

『抱きしめたい』パート7


足を踏んづけられた女の子がキャーと叫ぶと、ほかの女の子もわけもわからず叫び出すという、小さなギャグも笑えます。

シーツがニセモノだということを見抜かれたグレイスは、金儲けの道を失い、たまたまレストランの臨席の男がコールガールの手配を頼んでいるのを耳にし、なにやら決心し、ラリーを置いてきぼりにします。

パムはついに発見され、ハーポ・マルクスのように、コートのなかにため込んだ記念品のあれこれをすべて吐き出すハメになります。

セクシーなかっこうになったグレイスがエレヴェーターから出てくるところの音楽がMoney (That's What I Want)というのが、そのまんまで笑えます。

あきらめてどこかでエド・サリヴァン・ショウをテレビで見ようと思ったロージーは、まだホテルの鍵をもっていたことに気づき、ホテルの部屋に忍び込もうとします。

そこでまたラジオのクイズ。「ビートルズのメンバーで、youngestであり、同時にoldestなのは誰?」

リチャードが前のクイズでリンゴと答えたのは、リンゴが最後にビートルズに加わったので、youngestなのだという見方のせいだということを知っていたロージーは、今度のoldestであると同時にyoungestなビートル、というクイズの答えを知っているので、手近な部屋に突進して、ついにエド・サリヴァン・ショウのチケット獲得します。

じつに有機的にきれいにつなげてある脚本のなかで、ここは瑕瑾だと思いますが、やったー、と喜んで劇場に向かおうとしたロージーは、リチャードが運転するエレヴェーターに乗ってしまい、閉じこめられるはめになります。

リチャードがここにいること、そしてエレヴェーターが故障することに関して、ひとつ伏線を入れておいてほしかったと思いますが、それはほとんど完璧な脚本だから、惜しい、と思うにすぎません。

いずれにしても、ウェンディー・ジョー・スパーバーの熱演のおかげで、この脚本の瑕瑾はそれほど気になりません。いかにも、ロージーにとっては「もーあたしの人生メチャメチャ!」と絶叫したくなる状況でしょう。

パムはパブリシティーに協力することを条件に、マネージメント・スタッフ(ニール・アスピナルがモデルか?)に、エド・サリヴァン・ショウのチケットを呈上しようといわれます。

劇場の外の女の子たちがしばしばうたっている曲を貼りつけておきます。

The Carefrees - We Love You Beatles


このド下手なところが、このシテュエイションでは、かえってはまっているような気がします。

そろそろ話は大詰め、ちゃんと見たいと思う方はもう切り上げたほうがいいでしょう。どうせ日本語版DVDはないし、まあいいか、という方、このままどうぞ。

『抱きしめたい』パート8


売春に失敗したグレイスは男の部屋から出られなくなり、ロージーもエレヴェーターに閉じこめられたまま、記者会見を終わってチケットをもらったパムは、迎えに来た婚約者に叱られます。まあ、指輪をパンプスにしまって踏んづけていたのでは、婚約者が怒るのも無理はありませんが!

ジャニスは、トニーをそそのかして、ピーターの父親からチケットをスリとらせようとしますが、財布にはチケットはなく、これまた失敗してしまいます。

ピーターが父親に連れて行かれただだっ広い床屋が無人なのに、思わず笑ってしまいました。まるで落語の「無精床」、世界でいちばん床屋が流行らない場所でしょう。

ストーリーラインを追うのはこれくらいにしておきます。以下、結末にふれるので、これから見てみようという方は読まないでいただきたいと思います。

とにかく、頭から尻尾まで、手抜きなしのみごとな脚本で、何度見直しても、感心します。全体の流れも、ささやかなディテールの描き方も、いちいちうなずいてしまいます。まったく滞留することなく、伏線が伏線を導き出し、話はきれいに進んでいきます。

今回見直して思ったのは、これはじつは、女性の通過儀礼、少女が女になることを描いた話ではないか、ということです。

せっかくチケットをプレゼントされたのに、彼女を連れ帰ろうと車に押し込み、車中で退屈な未来の話をする婚約者に失望したパムが、わたしはあなたとは結婚できない、ビートルズを見たい、といって車から飛び出すシーンを見ていて、そう思いました。

パムが象徴するのは、女性という総体なのですが、同時に、1964年という時代のアメリカの女性という、よりスペシフィックな集合体を描いていると感じます。

日本の女性がそうであったように、アメリカの女性もまた、あの時代には、おおむね男の従属物だったのではないでしょうか。ビートルズに狂った少女たちは、そういう男の独り決めを真っ向から否定し、自分たちには自分たちの考えがあることを、はっきりと社会に宣言した、とロバート・ゼメキスはいいたいのかもしれません。

フランク・シナトラに熱狂した少女たちもいたし、エルヴィスに狂った少女たちもいました。ビートルズに突進した少女たちは、たまたま公民権運動の時代であったために、はからずも、アメリカ社会を大きく変革していった、というのが、このコメディーの隠れたテーマだったように思います。

それにしても、きれいなつくりの映画です。

一方通行逆走で警官に捕まりそうになったラリーのために、裏口から劇場に入るために必死につかみとったなけなしの50ドルを、賄賂として差しだしてしまったグレイスは、結局、ラリーとともに劇場の裏にリムジンを停め、悄然とすることになります。

でも、グレイスもまた、この24時間の経験でいろいろなことを学んだことがわかります。ラリーがいかにいい奴かということに、やっと気づくからです。

しかし、ゼメキスは、劇場には入れなかったグレイスとラリーのために、涙が出るようなやさしい結末を用意しています。

最初のショットから、最後のショットまで、これほどぎちぎちにあんこが詰まった映画は滅多にないでしょう。


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by songsf4s | 2011-12-10 23:59 | 映画