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In My Life――アンドルー・ゴールドとトッド・ラングレンの完コピごっこ
タイトル
In My Life
アーティスト
Andrew Gold
ライター
John Lennon, Paul McCartney
収録アルバム
Copy Cat
リリース年
2009年
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つぎの映画を見終わっていないので、久しぶりに軽く音楽の話題をいってみます。

このあいだ、アンドルー・ゴールドが去年リリースしたアルバムを聴きました。Copy Catというタイトルを見て、ひょっとしたらと思い、トラック・リスティングを確認したら、これはまちがいないという曲が並んでいたからです。

Lady Madonna
Lonely Boy
All I've Got to Do
Little Deuce Coupe
Lucy in the Sky With Diamonds
Bridge to Your Heart
Good Riddance (Time of Your Life)
I Get Around
Never Let Her Slip Away
Strawberry Fields Forever
Got To Get You Into My Life
Norweigan Wood (This Bird Has Flown)
In My Life
Here There and Everywhere
Rocky Raccoon
Thank You For Being A Friend
Catch a Wave
Mad About You (The Final Frontier)
Your Song
Let It Be

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コピーキャットとは「物真似屋」という意味です。そういう言葉をタイトルにしていて、上記のような楽曲が並んでいれば、トッド・ラングレンのFaithfulと同じ、完全コピーをやってみました、という趣向だと想像がつきます。

ただし、ふつうはcopycatと一語で書くのですが、アンドルー・ゴールドは二語に切っています。cat単体だと「クールなプレイヤー」ぐらいの意味があるので(ラヴィン・スプーンフルのNashville Catsがこの語義でのcatの典型的な用例)、二語に切ることで、そういうニュアンスを強めようとしたのだろうと想像します。

アマチュアはコピーするものだし、わが国の場合ならヴェンチャーズ・コピー・バンドというのが山ほどあって、ライヴ・ジョイントに出演してそれなりにギャラをもらっていたりするのは、皆様ご存知のとおり。ヨーロッパだと、ヴェンチャーズではなく、シャドウズをコピーするようですが。もちろん、ビートルズ・コピー・バンドというのがたくさんあることも日本ばかりの現象ではありません。

しかし、プロが他人の音をnote by noteでコピーして、それを盤にしたというのは、わたしはトッド・ラングレンのFaithful(「忠実」というタイトルが笑わせる)しか知りませんでした。アンドルー・ゴールドのCopy Catは二例目です。

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さて、出来はいかがでありましょうか? って、たかがコピーなんで、身がまえるようなことではなく、ただの座興、お座敷芸にすぎません。まずは、かなりうまくいった例。

サンプル Andrew Gold "In My Life"

このトラックの美点は、むやみにピッチの高い、デイヴ・クラークも裸足で逃げ出しそうなスネアのサウンドを、かなりいいところまで再現していることです。

全体に、ビートルズの曲はどれも水準以上の出来ですが、ビーチボーイズはあまりうまくいっていません。そのなかで、これはまずまずの出来と云えます。

サンプル Andrew Gold "Catch a Wave"

再生環境に左右されることですが、ベースのサウンドというのは似せるのがむずかしいように思われます。All I've Got to Doなどはなかなか出来がいいのですが、ビートルズのヴァージョンではポールのベースがすごく目立つのに、アンドルー・ゴールドのコピーにはそういうムードがないのです。

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しかし、なんだか考えてしまいます。おー、似てる、似てる、と笑ったあとで、ふっと力が抜けますもんね。遊びなんだから、ゴチャゴチャいわずにおこうや、と自制しながらも、やはり、それでなんなの、という言葉が喉元まで迫り上がってきます。

たとえば、歌舞伎かなんかで、元の芸をやった人がすでに鬼籍に入っている、なんてことになると、それを写した芸には、偽物であっても、それなりの価値があるかもしれません(古今亭志ん朝の「火焔太鼓」は、親父のもののコピーではなかったが、さすがは息子、ほかの噺家とはちがう、と感じ入った)。でも、記録された音楽は鬼籍に入ったりしませんからね。いくらでも複製できるし、ジョン・レノンが死んでいても、ぜんぜん関係なく生きつづけてしまうわけで、じゃあ、ホンモノがひとつあればいいだろう、という気分は打ち消せません。

