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増補ハル・ブレイン・ディスコグラフィー読解 その6 The Defranco FamilyとThe Partridge Family
 
アール・パーマーやジム・ゴードンのベスト・トラックを選んだり、ゲーリー・チェスターのディスコグラフィー検討をなどということをしたのに、なぜいままで、もっとも重要なハル・ブレインの特集をしなかったかといえば、疲れるからです。

CMやジングルや映画音楽まで含めると、4万曲ともいわれるハル・ブレインのキャリアから上澄みを選ぶのは、それなりに面白い作業で、昔、カセットをつくったことがありますが、自分で楽しむならいざ知らず、それを公開するとなると、あれこれ手続きが必要で、考えるだけでげんなりしてしまいます。

◆ デフランコ・ファミリー ◆◆
重要なアーティストだとひどく手間がかかるので、今回はごく軽いものを選びました。

デフランコ・ファミリー・フィーチャリング・トニー・デフランコ Heartbeat It's a Love Beat


変な絵柄ですが、ほかのものはすべて音が悪いため、これを選ぶハメになりました。あなたがかつてトニー・デフランコにキャーといった覚えのある元少女なら、関連動画でテレビ出演時のクリップをご覧になるといいでしょう。

デフランコ・ファミリーは、ベスト盤を買って一曲目を聴いた瞬間、ハルじゃん、と思ったのですが、回想記に付されたビルボード・トップ10ヒッツ・ディスコグラフィーにはHeartbeat, It's a Love Beatはリストアップされていませんでした。

こんなにわかりやすい曲を間違えるとは思えなかったので、ハルのほうがリストアップし忘れたものとみなし、かつてオオノさんのサイトで公開していた、わたしが増補したディスコグラフィーには、脚注として入れておきました。

デフランコ・ファミリーは、カナダ出身の家族コーラス・グループで、ごく短いあいだでしたが(子どもだからいいのであって、大人になってしまうと面白くない)、数曲をヒットさせています。

◆ パートリッジ・ファミリー ◆◆
デフランコ・ファミリーのロール・モデルになったのは、たぶんこのグループでしょう。

パートリッジ・ファミリー I Think I Love You


どなたもすでに先読みしていらっしゃるでしょうが、パートリッジ・ファミリーのドラマーもやはりハル・ブレインでした。パートリッジ・ファミリーはくだらないかもしれませんが、ハルはいいバックビートを叩いていて、おおいに楽しめる曲です。

いま、「カリフォルニア」といったとき、われわれが、燦燦たる陽光、青い空、ビキニ・ガールにサーファー・ボーイ、フリーウェイに車、といったものを想起するのは、ブライアン・ウィルソンのせいだ、ということをデイヴィッド・リーフが書いていました。

それはそうかもしれないなあ、と思ういっぽうで、ひょっとしたら、ハル・ブレインがいなければ、ブライアン・ウィルソンの力をもってしても、独力で「カリフォルニアを発明する」ことはできなかったのではないかとも思います。

ハル・ブレインよりうまいドラマーはいるでしょうが、彼ほど底抜けに明るいグルーヴをもったドラマーはいません。63年から68年にかけて、ハル・ブレインがプレイした曲がビルボード・チャートを埋め尽くしたのは、たぶん、うまさのせいというより、ビートの明るさの賜物だったのではないか、と考えています。

パートリッジ・ファミリーやデフランコ・ファミリーのような、親が安心できるアイドル・グループの、明朗なるグルーヴをつくるのは、ハル・ブレインの天職だったといっていいでしょう。

◆ さらにファミリー・グループ ◆◆
ハル・ブレインは関係なくなりますが、逆尻取りというか「頭取り」をつづけます。パートリッジ・ファミリーはドラマのなかの架空の家族でしたが、ドラマのなかの架空のバンド、モンキーズが、実在のバンド、ビートルズをモデルにしたように、架空のパートリッジのモデルとなったのは、この実在の家族コーラス・グループだったのでしょう。

カウシルズ The Rain, the Park and Other Things


このクリップを見ると「ビートポップス」を思い出します。あのころはプロモーション・フィルムというのは少なかったので、強く印象に残りました。

これはハル・ブレインではないのですが、軽いヒットのスネアのサウンドも気持よく、じつに好ましいドラミングです。もちろん、子どもにこんなドラミングができるはずもなく、べつのアルバムでは、たしか、ハリウッドのプレイヤーの関与を裏付けるデータが出てきたはずですが、ハルはかすっていないようです。うーん、とすると、他の町のプレイヤーか、それともなければジム・ゴードンでしょうか?

