ピーター・イエイツの訃報を読みました。最初に見たイエイツの映画は『ブリット』だったと思いますが(そのまえに『サマー・ホリデイ』を見ているかもしれない)、いちばん好きなのは『ジョンとメリー』です。
映画『サマー・ホリデイ』
ドナルド・ウェストレイクのドートマンダー・シリーズの一作を映画化した『ホット・ロック』は、原作とはまったく異なるエンディングになっていて、初見のときは、あらら、でした。
ドートマンダー・シリーズは、完璧なプランがちょっとした齟齬から崩壊し、泥沼にはまり込んだ泥棒チームが悪戦苦闘するのを基本パターンとした爆笑のケイパー・ストーリーなのですが、それが成功しちゃうのだから、啞然としました。天才プランナー、ジョン・ドートマンダーが成功した唯一の例でしょう。この映画でドートマンダーを演じたのはロバート・レドフォードでした。
『ホット・ロック』
『ホット・ロック』について、キャロル・ケイさんは、エンド・タイトルに自分の名前が出た唯一の映画だとおっしゃっていました。たしかに、ソングライターまでは事細かにクレジットされますが、プレイヤーがクレジットされることはめったにありません。記憶があいまいですが、音楽監督のクウィンシー・ジョーンズの配慮のおかげだったと記憶しています。
『ブリット』
(こちらのフェンダーベースもやはりCKさんか? 彼女はラロ・シフリンの仕事もたくさんやっている)
◆ You've Really Got a Hold on Me ◆◆
ローラ・ニーロのR&Bカヴァーとオリジナル、今回はYou've Really Got a Hold on Meです。まずはいつものように、ローラ・ニーロのカヴァーのクリップから。
ローラ・ニーロ You've Really Got a Hold on Me
前回、アップテンポは全滅、バラッドは成功またはOKと書きましたが、このトラックはドラムがバタバタするのが癇に障りますし、ヴォーカル・アレンジおよびレンディションも曲に似つかわしくなく(こんなに元気よく歌うのは違和感がある)、このアルバムで唯一失敗したバラッドだと思います。
◆ スモーキー・ロビンソン ◆◆
You've Really Got a Hold on Meのオリジナルは、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズのヴァージョンです。クリップで。
いかにもスモーキー・ロビンソンらしいミディアム・バラッドで、地味ながら忘れがたいヴァージョンです。
この時期のミラクルズは、まだスモーキーの奥さんが家庭に入っていないので、バックグラウンドの彼女の声が目立つトラックがあり、You've Really Got a Hold on Meでも、それが小さな魅力になっています。
これはモータウンがLAで録音をはじめる以前のもので、ドラムはだれかデトロイトのプレイヤーなのでしょうが、こういうスナップを利かせたバックビートはおおいに好みです。ポップ/ロック系のドラミングではテクニックは重要ではない、キレのいいバックビートこそが命だと思います。
ポール・ハンフリーは、デトロイトにだってドラマーはいた、ベニー・ベンジャミンだけがモータウンの録音をしていたわけではない、といっているそうです。そりゃ当然でしょうね。だから、初期ならベンジャミン、と自動的に決めつけるわけにはいきませんが、これがベンジャミンのプレイなら、やはりちょっとしたプレイヤーだったのだと思います。
今回もサンプルはトラック・オンリーにしました。歌ってみたい人向けです。
サンプル Smokey Robinson & the Miracles "You've Really Got a Hold on Me" (track only)
◆ ハル・ブレイン参上 ◆◆
モータウンではよくあることですが、この曲も「うちうちの使いまわし」をやっていて、モータウン内部だけでたくさんカヴァーがあります。まずはスプリームズ・ヴァージョン。
スプリームズ You've Really Got a Hold on Me
一粒で二度笑えるヴァージョン、といいたくなります。スプリームズのこのトラックはA Bit of Liverpoolという、ブリティッシュ・ビート・グループのヒット曲をカヴァーしたアルバムに収録されています。他の曲は看板に偽りなしなのですが、You've Really Got a Hold on Meだけは、元来、ミラクルズの曲、でも、ビートルズのヴァージョンが有名だから「イギリスの曲」ということにしてしまったわけです。
もうひとつ面白いのは、このドラムがハル・ブレインに聞こえることです。60年代のスプリームズのシングル曲は、初期のノンヒット曲をのぞき、ほとんどすべてLA録音だろうと推定しています。しかし、ハル・ブレインがプレイしたトラックはあまりありません。伝え聞くところでは、ハル自身は「初期のマーチ・タイプの曲でプレイした」といっているということで、たぶん、Where Did Our Love GoまたはBaby Love、あるいはこの両方のことをいっているのだろうと思います。
スプリームズ Where Did Our Love Go
スプリームズ Baby Love
どちらもドラムが目立つ曲ではなく、ブラインドでハル・ブレインと断定することはわたしにはできません。それ以外には、ダイアナ・ロスがリードのあいだは、ハル・ブレインがスプリームズの45でプレイした雰囲気は感じません(ジーン・テレルがリードになってからの45やアルバム・トラックにはハル・ブレインやエド・グリーンを感じるものがある)。そうしたなかで、A Bit of Liverpoolは、これはハル・ブレインでしょう、と笑ってしまうトラックが多数収録された例外的なアルバムなのです。
◆ テンプスとジャクソン5 ◆◆
モータウン内部のカヴァーとしては、ほかにテンプテーションズのヴァージョンもあります。
テンプテーションズ You've Really Got a Hold on Me
ベーシック・トラックは、ミラクルズのものを流用したのではないかと思ってしまうほどそっくりですが、ギター、オルガンが追加され、ホーン・ラインも大幅に変更されています。
スプリームズのヴァージョンほどではありませんが、こちらも地味ながらギターがなかなか魅力的なプレイをしています。そういうコードもありなのね、でした。
まだほかにもありますが、モータウン内部カヴァーとしてもうひとつ、ジャクソン5をあげておきます。
ジャクソン5 You've Really Got a Hold on Me
いやはや、うちにあるものだけでも、まだこの倍以上のカヴァーがあります。次回はブリティッシュ・ビート・グループのカヴァーを中心に見ていきます。
ローラ・ニーロ
Gonna Take a Miracle
スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ
35th Anniversary Collection
スプリームズ 2オン1
ア・ビット・オブ・リヴァプール/TCB
テンプテーションズ
Temptations Sing Smokey
ホット・ロック [DVD]
ジョンとメリー [DVD]
ブリット スペシャル・エディション [DVD]