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ラロ・シフリン・フィルモグラフィー2 ヘンリー・レヴィン監督『サイレンサー殺人部隊』前篇

当家のお客さん方には事新しく申し上げるほどのことではありませんが、1960年代中期、ハリウッドでつぎからつぎへとヒットを生んだ一群のスタジオ・プレイヤーたちを、後年、ハル・ブレインは「レッキング・クルー」と名づけました。

これは彼の回想記Hal Blaine & the Wrecking Crewによって広まり、まるでそのようなバンドが存在したかのように語られることになりますが、キャロル・ケイはこれを真っ向から否定しています。ハルが勝手にでっちあげた名前に過ぎず、当時からそう呼ばれていたわけではない、というのです(したがって、なんという表題だったか、時間旅行をして、ブライアン・ウィルソンに『スマイル』を完成させようという物語のなかで、ブライアンがプレイヤーたちを「レッキング・クルー」と呼ぶのは大間違いのコンコンチキ。いや、主人公はわれわれのとは異なる時間線に迷い込んだのかもしれないが)。

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キャロル・ケイのいうことが正しいのであって、ハルは「吹いた」のだろうと思いますが、なんだって名前がないと不便ですから、ビリー・ストレンジやトミー・テデスコなど、クルーの中核的プレイヤーにもこの名称は追認され、やがて、この名称をタイトルとしたドキュメンタリー映画までつくられるにおよびました。わたしは、CKさんのおっしゃることも尊重しつつ、名前はあったほうがいいという立場から、留保つきでこの名称を使っています。

(いわゆる)「レッキング・クルー」という名前を、ハル・ブレインはどこから思いついたのでしょうか。回想記のなかでは、われわれより前の世代のプレイヤーはスーツにネクタイという姿でスタジオにやってきた、だが、われわれはジーンズとTシャツだった、彼らはわれわれのことを、スタジオ文化を「破壊する」(wreck)輩だといった、と説明しています。

つまり、旧弊なサウンド・パラダイムを破壊し、新しい音をつくる集団、というのがハル・ブレインの命名意図だったようです。

しかし、いっぽうで、映画から思いついたのだろう、という外野の声もあります。

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日本では「サイレンサー」シリーズなどと呼ばれていましたが、アメリカでは主人公の名前をとって「マット・ヘルム」と呼ばれた、ドナルド・ハミルトン原作のスパイ・アクション・シリーズ第四作『サイレンサー破壊部隊』というものです。

たまたま、というか、ハルはこの映画から「レッキング・クルー」という名前を頂戴したと見る立場からは必然でしょうが、テーマをはじめ、この映画のスコアのあちこちでハルのドラミングを聴くことができます。

やれやれ、長いイントロでしたが、ということで、ラロ・シフリン・フィルモグラフィー・シリーズの2回目は、1966年のマット・ヘルム・シリーズ第二作『サイレンサー殺人部隊』です。

◆ ロッキン・スコア ◆◆
まずは、主演俳優がみずから紹介するめずらしい予告編を貼りつけます。

『サイレンサー殺人部隊』オリジナル・トレイラー


いまどきのタームでいえば「スパイ・ファイ」(Spy-Fi。スパイとSci-Fi=サイ・ファイ=サイエンス・フィクションを合成した語で、SF的要素のあるスパイものを指す)、昔はたんにスパイ映画などといっていた、諜報組織に属すエイジェントをヒーローにした、ジェイムズ・ボンド類似のアクション映画です。

ボンドは実在の組織に属していましたが、たとえば「ナポレオン・ソロ」のU.N.C.L.E.のように、この種のお話では架空の組織もしばしば登場することになっていて、ディーン・マーティン扮するマット・ヘルムは、I.C.E.すなわちIntelligence Counter Espionage(しいて訳すなら「防諜部」といったぐあいの凡庸な名称)に属しています。なんて、わざわざ書くほどのことでもないのですが。

さらにどうでもいいことですが、マット・ヘルムは今回も、前作『サイレンサー沈黙部隊』同様、世界征服を目指す秘密組織BIG O(なにを略したかは略す)が秘密兵器「ヘリオビーム」(ヘリウムを利用したレーザー光線のようなものを想起させたいのだろう)なるものでワシントンを破壊しようという陰謀に立ち向かいます。文字で読むと馬鹿馬鹿しく見えるでしょうが、映画で見るともっと馬鹿馬鹿しいのです。

でもまあ、小学校の終わりから中学にかけて、こういうスパイ・ファイにどっぷり漬かっていたので、わたしの場合は(ほかの人のことは断じて知ったことではない!)、あちこちに埋め込まれた手抜きにニヤニヤしながら、なんとなく最後まで見てしまいます。あの時代にしかないタイプの映画であり、70年代には絶滅してしまったからです。

