しばらくご無沙汰していた日活アクションですが、今日から数回に分けて、蔵原惟繕の監督デビュー作『俺は待ってるぜ』を、音楽とロケーションを中心に見ていくことにします。
主演は石原裕次郎と北原三枝、jmdbによると、裕次郎にとっては14作目の映画出演、主演としては10作目ぐらいでしょうか。この前が『鷲と鷹』、このつぎが『嵐を呼ぶ男』(該当記事へのリンク一覧はこのページの一番下にもあり)となっています。裕次郎はもっともいい時代のとば口に立っていました。
日活アクションを取り上げるたびに、絵と音の両面でどれほどこのスタジオの産物が非日本的であったかということを書いていますが、その日活アクションのなかでも、この映画ほど日本を全面的に排除したものは、ほかに知りません。
蔵原惟繕はこのとき何歳だったのでしょうか、若い監督の衒い、気取りがファースト・ショットからみなぎって、見るものを圧倒します。
ひとつ間違うと悲惨なことになりかねないほど気負った絵作りですが、石原裕次郎、北原三枝という主役の柄と、横浜港周辺というロケ地のおかげで、みごとに「世界」を作り上げています。
はじめのうち、水たまりが揺れていて、雨が降っているのだな、と思うのですが、「監督 蔵原惟繕」の文字とともに、揺れが収まります。雨がやんだのです。
そして、さっきまで不定形の光の揺らめきであったものが、はじめて意味のある像を結ぶと、そこに「Restraurant Reef」というネオンサインの鏡像が浮かびます。高村倉太郎撮影監督による、蔵原監督のデビューへのお祝いではないでしょうか。
つぎのショットは、大人になって一回目のとき(子どものときに見ているが、なにも記憶がない)、ギョッとしました。
レストランと汽車とカメラの位置関係のせいでしょうか、すばらしい量塊感(massiveness)にため息が出ます。
このタイトルで流れる石原裕次郎唄う主題歌「俺は待ってるぜ」は、盤のものとは異なるので、サンプルにしました。
サンプル 石原裕次郎「俺は待ってるぜ」(映画ヴァージョン)
横浜港でレストランをやっている元ボクサーの島木(石原裕次郎)は、手紙を投函しにいった帰りに、夜ふけの海に向かってたたずむ女、早枝子(北原三枝)を見かけ、自殺ではないかと疑い、自分の店に連れ帰ります。
早枝子は、問われるままに、わたしは人を殺したかもしれないと語りはじめます(殺しそうなった相手は、あとで、彼女のつとめるクラブの支配人で、ギャングのボスの弟とわかる)。
この殺人無言劇の背景に流れる音楽もサンプルにしました。例によってフル・スコア盤は存在せず(佐藤勝作品集に一曲だけ挿入歌が収録されている)、したがってタイトルはわたしが恣意的につけたものですし、モノ・エンコーディングです。
サンプル 佐藤勝「Must Have Killed」
裕次郎のこのつぎの映画、『嵐を呼ぶ男』は、映画としての出来はさておき、スコアは驚くべきものだということを以前書きました。しかし、その直前に、もう、これだけの4ビート・スコアをやっていたわけで、日活畏るべし、というか、佐藤勝畏るべしというか、たいしたものです。
本日は、スコアの切り出しに時間を食われてしまったため、まだ物語は動いていませんが、残りは次回に。
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