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増補ハル・ブレイン・ディスコグラフィー読解 その3 Nino Tempo & April Stevens
 
海辺だからなのでしょうが、梅雨明け以来、朝晩はつねに風が強く、昨年の夏よりはずっとマシな毎日を過ごしています。

カメラが壊れて、散歩ブログのほうは更新できなくなりましたが、昨日も横浜をぶらぶらしてきました。本来はダレた人間なのですが、歩くことにかけてはスパルタなので、暑い盛りには、自分でブレーキをかけないと、死のロードになりそうです。

昨日の午後はしばらく野毛山動物園で過ごしました。ハヤブサとコンドルの檻の前に坐って、かき氷を食べていたら、救急車のサイレンが聞こえて、どうしたのだろうと思ったら、下のほうから園の人が若い女性を背負ってあらわれました。たしかめたわけではありませんが、熱中症にかかった可能性が高いでしょう。三時ごろで、いかにもそういう時間帯でした。

熱中症は、二、三の注意を怠らなければ防ぐことができるいっぽう、罹ってしまうと最悪の場合は死亡、そこまでいかなくても、ひどい後遺症に悩まされることもしばしばです。自戒を込めて申し上げますが、水分、塩分をきちんととり、体を動かすときは、頻繁に休憩するように、くれぐれもお気をつけください。よそごとと油断していると、あっさり命を取られます。

◆ 当てごととなんとかは向こうから外れる ◆◆
これは今回の増補ハル・ブレイン・ディスコグラフィーにリストアップされたものではないのですが、まずは一曲、お聴きあれ。ニーノ・テンポ&エイプリル・スティーヴンズ、All Strung Out。



この曲をフィーチャーした同題のアルバムの最初のCD化はブートでした。ライナーなし、一枚もの裏白のジャケ写表のみ、そのくせ3000円もしたので、いまだに恨み骨髄です。その後、サンデイズドから正規のリイシューがあって、それも買ったのだから、二重に腹が立ちました。

サウンドとしては、どこからどう見ても、フィル・スペクター風というか、ライチャウス・ブラザーズ風というか、音の手ざわりも、アレンジも、このままライチャウスのヴォーカルを載せても大丈夫です。

ライチャウスのコピーをやってみた、という見方もあるかもしれませんが、ひょっとしたら、ニーノ・テンポはライチャウスのためにこの曲を書いたのだけれど、彼らがターン・ダウンしたので、自分たちで歌った、なんて可能性もなきにしもあらずです。

ニーノは、一時期、フィル・スペクターのアシスタントのような立場にあったので、スペクターの音のつくり方はよく知っていたはずです。

話は脇に入り込みますが、スペクターのもとで働いた連中は、遅かれ早かれ、スペクター・サウンドの模作を試みます。たとえばソニー・ボノは、スペクターにさんざん馬鹿にされたそうですが、やがてみごとに敵をとります。

ソニー&シェール


ドラムはハル・ブレイン、キャロル・ケイさんにうかがったところでは、彼女はこの曲ではアコースティック・ギターをプレイしたそうです。ソニー・ボノは彼女のアンプを通さないエピフォン・ジャズ・ギターの音が大好きで、かならずといっていいほど、彼女にアコースティック・コードを弾かせたのだそうです。

べつのアシスタントたちも、スペクターの手法をうまく応用してビルボード・チャート・ヒットを得ます。セントラル・パークから見ればパサディーナは無限の彼方、ザ・トレイドウィンズ、ニューヨークはつまらない町だぜ。



アンダースとポンシーアにこのシングルを聴かされたスペクターは、無言だったそうです。よほど腹が立ったのでしょうな。

アシスタントだったわけではなく、スペクターのアーティストでありながら、スペクターと対立したライチャウス・ブラザーズは、ヴァーヴ・レコードに払い下げとなり、ビル・メドリーは、名匠フィル・スペクターが鍛えた斬れすぎる妖刀を奪いとり、スペクターその人を真っ向唐竹割にして、ふくれにふくれた鬱憤をはらします。

1966年、ライチャウス独立後の最初のシングルにして、ビルボード・チャート・トッパー、You're My Soul and Inspiration



スペクターのスタジオで、スペクターのスタッフを使って、スペクターのアーティストが歌ったんだから、そりゃ似るでしょうよ。予備知識なし、ブラインドでこれを聴かされて、この曲はスペクターのプロデュースにしてはコクがない、別人の仕事であろう、なんてわかっちゃう人は、フィル・スペクターご本尊以外にはいないんじゃないでしょうかね。あの時代に、これがスペクターの新しいシングル、といわれたら、100万人中99万9999人は、そのまま信じるでしょう。

いやはや、イノヴェーションは遠からず陳腐化して、価値を失うという原則を地で行くようです。ハル・ブレインのBe My Babyリックなんて、いったい何万回コピーされたことか。

