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Surf'n'Rod WITHOUT (or mistakingly WITH) Hal Blaine Vol. 1
 
その必要もなければ、そもそも無益なので、そんなことはしばらく考えていなかったのですが、先日までやっていたサーフ&ブレイン特集のせいで、どういうものがサーフ・ミュージックで、どこからはそうではないのか、という線引きを意識せざるをえなくなりました。

しかし、いざ「サーフ・ミュージック」とはなんだ? と考えると、答えは波にもまれて海の底に沈んでいきます。

サーフ・ミュージックのオリジネイターと目されるディック・デイルは、自身、サーフィン・クレイジーで、波に乗っているときの昂揚感を表現したもの、とサーフ・ミュージックをいいあらわしています。

そりゃそうだろうなあ、とは思いますが、これでは音楽形式の定義としては不十分も甚だしいといわざるをえません。

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デイルは、フェンダーの機材を使っていて、レオ・フェンダーと協力してリヴァーブ・ユニットやギター・アンプを開発します(ShowmanおよびDual Showmanとして製品化される)。彼の考え、というか、彼の感覚にしたがうなら、サーフ・ミュージックにおいては、ギターには深いリヴァーブをかけなければいけなかったからです。

それではリヴァーブ・ユニットの使用前、使用後を聴いてみます。まずはリヴァーブのないドライなものを。デイルの父親が息子のためにつくったレーベル、デルトーンからのシングル、Let's Go Trippin'



つづいて、だいぶあとの、キャピトル時代のトラック。こんどはそれなりにウェットなサウンドです。ディック・デイル&ヒズ・デルトーンズ、Taco Wagon



時期が少し前後しますが、初期はドライなギター・サウンドだったという例をもうひとつ、ポール・ジョンソン、リチャード・デルヴィーらが在籍し、のちにチャレンジャーズへと発展することになるベル・エアーズ、Mr. Moto



そういってはなんですが、ドラムの下手なこと、目を覆います。いや、耳をふさぎたくなります。悪いけど、あたくしでも、このドラマーが相手なら勝負できます。

ライノのCowabunga the Surf Boxというのは、それなりに面白く、それなりに役に立つボックスでしたが、よそさんの考えるサーフ・ミュージックというのは、やはり自分の考えとはずいぶん隔たっているのだな、とも思いました。アルバム・オープナーがこの曲ですからね。

The Fireballs Bulldog


われわれ日本の子どもは、Bulldogをヴェンチャーズの曲として記憶していますが、アメリカではTorquayと並んでファイアボールズの代表作と見られているようです。ただ、いま振り返って、ヴェンチャーズ・ヴァージョンに感銘を受けたのは間違っていなかったと思います。

Bulldogのころはともかくとして、後年のFireballsはタイムが安定し、相応の技量のあるグループになったと思います。しかし、ハリウッド音楽産業のエリート集団の一角に食い込もうとしていた、若きビリー・ストレンジをリードとする、初期スタジオ版ヴェンチャーズとは、やはり比較になりません。

どうであれ、ファイアボールズのBulldogでサーフ・アンソロジーがスタートするというのは、わたしにはちょっと意外でした。まだしも、二曲目のほうが違和感がありません。

The Gamblers - Moondawg!


この曲はヴェンチャーズやビーチボーイズをはじめ、カヴァーがたくさんあるために、そういう印象が形成されているからかもしれませんが、サーフ・ミュージックらしい響きがあると感じます。

しかし、なんだかハリウッド音楽産業経営者視点の感なきにしもあらずですが、素人じみた音というのは、どうしても居心地悪く感じます。やはり、ジョー・サラシーノがプロフェッショナルによるサーフ・ミュージックで、このジャンルとしてははじめてナショナル・チャート・ヒットを生まないことには、サーフ・ミュージックのほんとうの歴史ははじまらないと感じます。

The Marketts - Surfer's Stomp


マイケル・ゴードンは、マーケッツに自分の名前を冠することで、歴史を盗み取ろうとしているらしく、はなはだ不愉快ですが、ほかにこの曲のまともなクリップはないので、これを貼りつけます。

