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トラフィックのLive at Santa Monicaを聴く
 
今日は雨で出かけられず、いろいろなものを聴いて、仕込みができたのですが、そのうちのひとつ、このあいだから「積ん読」になっていたトラフィックのヴィデオ、Live at Santa Monicaについて駄言を弄してみます。

1972年のツアーなので、すでにジム・ゴードンとリック・グレッチは去っていて(残念!)、かわりにロジャー・ホーキンズ(ドラム)とデイヴ・フッド(ベース)という、アリサ・フランクリンやウィルソン・ピケットなどのバッキングで知られる、マッスルショールズのプレイヤーが参加しています。

やはり、音だけ聴くのと、動きを見るのでは、ずいぶんちがうもので、自分の迂闊さに愕然としたりもしました。ユーチューブにこのDVDのクリップがたくさんアップされているので、それをご覧いただきます。

DVDのオープナーはスロウなので、順番は無視して、速めの曲でスタートします。途中で切れてしまう失礼な編集ですが、消されないようにするためにそうしているのでしょう。

トラフィック Glad


この曲で、あら、っと思ったのは、スティーヴ・ウィンウッドが、曲の途中でドロウ・バー・セッティングをどんどん変更していることです。ドロウ・バーというのは、アナログ・シンセのパッチみたいなもので、オルガンの音色を決定します。

マシュー・フィッシャーがA Whiter Shade of Paleのドロウ・バー・セッティングを公開していましたが、逆にいうと、公開できるほど一定のセッティングを使っていたわけで、あれは微妙なものであり、またハモンド・プレイヤーの命ともいえるものです。何度もやっているから、どこはどういうセッティングで、というのは、もちろん記憶していたのでしょうが、それにしても、曲の途中でどんどん変えていってしまうのには驚きました。

つづいて、ウィンウッドではなく、ジム・カパーディーがドラムからヴォーカルに転じて、はじめてリードを取った曲です。

トラフィック Light Up or Leave Me Alone


これを見て、ありゃあ、そうだったのか、と驚きました。スティーヴ・ウィンウッドはサムピックをつけてギターを弾くということを、半世紀近くも知らずにいたのです。

イントロ・リックではふつうにピックを握って弾いているように見えますが、サムピックをつけた親指に人差し指を添えて弾いています。歌のバッキングになったときに、スリー・フィンガーで弾いているので、サムピックをはめていることがよくわかるはずです。

これで納得がいきました。このときも、イントロ・リックをつっかえるようにして弾いていますが、スタジオ録音では、もっとはっきりしたミスピックをしています。音が出なかったファウルチップのようなピッキングです。

スリーフィンガーで弾くならともかくとして、エレクトリックでふつうにロック系のプレイをするにはサムピックは適しているとは思えません。それでもサムピックを使うのは、ウィンウッドは、あの引っかかるような音の出を好んだからではないでしょうか。だから、いくらでもリテイクできるスタジオ録音で、あえて空ピッキングのあるテイクをイキにしたのだろうと考えます。

スティーヴ・ウィンウッドは神童だったので、ふつうの人の感覚で、うまいとか、かっこいいだのといったものは、ミドルティーンのときに通り抜けてしまったのではないかと思います。ピカソが子どものときに写実を通り抜けて、結局、ああいう場所までいってしまったのに似ています。

わたしは中学のときからスティーヴ・ウィンウッドのファンでしたが、彼が(わたしが、ではない!)大人になるにつれて、理解できない部分がだんだん大きく広がっていったような印象があります。

くだらないと思ったわけではありません。彼の頭のなかではなにかが起きているらしいことは感じ取れるのですが、その実体に触れることができず、隔靴掻痒の思いをしただけです。いま振り返れば、彼はたぶん、具象世界から離れて、モンドリアン・パターンのようなものを、音を使って描こうとしていたのだと思い当たります。

後期トラフィックの、ファンク・ミュージックの変種のような、単調なビートの繰返しは、抽象画家のキャンヴァスだったのだと見れば、われわれの理解の射程に入ってきます。神童は、あたりまえの具象絵画を描くのに飽きてしまったのです。

いや、抽象的議論はこれでおしまいにします。このライヴ・テイクを見て思ったことをあと少し。

この曲は1971年リリースのアルバム、The Low Spark of High Heeled Boysでデビューしましたが、このときにドラム・ストゥールに坐ったのはジム・ゴードンでした。ジミーとしてはとくにすぐれたアルバムではありませんが、こちらもまた神童、軽く流すなかにも、こいつはまた、というフィルインが散見します。

