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ロベール・アンリコ監督『冒険者たち』(Les Aventuriers)その5
タイトル
Les Aventuriers
アーティスト
Joanna Shimkus
ライター
Francois de Roubaix
収録アルバム
Francios de Roubaix Anthologie Vol.2
リリース年
1967年
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◆ 継承者たち ◆◆
前回、ロベール・アンリコは、『冒険者たち』を撮るとき、ある日本映画を意識していたのではないか、とだけ書いて、それがどの作品かというところにまではたどり着けませんでした。

すでにおわかりの方も多いでしょうが、たとえまだおわかりでなくとも、過去に二度掲載したこのスクリーン・ショットをご覧になれば、あっさりおわかりでしょう。

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『狂った果実』エンディング直前の空撮ショット

もちろん、中平康の『狂った果実』(1956)です。いや、『冒険者たち』がたとえばアメリカ映画で、作中に日本映画の輸入をしている会社が出てこなければ、たんなる「他人の空似」と片づけたでしょう。

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しかし、この時期のフランスとなると、やはり考えないわけにはいきません。ゴダールもトリュフォーも『狂った果実』を見たというのだから、ロベール・アンリコだって見た可能性はおおいにあります。

それに、いや、われながらくだらない共通項を持ちだすものだと、やや遠慮気味なのですが、片や『狂った果実』は兄弟と「ヴァンプ」(てな言葉を大昔のハリウッド映画はよく使った)の三角関係、片や『冒険者たち』は兄弟のように深い絆で結ばれた男たちと女の三角関係です。そして、両方とも、最後には男ひとりが生き残り、キャメラは海の上を旋回しながら上昇します。他人の空似というには、ちょっと似すぎているような気が、わたしにはするのです。

そして、これはほんとうにたんなる偶然にすぎませんが、『狂った果実』は武満徹にとっての最初の映画スコア、『冒険者たち』はフランソワ・ド・ルーベにとって(たぶん)最初の映画スコアです。東西の素晴らしい作曲家の清新なスコアを聴ける映画なのです。

もうひとつ、だんだん血のつながりは薄くなりますが、『八月の濡れた砂』もこの系譜に連なるのではないかという気がちらっとします。明白な類似は海上旋回上昇エンディングだけですが、藤田敏八は『狂った果実』はもちろん、『冒険者たち』だって見ていたのではないでしょうか。

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『八月の濡れた砂』エンド・タイトル

またまたたんなる偶然ですが、『八月の濡れた砂』は、むつひろしにとって最初(でおそらく最後)の映画スコアです。実体としての関連もいろいろですが、たんなる偶然もいろいろあるものです。

(追記 あとから確認したら、『狂った果実』ではキャメラは旋回しないし、上昇しない。旋回するのはモーターボートのほう。旋回上昇は『冒険者たち』で登場し、『八月の濡れた砂』でも使われる。)

(さらに追記 Oさんのコメントにあるように、『冒険者たち』はフランソワ・ド・ルーベの処女スコアではない。本文を書き換えようかと思ったが、間違いと訂正のセットのほうがいいような気がしたので、追記で補訂。)

◆ 歌う俳優たち ◆◆
さて、『冒険者たち』のスコアや関連楽曲のサンプルを補足しておこうと思います。まず、すでにご紹介済みのテーマをもう一度ここにも置いておきます。

サンプル Francois de Roubaix "Journal de bord"

つづいて、映画には登場しないトラックを二種。まず、アラン・ドロンの歌、というか、語りに近いものを。

サンプル Alain Delon "Laetitia"

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お聴きになればおわかりのように、この曲はJournal de bordの「口笛セグメント」をベースにしています。しかし、シングル盤を買ったときには、なんか変だなあ、と思いました。テーマ曲をモティーフにした曲ではありますが、映画には出てこないんですからね。やはり、話題作りとして、映画には嵌めどころがないとしても、アラン・ドロンの歌というのをリリースしたかったのでしょう。これは日本だけでなく、フランスでもリリースされたようで、ウェブで45スリーヴを見かけました。

かわってこんどはジョアナ・シムカスの歌です。

サンプル Joanna Shimkus "Les Aventuriers"

