このところちょっと鬱です。
有名な音楽評論家が亡くなったのだそうです。わたしはこの二十年ほど音楽評論というものを読んでいないので(そのかわり、録音データやインタヴューは鯨がプランクトンを食べるような調子で馬鹿読みする)、はあ、そうですか、という感想しかありません。
黙っていようと思ったのですが、あんまり賞賛ツイートがうるさいので、つい、音楽は読むものじゃない、自分の耳で聴くものだ、などといってしまいました。
音楽は大いに賞賛なさいな、でも、その影でしかない評論は、ただの参考にすぎません。評論を読むのは、スポーツ紙で昨日のゲームの結果を反芻するのと懸隔のないものです。
といいつつ、こういうブログをやっているのは大矛盾です。でも、ブログも本質的にスポーツ紙だとわたしは思っています。昨日のゲーム結果を書いて、勝ちゲームだった方には反芻の快感を味わっていただき、負け試合だった方には、クソー、七回のチャンスに一本出ていればなあ、などと悔しがっていただけばいいのです。
音を聴くのはあなた自身であって、わたしがあなたのかわりに聴くことはできません。どうか、そのことをお忘れなく。いや、半分は自分に向かっていっているのですが。他人の耳で聴くようなことだけは断じてしたくありません。
◆ そういわれても…… ◆◆
今回はちょっと無理矢理ながら、ジュリー・ロンドンとボビー・ジェントリーです。
どちらもシングル・ヒットは一握りです。したがって、ビルボード・トップ・テン・ヒットしかリストアップしない、Hal Blaine & the Wrecking Crew所載のディスコグラフィーには、二人の曲はありませんでした。
しかし、聴いていると、これはハルだなあ、とやはり思うのです。だから、今回のディスコグラフィー増補では、なにか出てくるのではないかと思いました。
出てきました。だけど、両方とも一曲ずつ、しかも、なにそれ、そんな曲、やってないじゃん、だったのです。
わたしの狭い知識では、ハル・ブレインがジュリー・ロンドンの曲としてあげた、Am I Losing Youのジュリー・ロンドンのヴァージョンというのは存在しないと思います。
また、1967年、ボビー・ジェントリーのデビューの年に、ハルがプレイしたというAngel Eyesという曲も、ボビーがリリースした形跡を発見できません。
なぜ、こういう不可解なことが起きるのか?
ハルのサイトでは毎度そうなのですが、どういうデータにもとづくものか、などということは書いてありません。それは、Hal Blaine and the Wreckingに付されたトップ・テン・ヒット・ディスコグラフィーについても同じです。
キャロル・ケイさんの場合は、オフィシャル・サイトにあげているディスコグラフィーは、かつてのノートにもとづいているそうです。後日、組合から支払われる小切手とつきあわせるために、いつ、どこで、何時間、だれの仕事をしたかを記録したというのです。
ハル・ブレインの場合も、おそらく同じようなノートをとっていたのだろうと推測できます。アール・パーマーがインタヴューで、俺もハルみたいにくわしいノートをとっておけばよかった、といっていたので、そういうものが存在するのは間違いありません。
厳密にいえば、彼らの備忘録には、録音時点のデータが記録されているだけで、その後、それがどうなったかは記録されていないはずです。したがって、リリースされなかったものもあるでしょう。
混乱をもたらす要素は、ほかにもあります。映画の主題歌を録音した場合、それが映画用のものか、盤リリース用のものかなどといったことは、ハル・ブレインは区別していないと思われます。
たとえば、Hal Blaine and the Wrecking Crewのディスコグラフィーには、バーブラ・ストライザンドのThe Way We Wereがあげられていますが、キャロル・ケイさんは、シングル・リリース用の録音では、彼女がベース、ドラムはポール・ハンフリーだった、ハルは映画用のトラックでプレイしたのだろう、とおっしゃっていました。大いにありうる話です。
バーブラ・ストライザンド The Way We Were
たしかに、いかにもハル・ブレインというサウンドでもないし、彼のシグネチャー・プレイも出てきません。この曲に関しては、わたしはキャロル・ケイさんの証言を信用します。
もっとプリミティヴな要因もあります。ハル・ブレインはしばしばパーカッションもプレイしましたが、ディスコグラフィーでは、トラップ・ドラムなのか、パーカッションなのかという区別はしていないのです。
たとえば、これはハル自身がラジオ出演したときにいっていましたが、ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスのThe Lonely Bullでは、アール・パーマーがトラップに坐り、ハルはティンパニーをプレイしました。
ハーブ・アルパート&ザ・TJB The Lonely Bull
◆ ローカル・ジェントルマン、いや、ジェントリー ◆◆
ほかにも、間違いが入り込む要因はありますが、長くなったので、能書きはこれくらいにし、そろそろじっさいのトラックを聴こうと思います。
いや、ひとついい忘れたことがありました。グレン・キャンベルとのデュエット盤の最近のエディションには、クレジットが書かれていて、ドラムズはハル・ブレインとされているようです。
わたしがもっていた昔の米盤LPには、パーソネルは書かれていなかったと思います。CDリイシューで明らかにされたのではないでしょうか、このアルバムについては後述します。
ボビーのデビュー盤、Ode to Billie Joeは、アルバム全体がドラムレスだったと思います。キャロル・ケイさんが、ばったりレッド・ミッチェルに会ったときに、ミッチェル本人が、Ode to Billie Joeのベースは俺がプレイした、といっていたそうです。彼女は自分はlater albumsでプレイしたと書いていました。