ロジャー・ホーキンズもマッスルショールズにこの人ありといわれたエース・プレイヤー、神童のなれの果てジミー・ゴードンのプレイをなぞる愚は犯さなかった、なんていいたいところですが、じつは、いくつかのフィルインをストレートにコピーしているので、驚きました。

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スタジオのデイヴ・フッドとロジャー・ホーキンズ。本文には書き忘れてしまったが、デイヴ・フッドの指の動きを見て、やっぱりたいしたものだと感じ入った。余裕のある滑らかな動きが美しい。

やはり、これは一流プレイヤーの自負心が裏返って表現されたのではないでしょうか。他人の真似をしないのもエースの証でしょうが、見事な模写をやってみせるのも、やはり一流の証明でしょう。ジミー・ゴードンがどれほどのものだ、それくらいのプレイなら、俺だってきれいにキメてみせる、といいたかったのではないでしょうかねえ。

ホーキンズは、インタヴューで、ハル・ブレインのプレイはつねに意識していた、といっています。だとしたら、ハル・ブレインの「おそるべき代理人」、出藍の誉れも高きジミー・ゴードンのプレイだって、意識していなかったはずがありません。ジミーのファンを黙らせるプレイぐらい、俺にはできるという自負が彼にはあったと想像します。

また、とくにサックスがうまかったわけでもないクリス・ウッドが、つねにウィンウッドと行をともにしたのはなぜだろうか、といぶかったことがありますが、この曲でしずかにピアノを弾いているクリスを見て、なんとなく、ウィンウッドはクリス・ウッドがそばにいることでリラックスすることができたのだろうと思えてきました。

つぎは、スティーヴ・ウィンウッド・ファンならだれでも知っている代表作。

トラフィック Dear Mr. Fantasy


これも、なんだよ、そうだったのか、迂闊だったなあ、と頭を掻きました。イントロはサムピックを使ったスリー・フィンガーですからねえ。気がつけよ、ぼんやり者、と自分に腹が立ちました。67年のスタジオ録音のときからサムピックでやっていたにちがいありません。

スティーヴ・ウィンウッドはものすごくタイムのいいプレイヤーです。スティーヴ自身がドラムをプレイした曲。

スティーヴ・ウィンウッド While You See a Chance


ドラムは複数のテイクをテープ編集したものだそうですが、たとえそうであっても、もとのプレイのタイムはごまかしようがありません。いいバックビートを叩けたから、編集も可能だったのです。

そういう人が、ギターのときだけは、なぜ遅れたりすることがあるのかと不思議に思っていましたが、サムピックを見て、疑問氷解です。おそらく、人差し指や中指も補助的に使いたかったからそういう選択になったのでしょうが、神童は常人とは違うので、ひょっとしたら、わざと弾きにくくして、その制約を楽しんでいるのではないか、などとかんぐってしまいました。

もうひとつ、偏見といわれればそのとおりでしょうが、わたしは目をつぶって陶酔した表情を浮かべ、気持よさそうにベンドをかけるあのギタリスト、ウィンウッドと同じバンドにいたこともあった例の「ギターの神様」(笑)とかいう、垢抜けない奴が大嫌いです。さすがはウィンウッド、自分のプレイでオナニーするようなみっともない様子は絶対見せないことに、おおいに感じ入りました。ああいう子どもじみた偽者とは、土台、リーグが違うのです。

本論はここまで、といったぐあいで、もう一曲、ロジャー・ホーキンズが腕のいいところを見せたトラック。いや、「脚のよさ」を見せたのですがね、厳密にいえば。

イントロからヴァースに移行する直前に、ジム・カパーディーが、キハーダをギーと鳴らしているのにご注意。馬の頭骨を使った本格的なものではなく、擬似的にキハーダの音を出すようになったものですが、オーケストラなどで使うのは、ほとんどがこのタイプでしょう(キハーダについては「黒澤明監督『椿三十郎』 その2」という記事で詳述した)。

トラフィック The Low Spark of High Heeled Boys


もはや時間切れ。えーと、5分何秒あたりだったか、スネアからはじまったフィルインの最後に、ホーキンズが片足だけで16分4打をやっているのにご注目。歌伴ではこういうことをやってはまずいわけで、ロックバンドのときにしか聴けないプレイです。

いえ、ただ16分をやったからえらいのではなく、きれいなアクセントでキメているところがすばらしいのです。一流かどうかは、こういうところでわかります。


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Live at Santa Monica [DVD] [Import]
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スティーヴ・ウィンウッド(CD)
Revolutions: Very Best of Steve Winwood
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Low Spark of High Heeled Boys
Low Spark of High Heeled Boys
by songsf4s | 2011-06-12 00:00 | スティーヴ・ウィンウッド