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Ethnic Theme by Martial Solal(ジャン・ベッケル監督『黄金の男』より その3)

昨日はわが家の前の公園で大盆踊り大会があり、午前中から屋台が出て、本番前から景気づけにあれやこれやの音頭が大音響で流れ、まともにものを考えられる状態ではなかったので、ブログのメインテナンスなどしていました。

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エクサイト・ブログはツイッターへの対応が遅く、リツイート・ボタンを表示できるようになったのはつい最近のことです。したがって、昔の記事にはそのようなものは表示させていなかったのですが、ラベルの付け替えをやったついでに、映画記事の多くにリツイート・ボタンを表示させました。

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ラベルなどの間違いがないか、あとで確認したら、もうリツイートされている記事がかなりあって驚きました。ただ、リツイート・ボタンに関しては一括処理ができず、ひとつひとつ記事を開いて設定変更をしなければならないため、いますぐ過去の記事のすべてリツイート・ボタンをつけるわけには、残念ながらいきません。自分でも知りませんでしたが、さっき記事数を確認したら680本あるそうですから!

◆ マルシャル・ソラルのスコアつづき ◆◆
さて、『黄金の男』最終回、まずはスコアの残りから。

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あ、そのまえに。受けないかもしれないなあ、と恐る恐るサンプルをアップした『黄金の男』のテーマ曲、Generiqueが多くの方に聴かれていることをご報告しておきます。われながら変なものを持ちだすことが多いと自覚があるので、受けなくてもしかたないといつも思ってはいるのですが、やっぱり多くの方に関心をもっていただけるほうがうれしいに決まっています。

では、マルシャル・ソラルによる『黄金の男』のスコア、さらに3曲いってみます。

サンプル Martial Solal "Ethnic"
サンプル Martial Solal "Driving 3"
サンプル Martial Solal "On the Train"

いずれもモノーラル、タイトルはわたしが恣意的につけたものにすぎません。Etnicと題したものは、レバノンだったか、アテネだったか(もう忘れている!)、町を走るショットで流れるトラックです。管によるメロディーはテーマ曲Generiqueと同じもの。ギター系の撥弦楽器のオブリガートが入っています。これがハリウッドだったら、気にせずにマンドリンとギターでやるでしょうが、フランス人はまじめにエスニック楽器を使ったかもしれません。

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Driving 3は、人数多めの管のアンサンブルが魅力的です。8~10人ぐらいの感じでしょうか。サックスの人数が増えると、管のアンサンブルはいい音になります。この曲では、最低でも、バリトン×1、テナー×2、アルト×1はいるでしょう。この上にトロンボーンと複数のトランペットをのせています。

ベルモンドは、黄金のトライアンフを船荷にし、自分は列車でフランスに向かいます。組織を裏切ったせいで一文なしになり、車掌が「切符拝見」とまわってきたときには、列車の外にぶらさがってやり過ごします。そういう列車上のシークェンスで流れるのがOn the Trainという曲です。

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このシーン、合成ではなく、ベルモンドがほんとうにやっているように見えて怖いのですが、どうなのでしょうね。小林旭はスタントマンを使わなかったことで有名ですし(じっさい、もうちょっとで死にそうになったのだとか)、『続・夕陽のガンマン』ではイーライ・ウォラックもギョッとするようなショットをスタントなしで撮っているので(「黄金光音堂」の「続・夕陽のガンマン」記事で、イーライ・ウォラックのスクリーン・ショットを見る)、ベルモンドも危険な撮影をした可能性なしとはしません。

フランスもやはり日本と同じで、全編にオーケストラ音楽を流すなどという贅沢ができるのは、一部の映画にかぎられていたというだけなのでしょうが、苦しまぎれの小編成の思わぬ福音で、いま聴いてもじつにクールなスコアができあがったと思います。『勝手にしやがれ』の付録などという継子扱いではなく、フルスコアをリリースする価値は十分にあるでしょう。