マイケル・ゴードンがなにかスタジオのマーケッツにかかわったことがあるとしたら、もっとあとのこと、いくつか楽曲を書いたことと、一握りの曲のアレンジしたことぐらいでしょう。あとはせいぜい、リズム・ギターかパーカッションでもやらせてもらったか、その程度のことと思われます。この曲とマーケッツというスタジオ・プロジェクトは、ジョー・サラシーノが生み出したものです。

あるときサラシーノは、LAの南のバルボア半島に行き、ボールルームでのダンスを目撃しました。

(サラシーノはなにもいっていないが、このボールルームはランデヴー・ボールルームである可能性が高く、そこでプレイしていたのはディック・デイル&ザ・デルトーンズだったかもしれない。さらにいうと、ランデヴー・ボールルームにはかつてスタン・ケントン・オーケストラがレギュラーで出演し、ここで「ウェスト・コースト・ジャズが誕生した」といういい方をする人さえいる。LAの二大エスニック・ミュージックの誕生に関わったボールルームだったのだ、というと大げさかもしれないが。)

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ランデヴー・ボールルームのファサード

これはいったいどういうダンスだ、ときいたら、サーファーズ・ストンプというものだといわれ、すぐにそのステップを元に、サラシーノはSurfer's Stompという曲を書き、スタジオ・プレイヤーを集めて録音しました。

ライノのCowabunga the Surf boxのライナーでは、このときのメンバーは、ドラムズ=シャーキー・ホール、ベース=バド・ギルバート、ギター=ルネ・ホール、ビル・ピットマン、トミー・テデスコ、ピアノ=レイ・ジョンソン(プラズの兄弟)、サックス=プラズ・ジョンソン、フレンチ・ホルン=ジョージ・プライスとされています。

わたしはギター・インストが好きなのですが、もしもサーフ・ミュージックというのが、ド素人の高校ダンス・パーティー芸であったとしたら、そんなものに興味はもたなかったでしょうし、いまになってはなおのこと、忌避したにちがいあありません。

しかし、マーケッツを聴くと、これなら俺が親しんできた、典型的なハリウッドの音だ、と感じます。ドラマーはエドワード・シャーキー・ホール(アール・パーマーがハリウッドにやってきたころ、ロックンロール、R&B系セッションのエースだった)ですが、ギターやサックスはおなじみの面々です。

とりわけ、プラズ・ジョンソンのテナーは、この人らしい美しい音の出で、非常に印象的ですし、だれも出しゃばらずに、グッド・フィーリンをつくることに専念していて、じつに気持のいいサウンドです。

サラシーノがこのようにプロフェッショナルだけで録音することで、サーフ・ミュージックに背骨とフォームを与え、そしてなによりも、その結果、ナショナル・ヒットを得たことは、その後のこの分野の発展に決定的な影響を与えたと思います。

むろん、ほかにも重要な要素はあるのですが、それは次回、見ていくことにし、本日は、Surfer's Stompのヒットを受けて、そのフォロウ・アップとしてリリースされたシングルをクローザーにします。

The Marketts - Balboa Blue


似たような曲、似たようなサウンドですが、わたしはBalboa Blueのほうが好きです。しかし、マイナー・ヒットに終わりました。

いま、このシリーズの通しタイトルを決めてから、キャピトル時代のディック・デイルのドラムはハル・ブレインが多かったことを思い出しました。Taco Wagonもハルの可能性が高いでしょう。

次回は、少しだけ時計の針を進めて1963年を中心にサーフ・ミュージックを並べる予定ですが、時間がとれなくて、安直なNow Listeningに切り替えるかもしれません。


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ディック・デイル
Dick Dale & His Deltones - Greatest Hits 1961-1976
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ディック・デイル(Taco Wagon収録)
Mr Eliminator
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ベル・エアーズ
Volcanic Action!
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ファイアボールズ
Fireballs/Vaquero
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ライノ・ロック・インストゥルメンタル・アンソロジー
Rock Instrumental Classics 5: Surf
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ライノ・レコード カウアバンガ・ザ・サーフ・ボックス(中古)
Cowabunga: Surf Box
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by songsf4s | 2011-08-01 21:37 | サーフ・ミュージック