ファミリー・コーラス・グループということでは、もうひとつ、大物がありますが、どうしますかね。まあ、ここまでやったのだから、あと一曲だけ。

ジャクソン5 ABC


これはハリウッド録音で、ドラムはエド・グリーンといわれていますが、べつのパーソネルを見たこともあります。ヒットしているときは、やはりドラミングに耳を引っ張られました。

しかし、ジャクソン5はファミリー・コーラス・グループの系譜に置くべきなのか否か、ちょっと微妙なところだなあ、と思いました。形式上は当てはまるのですが、サウンドの色合いはかけ離れていますから。

◆ 三歩前に出て師の影を踏もう ◆◆
いまでもよくあるのですが、「ハル探し」に夢中になっていたころ、しばしばジム・ゴードンのプレイをハルと取り違えました。

師匠と弟子などという関係ではないのですが、ジミーがハリウッド音楽界に居場所をつくれたのは、ハル・ブレインの推薦のおかげだといわれています。そして、「筋目」をいうなら、アール・パーマー→ハル・ブレイン→ジム・ゴードンおよびジム・ケルトナーという順序でハリウッド・ドラマー・キングの王冠が継承されました。

ジム・ケルトナーがいっていましたが、あの時代、というのは60年代なかば、彼がハリウッドのスタジオで仕事をはじめたころのことでしょうが、ハル・ブレインのようなサウンドをつくれれば、あまった仕事がまわってきたので、必死にハルのチューニングをコピーしたのだそうです。

そういうわりには、ジム・ケルトナーのサウンドはそれほどハルに似ていません。しかし、ジム・ゴードンは、ハルが行けないセッションに、ハルの代理として送り込まれることでハリウッド音楽界に地歩を築いたので、じつによく似たサウンドをつくっていました。

ハルのセットはラディック、ジム・ゴードンはキャムコで、ぜんぜんメーカーが違うのに、スネアなんかハルそっくりですし、タムタムだってどっちだろうと考え込むこともしばしばです。サウンドが似ているだけならともかく、タイムもかなり近いので、ハルかジムか、で七転八倒したことは数知れません。

デフランコ・ファミリーはハルにちがいない、と卦を立てて、幸い、今回のディスコグラフィー補足でコンファームされたからいいようなものの、大間違いのコンコンチキだったことがわかった曲もあります。

いまだに納得がいかず、ハルじゃないのかなあ、と未練がましくいっているのはこの曲。

ゲーリー・パケット&ザ・ユニオン・ギャップ Woman Woman


しかし、これはどうやらジム・ゴードンだったようで、ハルのトップ・テン・ヒッツには登場せず、今回の増補でも出てきませんでした。ハルが叩いたユニオン・ギャップのヒット曲はこちらのほうです。

ゲーリー・パケット&ザ・ユニオン・ギャップ Young Girl


そりゃそうだろう、これがハルじゃなければ、天地がひっくり返るぜ、というプレイです。それにしても、Woman Womanのジミーのプレイは、完璧な贋作ハル・ブレインで、あそこまで似せるのは凡夫のよくなすところではなく、やはり名人の境地というべきでしょう。

いまだにどちらなのかわからない曲というのもあります。

アルバート・ハモンド It Never Rains in Southern California


この曲のドラムは悩みました。これはハル・ブレインのトップ・テン・ヒッツにリストアップされているのですが、ジム・ゴードンのプレイであるというデータもあるようなのです。

いつまでもぐずぐずしているのも癪なので、結論を出します。ジミーのプレイでしょう。1)フロアタムがいつものハルより低く重い、2)間奏でライドベルを使っている(ジミーがしばしばやった)、という二点でそう思います。ハルほどの軽みがなく、やや重厚です。

この曲のフロアタムのサウンドがリファレンスになるでしょう。

カーリー・サイモン You're So Vain (featuring Jim Gordon on drums)


最初にスタジオ・ドラマーの凄みを教えてくれたのはジミーなので、この曲がヒットしたころは彼のプレイを探しまわっていました。カーリー・サイモンには取り立てて興味はないのですが、ジム・ゴードンはやはり只者ではない、とおおいなる感銘を受けた曲です。

こういうことがあるので、ハル・ブレインには今後もデータをアップしつづけて欲しいと思いますし、ジム・ゴードンには早く出所してもらって、オフィシャル・サイトをつくり、栄光の時代を回顧してもらいたいと願っています。ジミーが自伝を書いたら売れるでしょうねえ。The Killing Beatとかいって!


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It's a Heartbeat, LovebeatおよびIt Never Rains in Southern Californiaを収録
Vol. 10-Have a Nice Day!
Vol. 10-Have a Nice Day!


パートリッジ・ファミリー
Come on Get Happy: Very Best of Partridge Family
Come on Get Happy: Very Best of Partridge Family


ゲーリー・パケット&ザ・ユニオン・ギャップ
A Golden Classics Edition
A Golden Classics Edition


アルバート・ハモンド
Greatest Hits
Greatest Hits


カーリー・サイモン
No Secrets
No Secrets


カウシルズ
Best of the Cowsills
Best of the Cowsills


ジャクソン5
Ultimate Collection
Ultimate Collection
by songsf4s | 2011-07-20 23:55 | ドラマー特集