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◆ ジーン・セバーグの官能とFBI ◆◆
初見のときは思春期だったので、『黄金の男』のジーン・セバーグにはドキドキしました。『越前竹人形』の若尾文子の入浴シーンと、『黄金の男』のジーン・セバーグのベッド・シーン、どっちが官能的かってくらいで、これですっかりジーン・セバーグ贔屓になり、うかうかと『ペルーの鳥』なんていう変な映画まで見てしまいました。中学生にはさっぱりわからない話で、再見したいような気もしますが、いまなら30分も見たら投げてしまいそうな懈い展開だったと記憶しています。

あとから見た『勝手にしやがれ』や『悲しみよこんにちは』のときも、やはり素晴らしいと思いましたが(『大空港』のときには、すでに「懐かしい女優」になってしまっていた)、どちらも『黄金の男』のように、ぜひもう一度みたいと思ったことはありません。なんせわたしは日活アクションのファンですから、金塊密輸とか、組織と一匹狼とか、そういうほうがずっと性に合っているのです。

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最初は、「ようよう、せっかく一緒に仕事をするんだから、楽しもうぜ」と迫るベルモンドを、なにいってんだか、このバカは、という調子でぜんぜん相手にしないのに、前フリなしで、ある夜、あっさり身をまかせてしまうところが、子どものころはもちろん、いまもよくわかりません。フランス人の目には、あれが当たり前に見えるのかもしれませんがね。

ほら、つまり、なんていうか、「貞操? それはラテン語ですか?」みたいなメンタリティーがあるわけじゃないですか、彼らには。イタリア人もそうですが。だから、女が男と寝るのに、特段の理由付けは不要と考えるのだろうと想像するしか、この唐突な展開につける説明は思いつきません。わたしは古い日本人なので、もうすこし手順を踏むんじゃないのー、と文句を垂れそうになります。

子どものときは、この味がわかったはずがないのですが、でも、ベッドに入ってからのジーン・セバーグのふるまいとセリフには、思わずニヤニヤします。

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てな感じで腋の下の官能という「高度なエロティシズム」を描出したうえで(映画監督に必要な資質その1、天然スケベであること、という条件を十分に満たしている!)、ジーン・セバーグはサングラスをかけます(いや、サングラスをとるために腋の下を見せる)。そして、つぎのセリフ。

「サングラスしてもいい?」
「かまわないけど、どうして?」
「見たくないの」


思わず爆笑しましたね。いろいろ意味深長なセリフというのはありますが、これはAプラス。そうか、当人も見たくないようなことをするのか!@↓@!

ダメ押しのセリフもあります。翌朝、ジーン・セバーグがベッドに横たわったまま、ベルモンドにききます。

「サングラス、気になった?」
「いいや、気に入ったよ」


解釈はご自由に。まったく、フランス人ぐらいスケベじゃないと、こういうセリフは思いつきませんぜ。

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てなわけで、セリフの味なんか小学生にわかるはずもありませんが、ジーン・セバーグの魅力は子どもにもよくわかったのでした!

昔、ジーン・セバーグの映画が飛び飛びにしか見られないことを不思議に思いました。キャリアに妙なブレがあるのです。ロマン・ギャリだなんて妙な男を亭主にしたからだろう、なんて思っていましたが、かならずしもそれが原因ではなかったようです。

1970年に「ロサンジェルス・タイムズ」紙が、ジーン・セバーグが夫以外の男の子どもを身ごもったというゴシップ記事を掲載したのだそうですが、後年、それがFBIの仕組んだ陰謀だったことがわかった、という記事を読みました。彼女の政治活動がエドガー・フーヴァーの癇に障ったのだそうです。ジョン・レノンと似たようなケースです。

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まったく、ジョゼフ・マカーシーはとうに失脚、死亡(1957年)していたのに、エドガー・フーヴァーは依然として非公然の赤狩りを継続していたのだから呆れます。そういえば、ジェイムズ・エルロイのつぎの長編はこの時期を扱うと予想されるのですが、もう書かないのでしょうかね。エルロイのフーヴァー像はすごいもんです。

