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(仮)夜のハイウェイ by 伊部晴美(日活映画『赤いハンカチ』より その5)
タイトル
夜のハイウェイ(仮題)
アーティスト
伊部晴美
ライター
伊部晴美
収録アルバム
N/A(『赤いハンカチ』OST)
リリース年
1964年
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『赤いハンカチ』もそろそろ最終コーナーというところにさしかかりました。結末は伏せて書くこともあるのですが、今回は全部書いてしまいます。『赤いハンカチ』という映画について思うことは、主として結末にかかわることだから、そこを書かないのでは、この映画を取り上げる意味がありません。

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舛田利雄監督(左)と浅丘ルリ子

いや、今日もまた残り時間僅少の時間帯に書きはじめているので、決着をつけられない恐れもありますが、その場合でも、結末に近いところまでは確実にたどり着きます。これから見るのだから、肝心なところは知りたくない、というお方は、今日はパスするのがよろしかろうと愚考します。

それでも、サンプルはお聴きになりたいという方もいらっしゃるかもしれないので、この記事の最後に、サンプルだけをまとめておきます。ただし、『赤いハンカチ』のサンプルはすべて映画から切り出したものなので、台詞が入っています。ということは、クライマクスの展開がある程度わかるということです。それをご承知おきのうえでお聴きください。

◆ テンポ・チェンジ ◆◆
前回の記事の最後に、二谷英明の命令で、ヤクザ者が石原裕次郎を取り囲んで、飲屋街の裏手のひと気のない場所につれていき、威しをかける、というくだりを書きました。

ここで(たぶん)柳瀬志郎がくりだしたドスを裕次郎がよけ、まちがって(たぶん)深江章喜に刺さってしまいます(暗くて速くてだれがだれだかよくわからない!)。たんに「ハマから出て行って欲しい」だけなのに、ドスをくりだすのは矛盾していますが、まあ、ヤクザ者は知的で冷静ではないから、と解釈しておきましょう。でも、殺しちゃったら、あとでボスにこってり絞られるでしょうねえ。

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乱闘になったところでパトカーのサイレンが聞こえ、裕次郎もヤクザ者も散り散りになって逃げます。

ここも説明がないのですが、なぜか、またしても、金子信雄警部が先頭になって現場に駈けつけます。速い展開だから、たいていの観客はこだわらないのでしょうが、でも、警察機構からいって、金子信雄が無所属遊軍的に動き、しかも、裕次郎をつけねらっているかのように、かならず現場に駈けつけるのは、「映画だからな」といわれても仕方のない処理です。

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ただし、ここで金子信雄が「緊急指名手配、三上次郎」と、きびきびと部下に命じ、ポーンとショットが夜のハイウェイを疾駆するベンツに切り替わって、速い4ビートの音楽が流れるのは、まさに映画的魅惑が凝縮された一瞬です。

サンプル 「夜のハイウェイ」

この音楽がまた、じつにすばらしいグルーヴで、この時代の日本のジャズ・プレイヤーはかなりのところまで来ていたことが伝わってきます。ジャズはおおむねそうなのですが、この曲に関しても、グルーヴの主たる担い手は、ドラムではなく、スタンダップ・ベースです。これは伊部晴美が書いたものではなく、ありものを嵌めこんだ可能性もあります。もしも、だれのなんという曲かご存知の方がいらしたら、コメント欄でご教示をお願いします。

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どうであれ、スパニッシュ・ギター一本の静かなキューが中心のこの映画に、突然あらわれるこのアップテンポのグルーヴは鮮烈です。ほんの30秒ほどで終わってしまうのが残念でなりません。

この転換は、やはり物語がここから最終コーナーに入ることを、映像としても、音としても宣言する意図があってのことなのでしょう。ということは、ここでは監督の意向も、アップテンポの曲ということだったと考えられます。

