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増補ハル・ブレイン・ディスコグラフィー読解 その9 続(きっと)Bobbie Gentryと(たぶん)Julie London
 
前回、ボビー・ジェントリーの三枚目まで書いて、そのあとは、グレン・キャンベルとのデュエット盤にふれただけ、あとのアルバムには言及せずに終えてしまいました。

主観的にはこれで問題ないのですが、やはり説明が必要のような気もします。四枚目のTouch'em with Loveはナッシュヴィル録音なので、ハル・ブレインは無関係です。

ボビー・ジェントリーの魅力のひとつは、極端なオンマイクで録音することだったのですが、このアルバムはごくノーマルなマイキングで、リリース当時、ひどく落胆し、以後のアルバムは手を出しませんでした。いまになって、べつに悪くはないと気を取り直してはいますが、でも、ボビー・ジェントリーである必要もないサウンドです。

ボビー・ジェントリー Seasons Come, Seasons Go


こんな感じで、べつに悪くはないのですが、ボビー・ジェントリーというより、だれか別人の歌を聴いているような気分です。

五枚目のFancyは、当時は買わず、あとから聴いたのですが、なんだかなあ、と思っただけで、ほとんど記憶に残っていません。メンフィスのフェイム・スタジオまでいってリック・ホールのプロデュースでやっていますが、ぜんぜん合わなかったのでしょう。

ただし、一部ハリウッド録音があって、これはかなり考え込みます。ベースはジョー・オズボーンに聞こえるので、ハルがいてもおかしくないのです。でも、確信はもてませんでした。ジム・ゴードンの可能性も否定できないのです。

一曲だけクリップがあったのですが、リップ・シンクながら、場内に流した音を拾い直したようなボケ方で、ドラムのニュアンスなどはわからないでしょう。

ボビー・ジェントリー Raindrops Keep Fallin' on My Head


この状態でも、慣れた方ならジョー・オズボーンはわかるでしょう。丸出しのプレイです。

最後のPatchworkはハリウッドに戻っての録音で、気になるプレイがいくつかありますが、これまた確信をもつにはいたりませんでした。複数のドラマーがプレイしていて、いいプレイもありますが、タイムが寸詰まりになったジョン・グェランみたいなトラックや、垢抜けなくて鈍くさいラス・カンケルのようなプレイもあります。

そんな事情で、三枚目までで終わりにしてしまったのでした。

◆ 時代は変わる ◆◆
さて、今日こそはジュリー・ロンドンのトラックからハル・ブレインを発見します。

わたしはジュリー・ロンドンが好きなのですが、よく聴いていたのはおおむね50年代のものでした。

盤によってパーソネルは異なりますが、デビューのあたりは、バーニー・ケッセルのギターとレイ・レザーウッドのベースだけ、あるいは、ギターがアル・ヴィオラ(いつのだったか、シナトラがライヴで、めったにツアーに出ないミスター・ヴィオラが一緒にきてくれたことに感謝している、と紹介していた)といった名前が見えます。

すこしあとのJulie Is Her Nameでは、ハワード・ロバーツとレッド・ミッチェルでやっていたりして、これまたけっこうでした。その続編はまたギターがバーニー・ケッセル。

60年代に入ると、リバティー・レコードの隆盛にもっとも貢献した、スナッフ・ギャレットがジュリー・ロンドンもプロデュースするようになり、当然、その手駒である、アーニー・フリーマンやアール・パーマーを率いて卓につきます。

ジュリー・ロンドン The End of the World (produced by Snuff Garrett, arranged by Ernie Freeman)


ここから微妙になるのですが、たぶん、ギャレットのときもドラマーはアールで、ハルはないと思います。64年ごろから、ギャレットのアレンジャーはリオン・ラッセルに交代し、それと同時に、ドラマーもハル・ブレインになるのですが、その時期、ギャレットはジュリー・ロンドンのアルバムはやっていないようです。

なんだかゴタクばかりで音がないので、ちょっと話を端折って1969年、ジュリー・ロンドンのリバティーにおける最後のアルバム、Yummy Yummy Yummyに飛びます。まずは、順序がめちゃくちゃですが、最後のアルバムの最後の曲から。

ジュリー・ロンドン Louie Louie


60年代のジュリー・ロンドンはあまり聴いたことがなく、とくに60年代後半は知りませんでした。ハル・ブレインはこのアルバムの曲をリストアップしたわけではありませんし、それほど明確なわけではありませんが、このアルバムのほとんど、あるいはすべてのトラックでハル・ブレインがプレイしていると感じます。