いくつか気の利いた台詞がありますし、知っていればちょっと笑う楽屋落ちもあるので、百人のうち三人ぐらいは、これはこれで面白い、という方もいらっしゃるかもしれません。映画はその程度の出来ですが(しつこいが、わたしはこういうBムーヴィーをそこそこ好む)、あの時代の音楽がお好きな方なら、ちょっと身を乗り出すようなスコアです。

サイレンサー殺人部隊』タイトル・シークェンス


わっはっは、です。スネア、タムタム、フロアタムと流すストレート・シクスティーンスを聴いただけで、ハル・ブレインとわかる派手さです。Jazz on the Screenデータベースにはドラムはアール・パーマーだけ、先日、三河のOさんが教えてくださった強力なラロ・シフリン・ディスコグラフィーにはベースのキャロル・ケイの名前しかありませんが、この場合はまったく問題ありません。百パーセントの自信をもって、テーマをプレイしたドラマーはハル・ブレインと断言します。

いちおう、Jazz on the Screenのパーソネルをペーストしておきます。

Inc: Bud Shank, Plas Johnson, reeds; Howard Roberts, Tommy Tedesco, guitar; Carol Kaye, acoustic double bass; Earl Palmer, drums; Emil Richards, percussion.

キャロル・ケイはアコースティック・ダブル・ベースと書かれていますが、彼女はフェンダーしかプレイしないので、これは記載ミスです。ただし、スタンダップ・ベースの音がするトラックはあるので、だれかがプレイしたはずですが。

『ブリット』同様、バド・シャンクがフルートのようですが、プラズ・ジョンソンも、サックスではなく、木管(reed)と書かれています。

プラズはアルトとテナーのクレジットしか見たことがありませんが、フルートもプレイしたのかもしれません。仕事でやるかどうかはべつとして、木管プレイヤーはたいていフルートの経験もあるはずですから。でも、あまり見ないということは、たとえフルートをプレイするとしても、テナー・サックスの場合のような圧倒的技量ではなかったのでしょう。

◆ ハル・ブレイン・ストライクス ◆◆
フランス語吹き替えがちょっと珍なのですが(まあ、それをいうなら、日本語吹き替えのほうがもっとずっと珍だが)、つぎはディノがクラブでアン=マーグレットと知り合う場面。



はじめのほうで歌っているのはディノ・デジ&ビリー、すなわちディーン・マーティンの息子のバンドです。もちろん、ディノ・デジ&ビリーの盤の多くはハル・ブレインがプレイしていますし、この曲もまたどこからどう見てもハル以外にはありえないというプレイです。

ハルがStraight sixteenth against shuffle=「シャッフル・ビートに逆らう16分のパラディドル」と呼んでいるイディオムが多用されていますが、Straight sixteenth against shuffleをこういうアクセント、ニュアンスでプレイするドラマーはハル・ブレインしかいません。

この映画でもっとも好きなトラックは、残念ながらクリップが見当たらないので、サンプルをアップします。メロディーはメイン・タイトルと同じ、リード楽器をギターにしただけの変奏曲なのですが、やっぱりギターだと盛り上がり方が数段違うなあ、と思います。

サンプル Lalo Schifrin "Iron Head"

かつてのジェイムズ・ボンド・シリーズには、かならず敵側の強力な殺し屋というのが出てきましたが(ジョーズだのグレート・トーゴーだの、印象深い敵役がたくさんいた)、この曲のタイトルになっている「鉄の頭」というのも、頭に鉄板を貼りつけた(『宇宙大作戦』のミスター・スポックの髪型に似ている!)ゴリラ野郎のことです。

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この鉄板の由来がどこかで説明されるのかと思ったのですが(たとえば、ロボトミーをしたあとで鉄板をかぶせたといった、いかにもSpy-Fi的な趣向だとか)、ついに説明されませんでした。マット・ヘルムが鉄板を殴って痛がるシーンがありますが、それぐらいの用途しかないようです!

で、ディノと鉄頭が格闘する場面で、この典型的なスパイ・アクション・ギター・インストが流れます。典型的過ぎて、半歩パロディーに踏み込んでいるところがこのトラックの魅力ですが、そのあたりを意識していたのか、無意識だったのか、微妙なところです。

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この鉄頭、殴られても痛くない、などというくだらない用途しかないだけでなく、最後は電磁石に頭が貼りついてしまうという情けない事態になる。

いうまでもなく、この曲もドラムはハル・ブレインと一小節でわかります。ギターは、12弦だけでなく、6弦も重ねられているのかもしれませんが、だれでしょうねえ。クレジットがあるのはトミー・テデスコとハワード・ロバーツのみ。この二人のデュオでしょうか。

映画としては、とくにすぐれているわけではないのですが、音楽を聴くと、やはりどれも捨てがたく、まだ佳曲があるので、次回はラウンジ的なものを中心に、さらに『サイレンサー殺人部隊』をつづけます。


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by songsf4s | 2011-07-08 23:23 | 映画・TV音楽