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年忘れ爆笑寄席その一 古今亭志ん朝「宿屋の富」

歳末というと、やはり音楽より落語でしょう、などというのは、もはや少数派かもしれませんが、毎年、聴くものを聴かないと、わたしは旧年を送る気分になれません。

年の暮れにしか高座にかけられない噺で、戦後になってもごくふつうに演じられていたものは五席ぐらいでしょうか。昔のことなので、歳末といえば掛け取り(借金取り)と相場は決まっていました。いかに借金取りを追い払うかという噺か、そのヴァリエーションである年越しの銭を工面する苦労話です。

そういうオーセンティックな歳末落語とはすこしちがうのですが、ただの冬の歌がいつのまにかクリスマス・ソングに算入されるように、富くじ、富突き(宝くじ)をあつかった噺も、いつごろからか、歳末の噺として高座にかけられることが多くなったようです。少なくともわたしは、年の暮れには富くじ噺を聴きたいと思います。

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現代でいえば宝くじ売り場に相当する場所だが、昔のものは雰囲気がある。

◆ 古今亭志ん朝の「宿屋の富」 ◆◆
ということで今日は、二大富くじ噺のひとつ、「宿屋の富」を聴きました。運のいいことに、YouTubeにクリップがありました。まだアップされたばかり、いつまであるかわからないので、お早めに。長い枕がついているので、お忙しい方は2からどうぞ。

古今亭志ん朝 宿屋の富1(枕のみ)


古今亭志ん朝 宿屋の富2


古今亭志ん朝 宿屋の富3


古今亭志ん朝 宿屋の富4


くすぐり盛りだくさんで、おおいに笑える、みごとな「宿屋の富」でした。「宿屋の富」の聴かせどころは、噺に入った直後、馬喰町の宿屋にわらじを脱いだ男が、宿屋の亭主に、自分がどれほど途方もない金持ちかを吹き込むために、とんでもなく誇張した話をつぎつぎと並べていくところ、そして、翌日、湯島天神の境内に集まった男たちが、富に当たったらなにをするかということを並べ立てるところでしょう。もうひとつの有名な富くじ噺「富久」にも似たようなくだりがあります。

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日本橋馬喰町(『江戸名所図会』より)

古今亭志ん朝という噺家の、速さと精確さと呼吸のよさは天下一品で、この「宿屋の富」の笑わせどころも、ともに文句なしの出来映えです。「千両箱を漬け物石がわりにして」などとわたしが書いても可笑しくありませんが、志ん朝のように呼吸よくこれをいうと、思わず笑ってしまいます。

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湯島天満宮(『江戸名所図会』より)

後半の、五百両が「当たることになっている」男のくだりもみごとで、一反のさらしをポンと二つに割って、なんていうところの歯切れのよさといい、ドンと五百両を投げ出し、身請けにもっていくまでのテンポのよさといい、とんとんと噺が進む心地よさには惚れ惚れします。志ん朝のもっともいいところは、この「速さ」でしょう。

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一分判金。この形を見れば、志ん朝が「踏んづけると痛い」といっている意味がおわかりだろう。一分は四分の一両。江戸の金を現代の通貨に換算するのはむずかしいが、2万円ぐらいだろうか。現代の宝くじよりずっと高くいもので、主人公が嘆くのも無理はない。ほらなど吹かずに宿泊すれば、この金で宿代が払えたはずである。

生前、いつ志ん生を襲名するのかといわれて、いずれ遅い噺もするようになったら、考えなければいけないかもしれないと漏らしていたそうです。「遅い噺」が似合う年齢まで生きられなかったのは残念なことです。

◆ 桂枝雀の「高津の富」 ◆◆
「宿屋の富」というのは、上方の「高津の富」(こうづのとみ)という噺を関東に移したものです。漬け物石がわりの千両箱や、泥棒のくだり、一分判金を知らないなど、志ん朝版と似た部分がたくさんあるので、聞き比べられるといいのですが、YouTubeにある枝雀の「高津の富」は、サゲの部分だけです。

桂枝雀 高津の富


これでは面白さが伝わらないので、ステレオをモノにし、さらに音質を落とし、さわりだけを切り出したサンプルをつくりました。

サンプル 高津の富1(お大尽の景)

まずは主人公が宿屋の亭主に思いきり自慢話をするところです。志ん朝版にはない、門から入って屋敷までたどりつくのに四日かかるから、自邸の敷地に宿場が設けてあるというくすぐりが笑えます。「嘘つき弥次郎」のようなとほうもないホラ。

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志ん朝版では、おそろしく調子のいい、ちょっと軽めの詐欺師のような人物像が浮かんできますが、枝雀版は、いかにも上方のお大尽という、ゆったりとした人物に描かれていて、このへんのちがいも興味深いところです。

ところで、わたしは関東の人間なので、このサンプルの最後のほうに出てくる「やまこ(?)もいい加減にはっておかないけんなあ」というのがわかりませんでした。「ほらを吹くのもたいがいにしておかないといけないな」ということをいっているのでしょうが……。

サンプル 高津の富2(高津さん境内の景)

こちらもやはり、富に当たったら女を身請けして、という空想に入りこんでいってしまう男が登場しますが、ちらちらと狂気が見え隠れするところが、いかにも枝雀の噺という感じがします。

なぜこの噺が好きなのでしょうかねえ。前半のナンセンスなホラ話、後半の空想が暴走してしまう男の可笑しさ(「湯屋番」を思いだす)、信じられない幸運にめぐまれてうろたえてしまう小人物たちの可笑しさと哀しさ(火焔太鼓の夫婦に似ている)、「俺はこういう人間を知ってるなあ、ああそうか、俺のことだ」という感覚を引き起こす要素が濃密にあるからかもしれません。いや、落語を分析しちゃいけませんがね。


美濃部家の親子三人による宿屋の富をそろえてみました。

古今亭志ん朝 宿屋の富、愛宕山
落語名人会 3
落語名人会 3

金原亭馬生 宿屋の富、船徳
NHK落語名人選(24) 十代目 金原亭馬生 宿屋の富・船徳
NHK落語名人選(24) 十代目 金原亭馬生 宿屋の富・船徳

古今亭志ん生 宿屋の富、火焔太鼓
ベスト落語 五代目 古今亭志ん生 「火炎太鼓」「宿屋の富」
ベスト落語 五代目 古今亭志ん生 「火炎太鼓」「宿屋の富」


以下は上方のものを二種

桂枝雀 高津の富、つぼ算
枝雀落語大全(1)
枝雀落語大全(1)

六代目笑福亭松鶴
笑福亭松鶴(6代目)(1)
笑福亭松鶴(6代目)(1)
by songsf4s | 2009-12-28 23:54 | 落語