人気ブログランキング |
The Beatles Studio Sessionsを聴く その3 A Hard Day's Night
 
ビートルズというのは、いつも、ひとたび聴きはじめると、止まらなくなってしまいます。小学校六年からえんえんと聴きつづけて、大部分の曲はうんざりして当然のはずなのですが、なぜか、聴くたびに、あれもこれもとあとを引いてしまいます。

本日もThe Beatles Studio Sessionsシリーズ、三回目でやっとリリース順になり、今回はサード・アルバム、A Hard Day's Nightを聴きます。

ここまでは2枚組だったこのシリーズも、ここで4枚組にふくらんでしまいますが、後半は映画DVDなどから切り出したオフィシャル・リリースで、ミックス違いにすぎず、テイク違いのお楽しみはないので、この記事では扱いません。

まずは映画『ア・ハード・デイズ・ナイト』のタイトル・ソングのオフィシャル・リリースから。

The Beatles - A Hard Day's Night (from a Richard Lester film "A Hard Day's Night")


すばらしい勢いのあるモンタージュで、はじめて見たときはほんの数瞬で一気に引き入れられました。とりわけ望遠レンズの使い方が印象的ですし、高速で後退する移動撮影もみごとです(ジープかトラックの後部にキャメラを載せたのだろう)。

アイドルの低予算バカ映画だと思って、からかい半分に『ア・ハード・デイズ・ナイト』を見た映画関係者は、このタイトル・シークェンスを見て仰天したのではないでしょうか。アメリカン・ニュー・シネマに甚大な影響を与えた、なんてテキトーなことを思ったりもします。

という話は、本日はどうでもよくて、問題は音楽のほうです。

確認しておくべきことは、A Hard Day's Nightは、彼らのはじめてのアメリカ・ツアーが大成功裡に終わって帰国してから製作されたものだということです。映画も、そのOSTも、です。

くどくなりますが、言い換えると、これは彼らがイギリスを代表するスターになったという意味です。ブレイクダウンを繰り返すと、すぐにエンジニアに怒鳴りつけられる小僧たちではなくなり、アビーロード・スタジオを肩で風を切って歩ける、EMIの全ロースターのなかで最重要の存在になったのです。

f0147840_23353437.jpg

当然、これは彼らに絶大な自信を与えたはずです。スタジオでの仕事ぶりにそれがあらわれています。まちがえてブレイクダウンすると、ふざけてだれかをからかったりするのは、リラックスしはじめたことを示しています。

エンジニアのテイク・カウント(おそらくノーマン・スミスによる)も、ミスッた彼らを咎めるようなキツいいい方は少なくなります。ヘッドコーチとルーキーの関係ではなく、チームを背負ってたつ四番打者のように、プライドを尊重する必要が生まれたのです。

それではオフィシャル・リリースのトラック・リスティングを。

1. A Hard Day's Night *
2. I Should Have Known Better *
3. If I Fell *
4. I'm Happy Just To Dance With You
5. And I Love Her *
6. Tell Me Why *
7. Can't Buy Me Love *
8. Any Time At All *
9. I'll Cry Instead
10. Things We Said Today *
11. When I Get Home
12. You Can't Do That *
13. I'll Be Back *

(曲名の末尾にアスタリスクを付したのはThe Beatles Studio Sessionsになんらかのヴァージョンが収録されたもの。ほかにLong Tall SallyのEPも対象になり、またライヴや映画からの切り出しなどが収録されている)

The Beatles Studio Sessions収録のテイクをご紹介する前に、A Hard Day's Nightのテイク1のクリップをどうぞ。

The Beatles - A Hard Day's Night (take 1)


はじめはイントロ・コードにディレイまたはアンプのトレモロがかかっていました。歌詞も少し異なりますし(ポールが歌うブリッジの最後はall through the nightになっている)、ポールのベースもリリース・テイクとはラインがやや異なるようです。また、ジョージのギター・ブレイクもリリース・テイクとはまったく違います。

もう少しあとのほうのテイクをサンプルにしました。

サンプル The Beatles "A Hard Day's Night" (take 4, mono)

ブリッジのall through the nightは変更され、リリース・ヴァージョンと同じようになりました。ジョージのギター・ブレイクは依然として形ができていません。もちろん、これは見過ごされていたわけではなく、必要な措置があとでとられることになります。

サンプル The Beatles "A Hard Day's Night" (take 9, mono)

このテイク9は完成に近く、すでにボンゴやカウベルなどのオーヴァーダブの終わったものが収録されています。足りないのは、すぐにわかるように、ギター・ブレイクです。ここは「白」で残し、あとでオーヴァーダブによって解決しようということになったのがこれでわかります。初期のビートルズはジョージのギターにしばしば足を取られています。

The Beatles Anthology Vol.1にはA Hard Day's Nightのテイク1が収録されていますが、このミックスではポールのベースがオフィシャル・ヴァージョンよりよく聞こえます。わたしはPaperback Writerのポールのプレイを連想しました。

