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(仮)フロア・ダンス by 伊部晴美(日活映画『赤いハンカチ』より その3)
タイトル
フロア・ダンス(仮題)
アーティスト
伊部晴美
ライター
伊部晴美
収録アルバム
N/A(『赤いハンカチ』OST)
リリース年
1964年
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たまに見に行くNikkatsu Action Loungeというサイトがあります。英語圏の日活アクション・ファンにとっては貴重な情報源になっているのだと思います。

このトップページに俳優紹介ページへのリンクがあって、渡哲也、高橋英樹、松原智恵子、二谷英明、真理アンヌ、宍戸錠、赤木圭一郎、小林旭、石原裕次郎という名前が並んでいます。ちょっと変ですよ、この選択は。

いや、男優陣はこんな感じでしょう。路線違いの浜田光夫の名前がないのは納得ですし、作品そのものが海外に紹介されていない和田浩二が取り上げられていないのも、当然でしょう。

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舞台は北の地から再び横浜に戻ったことを示すために、キャメラは「横浜バンド」をパーンで見せる。氷川丸から山下公園と海岸通り、そして、ホテル・ニュー・グランドへ。

でも、女優陣はビックリしちゃいます。真理アンヌは、そもそも「日活の女優」と呼ぶことすらわたしはためらいます。ここに彼女の名前がある理由はただひとつ、鈴木清順の『殺しの烙印』のヒロインを演じたからです。

日活の女優といったとき、ふつうはどういう名前が出てくるでしょうか。クウィーンであった時期がズレるので、長幼の序にしたがえば、まず移籍組の北原三枝、つぎに生え抜きの浅丘ルリ子、これは動かないでしょう。

この二人の双方に対して二番手だったのが芦川いづみ、いや、どちらに対しても彼女のほうがクウィーンだった、というファンもいらっしゃることでしょう。このお三方が第一グループ。吉永小百合をはずしたのは、「日活アクション」のヒロインは演じなかったからであり、他意はありません。友人のなかには怖いサユリストがいるので、こういう一言は書いておかないとまずいのでありましてな。

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ニュー・グランドのマーキーの前につけられたベンツから、二谷英明と浅丘ルリ子夫妻が降り立つ。

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ふと、向こうの銀杏の木の下にたたずむ男が浅丘ルリ子の視野に入る。

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「もしや、あれは……」

第二グループは、笹森礼子、松原智恵子、野川由美子あたりではないかと感じます。ここでやっとNikkatsu Action Lounge選出の女優が登場です。第一グループのお三方をさしおいて、松原智恵子がNikkatsu Action Loungeで紹介された理由も簡単に想像がつきます。鈴木清順の『東京流れ者』のヒロインを演じたからです。

『拳銃無頼帖 抜き射ちの竜』でも書きましたが、海外での知名度というのは、なかば運しだいで、日活アクション関係者の場合、鈴木清順の代表作で印象的な仕事をしているか否かが分かれ目になっています。

日活時代の鈴木清順は、彼のいう「ついで映画」、すなわち、フィーチャー作品ではない「同時上映作品」の監督でした。それは清順が石原裕次郎主演映画を一本も撮っていないことに端的にあらわれています。そして同時にこれは、海外では石原裕次郎や浅丘ルリ子が、宍戸錠や松原智恵子ほど有名ではない理由でもあるのです。

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内部もホテル・ニュー・グランドでのロケ。このホテルは二階にロビーがあるし、たいていの人間は裏のエレヴェーターは使わず、この魅惑的な階段をのぼりたがる。

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窓外の風景から、ここは二階ロビーではなく、最上階(旧館)のダイニング・ルームだとわかる。

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どうしても気になり、浅丘ルリ子は再び外を見る。

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この彼我における評価ないしは知名度の落差は、日活映画の本質的部分にもかかわってきそうな気がするのですが、今日、枕にこの話をもってきたのは、そういう面倒なことではなく、簡単な理由によります。当家では過去に北原三枝(『狂った果実』『嵐を呼ぶ男』)、芦川いづみ(『乳母車』『霧笛が俺を呼んでいる』)、そして松原智恵子(東京流れ者』)の映画は取り上げたのに、浅丘ルリ子の初登場はやっと今年になってからのことだからです(厳密にいうと『太平洋ひとりぼっち』に出演しているが、カメオ同然で、シーンは少なく、また、当家の記事自体も映画の内容にほとんどふれず、武満徹と芥川也寸志のスコアに終始した)。

