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鈴木清順監督『野獣の青春』(1963年、日活)その6

前回、深く考えずに「暴力描写」という言葉を使ったのですが、あとになって、「暴力描写」の定義は昔と今では天と地ほどもちがうなあ、と思いました。

スプラッターの、ゴアの、といわれるたぐいの、残虐性を売りものにした映画のことはどうでもいいのです。一般映画の暴力描写のことです。この20年ぐらいで、曲がり角と感じた映画はまずなによりも『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997年)です。

ロバート・ハインラインの『宇宙の戦士』にもとづくこの映画は、人間が殺されるところもグロテスクですが、敵の昆虫形異星生物が殺戮されるところは、いくら虫でもそこまでズタズタにすることはないじゃないか、です。虫だということを金科玉条にして、人間ではやりにくい残虐描写をしているように感じました。

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そのつぎは『プライベート・ライアン』(1998年)です。この映画のオマハ・ビーチ上陸の描写を見たとき、ここまでやるようになったか、と思いました。水中の弾丸のおそろしいこと。同じオマハ・ビーチを描いた『史上最大の作戦』も、当時としてはリアリスティックな映画で、怖いショットもありますが、『プライベート・ライアン』にくらべれば、じつに穏やかなものです(いや、『史上最大の作戦』の撮影では死者が出たそうだが)。

Saving Private Ryanのオマハ・ビーチの戦闘(音声がないのでいくぶん怖さは減じているが、なまじのスプラッター映画などよりよほど気色悪いので、ご覧になる方はそのつもりでどうぞ)


そして、もっとも最近、ひでえなと思ったのが『ランボー4』です。そもそも殺戮シーンのありそうな映画を好んで見ることに問題がある、といわれればそのとおりかもしれませんが、それにしてもねえ、というショットの連続で、「ドンパチ」どころの段ではありません。大口径の銃で撃たれれば四肢がちぎれ、顔がなくなることがある、という知識をもっていることと、それを映像化したものを見るのは、まったく次元の異なることです。

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1960年代、イタリア製西部劇の、あの当時としてはリアルな暴力描写に感心しました。そういう気分がやがて『ランボー4』を生むことになるとは、思いもしませんでした。ひとりひとりの嗜好の変化が集積された結果として、世の中は変化していくということを、若いころのわたしは理解していなかったのです。

リアリズムへの強い意志は、映画が誕生したときから定められていた運命です。だから、暴力描写については、よく考えてからなにかを云うべきなのですが、それでもなお、『野獣の青春』の暴力描写には美があることは、書かずにはいられません。人間は矛盾の動物です。

◆ 襲撃のテーマ ◆◆
ジョーは麻薬取引に同行するように命じられ、さっそくこの情報を三光組に売り渡します。大井競馬場で郷鍈治からその金を受け取った直後、ジョーは私服刑事に呼び止められます。おまえは性根まで腐ったのか、となじられ、ジョーはその刑事が知らない経緯を語ります。

クライテリオン版5/9

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この回想シーンの背後に流れるグルーミーなブルースがちょっと魅力的なので、映画から切り出してサンプルにしました。したがってセリフ入りですし、タイトルは例によって勝手につけたものです。

サンプル 奥村一「回想のテーマ」

ジョーは元刑事で、ギャングの罠にはめられ、汚職の罪で刑務所に入っていたことがわかります。売春婦と無理心中したことにされた竹下という刑事は、同じホシを追っていて、やはり罠にはめられたにちがいなく、そいつらをたたきのめしてやるつもりだ、と語ります。

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竹下刑事を演じる木島一郎は、オープニング・クレジットの背景で死体になって登場するのと、あとは法事のときの遺影だけ、なんていうのだと可哀想で、俳優も出演に気乗りしないことだろう。そんな俳優を宥めるために撮ったのではないかと勘ぐってしまう、回想シーンでのジョーとまだ生きている木島一郎。

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向こうに仁丹ビルがあるので、渋谷宮益坂上とわかる。しかし、このシーンでキャメラが切り替えされると見える坂の途中の映画館など記憶がない。

