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メイン・タイトル by 飯田信夫(新東宝映画『暁の追跡』より その2)
タイトル
メイン・タイトル
アーティスト
飯田信夫
ライター
飯田信夫
収録アルバム
N/A(『暁の追跡』OST)
リリース年
1950年
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『暁の追跡』という映画で愕くのは、ふつうの映画ならセットにするだろうというシーンのほとんど、または、すべてがロケーションで撮影されていることです。もちろん、絵からはセットかロケかを判断できないものもありますが、窓のある部屋、つまり、窓外の風景が見える室内シーンは、すべてロケーションです。

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これはどういうことでしょうか。わたしに思いつくのは、ジュールズ・ダッシンの『裸の町』の影響かもしれない、ということぐらいです。あの映画も全編ロケーションでニューヨークの町を捉えています。若き市川崑も、東京を「裸の町」として描いてみたかったのではないでしょうか。

シネマ・ヴェリテ的犯罪物語というのは、1950年にあっては時代の最先端だったのだろうと想像します(『暁の追跡』は『裸の町』の二年後に公開された)。これでドラマ作りがフリーフォームだったら、ヌーヴェル・バーグになってしまうのですが、まさか、そこまでぶっ飛んではいません。しかし、徹底したロケーション撮影はすばらしい効果をあげていて、わたしはおおいに楽しみました。

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勝鬨橋。こんなところで水泳をしているのに仰天する。戦後しばらくのあいだ、大川が澄んでいたという話を読んだことがあるが、1950年でもまだ泳げるほどきれいだったのだろうか?

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勝鬨橋をわたって月島に向かう池部良。いつだったか、月島ですしを食べたあと、ちょっと歩こうといって、池部良とは逆のコースをたどって、銀座を経由して新橋から電車に乗って帰ったことがあった。十分に歩ける距離だが、この映画は真夏の話で、そんなときに日陰のない勝鬨橋を歩いてわたりたくない! ついでにいうと、『乳母車』と同じように、この映画でも「橋」は異界への通路として扱われている。

◆ 立体としての東京 ◆◆
不審者を追跡して死なせたり、同僚の伊藤雄之助が拳銃を暴発させて首になったり、いくつかの事件が重なって池部良は転職を決意します。転職事情はいまとはずいぶん異なり、戦友を訪ねてまわる池部良のすがたに、へへえ、といってしまいました。派遣会社の中間搾取がないのはけっこうですが、真夏の東京を歩きまわるのは、見ているこちらも疲労感を覚えます。

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成瀬証券と山二証券の現況は下の写真を参照されたい。突き当たりに見える窓が二連になった建物は日証館で、これも無事である。日証館に突き当たったところで右に曲がれば、左側、日証館の並びに東京証券取引所が見える。むろん、取引所の現在の建物は見るに値しないし、映画の舞台にも使いようのない凡庸なデザインである。

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兜町はクラシックなビルがほとんど消えてしまったが、山二証券と成瀬証券は奇跡的に無事である。撮影は2009年10月。映画のキャメラ位置とは逆方向から撮った。

池部良は兜町のあとで有楽町にまわり、ビルの屋上で友人に会います。そのビルはすでにオープニング・シークェンスに登場しています。

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池部良の背後に日劇と朝日新聞が見える。これでこのビルの位置がわかる。

このビルの屋上で友人と話していて、池部良は、線路を挟んだ向かいのビル、すなわち、オープニング・シークェンスで内部を見せたビルで、人が争っているのを目撃し、急いで駈けつけます。

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池部良がその部屋にたどりついたときには、人の姿はなく、机や椅子が倒れ、薬品の瓶とこぼれた粉末が発見されます。この薬品(台詞では「劇薬」といっているが、なんらかの事情で「麻薬」という言葉の使用を避けただけだろう)によって、最初の不審者の逃走と、この一室が結びつけられ、さらに末端の売人の逮捕で(ここにも池部良が噛んでいくところで、いくらなんでも偶然がすぎると感じる)、背後の組織の姿が浮かび上がってきます。

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いやまあ、プロットの重要性は相対的に低いので、その点は気にしないでください。肝心なのは目に見えるもの、視覚表現のほうです。ここに書いた仕事探しから、事件現場の発見にいたるシークェンスも、セットはなく、すべてロケーションと思われます。

職探しのシークェンスでは、キャメラは新橋署管轄の外に出て、もう少し広い範囲で東京を捉えます。この一連の絵からも、やはりジュールズ・ダッシンの『裸の町』に近似したアティテュードが読み取れ、それがこの映画の最大の美点だと感じます。

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◆ 矛盾する被写体 ◆◆
わたしは町を捉えた映画が好きなので、『暁の追跡』は冒頭からそういう映画だと感じ、だとしたら、もっともだいじなことは、当然、「いかに町を撮影したか」であり、そこに着目しました。そして、冒頭に書いたように、途中から、室内のショットの撮り方が気になりだしました。

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窓がある室内のショットは、ほぼすべてのケースで、ロケーションであることが明白にわかるように撮っています。はっきりとはわからないものでも、窓外の立ち木の枝葉が風にそよいでいて、ロケだろうと推測できるようになっています。ここでは、そういうショットをいくつか拾ってみます。

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昭和25年の映画なので、フィルムの質はあまり期待できないのですが、そのわりには、暗い室内と明るい屋外を捉えたショットは、どれもほぼうまくいっていて、すごいものだな、と思いました。いや、見るほうは感心するだけですみますが、現場は艱難辛苦の、どこまで続く泥濘ぞ、だったのかもしれません。ほんとうに、矛盾する二つの被写体をよくもまあきれいに同じショットに収めたものです。それが全編にわたってつづくのだから、いやもう、現場の苦労を想像すると、こちらまでつらくなってくるほどです。

◆ トントントンカラリっと ◆◆
前回は挿入曲のひとつ、李香蘭(山口淑子)の「夜来香」をとりあげましたが、今回はスコアから一曲。メインタイトルです。

サンプル 『暁の追跡』メイン・タイトル

『暁の追跡』の音楽監督である飯田信夫は、わたしが知っているものとしてはほかに『秀子の車掌さん』『鶴八鶴次郎』『雪崩』といった成瀬巳喜男作品でもスコアを書いています。

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飯田信夫作でもっと人口に膾炙した曲は「トントントンカラリっと、隣組」という徳山璉の「隣組」でしょう。戦時下の生活をすごした方たちにとっては不快かもしれませんが、わたしは戦後生まれなので、この歌が好きです。歌謡曲史上もっともキャッチなーメロディーと歌詞の組み合わせではないでしょうか。一度聴いただけで覚えてしまいます。

隣組(部分)


もう一回だけ延長して、『暁の追跡』のクライマクスのロケ・シークェンスを見ることにします。


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by songsf4s | 2010-03-06 23:53 | 映画・TV音楽