ジュリー・ロンドン Like to Get to Know You


この曲はつい先日、このハル・ブレイン・シリーズで取り上げたばかりで、そのときはスパンキー&アワー・ギャングの(たぶん)オリジナル・ヴァージョンでした。ハル・ブレインの場合、ある曲のオリジナルとカヴァーの両方をやるなんていうのは、日常茶飯のことでした。さがせば十種類以上のカヴァーをやった曲が見つかるだろうと思います。

ジュリー・ロンドン Stoned Soul Picnic


Stoned Soul Picnicのオリジナルはローラ・ニーロ、ヒット・ヴァージョンであるフィフス・ディメンション盤ではハル・ブレインがドラムをプレイしました。ベースはキャロル・ケイ、ガット・ギターはトミー・テデスコに聞こえます。

ジュリー・ロンドンの他の盤とは、このYummy Yummy Yummyというアルバムは、選曲、サウンド、歌い方が大きく異なりますが、この風邪声みたいなのも、これはこれで悪くないと感じます。

ジュリー・ロンドン Light My Fire


選曲はだれなのでしょうか。候補としてはプロデューサー、アレンジャーとしてクレジットされているトミー・オリヴァーですが、おおむね成功していると思うものの、つぎの曲は微妙でしょう。ボブ・ディラン作、ヒット・ヴァージョンは、ポール・ジョーンズが抜け、リード・ヴォーカルがマイク・ダボになってからのマンフレッド・マン。

ジュリー・ロンドン Mighty Quinn


こういう曲をジュリー・ロンドン自身が歌いたがるとは思えないのですがねえ。

ジュリー・ロンドンという人は、ヴァーサティリティーというものがなく、いかにもジュリー・ロンドン好みの曲を、ジュリー・ロンドンのスタイルで歌う以外のことはできませんでした。そこが最大の美点だったと思います。

この最後のアルバムは、これで契約が切れるということがわかっていたからか、ジュリー・ロンドン向きではない曲を、ジュリー・ロンドン風に改変して、なんとか時代との折り合いをつけようとした、というように感じます。

残念ながら、当時は退勢挽回とはいかなかったのでしょう。これをもって彼女のレコーディング・アーティスト時代は終わり、女優およびステージ・アクトとして生きることになります。

冷たいいい方をするなら、レッキング・クルーで録音するなら、もっと早い段階、最悪でも1967年にやるべきだったと思います。ディーン・マーティンは1964年に、フランク・シナトラも同じ年にハル・ブレインをドラム・ストゥールに迎えて、久しぶりのシングル・ヒットを得ています。

レッキング・クルーにはそれくらいの神通力がかつてはありました。どうにも時代からずれてしまった人たちと、時代のあいだをとりもって、両者の中間に落ち着き場所を見つけることができたのです。しかし、1969年では、レッキング・クルー自体が、時代から乖離しはじめていました。そういわなければならないのは、残念なんですがね。

しかし、長い時間がたって、コンテクストから切り離され、あの時代にはちょっと古めかしく感じられたであろう音が、それなりに落ち着いた音に聞こえるようになりました。

ジュリー・ロンドン Yummy Yummy Yummy


ハル・ブレインの場合、ストップ・タイムからの戻りは、強い音を使うのがつねですが、さすがに、「ほんのちょっとの声しかない」と自認するシンガーの録音なので、少し遠慮気味で、ファンとしては、微笑んでしまいます。

このトラックは、そこはかとなくボビー・ジェントリー的で、ひょっとしたら、ボビーの成功を参考にして、ジュリー・ロンドンを再生しようという意図があったのかもしれません。

今日、あまり聴いていなかった60年代の盤、The End of the World、Feeling Good、With Body & Soulの三枚を聴いてみましたが、ハル・ブレインらしきプレイはありませんでした。

また折を見て、まとめて聴いてみようと思っていますが、いまのところ、ハル・ブレインがプレイしたと断じられるのは、Yummy Yummy Yummyだけのようです。



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ジュリー・ロンドン
ヤミー・ヤミー・ヤミー(紙ジャケット仕様)
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ボビー・ジェントリー
Ode to Billie Joe / Touch Em With Love (2-For-1)
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ボビー・ジェントリー
Patchwork / Fancy (Reis)
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by songsf4s | 2011-07-23 23:57 | ドラマー特集