◆ 暗黒街の伊達男 ◆◆
こういう些末なことは、お客さんのどなたももうお忘れでしょうが、『黄金の男』をとりあげたのは、つい先日の「『ゴールドフィンガー』と『チキ・チキ・バン・バン』と『太陽の下の10万ドル』」という、ドイツの俳優ゲルト・フレーベに関する記事からの流れで出てきたものでもあります。

フレーベはじつにいろいろなタイプの役を演じられる俳優で、たいしたものだと思いますが、『黄金の男』もまたタイプが異なり、じつに楽しませてくれます。初登場シーンは、ベルモンドのアパートを訪ねるというシテュエーションですが、強面なのに、寝ぼけているベルモンドにコーヒーを淹れてあげる愛想のよさで、それがかえって怖く、大物ぶりを印象づけます。いい演出、いい役者、拍手。

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もっと怖いのは、金塊を買おうと申し出た歯医者の診療所をベルモンドが訪ねるシーンです。情報は筒抜けになっていて、ベルモンドはゲルト・フレーベ率いる男たちに待ち伏せされてしまいます。

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歯医者は診療椅子の上で首を切られて死んでいます。それを見せたうえでフレーベは、車をどこにやった、いわないなら、歯の治療をしてやろう、もっとも、医者は素人だから、ちょっと痛いかもしれないが、と脅します。

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それって死ぬほど痛いぜ、と観客は震え上がりますが、ベルモンドも軽薄なお調子者なので、すぐさま降参してしまい、われわれもホッとします。

いやしかし、忘れもしない、ウィリアム・ゴールドマン原作脚本、ジョン・シュレジンジャー監督、ダスティン・ホフマン主演の『マラソン・マン』では、ローレンス・オリヴィエ扮する元ナチスの歯科医がこれをやるんですよねえ。映画のなかで見たいろいろな拷問のなかで、これは「お願いだからわたしにだけはしないでほしいこと」のワースト3に入れます。

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ローレンス・オリヴィエとダスティン・ホフマン。『マラソン・マン』より。

話は脇に逸れますが、小説家としても、脚本家としても、昔はウィリアム・ゴールドマンが大好きでした。小説『マラソン・マン』のほうの続篇、『ブラザーズ』というのがまた残酷な話で、あれも映画化すればよかったのにと思います。いや、『プリンセス・ブライド』というチャーミングな小説もあって、こちらは映画化もされています。

ウィリアム・ゴールドマンの脚本家としての代表作は『明日に向かって撃て!』と『動く標的』あたりでしょう。ドナルド・E・ウェストレイクが生んだ、世界一不運にして不世出の天才大泥棒ジョン・ドートマンダー・シリーズの一作を映画化した『ホット・ロック』の脚本もゴールドマンです。

キャロル・ケイは『ホット・ロック』について、映画の最後に録音参加プレイヤーの名前を長々と列挙した稀少な映画、といっていました。たしかに、どっからどう見てもキャロル・ケイというベースが聴けます。クレジットは小さくてわからないのですが!

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閑話休題。べつにフレーベの意図ではないでしょうが、この役者はファッションも楽しませてくれます。というか、高い服地をていねいに仕立てた服を、ちゃんと高級品らしく見えるように着こなす才能があるのかもしれません。『ゴールドフィンガー』と並んで、『黄金の男』も暗黒街の顔役らしい着こなしで、おおいに楽しませてくれます。安っぽい悪党を演じた『太陽の下の10万ドル』での着こなしとは好対照です。

話はあちこちに飛びましたが、以上で『黄金の男』はおしまいです。日本語版DVDをぜひともリリースすべきだ、などとは申しませんが、音楽のほうから再発見、というか、これまで評価らしい評価はないのだから、「再」は不要で、ただの「発見」かもしれませんが、そういうことが起きる可能性もゼロではないでしょう。どうであれ、昔より現代のほうが受け入れられる可能性の高い映画だと思います。

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エンド・タイトルが流れはじめた瞬間、いきなりコスタ・ガヴラスの名前が出て驚いた。肩書きはチーフ助監督。



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by songsf4s | 2010-08-22 23:52 | 映画・TV音楽