話をニーノ&エイプリルのAll Strung Outに戻します。ハル・ブレインはライチャウスのフィレーズ移籍後最初の録音に呼ばれたとき、先約をかかえていました。そんなものはキャンセルしてしまえ、というスペクターにさからって、ハルは先約を優先しました。プロとして当然のことです。

しかし、エゴが肥大化したフィル・スペクターは、ハルが自分を特別扱いしなかったことに腹を立て、以後、彼をセッションに呼ばなくなります。ハル・ブレインがスペクターと再び組むのは、十年後のジョン・レノンのRock'n'Rollセッションでのことになります。すでに時代は変わって、このときはジム・ケルトナーがスペクターのレギュラー・ドラマー、ハルはケルトナーの相方をつとめることになります。

いや、話をもう一度元に戻します。新しいハル・ブレインのディスコグラフィーを見ながら、ニーノ・テンポとエリプリル・スティーヴンズのトラックが出てくるのではないかなあ、と思ったのですが、そのとき頭にあったのは、もちろん、先述のAll Strung Outです。しかし、じっさいにリストアップされたのは、予想していなかった曲でした。

サンプル Nino Tempo & April Stevens "Begin the Beguine"

Begin the Beguineはむろん、コール・ポーターの代表作で、よく知られたスタンダードです。最初の録音のときだったか、余ったスタジオ・タイムで、予定になかったDeep Purpleをその場のヘッド・アレンジで録音し、それがビルボード・チャート・トッパーになっために、ニーノとエイプリルの姉弟デュオは、しばらくスタンダード曲ナックルボール・アレンジ路線をつづけます。

ニーノ・テンポ&エイプリル・スティーヴンズ Deep Purple


ニーノ・テンポ&エイプリル・スティーヴンズ Wispering


ほかに、Tea for Two、Stardustなどもやっていますが、Begin the Beguineはこの路線に連なるものです。そして、ナックルボール化スタンダード曲の第一弾であるDeep Purpleのドラマーはアール・パーマーでした。

先入観を忘れろ、白紙の心で聴け、と旗印を掲げてはいるんですがねえ。それでも、こういう推測というのは、データベースを組み上げ、そのデータにもとづいて確度を高めていくわけで、まったくのゼロで聴くことは、やはり無理なのです。

かくして、ニーノ&エイプリルの初期はアール・パーマー、ハルが登場するのはだいぶあと、という自分で作り出した先入観に足を取られ、Begin the Beguineの段階ですでにハル・ブレインがストゥールに坐っていた、ということに長いあいだ気づいていなかったのでした。

あらためて聴き直したのですが、スタンダード路線でハルの気配を感じるのは、ほかにはTea for Twoぐらいで、あとのSweet and Lovely、Wispering、Stardustなどはやはりアール・パーマーではないかと感じます。いや、Sweet and Lovelyは微妙かなあ。ま、いずれ、白黒はっきりするでしょう。Whisperingは大丈夫。アールです。くどい。

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最後に、依然としてハル・ブレインの関与の裏付けがとれない、アルバムAll Strung Outから、もう一曲、オープナーをご紹介します。これを聴いても、やはりこのアルバムはハルだと思うのですが。

サンプル Nino Tempo & April Stevens "You'll Be Needing Me"

書き忘れていましたが、わたしはニーノ・テンポもエイプリル・スティーヴンズも好きです。エイプリルのソロだって悪くないと思います。しかし、とりわけ、ニーノ・テンポの声が好きで、ちょっとぐらい(いや、ときにはちょっとどころではないが)フラットしたからってなんだ、声のよさは、歌のうまさなんかより百万倍も大事だ、と思います。

ついでにいうと、Deep Purpleのときはキーの合うハーモニカがなくて、ああいうへんてこりんなサウンドができあがり、それが大ヒットの一因になりました。リーバーとストーラーが、ドリフターズのThere Goes My Babyのときに、チューニングの狂ったティンパニーを使ってしまったミスによく似ています。

いや、チューニングが合っていない方がいい、といっているわけではありません。稀に、それがフックになる場合がある、といっているだけです。やっぱりチューニングは合わせてくれないと!


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ニーノ・テンポ&エイプリル・スティーヴンズ
Hey Baby! Nino Tempo & April Stevens Anthology
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ニーノ・テンポ&エイプリル・スティーヴンズ
Deep Purple / Sing the Great Songs
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ニーノ・テンポ&エイプリル・スティーヴンズ
All Strung Out
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ソニー&シェール
The Beat Goes On: The Best of Sonny & Cher
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ライチャウス・ブラザーズ
Unchained Melody: The Very Best Of The Righteous Brothers
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by songsf4s | 2011-07-17 23:40 | ドラマー特集