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◆ 四年の歳月をUターン ◆◆
上記の4ビートの曲は、二谷英明が浅丘ルリ子を同乗させ、箱根に向かって夜のハイウェイを疾駆しているシーンで流れます。ということは、国道1号か134号と想定されるのですが、夜なので目標物がなく、判断できません。「気分だけ」でいうなら、134号茅ヶ崎付近と感じます。いや、一瞬、道路際の防砂柵が映るのが手がかりになります。あの時代、防砂柵があったのは、あのへんでは、片瀬から茅ヶ崎にかけての一帯だと思います。

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ラジオは「三上次郎」(石原裕次郎)の指名手配を伝えている。

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浅丘ルリ子は二谷英明を置き去りにし、ひとりで横浜を目指して引き返してしまう。

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そして、金子信雄警部の緊急指名手配の結果である検問に引っかかり、免許不携帯の二谷英明は車から降ろされます。ラジオのニュースで石原裕次郎が指名手配されたことを知った浅丘ルリ子は、夫が車を降りたすきに、横浜へとUターンさせていまいます。ここは、車を使ったことで、もう後戻りはない、不退転の決意で裕次郎のほうへと気持が雪崩落ちたことが表現されたシークェンスです。

ということで、居ても立ってもいられない焦燥を抑えながら、浅丘ルリ子が横浜に向かって車を疾駆させるシーンで流れる音楽もサンプルにしました。ここは、先ほどの4ビートのキューとは異なり、この映画の基調であるマイナーのギター・キューです。妥当な切り替えだと感じます。

サンプル 「玲子のテーマ」

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ギター・キューはいずれも3種類ほどのテーマを応用したヴァリエーションで、テンポやアレンジを変えて、同じフレーズが何度も登場します。わたしもだんだんわからなくなってきているので、メロディーとしては重複しているものもあるかと思いますが、どうかあしからず。

◆ ふたたび襲撃 ◆◆
例によってなんの説明もないのですが、二谷英明と浅丘ルリ子が留守のあいだに、石原裕次郎は二谷邸に忍びこみます。勝手に解釈するなら、なにか四年前の事件に関する証拠か、現在の二谷の悪行の手がかりを求めてのこと、というあたりでしょうか。

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愛する女の家に忍びこむなどということをするから、天罰覿面、ナイティーやらベッドやら、見たくないものを見てしまう。

そこへ、タクシーでもつかまえたのか、二谷英明が「玲子、玲子!」と大声をあげながら帰ってきます。奥様はあれからお戻りになっていません、といわれて、二谷はヤクザ者に電話をかけます(向こうの声は柳瀬志郎のようだ)。手段はまかせる、だが証拠は残すな、というのだから、これは抹殺指令です。

ここから二人の格闘になり、『俺は待ってるぜ』ほどではないにしても、なかなか見応えのあるファイトを見せてくれます。つながったままの電話からは、ただならぬ気配を感じた男が「石塚さん、石塚さん、いまいきます!」と叫んでいる声が流れてきます。ここはちゃんと伏線を張ったのだということがあとでわかります。

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二谷英明を叩き伏せた石原裕次郎は、二谷邸の外に出るのに低い門を飛び越え、ちょっと太りはじめたけれど、まだ体が動くところをデモンストレーションします。

しかし、外に出てみると、向こうからヘッドライトが迫ってきて、裕次郎は車に追われて坂道を逃げます。ということで、そのときに流れる、ジャズ・コンボによるキュー。このトラックもテンポが速く、ビートがあり、展開が切迫してきたことを象徴しています。

サンプル 「襲撃」

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最後の銃声は、追いつめられた裕次郎が車に向かって発砲したところです。

あとわずかなのですが、エンディングはゆっくり書きたいので、本日はここまで、次回、完結とします。お約束通り、今回使ったサンプルを以下にまとめておきます。

サンプル 「夜のハイウェイ」

サンプル 「玲子のテーマ」

サンプル 「襲撃」

以上の3トラックです。

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赤いハンカチ [DVD]
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by songsf4s | 2010-01-15 23:58 | 映画・TV音楽