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ロベール・アンリコ監督『冒険者たち』(Les Aventuriers)その4
タイトル
Journal de bord
アーティスト
Francois de Roubaix
ライター
Francois de Roubaix
収録アルバム
Les Aventuriers OST
リリース年
1967年
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ロベール・アンリコは日本映画ないしは日本文化に興味を持っていたのか、『冒険者たち』では二カ所で日本に言及しています。ひとつは、マヌーがコンゴの一件の情報を仕入れるシーン、日本レストランでの会食です。

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なんだか変なレストランですが、まあ、パリではこうだったのでしょう。もうひとつは、凱旋門くぐり抜け飛行を記録したらフィルムを買い取るはずだった、映画輸入会社です。

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このマネージャーは「京橋」という名前で(いや、発音は「清橋」に聞こえるが)、事務所には日本映画のポスターが貼ってあります。わが友〈三河の侍大将〉Oさんも『冒険者たち』の大ファンだそうで、さっそく私信をくださり、そのなかで、あのポスターはなんの映画のものでしたかねえ、とおっしゃっていたので、ここで解決することにします。

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というように、タイトルは「がれる歌」と読めるだけで、不完全ですが、右のほうに「松山」の文字が見えます。ここまでヒントがあれば、確実にあぶり出せます。答は1965年の東宝映画、松山善三監督『戦場にながれる歌』です。

この二度にわたる日本への言及は、たんなる背景であって、たいした意味はないのかもしれません。でもわたしは、ロベール・アンリコがある日本映画を意識して、『冒険者たち』を撮ったのではないかと考えています。それについてはのちほど。

◆ エンディングまでのプロット ◆◆
莫大な財宝を得、その代償にレティシャを失ったロランとマヌーは、フランスに戻り、レティシャの縁者をもとめて旅をします。財宝発見とその山分けというアッパーな流れから、レティシャの死と水葬、そして縁者捜しというグルーミーなシークェンスへの転調に味わいがあり、大人になってからは、レティシャの死以後のスロウ・ダウンした世界を楽しむようになりました。

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レティシャが育った過疎の村の夫婦に、レティシャの親族からもらった葉書を見せられ、ロランとマヌーはその住所にあった島を訪れます。そこで、レティシャの従兄弟にあたる少年と知り合い、レティシャの取り分をこの少年の財産として両親に託します。

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ある日(翌日という設定か?)、ロランは少年と海岸を散歩をしていて、宝物を見せてあげるといわれます。二人の視線の向こうには、レティシャが買いたいといっていた海に浮かぶ要塞がありました。

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マヌーも交えて三人は要塞島に行きます。少年が宝物といっていたのは、第二次大戦中にこの島に駐屯したナチスの軍隊が残していった兵器と弾薬でした。

結局、マヌーは島の生活に退屈したのか、ロランを残してひとりパリに帰ります。昔のクラブに戻って複葉機を飛ばしたり、バカラなどで遊んでみたり、かつての恋人に会いに行ったりしますが、結局、マヌーの心を落ち着かせるものはありません。昔の恋人と一夜をともにした翌日、かつてレティシャが個展を開いた会場に行ったマヌーは、その足でロランのいる島にもどることにします。

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ロランは家を留守にしていて、マヌーは要塞島にいきます。思ったとおり、そこにはロランがいて、この島を買った、改築してホテルにする、と楽しそうに計画を語ります。マヌーは、それはレティシャのためか、とききます。レティシャからそのプランをきいたのだろう、とマヌーにいわれても、ロランは、いや、きかなかった、とウソをつきます。

そのとき、下の中庭に、パリからマヌーを尾けてきた傭兵たちがあらわれ、二人に銃を向けます。マヌーとロランは、ナチスの武器で傭兵たちを皆殺しにしますが、その戦いのさなかにマヌーは撃たれ、ロランの腕のなかで息を引き取ります。ロランは、レティシャはおまえと暮らしたいといっていた、といいます。

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◆ デス・ウィッシュ ◆◆
考えてみると、この構成はちょっと変わっています。この題材だったら、多くのシナリオ・ライターは、レティシャが死んだところで、その余韻のなかで話を締めくくる道をさぐるのではないでしょうか。見方によっては、『冒険者たち』の最後の30数分は蛇足のように思えなくもありません。しかし、こうしてまた十数回目だか二十数回目だかの再見をしても、この映画は要塞島までいって、はじめて完結するのだという感がいっそう深まりました。