小学校六年の終わりにジーン・セバーグ(『黄金の男』)を見て、むむう、と思い、中学二年でジョアナ・シムカスにノックアウトされるという思春期の嵐のなかで一度は忘れてしまいましたが、わたしは小学校五年までは、ガチガチの浅丘ルリ子ファンだったのです。

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やはり、たしかめたくなって、浅丘ルリ子は階段を下りる。くどいようだが、階段の裏側にちゃんとエレヴェーターがある。だが、この階段を通らせたい監督の気持ちはよくわかる。

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それなのに、いままで浅丘ルリ子映画が登場しなかったのは、それこそただの巡り合わせでしかありません。そろそろ、失したバランスを取り戻そうというのが、先日の『拳銃無頼帖 抜き射ちの竜』その1その2、そして、この『赤いハンカチ』という、浅丘ルリ子映画の連打なのです。

◆ 丘をくだって運河を渡り ◆◆
どうも前回のような調子でサンプルを大量に並べていては、いつまでたっても終わらないし、お客さん方も、どれを聴くべきか迷ってしまうでしょうから、今日はすこしスピードアップします。と宣言しながら、でも、この映画、ここからが面白いところだからなあ、逆にスロウ・ダウンか、とみずから危ぶんでいます!

石原裕次郎は、結局、金子信雄警部の挑発にのってしまい、四年ぶりに横浜に舞い戻ります。その後の行動から、これは金子信雄の狙いだった、二谷英明の欺瞞の暴露というより、恋した女、いまも自分自身を罰しつづける理由となった女が、ほんとうに彼を「裏切った」のかどうかをたしかめるためだと推量できます。表面的にはなにもなかった女に「裏切られる」はずもないのですが、でも、心情としては「裏切り」に感じられる、ということはきちんと描かれています。

いまでは彼女の夫になっている二谷英明とともにベンツから降り立ち、ニューグランドのマーキーに立った浅丘ルリ子を目撃した裕次郎は、その日の夜、泥酔して地回りとゴロをまいて、病院にかつぎこまれます。

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なぜ浅丘ルリ子がニューグランドにあらわれるのを知っていたかも説明されませんが、同様に、通報で駈けつけた警察官のなかに、生活安全課か殺人課に所属すると想定される金子信雄警部がまじっているかも説明されません! たかが地回りがゴロをまいたぐらいで、警部殿がじきじき現場にくるのはやっぱりちょっと変。たまたまべつの用事で公用車に乗って付近を通り、無線をきいて酔狂にも寄り道した、てなことで手を打ちますかな。ちょっと偶然過度ですが。

四年前の事件の関係者をつついて「活性化」させようとしている金子信雄警部は、石原裕次郎が気にかけていたのは、二谷英明ではなく、浅丘ルリ子だったことを知って(そのために、警部殿に警邏警官のようにケンカの現場に駈けつけさせるという強引な処理をしたのだろう)、狙いを変え、浅丘ルリ子のもとを訪れます。

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裕次郎がケガをして入院していることを知った浅丘ルリ子はすぐに見舞いにいきます。このとき、ミンクのコートを着て、ベンツに乗り、山手の丘を石川町裏のスラムに向かって下って行きます。たんに住まいのロケーションを明らかにする以上の意味が、この坂を下るショットにはこめられています。

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病院と病室にたどりつけばその意味はさらに明瞭になります。同じ横浜の病院でも、裕次郎が入院しているのは、『霧笛が俺を呼んでいる』に出てきた横浜中央病院のような近代的な建物ではなく、木造二階建てのボロ病院、それも大部屋です(ただし、ロケに使われたのは貧しい地区ではなく、横浜公園付近の建物ではないかと思うが)。

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ミンクのコートでこの病室に入っていった浅丘ルリ子は、裕次郎の冷たい視線に迎えられ、そして、同室の患者たちの嘲笑を買い、あとから見舞いに来た、裕次郎に恩義を感じている寿司屋のオヤジ(桂小金治)に「毛皮のオバケ」といわれます。