The Beatles - Paperback Writer (promotion film)


Revolverセッションからエンジニアがジェフ・エメリックに交代し、ポールの強い要求で、ベースの録音スタイルとミックスがドラスティックに変化して(エメリックは、マイクのかわりにスピーカーを使ってベースを録音した。スピーカーとマイクは原理的には同じものといえる)、彼のプレイがはっきりと聞こえるようになります。

それと軌を一にしてポールもプレイ・スタイルを変化させた、というように考えていました。聞こえるなら、もっと派手にやってやろうというので、Taxmanのような凄絶なプレイが生まれたのだと思っていたのです。

The Beatles - Taxman


しかし、A Hard Day's Nightのテイク1を聴くと、プレイ方針はこのころから変わっていないのだと感じます。もともときわめてすぐれたハーモニック・センスの持ち主で、ルートから離れるプレイということを意識していたプレイヤーでした。

ブライアン・ウィルソンのルート離れ(正確にいえば、ベースをプレイしたのはレイ・ポールマンやキャロル・ケイだったが、ブライアンの指示どおりにプレイしたとケイは証言している)に強い関心を持ち、わざわざ会いに行ったほどなのだから、ポールはRevolverセッションでいきなりスタイルを変えたわけではなく、もともともっていた要素を拡大させただけだったのだと確認できます。

アルバムA Hard Day's Nightから、録音中のアレンジ変更が増えていきます。すでにさまざまなブートで有名になったものばかりですが、ご存知ない方のために一例を。まずはオフィシャル・リリース・ヴァージョン。

The Beatles - Can't Buy Me Love (from a Richard Lester film "A Hard Day's Night")


リリース・ヴァージョンではポールがひとりで歌っていますが、当初は初期のビートルズらしいヴォーカル・アレンジでした。

The Beatles - Can't Buy Me Love (take 1)


クリップの説明にはtakes 1 & 2とありますが、たぶんテイク1のみ、またはテイク1と2の合成テイクでしょう。

このように、はじめはジョンとジョージがコーラスを歌うアレンジだったのですが、われわれが聴いてもはまっていないのは明らかで、これはオミットするという判断がくだされ、リリース・ヴァージョンの形になります。

テイク1とあまり変化はないのですが、テイク2をサンプルにしました。

サンプル The Beatles "Can't Buy Me Love" (take 2)

これまた、ジョージのギター・ブレイクがまったく形になっていません。この曲のソロ・パートを「白」にしたテイクは聴いたことがありませんが、やはり、あとでオーヴァーダブによって修正するという判断になったのではないかと想像します。

The Beatles Studio Sessionsのこの巻は、Anthology Vol.1とほとんど重なっていて、わざわざサンプルにしたくなるようなものはあまりありません。アルバムA Hard Day's Nightの掉尾を飾るI'll Be Backも、途中でアレンジが大きく変わっていますが、これまたブートにはよく収録されていますし、Anthologyでも聴けます。

The Beatles - I'll Be Back (take 2)


というように、最初はワルツ・タイムでした。だれが聴いても、これではダメです。それで、オフィシャル・ヴァージョンのように4/4に変更されます。

The Beatles - I'll Be Back (take 3)


しかし、まだジョンもジョージもエレクトリックを弾いています。これではあのせつなくて涙がこぼれるサウンドにはなりません。

The Beatles - I'll Be Back (official released ver.)


これでなくてはね、です。

よく歌に感情を込める、などということいいます。わたしは60年代育ちなので、センティメンタルなバラッドというのがあまり好きではなく、感情なんか込められてたまるか、と思います。

ジョン・レノンはこの切ない歌にどのような「感情」を「込めて」いたのかは、セッション・テープに記録されています。

サンプル The Beatles "I'll Be Back" (take 12 through 15, edited)

ポールは入りそこなうし、ジョージはまだ準備のできていないジョンをおいてカウントしちゃうし、ジョンは、おいおい、俺をまだだ、とスタートしたものを止めています。悲しくて悲しくて、涙が出そうになるセッション、ではありませんでした!

バラッドなんて、これくらいに軽く、突き放して歌ってほしいものです。感情を込めるなんてのは勘弁してほしい、と思うようになったのは、きっと、ビートルズをはじめとする60年代の音楽を浴びるほど聴いたせいでしょう。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう


ビートルズ(CD+Tシャツ)
A Hard Day's Night [CD/T-Shirt]
A Hard Day's Night [CD/T-Shirt]


ビートルズ(オフィシャル・リリース盤)
Hard Day's Night (Dig)
A Hard Day's Night (Dig)

ビートルズ
Anthology 1
Anthology 1


ビートルズ(DVDボックス)
ザ・ビートルズ・アンソロジー DVD BOX 通常盤
ザ・ビートルズ・アンソロジー DVD BOX 通常盤
by songsf4s | 2011-10-12 23:53 | ブリティシュ・インヴェイジョン