散歩ブログを更新しました。
われわれを見張る街中の魔物たち
◆ ミスのような、そうでもないような ◆◆
ゲーリー・チェスターの拡大版ディスコグラフィーを眺めていて、自分が微妙なミスをしていたことに気づきました。
前々回の「祝 オフィシャル・ゲーリー・チェスター・ウェブサイト誕生 その5 ブリル・ビルディング周辺」という記事で、ボビー・ダーリンのDream Loverについて、わたしはつぎのように書きました。
「じっさい、これはあまりアール・パーマーの雰囲気がない、というか、ハリウッドらしくも聞こえません。アトランティック・ディスコグラフィーというサイトで見ても、録音場所、パーソネル、ともに記載がありません。(略)この曲もNY録音ではないでしょうか」
いいえ、これがまちがっていたわけではありません。NY録音であっただけでなく、ボビー・ダーリンのオリジナルでも、ゲーリー・チェスターがストゥールに坐ったことが、上記、拡大版ディスコグラフィーでわかったのです。
問題は、ゲーリー・チェスターの話をしているときに、チェスターの曲をあげておきながら、それがチェスターのプレイと気づかなかったことです。ハル・ブレインやジム・ゴードンやアール・パーマーの場合なら、こういうことはありません。まだ「チェスターが聞こえる」耳にはなっていないということです。じっと静かに歌伴をやりつづけたのだから、じつにやっかいな相手です。
◆ シレルズ ◆◆
今回は、チェスターの主たるフィールドのひとつだったガール・グループです。といっても、たとえば、「祝 オフィシャル・ゲーリー・チェスター・ウェブサイト誕生 その2」での、エンジェルズの"My Boyfriend's Back"のように、すでに典型的なガール・グループの曲を取り上げていますが、こういうのは便宜的な枠組であり、曲を並べやすくする方便なので、細かいことは抜き、ということでよろしくお願いします。
「ガール・グループ」というのは歴としたテクニカル・タームであり、女の子のグループならなんでもいいというものではなく、特定の時期のアメリカン・ポップ・ミュージックのカテゴリーにつけられた名称です。ブリティッシュ・ガール・グループというものですら、ちょっとちがうだろう、と思います。
がちがちにgenuineでauthenticな、狭さも狭し、狭義の「ガール・グループ・サウンド」がどの曲で誕生したかは、すでに疑問の余地なく定まっています。
シレルズ Will You Love Me Tomorrow
シレルズにとっても、セプター・レコードにとっても、そしてなによりも、ジェリー・ゴーフィンとキャロル・キングというチームにとっても、この曲は最初のビルボード・チャート・トッパーでした。このWill You Love Me Tomorrowによって「ガール・グループの時代」がはじまったわけで、これほど多重的な転回点になった曲は、そうたくさんはないでしょう。
ガール・グループという言葉を狭くとらえるべきだと考えるのは、1960年にこうしたヒット曲が生まれ、以後、シレルズに似たタイプのシンギング・グループが多数輩出した背景には、アメリカ社会の変化があったと考えるからですが、そういう面倒な話は、もちろん、ここでは脇におきます。
なお、勘違いしている人が世界中に山ほどいて、このクリップ自体もみごとに間違えていますし、盤ですらまちがっていることがありますが、この曲のタイトルはWill You Love Me Tomorrowです。歌詞ではStiiを入れていますが、タイトルにはありません。もっとも頻繁にタイトルを間違えられている曲は、きっとこのWill You Love Me Tomorrowでしょう。
ゲーリー・チェスターがドラム・ストゥールに坐ったシレルズの曲をもうひとつ。プレイが地味なだけでなく、アルバム・トラックにすぎませんが、ちょっとチャーミングなのです。ヴァン・マコーイとシレルズのプロデューサーであるルーサー・ディクソンの共作。
シレルズ What's The Matter Baby?
例によってメトロノームのようなプレイですが、うまい人がやればしっくりと来るグルーヴになり、すんなりと聴けるという典型です。
◆ ジョーニー・サマーズ ◆◆
つぎはジョーニー・サマーズです(Joanieなので、「ジョーン」の愛称であり、しばしば盤に書かれている「ジョニー」の表記は見当違いもはなはだしい。シュープリームスだってちゃんとスプリームズと正されたのだし、フライング・バリット・ブラザーズもフライング・ブリトー・ブラザーズになったのだから、Joanie Sommersもそろそろ改めてしかるべき。大昔のレコード配給会社の無知な社員の勘違いをいつまでも放置するべきではない。「ソマーズ」もまったく賛成できない)。
キャリアの長いシンガーで、非ポップ系のアルバムもたくさんある人ですが、ビルボード・チャートの節穴を通して世界を眺めているわたしのような人間にとっては、ジョーニー・サマーズといえば、この曲しかありません。ハル・デイヴィッドとシャーマン・エドワーズ作。
ジョーニー・サマーズ Johnny Get Angry
もう数テイクとれば、チェスターのブラシとアコースティックのストロークが融合して、もっと気持のいいグルーヴになったでしょうが、ヒットを妨げはしなかったのだから、このテイクでもOKだったのだ、といえることになります。いや、もっときっちりつくっておけば、もういくつか上の順位にもっていけただろうとは思いますが。
◆ シャングリラーズ ◆◆
もう一曲、これまたガール・グループの時代を代表するシャングリラーズ。シレルズがルーサー・ディクソン抜きでは考えられないように、シャングリラーズもジョージ・“シャドウ”・モートン抜きでは考えられませんでした。そのシャドウ・モートン作の曲。
シャングリラーズ Remember (Walking in the Sand)
