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「唄の世の中」The Music Goes Round and Round by 岸井明

九月も終わりだというのに、当地は暑い一日でした。いま外出から帰ったら暑くて、思わず扇風機をまわしてしまったほどです。

2007年の九月の終わりには、ヴァン・モリソンのWhen the Leaves Come Falling Down、すなわち「落ち葉の散るころ」という曲を取り上げました。歌詞を聴けばわかりますが、これは九月の唄なのです。そんな馬鹿な、ですけどね!

◆ 昭和十一年 ◆◆
映画の記事にしようというより、どちらかというと、2007年のHavest Moon特集で取り上げた、Lullaby in Ragtime by Nilssonにサンプルをつけるにあたって、オリジナルを確認しておくという感じで、『5つの銅貨』を見ました。

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もう20年ほど以前に見たきりだったので、すっかり忘れていましたが、この映画には、Lullaby in Ragtime以外にも、好きな曲が使われていました。The Music Goes Round and Roundです。

この曲は『5つの銅貨』が初出ではなく、1930年代にまでさかのぼる古い曲で、同題の映画『The Music Goes Round and Round』(邦題『粋な紐育っ子』)のテーマとして書かれたものだそうです(Mike RileyおよびEddie Farley作)。

Tommy Dorsey "The Music Goes Round and Round"


これは日本でもヒットしたようで、ローカル・カヴァーもいくつかあるようですが、もっとも有名なのはエノケンのヴァージョンでしょう。映画が公開された年にリリースされたようです。すばやい!

エノケン The Music Goes Round and Round 浮かれ音楽


意外といっては失礼ですが、ホーン・アレンジも悪くなかったりするのだから、日本の戦前の音楽も馬鹿になりません。

◆ 岸井明の「唄の世の中」 ◆◆
しかし、わたしがもっとも好きなヴァージョンは、「唄の世の中」というタイトルでリリースされた岸井明のヴァージョンです。

これは同題のPCL(東宝の前身)映画の主題歌だったようです。伏見修監督、出演は藤原釜足、神田千鶴子、宮野照子、岸井明、渡辺はま子、御橋公となっています。公開は1936年8月。うん? ハリウッドの『粋な紐育っ子』も1936年公開。それが同年に日本でも公開され、すぐにこの曲をネタに和製映画をつくって夏には公開してしまったようです。すばやい!! 二・二六事件の年になにをやっていたのやら。

岸井明「唄の世の中」The Music Goes Round and Round


そういってはなんですが、あまりいい音ではありません。わが家にあるのはAM放送のエアチェックなのですが、それでも、このクリップよりいい音のような気がします。聴いてみますか?

ヒスやスクラッチはありますが、いちおうほんの軽くハイ・パス・フィルターをかけたうえで、イコライザーで中音域を持ち上げているので聴きやすいですし、不快なノイズは削除してあります。また、放送に使われた盤も有名なコレクター所蔵のもので状態がよかったのではないでしょうか。

サンプル 岸井明「唄の世の中」(The Music Goes Round and Round)

岸井明盤The Music Goes Round and Roundは、タイトルがちがうだけでなく、歌詞もエノケン盤とはぜんぜんちがいます。

おーい、どうだい世の中
グルグル回り持ち
景気も恋もみんな一緒にそれ廻る
廻るのはうれしいぞ、ワアアフォオウ、金あるかい?
お宝は回り持ち、ワアアフォオウ、あんまり廻っちゃ目が廻る

可愛いあの娘のいる町も
ちょいとついでにひと廻り
ティーティ、ティーティ
唄で廻ろうよ
廻るのはうれしいぞ
ワアアフォオウ、世の中は廻る

岸井明、まことにけっこうなキャラクターです。どこにも尖ったところがなく、穏やかで微笑ましく、いうことがありません。この人が現役の時代に生きていたかったものだなあ、としみじみしてしまいます。

三木トリロー自伝に、岸井明に仕事を頼みにいったときの話が出てきましたが、くわしいことは忘れてしまいました。彼が作詞をしていて、それに曲をつけてくれと頼まれてしまった、なんて話ではなかったかと思います。どうであれ、プロ意識の高い人で、人柄がよかったのだな、と感じた記憶が残っています。

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岸井明 三葉とも内田吐夢監督『大菩薩峠』(東映)より

◆ シレルズとルイ・プリマ ◆◆
わが家にはもう2種類、The Music Goes Round and Roundがあります。ひとつはシレルズのヴァージョン。古い曲なのでしかたありませんが、ちょっといじりすぎて、メロディーラインのいいところを殺してしまった感じですが、そういうこととはレベルのちがうところで魅力があるので、いちおうサンプルにしました。

サンプル The Shirelles "The Music Goes Round and Round"

なんだか、フィル・スペクターがプロデュースしたボビー・ソックス&ザ・ブルージーンズのZip-a-Dee-Doo-Dahのようなアレンジというか、早い話がまるごといただいたようです。ついでに、ハル・ブレインもいただいたらしく、ほかにこんなドラマーはいないだろうというドラミングです。

ヒットを連発していたころのシレルズは、ルーサー・ディクソンのプロデュースのもと、NYで録音していたので、ドラムはゲーリー・チェスターなどであり、ハル・ブレインの出番はありませんでした(そもそも、シレルズの全盛期には、ハル・ブレインはまだエースではなかった)。

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私信でうかがったのか、オフィシャル・サイトのリストにあったのか、キャロル・ケイさんはシレルズのトラックでプレイしたそうですが、初期のNY録音のものではないでしょうから、やはりこの63年のアルバム、It's a Mad, Mad, Mad Worldのあたりでのことではないでしょうか。ただし、これもアルバム全体がハリウッド録音とは思えず、ほんの数トラックだけだろうという感触です。

しかも、The Music Goes Round and Roundもバランスがハリウッド的ではなく、ドラムをオフにし、ヴォーカルをオンにしているので、マスタリングはNYかもしれません。野暮天なミックスです。63年あたりから天秤が急激にハリウッドに傾くのは、こういうドラム・サウンドのバランスの取り方などで、NYのサウンドが時代遅れになってしまったためだと思います。もちろん、その裏側にあったのは、フィル・スペクターのヴィジョンです。

ハル・ブレインが、ハリウッドのミュージシャンを使っただけではダメだ、ハリウッドのスタジオで、ハリウッドのエンジニアが録音するからああいうサウンドになるのだ、だから、アメリカ全土のみならず、世界中からプロデューサーがハリウッドにやってきたのだ、といっていました。そういうことです。ルーサー・ディクソンを引き継いだだれかさんは、シレルズのThe Music Goes Round and Roundのミックス・ダウンをハリウッドでやらなかったというミスをしたのだと思います。詰めが甘い!

でも、このアルバムには、Around the Worldというなかなか好ましいトラックがあるので、まあ、いいんじゃないでしょうか。シレルズは完全な下り坂ですがね。

ほかにルイ・プリマのヴァージョンがあり、これも悪くないのですが、でも、もうサンプルは十分でしょうから、これはまたいつか機会があれば、ということに。


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by songsf4s | 2010-09-29 23:57 | 映画・TV音楽