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鈴木清順監督『野獣の青春』(1963年、日活)その5

夏の終わりの歌はもうすこしつづける予定ですが、チャド&ジェレミーのA Summer Songの記事に書いた、ロニー&ザ・デイトナズのSandyと、I'll Think of Summmerの不均衡は解消され、イーヴンになりました。

「サンプル」なのに、「ストリーミング以外のこと」が多いとぐあいがわるいと、はじめる前はちょっと心配していたのですが、じつは「そういうこと」はめったになく、99パーセントはストリーミングによる純粋な「試聴」だという結果が出ています。おかげで安んじてサンプルの提供をつづけることができます。どうもありがとうございます。

◆ スダレの秀 ◆◆
本日はまた『野獣の青春』のつづきです。ゆっくりとディテールを追うのは今回までにして、次回からはすこしスピードアップしようと考えています。

捕まったときに、三光組の連中にしつこくきかれたのだが、といって、ジョーは江角英明に、自分の組にコールガール組織があるのか、とききます。元締めは女だという話だ、というと、江角は、それは女ではなく、社長の弟の秀、あの「シスターボーイ」だと教えます。

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秀は「パンパンの息子!」と毒づいたを女の顔をカミソリでスダレのようにしたことがある、あいつのまえでパンパンといってはいけない、と江角英明はジョーに警告します。

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電話デートクラブ(というかどうかは知らないが)の内部もいかにも清順好みの色彩。

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ジョーは人を使って電話をさせる。

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客は並木橋の公衆電話からかけ直すようにいわれる。並木橋といわれなければ、ぜったいにわからないくらい、このあたりはすっかり様子が変わってしまった。

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そういえば、東横線の車輌は昔は緑色だった。

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ジョーは秀が陣取る電話デートクラブ(なんて呼び名でいいのかどうか自信なし)に行き、客の注文をどこに取り次いでいるのだ、と川地民夫に尋ねます。むろん、そんなことに答えるはずもなく、ジョーは「おまえの母親はパンパンしてたんだってな」と挑発します。

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カミソリが飛び出すものとジョーは身がまえます。しかし、川地民夫はテーブルのグラスに手を伸ばします。挑発したはいいけれど、ジョーもおっかなびっくりで、この川地民夫のしぐさに、思わず身を引きます。あらかじめ「すだれの秀」という話をきいているので、ジョーがビクッとした瞬間、観客もつられてビクッとしてしまいます!

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川地民夫が靴下のなかに隠したカミソリを取り出すショットと、二人の上半身のショットのつなぎで、観客はさんざん緊張させられたあげく、頃合いよしや、スダレにしてやる、というショットになります。

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カミソリがどうなったのか見えないので、一瞬、やられたのではないかと思いますが、つぎのショットでは、ジョーが川地民夫の手を押さえ込んでいます。どうやって防いだのか、明確にはわからないショットのつなぎで、ここはこの映画の数少ない瑕瑾のひとつのように感じます。

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しかし、椅子の下の木をキーキーこするカミソリのショットはちょっと怖いのです。これはのちに起こることの暗示でもあります。

クライテリオン版4/9

◆ あざやかな省略法 ◆◆
現実の剣の勝負では、チャンバラ映画のように何合も斬り合うことはなく、ほとんどは初太刀で勝負は決まったものだといわれます。「スダレの秀」は暴力のプロという柄ではなく、初太刀をはずせば、ジョーを相手に勝つのは無理です。

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十分に準備のできていたジョーは、不意打ちを食らうことなく秀の攻撃をかわし、カミソリを奪って、逆に「そのきれいな顔を切り刻まれたくはないだろう」と威し、売春組織の情報を得ようとします。

ところが、そこにボスの小林昭二があらわれ、「なにをしている!」と一喝します。かくして、またまた形勢逆転。この映画はどんでん返しがたっぷり詰め込まれているのです。

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カミソリも怖いのですが、つぎのショットはナイフによるジョーの拷問です。ジョーが野本興業の売春について調べているのは、香月美奈子に依頼されたからではないことがすでに暗示されているので、この窮地をどうやって切り抜けるのかと思います。

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つぎもまたクレヴァーな処理です。いきなり、こんどは香月美奈子が小林昭二に責められるショットに切り替わっているのです。

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これ幸いとばかりに、たまたまジョーに調査を頼んだ香月美奈子をあっさり売ってしまったことが、説明なしで、ショットのつなぎだけでわかるのです。いかにも映画的な処理。

◆ 黄色い荒野 ◆◆
そして、ここからがまたいかにも鈴木清順らしい展開になります。鈴木清順を語るときに、だれもが言及せずにはいられない場面です。

鞭に追い立てられるようにして、香月美奈子は屋敷の外に逃れ出るのですが、なぜかこういう風景になっています。

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昔は鈴木清順の研究書なんてものはなかったので、予備知識はほとんどゼロでしたから、十八歳の子どもは、このシーンには驚きました。ボスの邸がいつのまにか荒野に引っ越してしまったような状態ですからね。木村威夫がいう鈴木清順が好んだ「あの世」の絵です。

同じ年に製作された『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』の川地民夫のように、小林昭二はサディスティックな性向のある人物に設定されていて、なぜ探りなど入れたのだと拷問していたはずだったのに、いつのまにか喋々喃々になってしまいます。

ジョーのほうも、やはり『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』のときと同じように、変な趣味の奴にはついていけない、と呆れます。

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こういう風に、ジョーに「批評的」にふるまわせることで、鈴木清順は自分の映画を観客の「了解可能な範囲」のなかに収めようとしています。この時点ではまだ「暴走」を自己規制する意識があったのでしょう。

どうであれ、この暴力描写の三連打は、『野獣の青春』を特別な映画にしている最大の要素です。いま再見しても、高校生がこの映画に圧倒され、鈴木清順ファンになったのも当然だと感じます。

多くの評論家がリアルタイムでこの映画を見ていれば、鈴木清順のキャリアはべつのものになったにちがいありません。それが好ましいキャリアになったという保証はありませんが、それでも、会社の外に大きな支持層があれば、簡単には馘首はできず、日活がロマンポルノに移行するまでに、あと十本ぐらいは映画を撮れただろうと思います。たら、れば、の話なんか無意味ですが、もっともいい時期ですからね。やっぱりグチが出ます。


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日活映画音楽集~監督シリーズ~鈴木清順
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by songsf4s | 2010-09-08 22:16 | 映画