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鈴木清順監督『野獣の青春』(1963年、日活)その4


鈴木清順映画の音楽で、フルスコアがリリースされているのは『殺しの烙印』だけです。山本直純による『殺しの烙印』のスコアは、たしかに素晴らしい出来で、フルスコアが盤になったことも、またそれを歓迎する声が、とくに海外から多くきかれることも、当然だと感じます。

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しかし、ほかにもスコアの面白い鈴木清順映画はあります。すでに取り上げたものでいえば、伊部晴美音楽監督の『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』の音楽も楽しめますし、目下書きついでいる『野獣の青春』も『くたばれ悪党ども』に引けをとりません。

『野獣の青春』のスコアを書いた奥村一が音楽監督をつとめた作品は、当家では過去に『花と怒涛』(その1その2その3その4その5)と、『悪太郎』(その1その2その3その4)という、二本の鈴木清順作品(同時に木村威夫作品でもある)を取り上げています。

とはいいながら、どちらも大正という時代設定であり、スコアも現代的ではないため、記事では音楽にはあまりふれませんでした。しかし、『野獣の青春』は現代劇、それもアクション映画なので、『花と怒涛』や『悪太郎』とはまったく状況がちがいます。『野獣の青春』のスコアは、他の日活アクションと同じ土俵で比較しても、いい出来だと感じます。

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いずれ、出来のいいトラックはサンプルにしますが、今回は奥村一の略歴と作品についてふれているサイトを二つあげておきます。

奥村一映画音楽作品リスト

奥村一クラシック作品リスト

◆ 弟とのインターアクション ◆◆
小林昭二の情婦、香月美奈子がジョーの部屋にやってきて、野本興業の売春の元締めをしている、社長の六番目の女を見つけて殺してくれ、と頼みます。この六番目の情婦は、だれも顔を見たことがない謎の女なのだと、香月美奈子はいいます。

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日活きってのヴァンプ女優・香月美奈子。当時も今も大の贔屓。

前回、書きましたが、ジョーの狙いはまさしく売春組織にあるので、香月美奈子に探りを入れながら、欲得ずくであるかのようにして、この依頼を承知します。

修理に出すつもりか、故障したショットガンをもって、ジョーが出かけようとマンションの外に姿をあらわすと、郷鍈治以下の三光組の連中が取り囲みます。

「うちの社長がおまえに礼をいいたいそうでな、ちょっとつきあってくれ」といって銃を突きつける郷鍈治に、ジョーは「こんなところで撃つ気か、交番は近いし、アパートの真下だし」といいます。

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車に押し込まれたジョーは、そのまま向こうのドアから飛び出し、自分が落としたショットガンを拾って、窓から顔を突き出した郷鍈治に銃口を突きつける、という「籠抜け」をやってのけます。そして、こんどは郷鍈治が「撃つなら撃ってみろ。交番は近いし、アパートの真下だし」とやり返します。

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形勢逆転、優位に立ったジョーは、おもむろに「じゃあ行こうか。ちょうど、おまえらのボスと会いたかったんだ」と、三光組に乗り込みます。

話とは関係ないことですが、建物の正面には(スペルはまちがっているものの)「マンション」と書いてあるのに、セリフのなかでは「アパート」と云っています。つまり、1963年には「マンション」という変な外来語がまだ定着していなかったことを示しています。わたし自身の記憶でも、この言葉を頻繁に聞くようになったのは数年後のことです。

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Tではなく、Sなのだが……。

◆ 再び画面の多重化 ◆◆
野本興業と対立する三光組の事務所は、野本興業のナイトクラブとは対照的に、古めかしくデザインされていますが、それでもやはり、鈴木清順映画らしい奇妙なセットになっています。

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スクリーンショットではわかりにくいかもしれませんが、つまり、三光組の事務所は映画館のなか、スクリーンの裏側にあるという設定なのです。だから、壁のかわりにスクリーンがあり、向こう側からプロジェクトされた映画が「裏返しに」見えているのです。

クライテリオン版3/9

ここでもまた、鈴木清順は画面を縦方向に多重化し、芝居に立体感をあたえているのです。なんて批評的言辞を弄すると、監督は「客が眠らないようにちょっと驚かせようとしただけだ」と笑い飛ばすでしょうけれど!

野本興業のナイトクラブ同様、鈴木清順はこの環境をうまく芝居に利用します。社長(信欽三)とさしで話がある、といって、ジョーは手下どもを事務所から追い出します。すっかり顔をつぶされた郷鍈治は頭に血をのぼらせ、ドアのガラスの割れ目からジョーを撃とうと、狙いをつけます。

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そして銃声がするのですが、

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スクリーンに投影された銃口のクロースアップ

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最初は洋画だったのだが、いつのまにか二本柳寛が出演する邦画(たぶん日活アクション)になっていた。

それはいま上映中の映画のなかの出来事なのです。これで気勢を殺がれた郷鍈治は、結局、ジョーを撃つことができず、ジョーのほうは信欽三と合意に達し、野本興業の情報を三光組に流すことを約束します。

ここまでくると観客は、この映画がダシール・ハメットの『血の収穫』パターン、つまり黒澤明の『用心棒』パターンになっていく可能性を頭の隅に置きます(よけいなことだが、セルジオ・レオーネの『荒野の用心棒』は、この時点ではまだつくられていない)。

いや、そんなことはどうでもよくて、重要なのは、野本興業のキャバレーと、この三光組の映画館裏の事務所で、鈴木清順はきわめて純度の高い映画表現を試みたことです。ティーネイジャーでも、へえ、と思ったくらいなのだから、この映画を見た一握りの評論家たちが、この監督に注目したというのも、ごく当然のことだと思います。

さらに、このシークェンスでもまた、小さな工夫、「係り結び」のような処理もしています。ジョーは、堂々と引き上げて、万一、野本興業の人間に見られるとまずい、といって、信欽三を盾にして出て行きます。案の定、外には、ジョーが郷鍈治たちに囲まれて車に乗ったのを目撃した江角英明がいて、おまえのことだから大丈夫だろうと思ったけれど、いちおう加勢に来てみた、といいます。

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「完全暖房」というのがいい! たしかに、昔、こういうフレーズを暖房、冷房、どちらに関しても見た記憶がある。上映中の映画は『ガールハント』となっている。リチャード・ソープ監督、スティーヴ・マクウィーン主演の1961年の作品だとか。見た記憶なし。

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この映画の鈴木清順演出は、このように、「やりっぱなし」にせず、うまいプレイヤーがインプロヴィゼーションの最後の小節をきれいにまとめるように、きちんと「畳んでおく」ところが冴えています。

今夜は短く切り上げ、川地民夫の見せ場と、これぞきわめつけ鈴木清順といいたくなる、コントラヴァーシャルなシーンについては、次回に繰り越します。


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日活映画音楽集~監督シリーズ~鈴木清順
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by songsf4s | 2010-09-05 23:53 | 映画