このクリップには出てきませんが、まるで『避暑地の出来事』の一シーンかと思うような、メロドラマティックなプロモーション・フィルム(あの時代はヴィデオではなく、16ミリだった。アレン・ダヴィオウのように、プロモーション・フィルムでトレーニングを積んだ撮影監督もいる)もありました。
シャドウ・モートンという人の体質なのでしょうが、シャングリラーズは、しばしばこういうムードの、むやみに芝居がかった、ケレンの塊のような曲を歌っています。もう一曲の大ヒット、Leader of the Packも、作者はモートンではなく、ジェフ・バリーとエリー・グリニッジですが、やはりメロドラマティックです。
ひとつだけ、Remember (Walking in the Sand)のカヴァーを貼り付けておきます。よりによってジェフ・ベックのものです。
ジェフ・ベック&イメルダ・メイ Remember (Walking in the Sand)
還暦をとうにすぎているのですが、ジェフ・ベックは死ぬまでジェフ・ベックをつづけるのでしょう。ジジイのストーンズのような不快感はなく、いや、衰えないねえ、と感心してしまいました。ちょっと気がふれかかったムードを漂わせるギター小僧、という意味で、ヤードバーズの時代から、よきにつけ、悪しきにつけ、まったく変わっていません。
◆ ジョージ・シャドウ・モートンの影 ◆◆
今日もちょっとだけ、ゲーリー・チェスターの本道から脇に入ります。音としては、「ちょっと」どころではなく、ずいぶん距離があるのですが。こんな音です。
ヴァニラ・ファッジ Ticket to Ride
十五歳のときにヴァニラ・ファッジを聴いた子どもは、これは革命的サウンドだとひっくり返りました。しかし、「革命」と「革命的」のあいだには無限の距離がありますし、子どものいうことなので、おおいなる見当違いだったようです。
そもそも、根本的な勘違いがありました。子どものわたしが「革命的」と考えたのは、トータルな意味でのサウンド(そのなかには、アレンジ、構成、プレイも包含される)です。あとから落ち着いて考えると、その「サウンド」は、彼らのものではなかった可能性があります。
ヴァニラの後期からしてすでに面白くなかったのですが、その後、彼らがどうなったかと、カクタスやベック・ボガート&アピースなども聴いてみました(呆れたことに、後者は武道館まで見に行った。なにを考えていたのやら!)。それなりに面白く感じた面もありましたが、ヴァニラのデビュー盤やRenaissanceに感じたような興奮はついに戻ってきませんでした。
もちろん、時代やコンテクストの違いも大きいのですが、それよりも、「こいつらってこんなにパアだったの?」という失望を強く感じました。ヴァニラの初期には「おおいなる知的操作がおこなわれた結果としてのサウンド構築」を感じたのですが、カクタスも、BB&Aも、知性などまったくお呼びでないサウンドでした。
ここから導き出される結論は、ティム・ボガートとカーマイン・アピースにはヴィジョンはなかった。知性があったとしたら、それ以外の誰かの脳中にである、ということです。したがって、それをマーク・スティーンやヴィンス・マーテルに求めてもいいのですが、わたしはこの二人もボガートやアピースと大差はなかったのだろうと考えています。
それはシャドウ・モートンがプロデュースしたシャングリラーズのむやみにドラマティックな曲作りとサウンドメイキングを知ったがゆえにであり、シャドウ・モートンはヴァニラ・ファッジのプロデューサーでもあったのです。
知性うんぬんは子どもの勘違いとして、ひとまず脇に退けておくことにし、「ポップ・ミュージックはケレンだ!」という強い主張が感じられるという意味で、シャングリラーズとヴァニラ・ファッジは地続きです。一見、なんのつながりもないように思えるのに、ジョージ・“シャドウ”・モートンという要素を中間においてみると、二者のあいだに明白な一貫性が浮かび上がってくるのです。だとしたら、モートンこそが立役者だったと考えるほうが自然でしょう。
ヴァニラ・ファッジ Bang Bang
だから、わたしは、マーク・スティーンやヴィンス・マーテルがどういう音楽性をもっていたかは検討するまでもない、これはシャドウ・モートンのヴィジョンが生んだ音なのだと考えています。
しいていうなら、モートンのヴィジョンは、ヴァニラの四人、とりわけ、マーク・スティーンには肌に合うものだったのかもしれません。
ヴァニラ・ファッジ You Keep Me Hanging On(ライヴ)
なんだか、六方を踏み、大見得を切るようなプレイ・スタイルで、当時は知らず、ずっと後年、はじめてライヴでの動きを見たわたしは、大笑いしてしまいました。なによりもケレンが大事、ということに関しては、このアーティストとプロデューサーのあいだには完全な合意ができていたのでしょう。
Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter

シレルズ(Will You Love Me Tomorrowを収録)
Tonight's the Night/Sing to Tr

シレルズ(What's the Matter Babyを収録)
Shirelles - Foolish Little Girl/Sing Their Hits From It's A Mad Mad Mad World CD
Foolish Little Girl / Sing Their Hits From It's

ライノ・ガール・グループス・アンソロジー(Will You Love Me Tomorrow収録)
The Best Of The Girl Groups, Vol. 1

ライノ・ガール・グループス・アンソロジー(Johnny Get Angry収録)
The Best Of The Girl Groups, Vol. 2

ジョーニー・サマーズ
内気なジョニー

シャングリラーズ
Shangri-Las Remember

ヴァニラ・ファッジ
Vanilla Fudge

ヴァニラ・ファッジ(2オン1)
Vanilla Fudge / Beat Goes on