ここまででちょうど半分。もうジョーに関する謎はなくなり、元警官の復讐物語、それもどうやら『血の収穫』パターンになるらしいことがわかります。ヒーローは二匹の犬を噛み合わさせるつもりなのです。

さて、麻薬の取引です。これがやはりちょっと変わった状況設定なのです。まず真っ昼間であること。場所は川縁、『男はつらいよ』のおかげか、演歌のおかげか、すっかり有名になってしまった「矢切の渡し」です。

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山本嘉次郎の『馬』や木下恵介の『喜びも悲しみも幾歳月』じゃあるまいし、ベルトコンヴェア方式で大量生産されるプログラム・ピクチャーを、季節を選んで撮影するなどということはありえないので、たんなる偶然にすぎないでしょうが、この川縁での麻薬取引は、満開の桜の下でおこなわれます。鈴木清順映画だから、いかにもそれらしい絵作りで、そのまますっと見てしまいますが、一歩ひいて考えると、これはかなりめずらしいセッティングでしょう。

この場面で流れる曲をサンプルにしました。セリフが入ったほうが盛り上がりそうな気もするのですが、せっかく盤になっているので、音楽のみのほうにしてみました。郷鍈治以下の三光組の連中が、桜の木の下で野本興業の車を待っているショットから入ってくる曲です。

サンプル 奥村一「襲撃決行のテーマ」

4リズム+3管(テナー・サックスとフルートが同時に聞こえるところはないので、同じプレイヤーだろう)のなかなかクールなトラックです。ジャズ・コンボという文脈での、このような非ジャズ的なエレクトリック・リズム・ギターの使い方は、この時代には稀有のことで、ええっと思います。ひょっとしてフェンダーではないかと思わせるほど、非ギブソン・フルアコ的サウンドであり、ロック的カッティングです。

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◆ さらに拷問 ◆◆
取引相手の組の平田大二郎が、ジョーの顔を見て、あんたとはどこかで会った覚えがある、などといってジョーをヒヤリとさせますが、三光組の襲撃は成功し、平田大二郎らは三光組に麻薬の代金を横取りされてしまいます。

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ジョーが指示したとおり、三光組は代金だけ奪い、野本興業が手に入れた麻薬には手をつけなかったために、事後処理がもつれ、野本興業はもう一度支払うように要求されてしまいます。その話し合いの席で、平田大二郎は、アッと大声を出し、ジョーが警官だったことを思いだします。

クライテリオン版6/9

計画がうまくいったので、ジョーは残りの半金を受け取りに三光組の事務所に出向きますが、このときにかかっている予告篇が笑えます。

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菊村到原作、楠侑子、信欽三、草薙幸二郎、山岡久乃出演と、これだけたくさん手がかりがあれば、この映画をアイデンティファイするのはむずかしくありません。鈴木清順自身の1960年の映画『けものの眠り』です。いや、可笑しいのは、「信欽三」と予告篇にクレジットされているその俳優が、「こちら側」で「現実に」芝居していることです!

例の売春組織の調査のつづきで、ジョーが女を呼んで部屋に戻ると、小林昭二、金子信雄、平田大二郎、柳瀬志郎らが待っていて、再び拷問されることになります。どんな状況でも、鈴木清順は工夫の人ですが、とりわけ暴力描写には工夫を凝らします。

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爪のあいだにナイフを刺すというのは、ほかの映画でも見たように思いますが、ふつうなら壁に押しつけるか、またはテーブルに手をつかせる形で撮るでしょう。鈴木清順はガラスに手をつかせ、正面から撮ることで、「強い画面」をつくっています。

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正面から撮るだけでなく、背後からの切り返しショットでは、ガラスであることを利用して、向こう側での芝居もする。思わず拍手したくなる演出。こちらに正対している人物は平田大二郎、向こう側で振り向いているのは金子信雄。

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ここでもジョーは、あっさり窮地を脱します。たしかに警官だったが、汚職でムショに入っていた、ちゃんと調べろ、と怒りをぶちまけ、疑いをはらすのです。

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後半はもうちょっとスピードアップしようと思いましたが、サンプルの用意をしているうちにはやシンデレラ・タイム、以下は次回に。


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by songsf4s | 2010-09-09 23:55 | 映画