いやまあ、それをいっちゃあおしまいよ、なので、ここは深く考えずにおきましょう。ひとつだけいえるのは、自分でなにか芸事をするというのは、基本的にはだれかの型を写すことなので、音楽の基礎にもこのような「完コピ」の魂が厳としてある、ということです。問題は、そのままでは、ふつう、金を取れる芸とはみなされないという点でしょう。

いや、もちろん、古川ロッパが創始した「声帯模写」という芸もあって、このへんはじつに微妙なのですが。ロッパの声帯模写、聴いてみますか? いや、今日はやめておきましょう。正月以来やっていない「寄席」を近々復活させ、「猛暑退散祈願! 納涼名人寄席」なんて番組を組んでみます。そのときのひざがわりに、ロッパをもってきましょう。トリはやっぱり志ん生か文楽。「佃祭」あたりを聴いてみたい気分です。

◆ 家元トッド・ラングレン ◆◆
そもそも、完コピを盤にしちゃうというのは、トッド・ラングレンが創始したことなので、その「オリジナル・コピー」をちらっと聴いてみましょう。

トッド・ラングレン Strawberry Fields Forever


トッド・ラングレン Good Vibrations


うーむ。いまになってみると、ドラムはもうちょっとまじめにコピーしてちょうだい、ですね。サウンドが似ないのはやむをえないとして、譜面レベルのことはもうすこし神経質にコピーしたほうがいいと思います。ハル・ブレインの譜面とは、タムタムの使い方がだいぶちがいます。

◆ さらにひねるとタダのパスティーシュ ◆◆
ソロではなく、ユートピアの名義でですが、トッド・ラングレンはビートルズの楽曲を使わずに、The History of the Beatlesとでもいった雰囲気のアルバム、Deface the Musicもリリースしています。

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つまり、楽曲は自分のものなのだけれど、アレンジとサウンドはビートルズ風になっているのです。しかも、これが初期からはじまって、だんだん変化し、最後はペパーズあたりの音で終わっているという趣向です。なんだかバカげた遊びのようですが、でもまあ、音楽は本質的に遊びですからね。

初期サウンド風にやっている2曲をサンプルにしました。I Just Want to Touch Youは、タイトルは「抱きしめたい」を思わせるものの、サウンドのベースになっているのはFrom Me to Youでしょう。2曲目のThat's Not RightはFor Saleぐらいの時期なので、Eight Days a Weekのつもりだと思います。

サンプル Utopia "I Just Want to Touch You"

サンプル Utopia "That's Not Right"

しかし、考えてみれば、完コピを盤にするのは異常なことですが、この種のパスティーシュはいくらでも例があります。そもそも、ジョージ・ハリソンのAll Those Years AgoやそのB面のWhen We Was Fabなんか、ホンモノによるパスティーシュだと感じました。

I always looked up to you (yeah, indeed!)


ウーム、涙腺直撃歌詞、涙なくしては聴けません。

俺たちがファブだったころ


そして、ビートルズ自身によるFree As a BirdやReal Loveだって、「ホンモノによるパスティーシュ」とでもいうべきものだったと思います。あれをauthenticかつgenuineなビートルズのトラックと呼ぶのは無理があるでしょう。





どちらもそれほどたいした曲ではないのですが、こんなんでも大ヒットさせてしまうところが、ファブ・フォーの魔力というヤツで、もう半世紀近くたつのに、依然としてわれわれが彼らに魅入られたまま、正気に立ち戻れずにいることに驚きを禁じえません。たいていの魔法は、時がたてば解けるものなのですがね。

トッド・ラングレンやアンドルー・ゴールドのように、正真正銘のビルボード・ヒットのある人たちが、高校生みたいに本気でコピーをしたあげく、盤にして他人にも聴かせたいだなんて愚かしいことを考え、また、われわれのほうも、つい、どれどれ、どれくらい似たかな、なんて、世にもくだらないことをたしかめてしまうのも、やはり「魔法」のせいかもしれません。


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トッド・ラングレン Faithful(なんだこの邦題は!)
誓いの明日(K2HD/紙ジャケット仕様)
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ユートピア Deface the Music
Deface the Music
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ジョージ・ハリソン Somewhere in England
Somewhere in England
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by songsf4s | 2010-08-19 23:58 | その他