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タイトル・ミュージック by 伊部晴美(日活映画『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』より その1)
タイトル
タイトル・ミュージック
アーティスト
伊部晴美
ライター
伊部晴美
収録アルバム
日活映画音楽集 監督シリーズ 鈴木清順
リリース年
1963年
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上梓から数年を経て、ようやく矢作俊彦『ららら科學の子』を読みました。若いころは、好きな書き手の新作はこまめに読んでいたのですが、結局、最後までそういう風に接したのは山田風太郎のみ、半村良ですら晩年(死が早すぎたので「晩年」の感覚はなかったが)にはもうあまり買っていませんでした。

タイトル・ミュージック by 伊部晴美(日活映画『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』より その1)_f0147840_23582353.jpg矢作俊彦がほんとうに好きだったのは1970年代のことで、いまだにタイトルを覚えられない、スズキさんのなんとかという本のレヴューを読んだ時点で関心が冷め、「以前、よく読んだ作家」になってしまいました。

むろん、作家は変貌していかなければならず、矢作俊彦が「ふつうの小説」を書くようになったのは必然ですし(処女短編「抱きしめたい」の冒頭数パラグラフを読んだだけで、資質としてはメインストリームの書き手であることが明瞭に読み取れた)、内容に合わせてスタイルが変化していったのも、当然すぎるほど当然です。

◆ 30年の欠落 ◆◆
熱を失ってから読んだ数冊は、「他の日本の作家よりは面白い」というところでしょうか。昔のような蠱惑的スタイルは、当然ながら、もうよみがえるはずはないのです。結局、ときおり、デビュー作「抱きしめたい」などの初期短編、処女長編『リンゴォ・キッドの休日』、『マイク・ハマーへ伝言』、そしてわたしにとってはつねに彼の代表作である『真夜中へもう一歩』をひっくりかえすだけの「懐かしい作家」になってしまいました。いまも書き続けている人に対して、まことに失礼な言いぐさなのですが!

『ららら科學の子』も、昔のように舌なめずりして読むような長編ではありませんでした。主人公は作者と同年齢ぐらいに設定され、1969年、学生運動のいきがかりで警官に対して殺人未遂を働いたとして指名手配され、文化大革命末期の中国へと密航します。

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それから30年たって、主人公は蛇頭の手引きで日本に帰ってきます。ついこのあいだまではテレビもなかったような中国の山奥で30年暮らした主人公の、「20世紀浦島太郎の東京地獄巡り」とでもいうべき数日間の物語、と表現しても、的はずれではないでしょう。

主人公は映画青年だったのですが、中国の山奥にはテレビすらないので、彼が知っている映画は1969年までのものだけ、音楽もそれに準じていて、ハワイというと、エルヴィスのBlue Hawaiiか、ビーチボーイズのHawaiiになってしまいます。

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矢作俊彦「抱きしめたい」冒頭(1972年)

そろそろ、この枕がどこにいくかお気づきですよね? つまり、この主人公と、わたしのあいだに、どういう違いがあるのか、ということです。1960年代の疾風怒濤を抜けて、1970年代の無風状態を迎えたときは、たんなる「天候の変化」だと思っていました(もちろん、レイモンド・ダグラス・デイヴィス歌うThere's a Change in the Weatherを連想してもらいたい)。しばらくのあいだは、また嵐がくると信じていたのです。

ところが、いつまで待っても風は吹かず、気がつけば「人間五十年」を過ぎて、「ロスタイム」に入り、いつ死んでもかまわない年齢になっていました。30年間、中国の山奥で映画も見なければ、音楽も聴かなかったような気分です。わたしも、ハワイというと、エルヴィスのBlue HawaiiとビーチボーイズのHawaiiと、ヤング・ラスカルズのHawaiiになってしまいます。岡晴夫の「あこがれのハワイ航路」にはなりませんがね!

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◆ I think I'm goin' back ◆◆
1969年かあ、とため息をつきました。いまふりかえれば、もう断末魔の年のような気がします。1970年以降に経験したことはみな余生の出来事のようだし、音楽に関するかぎり、68年にはもう自分の一生は終わっていたような気がします。映画はもっとずっと長持ちしましたが、それにしても70年代に入ると、もう「映画館で暮らす」ような状態ではありませんでした。

しかし、まだ高校生だったのだから、自分の人生が終わったなどという自覚はもちろんないし、音楽や映画だって「終わった」とは認識していませんでした。自分の趣味が変わったために、同時代のものが面白くなくなったのだという認識です。現実は逆でした。世の中は変わったのに、自分だけは変わらなかったために、同時代の作物が面白くなくなったのです。

70年代は、いまふりかえれば「Uターン開始」の時期でした。突然、子どものころに聴いたレスリー・ゴアの盤が欲しくなるなんて、60年代の疾風怒濤時代には思いもよらないことでした。「next」だけがあり、「previous」がないのが60年代という環境だったのです。未来に向かって一方通行で全力疾走していました。

「話の特集」だったか、「ガロ」だったか(こういう雑誌のバックナンバーを買い集めはじめたのも70年ごろで、そういう面でもやはりUターンをはじめていた)、鈴木清順という「元日活の映画監督」のエッセイを読んだのも、たぶん1971年のことです。

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どういうエッセイだったか、鈴木清順という人物のどこに興味を持ったのか、もはやそういうことはなにも覚えていません。ひょっとしたら、わたしはもう無意識に180度舵を切り、過去に向かって歩きはじめていて、レスリー・ゴアを思いだしたように、宍戸錠を思いだし(現役で活躍していた俳優に対して失礼千万だが)、どの映画館よりも日活に入ることにスリルを感じていた時期があったことを、思いだしはじめていたのかもしれません。鈴木清順は原因や理由ではなく、空気中に満ちはじめていた水分を凝縮させるための核にすぎなかったようにも思います。

どうであれ、「鈴木清順」という名前を記憶したちょうどそのころ(ついでにいうと、「そのころ」は、はっぴいえんどのデビュー盤と、ジム・ゴードンが好きだった)に、テレビの「深夜劇場」で、その監督が撮った宍戸錠主演の『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』が放映されました。

◆ タイトル・ミュージック ◆◆
枕でもたもたしたために、時間がなくなってしまったので、今日は『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』の冒頭にふれるだけにとどめ、本格的に見るのは次回ということにします。

アヴァン・タイトル


このクリップがこういう編集になったのは当然だろうと思うのですが、じつはこの直前に12小節分のキューがついています。タイトルで流れるのと同じ曲なので、省略したのは理解できますが、おかげで、やや奇妙な構成のアヴァン・タイトル・シークェンスだということがわからなくなっています。以下に、素直に冒頭のサウンドトラックを切り出したものを示しておきます。

サンプル タイトル・ミュージック完全版

この曲は数種類の編集盤に収録されているのですが、わたしが聴いた2種類は、後半の冒頭であるスネアのパラディドルではじまるようになっていて、上記のクリップと同じように、最初の12小節は省略しています。

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What'd I Sayに似た、リフ・オリエンティッドな12小節のブルースも面白いのですが、より日活らしさを感じるのは、その中間にある、スタンダップ・ベースとヴァイブラフォーンしか聞こえない、スロウな4ビートのキューです。どちらかというと、4ビートのキューのほうが、この映画のスコアの基調といえるでしょう。

以下、次回につづきます。
by songsf4s | 2010-01-21 23:26 | 映画・TV音楽