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ここはダメ押しがすぎると感じますが、演出の意図は明確で、浅丘ルリ子の「裏切り」を浮き彫りにするためのシークェンスです。四年前、勤め先の工場に裕次郎が悔やみに来たときに、腹立ちのあまり返却を拒んで、泥水に落とした父親のセーターを、もったいないと思い直し、あとで拾って洗濯して、編み直して翌年の冬のあいだ着ていた、という話をするのも、浅丘ルリ子自身が、うすうす「裏切り」を恥じていることをあらわそうという演出でしょう。

「女は出世の早いもの」と三亀松がよく新派の台詞らしきものを引用していますが、このへんは、まあ、そのような「裏切り」の物語の系譜につらなるものと受け取っておきます。

◆ おきまりとはいえ ◆◆
裕次郎が元県警の刑事とは知らずにケンカを売った地回りが謝罪にきて、うちのボスがぜひご一献と申しております、というので、裕次郎は招きに応じます。

古来、日活アクションでは、そのような密談をするのはナイトクラブ、いや昔の分類では「キャバレー」と決まっています。そしてもちろん、このようなキャバレーにはフロア・ショウがつきものです。

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サンプル 「フロア・ダンス」

おきまりのルーティンといってしまえばそれまでなのですが、やはりこれがないと、日活アクションを見た気分がしないものです。作曲家も、毎度、フロア・ショウのスコアを書くのを楽しみにしていたのではないでしょうか。遊んでかまわないところですからね。舛田利雄の演出も、どうせダンサーに踊らせるなら、もっと活躍させようとでもいうのか、いつもより露出度が高く、濃厚な振り付けにしています。

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芦田伸介の出番はここだけで、考えてみるとプロットにあまり影響しない役で、芦田伸介自身も、彼の組織もこのあとの話にはあまりからんできません。たんに、四年前の事件の背後にあった組織とは敵対する一派があり、いまでもあの事件を蒸し返して、敵の追い落としに利用したいと考えていることを明らかにしているだけです。

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うーん、むずかしいところですが、この役を芦田伸介がやったことで、筋は通らないまま、ともかく話に重みと奥行きを与える結果になったのだから、まあいいか、といったあたりでしょうか。でも、芦田伸介が出てきた以上、この組織がなにかあとでからんできそうな予感を与えるというマイナスもあるのですが。

◆ 運河を仮の宿りに ◆◆
プロットは影響を受けないのですが、映画は視覚と聴覚を刺激するメディアなので、やはりロケーションとセットはきわめてだいじです。とりわけ日活アクションは、「無国籍アクション」といわれた、非日本的ムードを醸成するための舞台づくりが重要でした。『赤いハンカチ』で忘れがたいロケーションは、「山下橋ホテル」と名づけられた、おそらくは船員向けの安宿です。

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この建物のロケーションによる外観も印象的ですが、セットによる内部がまたじつにいいのです。木村威夫がデザインした『東京流れ者』のホテルと同じように、この千葉和彦美術監督による『赤いハンカチ』のホテルは、なんとも忘れがたいたたずまいを見せています。

以下は、スコアではなく、ホテルの部屋で裕次郎が弾いているギターの音、という現実音の扱いですが、現実音であろうと、スコアであろうと、とくに区別する必要はないでしょう。

サンプル 「チープ・ホテル」

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このホテルの周囲の風景も雰囲気がありますし、ファサードのデザインも横浜らしさがありますが、そうした現実の風景にひけをとらないほど、セット・デザインにも力があります。ふつう、日本にはこういう安宿というのはないのですが、そこは横浜、そこは「日活無国籍アクション」、累積された映画の記憶がこの部屋に「夢のリアリティー」を与えています。

「よごし」も入念におこなわれていますが、四角形ではなく、おそらく五角形の変則的な形にしてあるところも、このデザインにすばらしい味を加えています。

ここからまた重要な場面へとつながるのですが、本日もすでに時間切れ、さらに次回へと続きます。


DVD
赤いハンカチ [DVD]
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by songsf4s | 2010-01-13 23:57 | 映画・TV音楽