これはどういう曲かというと、Journal de bordのピアノ・セグメントの、そのまた一部をモティーフとしてヴォーカル曲に仕立て直したものです。ピアノ・セグメントの冒頭部分、Cm-Am7-Ab-Gといった感じのコードのところは略して、ややメロディックに変化してからの部分だけを抜き出しているのです。

わたしは、変奏曲をうまく使ったスコアが大好きなのですが、つらつら考えてみると、変奏曲を多用した『冒険者たち』のスコアは、そういう好みの結果ではなく、原因のようです。この映画のスコアを聴いたことで、以後のスコアの聴き方の基本的方向性が決定されたのだと思います。このLes Aventuriersという曲の構成の仕方を見ると、やっぱり変奏曲の作り方がうまいなあ、と改めて感心します。いや、モティーフの使い方がうまい、というべきでしょうか。

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ジョアナ・シムカスの歌も素人のよさが出ていて、なかなか味わいがあります。ドロンのLaetitiaは嵌めどころがないでしょうが、ジョアナ・シムカスのLes Aventuriersは、ギター一本のバッキング(フランソワ・ド・ルーベ自身のプレイらしい)ではあるし、コンゴのシークェンスの、たとえば夜の場面なんていうので歌うようにすればよかったのに、と思います。

いまさらのように気づいたのですが、コンゴの夜間シーンというのがありません。なぜなのか。いま思いつくのは、夜は恋人たちの時間であり、その一歩手前で足踏みをしている、ロラン、マヌー、レティシャには、夜が似合わないのかもしれない、ということぐらいです。だいたいが、夜間シーンのほとんどない映画で、マヌーと恋人の逢瀬を描いた二つのシークェンス、レティシャの個展、ロランとマヌーが賭場から出てくるところ、それくらいではないかと思います。昼間の映画なのです。

もう一曲、これは映画に登場するトラックです。

サンプル "Enterrement sous-marin"

これはレティシャを水葬にするシーンで流れるもので、これまた絵と音がみごとに響き合っています。

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エンド・タイトルで流れる、Journal de bordのスロウ・ダウンした変奏曲も素晴らしいのですが、そんなことをいっていると、結局、すべてのトラックをサンプルにするようなことになってしまうので、ここらで切り上げます。

◆ 落ち穂拾い ◆◆
脈絡なく、箇条書きのように、書き落としていたことを二つ。

アラン・ドロンのことをアクション・スターだと思って見たことはなかったのですが、『冒険者たち』では、何カットか、身のこなしがすごく魅力的に感じられるものがあります。とくに、再び島にやってきて、漁船を雇って要塞島にわたるまでのきびきびした動き、その運動感覚には素晴らしい魅力があります。

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cinematographyでありmotion pictureなのだから、基本は運動、動きにあるわけで、身のこなしは重要だなあと改めて当たり前のことを思いました。

もうひとつ、レティシャの従兄弟である少年が、妙に懐かしく感じられることも書き加えておきます。なんだか、小学校のときの仲間に、ああいうヤツがいたような気がしてきてしまうほどです。さらにいうと、つげ義春の『紅い花』に出てくる、軍帽をかぶって釣り竿をかついだ少年のことも思いだしてしまいました!

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といって終わろうとしたところで、もうひとつ思いだしました。双葉十三郎が『ぼくの採点表』で、『冒険者たち』を取り上げていて(当たり前だ!)、その書き出しが以下のようになっているのです。

これは青春へのレクイエムというべきロベール・アンリコの傑作である。

ジョアナ・シムカスは「青春」まっただ中でしょうが、ドロンだってもう青年というには苦しいし、リノ・ヴァンチュラにいたっては中年ないしは初老です。しかし、おかしなことに、この映画はまさに、双葉十三郎がいうように、若き日の夢の終わりを描いたのだとわたしも感じます。

これって、ひどく奇妙なようでもあるし、当たり前のようでもあるし、考えるとよくわからなくなります。人の心は結局老いることなどできず、いつも同じ心で生きているから、恋をすれば、見かけの物理的年齢を超越してしまうということかもしれません。いえ、思いつきを書いただけなので、本気にしないでほしいのですけれどね!


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Les Aventuriers OST
Francois de Roubaix: Le Samourai; Les Aventuriers
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by songsf4s | 2010-05-22 23:57 | 映画・TV音楽