セカンドのDelta Sweeteは、セールスは悪かったものの、楽曲とサウンドはデビュー盤をはるかに上まわるもので、わたしはボビーの代表作と考えています、どの曲だったか、記憶が薄れてしまいましたが、このアルバムのいずれかのトラック(たぶん、Okolona River Bottom Band)が、アール・パーマーのディスコグラフィーにリストアップされていました。
ここらでハルの匂いがチラチラしはじめるのですが、いまだに確信のもてるものはありません。可能性はある、というだけにとどめておきます。
サード・アルバムLocal Gentryは、セカンドほどオリジナル曲に冴えがありませんが、そのぶん、サウンドのほうは大変なことになっています。ミドル・ティーンだったわたしは、ロックバンドなんか目じゃないギターやベースのうまさにギョッとしました。
そして、ここではじめて、これはハルにちがいない、というトラックが登場します。
ボビー・ジェントリー Casket Vignette
Add More Musicのボビー・ジェントリー特集で、キムラさんがつとに指摘されていますが、この曲(にかぎらないが)は歌詞も面白いので、そういうことに関心がある方は歌詞サイトなどを検索してみてください。ボビーのストーリー・テラーとしての側面がよく出た曲です。
こちらはそれほど確信があるわけではありませんが、ハル・ブレインであると措定して矛盾は感じません。シグネチャー・プレイやスーパー・プレイがないだけです。
ボビー・ジェントリー Come Away Melinda
だれでしょうね、このベースは。やっぱりCKさんでしょうか。子どものとき、なんなのこのベースは、とひっくり返りました。ギターも、派手なことはやっていませんが、きれいなアルペジオで惚れ惚れします。
もう一曲はクリップがないので、サンプルを。
サンプル Bobbie Gentry "Peaceful"
これも、ハル・ブレインと確信がもてるわけではないのですが、たぶん大丈夫でしょう。これまたベースとギターにうなります。
このアルバムは、ロンドン録音ということになっていますが、レスリー・ゴアのハリウッド録音がNYのベル・サウンドでの録音とされているように、ヴォーカル・オーヴァーダブをした場所をレコーディング・ロケーションとしただけでしょう。ボビーのツアーの都合で、ハリウッドでつくったトラックをもって、プロデューサーがロンドンに行き、ヴォーカル・ダビングをしたと推測しています。
サウンドはハリウッドの匂いが濃厚で、ロンドン録音とは思えませんし、アレンジャーも、クレジットされているのは、ショーティー・ロジャーズとペリー・ボトキンというハリウッドの二人、プロデューサーもいつものケリー・ゴードンです。
◆ グレン・キャンベルとのデュエット ◆◆
さて、前述した、ハルが自己申告するまでもなく、最近は盤にパーソネルが書かれているらしい、グレン・キャンベルとのデュエット盤について少々。ちょうどグレン・キャンベルが昇竜の勢いになったときにリリースされたおかげで、大ヒットしたアルバムです。
まず、ハル・ブレインは活躍しないものの、シングル・カットされて、ヒットした曲から。
ボビー・ジェントリー&グレン・キャンベル All I Have To Do Is Dream
エヴァリーズといえばAll I Have To Do Is Dreamというぐらいの代表作ですが、こちらのヴァージョンのアレンジもなかなかけっこうです。この盤は、基本的にはグレン・キャンベルのスタッフでつくられているので、アレンジャーはアル・ディローリーです。
しかし、ハル・ブレインのプレイとして面白いのは、このアルバムのアウトテイクというか、デモないしはリハーサルと思われるトラックです。いい忘れていましたが、こうしたトラックは、前述のAMMのAn Ode to Bobbieなるボビー・ジェントリー特集ページで聴くことができます。
この特集を組んだときに、Wall of Houndの大嶽さんのご協力で、ボーナスとして数曲を加えることができました。そのうちの一曲。
サンプル Bobbie Gentry with Glen Campbell "Peaceful" (demo)
AMMのキムラセンセも、このハル・ブレインはすごいとお書きになっていますが、わたしも感動しました。ハルのドラムとグレンのギターだけ、ベースなしですからね。うまい人が二人いれば、こんなゴージャスな音ができてしまうのだから、感服しました。
もうひとつ、盤として仕上げたものではなく、ハルのプレイがちょっとラフで、その分だけいっそう、「そこにいる」臨場感があり、裸のハル・ブレインのサウンドを聴いているような気分になるのも、このトラックのすばらしさです。ガチガチに譜面を固める以前のハルは、いつもこういう豪快なドラミングをしていたのかもしれません。
おっと。ジュリー・ロンドンのトラックにふれる余裕がなくなってしまいました。いまから冒頭に戻って、ジュリー・ロンドンに関する部分を書き直していると時間がかかってしまうので、このままでアップすることにします。
次回、たぶん、ジュリー・ロンドンを書けると思いますが、ネグッてしまうかもしれません。
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ボビー・ジェントリー(2オン1)
Delta Sweete: Local Gentry
ボビー・ジェントリー
Best of Bobbie Gentry: The Capitol Years
ボビー・ジェントリー&グレン・キャンベル(MP3ダウンロード)
Bobbie Gentry And Glen Campbell