前回のつづきで、今回も50年代横浜散歩です。
警察で当時の事情をたしかめたところ、ケンカで兄を殺したテツという男はすでに死んでいたことがわかり、島木は、そのテツを殺した「川上一家の竹田」という男(草薙幸二郎)に当たってみようと、まず竹田が根城にしているという「花咲町の白雪という寿司屋」に向かいます。
花咲町というのは、JR根岸線桜木町駅を指呼の間に見る場所で、したがって、みなとみらい地区(この時代にはまだそうは呼ばれていないが)にも近く、当然、レストラン「リーフ」のある新港からもそれほど遠くありません。
また、厳密には野毛町ではないのですが、「野毛の飲み屋街」といったときに、花咲町まで含めて思い浮かべる人のほうが多いでしょう。
野毛坂から都橋、吉田橋に至る野毛本通りと、それと直交する平戸桜木道路という二本の表通りから、中通りにいたるまで、飲食店が櫛比し、昼間よりも夜のほうがにぎやかな、猥雑な雰囲気のある界隈です。
島木が寿司屋にいくと、川上一家の若い者(柳瀬志郎と黒田剛。ギャングのメンツはそろいつつある!)がいて、竹田は近ごろ寄りつかない、といわれますが、店の女の子に、ビリヤード屋へ行ってみたらと教えられます。
いっぽうで、竹田が危険な存在だと感じた柴田も、手下たちに、竹田を見つけて連れてこい、と命じ、島木と鉢合わせしそうな動きで、彼らのほうも竹田を追いはじめます。
はじめのうちは島木が先行しているのですが、行きつけのバーの発見が遅れて、先を越されてしまいます。
まだ竹田追跡行はつづきますが、ここで、このモンタージュを生彩あるものにしている、佐藤勝のサウンド・コラージュをお聴きいただきましょう。長いシークェンスですが、丸ごと切り出しました。
サンプル 佐藤勝「Searchin'」
絵の出来がいいと自然に音のほうも出来がよくなるもので、テンポの速いモンタージュに合わせて、どのようにサウンド・コラージュをつくればよいかという、教科書といえるようなものになっています。
2分すぎに登場するハワイアンは、かつて佐藤勝が石原裕次郎のために書いた「狂った果実」のインストゥルメンタル・ヴァージョンでしょう。時間の節約のために再利用したのかもしれませんが、楽しい楽屋落ちになっています。
それでは竹田探索行をつづけます。
柴田一味につかまった竹田の運命やいかに、と紙芝居じみてしまいますが、そこは書かずにおかないと、差しさわりがありそうです。
このモンタージュは非常に狭い範囲で動いているのですが、編集も手際がよく、場所に合わせて歌謡曲、ハワイアン、ラテン、ジャズと切り替わる音楽も楽しく、この映画のひとつの見せ場になっています。
ひょっとしたら、蔵原惟繕も、高村倉太郎も、そして佐藤勝も、黒澤明の『野良犬』を意識していたのかもしれません。とりわけ佐藤勝は、師匠・早坂文雄が『野良犬』のモンタージュをどう処理したかを意識して、このサウンド・コラージュをつくりあげたのだろうと推測します。
ディゾルヴやオーヴァーラップなどは使わず、「ドライに」カットをつないでいますが(一箇所だけ、島木が駅方向にむかうところでワイプが使われている)、それがこの映画のトーンに合った、きびきびとしたリズムをつくっていて、その面でも非常に好ましいシークェンスです。
次回、いくつかセットを見、あと二曲ほどサンプルを並べて、『俺は待ってるぜ』を完了する予定です。
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