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増補ハル・ブレイン・ディスコグラフィー読解 その4 The Righteous BrothersおよびThe Fleetwoods
 
前回のニーノ・テンポ&エイプリル・スティーヴンズ篇で、ライチャウス・ブラザーズ・スタイルのAll Strung Outから入ったのは、最後はライチャウスにつなげる予定だったからです。

例によって、あちこちで道草を食い、時間を浪費したために、前回は予定した展開にはならず、ニーノ&エイプリルの話題だけで終わってしまいました。

前回書いたように、ハル・ブレインがYou've Lost That Lovin' Feelin'やJust Once in My Lifeといったライチャウス・ブラザーズのヒット曲でプレイしなかったのは、フィル・スペクターがハルに腹を立てたからです。

You've Lost That Lovin' Feelin'でのアール・パーマーのプレイは卓越しています。それを否定するものではありませんが、では、ハル・ブレインにああいうスタイルのプレイができなかったか、といえば、そんなこともありません。むしろ、あれはハルがもっとも得意とした方面で、彼がやっていたら、アール・パーマーとはまた異なった味の凄絶なドラミングをしただろうと空想します。

ライチャウス・ブラザーズ You've Lost That Lovin' Feelin' (with Earl Palmer on drums)


マックス・ワインバーグのインタヴューで、エンディングにかけてのプレイはインプロヴなのか、と聞かれて、アール・パーマーは、もちろん、そうだ、と答えています。また、スペクターが重いバックビートが欲しいというので、タムタムとスネアをユニゾンで叩いたとも語っていました。

もっとも興味深いのは、ファースト・コーラスの最後、Woh, oh wohのあとで、ギター、ベース、ピアノなどがユニゾンないしはオクターヴで降下ラインを弾くところで、スペクターは、タイムは変化させずに、スロウ・ダウンした感覚をつくれ、と注文し、なかなか満足せず、テイクを積み重ねることになった、と語っている点です。

改めて聴きなおすと、じっさいにはタイムを変化させています。カウントすればはっきりしますが、ものすごく大きな遅れをつくっているのです。ただし、トータルでこの2小節をとらえるなら、遅れが目立たないように、最後のところ、セカンド・ヴァース冒頭に戻る直前で辻褄合わせをしています。スペクターの無理な注文に、プレイヤーたちが相談しながら、強引な弥縫策をつくっていったありさまが目に浮かびます! アール・パーマーの記憶に残るほど、めんどうな録音だったのでしょう。

さて、ハル・ブレインならこの曲をどうプレイしたでしょうか? わたしはこの曲を聴くたびに、アールだけでなく、ハルがプレイしたのも聴きたかったと、ないものねだりの空想をします。そのひとつの回答が、前回ご紹介したニーノ・テンポとエイプリル・スティーヴンズのAll Strung Outだったのです。



わたしはこの曲のドラム・チェアに坐ったのはハルだと考えています。こんどのディスコグラフィー補足でこれがリストアップされることを期待したのですが、前回書いたように、残念ながら、ニーノ&エイプリルについてはべつのトラックがあげられました。

ところが、それを補うかのように、ひょっとしたら、と考えていた、ライチャウス・ブラザーズのトラックがリストアップされました。でも、タイトルを見ても、そんな曲あったっけ、というようなものなのです。クリップがあったことに驚いたほどです。

ライチャウス・ブラザーズ Country Boy


うーむ、なんと申しましょうか、地味、の一言ですな。つぎの曲のほうがまだしもハル・ブレインらしさがちらちら見えます。

ライチャウス・ブラザーズ All the Way


というように、エンディングにかけて、いかにもビッグバンド出身のドラマーらしい盛り上げをやっています。

しかし、二曲とも記憶になくて、検索してもっていることを知ったほどです。よく聴いたのは、フィレーズからの3枚のアルバムで、ヴァーヴのアルバムというのはあまり聴いたことがなく、ハルのプレイした上記二曲はヴァーヴ時代の録音です。

当然です。フィル・スペクターの勘気に触れたのだから、フィレーズの録音では、たとえビル・メドリー・プロデュースのアルバム・トラックであっても、ハルは呼ばれなかったにちがいありません。

なんだか、今回も羊頭狗肉でした。ハルもライチャウスのトラックでプレイしたことがあったのではないか、と想像したのは、当然ながら、Lovin' Feelin'のようなタイプのプレイをハルがやったらどうなるかという興味の故でした。それが、じっさいに出てきてみたら、White Cliffs of Doverのようなタイプの、ドラマーにはあまり腕の見せどころのないトラックだったのだから、がっかりです。

◆ 恋の使用前使用後(誤訳哉) ◆◆
これだけではあんまりのような気がするので、もうすこしハル・ブレインらしい曲をオマケとして追加します。今回の増補ではじめてハル・ブレインのリストに登場したアーティストです。

フリートウッズ Before and After


いかにもハル・ブレインらしい、ノーマルではないフレーズが多用されていて、例によってニヤニヤするだけではなく、声を出して笑いそうになるフレーズもあります。Before and afterとlosing youの合間に、これでもか、これでもかと、だめ押しのタムタムを繰り出すあたりは、ワッハッハです。

Yes, whispering and saying when they doのあたりでは、めったに使わないライド・ベル(ライド・シンバルの中心のベル状に盛り上がった部分を叩く)をやっていて、これがまた、やっぱりハルというあざやかさで、惚れ惚れします。後半はタムタムに切り替える演出も「小さな工夫、大きな親切のハル」らしいこまやかさです。

こういうウィットとガッツがハル・ブレインらしさの源泉です。ふつうの人なら途中で引き返してしまうところでも、一歩も二歩も踏み込んでいくガッツによって、この人が不世出のドラマーになったことに、改めて思いを致します。

失敗フレーズもたくさんありますが、失敗の屍の上に成功フレーズが築かれるのだから、失敗を恐れる人間はけっしてイノヴェイティヴにはなれません。失敗フレーズの山は、ハル・ブレインが60年代を通じてドラミングを改革し、前進させつづけたことを証明する勲章です。

フリートウッズは、Come Softly to MeやMr. Blueの大ヒットで知られる、女性二人と男性ひとりのコーラス・グループで、ボニー・ギターがつくったシアトルのレーベル、ドールトン傘下のアーティストです。

ドールトンはヴェンチャーズのレーベルでもあるので、そういう意味でも、フリートウッズがどこで録音していたかには、かつて強い関心がありました。アール・パーマーの伝記に彼らの曲がリストアップされ、やはりハリウッド録音だったことがはっきりしたので、その点はもうそれほど意味がなく、今回のハルのディスコグラフィーへの登場は、だめ押しにすぎません。

ヴァン・マコーイ作のBefre and Afterのオリジナル・ヒット・ヴァージョンは、チャド&ジェレミーによるものです。



これはNY録音と思われます。やや鈍重なグルーヴですが、音のテクスチャーとしては、ディテールも相応の厚みもあって、まずまずの出来です。NYだってやればできるじゃないか、です。チャド&ジェレミーのNY録音のドラマーはゲーリー・チェスターの可能性が高いのですが、ハルのドラミングと比較するのはなかなか興味深いものがあります。

人それぞれ見方は異なるでしょうが、わたしは、ハル・ブレインの特異性が、Before and Afterのドラミングには明瞭にあらわれていると思います。


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ライチャウス・ブラザーズ
Unchained Melody: Very Best Of The Righteous Brothers
Unchained Melody: Very Best Of The Righteous Brothers


フリートウッズ
Very Best of
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by songsf4s | 2011-07-18 23:56 | ドラマー特集