どこから手を着けたものか……。深く考えずに、思いついたことをあげます。今回の再見でいちばん気になったのは、マヌーの行動が慎重さを欠くことです。パリでずっと見張られ、尾けられていることに気づかないのも、かつて暗黒街に生きた人間にしては不用心ですが、そこはまあいいとしましょう。

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問題は、要塞島で、傭兵たちに「動くな」といわれたときに、イチかバチかで武器庫へ突っ走るところです。この無鉄砲さは意図的演出なのだと思えてきました。マヌーは喜んで命を張ったギャンブルをする気分にあることを表出させたのではないでしょうか。

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マヌーは武器庫からルガーを二挺もって戻ると、ロランを狙っていた敵をひとり斃します。そこまではいいのですが、その位置から移動するときに、まったく身を隠すつもりのない走り方をするのです。これもまた意図的な演出に思えます。簡単にいえば、「ちょうどいいや、死にたい気分だぜ、殺してみろよ」というふるまいに見えるのです。

彼はたったいま、ロランがレティシャのプランを引き継いだことを知ったばかりなのです。レティシャにプロポーズを断られたときが一回目の失恋だとすれば、彼はここでもう一回、愛する女に拒絶され、年来の友が彼女を得たことを確認したのです。

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レティシャが死んでしまった以上、それを訂正することはぜったいに不可能だし、しかも、彼女が愛した男は、彼が生死をともにしてきたこの世でいちばん大事な友人です。マヌーにできることはなにもありません。パリに行っても、なにも生きる道を見つけられなかったマヌーは、ここでロランとともに暮らす道も閉ざされたように感じたでしょう。

以前はそんなふうに思ってマヌーの行動を見ていたわけではありませんが、あの慎重さを欠く、あるいは、大胆すぎるふるまいは、そういう心理の表出として演出されたのだと思えてきました。映画には、無意識の産物はほとんど登場しないものです。

◆ 長く稀薄な余生 ◆◆
『冒険者たち』は、結局、昔からの古い酒を新しい革袋に盛った映画なのでしょう。三角関係だけが「古い酒」ではありません。われわれはなにかを追い求めているときは幸せだが、それを得てしまったら不幸せになるのだというパラドクスもまた、古来からある「酒」でしょう。

あるいは、そもそも、彼らは追い求めるものをまちがえたのかもしれません。三人が必要としていたのは、お互いが一緒にいることを保証する理由付けにすぎなかったのに、富を得ることが共通の目標だと誤認し、その罪によって罰を受けなければならなかった、とも考えられます。

もっとも大きな苦痛を味わったのは、最後に生き残ったロランです。死んでいったものはある意味で幸せです。ロランは生き残ったがゆえに、三人分の空漠たる時間を引き受けざるをえなくなるのです。

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マヌーは、島を見物しながら、レティシャをコンゴに連れて行ったことで自分を責めているとロランに語ります。ロランは、おまえひとりのせいではない、と慰めますが、財宝のためにマヌーまで失ったとき、ロランが思ったのはそのことでしょう。自分の愚かさゆえにかけがえのない人びとを失った、という絶望的な後悔の念です。

われわれが生きていくのに必要なのは、財物ではなく、人なのだという当たり前の真理に気づき、大事なのはそれだけなのだと見極めをつけられれば、ロランはレティシャとマヌーを失わずにすんだでしょう。死の代償を払ってそう覚ったときは、もう手遅れだったのです。

たぶん、彼はホテルの計画を放棄し、レティシャの従兄弟である少年の成長だけを心の支えに、空虚に落ちる手前でかろうじて生きていくことになるでしょう。二度と充実した生の実感を得ることはないにちがいありません。

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『冒険者たち』をさらに延長し、今回は前振りだけになってしまった、ロベール・アンリコが気にしていたかもしれない日本映画のことなどにふれ、さらにスコアのサンプルの補足をする予定です。


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Les Aventuriers OST
Francois de Roubaix: Le Samourai; Les Aventuriers
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by songsf4s | 2010-05-21 23:56 | 映画