人気ブログランキング |
クリスマス映画10 Christmas (Baby Please Come Home) by Darlene Love(映画『グレムリン』より)
タイトル
Christmas (Baby Please Come Home)
アーティスト
Darlene Love
ライター
Phil Spector, Ellie Greenwich, Jeff Barry
収録アルバム
A Christmas Gift for You from Phil Spector
リリース年
1963年
f0147840_2371672.jpg

人間の注意力には限界があって、気づかないときにはどうやっても気づかないのだと思います。今日、何度も聴いたことのある曲を聴いていて、ああ、これがあれの元か、などとボケたことをいって、自分で嗤ってしまいました。

なにがなにの元かというと、アヴァランシェーズのSnowfallのベースになったのは、ジョージ・シアリングのSnowfallではないか、ということです。アヴァランシェーズ盤Snowfallの魅力は、なんといってもアル・ディローリーのきらきらと燦めくようなピアノです。今日、クリスマス・ソングを並べて聴いていたら、ジョージ・シアリングがアル・ディローリーのプレイの下敷きのような気がしてきました。

f0147840_23542899.jpg

影響関係を無視していえば、この曲のベストはアル・ディローリーのピアノが美しいアヴァランシェーズ盤だと思います。ただし、アル・ディローリーは、ジョージ・シアリングの解釈を聴いて、惜しい、もっと角をとがらせて、キラキラを強調したプレイにすれば決定版になったのに、と思ったのではないでしょうか。

◆ 先に腹を立てたヤツの勝ち ◆◆
さて、今日は見直す必要のない映画でご機嫌伺いです。『グレムリン』という映画自体は、まあ、どうでもいいと思います。金返せと叫んだりはしませんでしたが、不機嫌になって映画館を出ました。

金返せといわなかったのは、わたしの数列前に、金返せー、馬鹿やろーと叫んでいた子どもがいたので、二人で合唱することもないか、と思っただけです。腹を立てるのも、先を越されると気が抜けるものですな。

f0147840_23545734.jpg

いえ、こういうことです。わたしの近くで母親と幼児が見ていたのです。ところが、ジューサーでグレムリンがミンチになるシーンで、大泣きに泣きだしてしまったのです。お母さんも戸惑ったでしょうねえ。ふだんなら、どういう事情であれ、映画館のなかで声を立てたり泣いたりする子どもには腹を立てるのですが、このときばかりは、たしかに泣きたいほどひどい映画だよな、俺も泣きたいくらいさ、とこの母子に同情しました。

あんな汚いものを見せられたら、幼児が泣くのは当たり前です。そういう映画なのだということを伏せて、家族で楽しめるような宣伝をした輸入会社におおいなる非があります。商売は正直にやりましょうよ。近ごろ、不正直な商人ばかりで(とくにウェブ・ビジネスは!)、商人の息子としては慨嘆にたえません。商人は正直であることがなにより大事です。

◆ わが黄金の法則を破壊した例外映画 ◆◆
話があらぬほうにいきました。映画だの音楽だのというのは、何年たっても恨みを忘れないものですな。それにくらべれば、食べ物の恨みなんて軽いもんですよ。まずかったメシ屋のことなど、ほとんど忘れてしまいましたが、腹を立てた映画や盤のことは全部覚えています。

いや、いいところもあるのです。そうじゃなければ、ここで取り上げたりましません。はじめのほうの絵と音はものすごくいいのです。途中から、あれよあれよと崩れていったのです。はじめからダメなら、失礼しました、勝手にチケットを買ったわたしがいけませんでした、二度とあなたの映画は見ないということで手打ちにしましょうや、なのですがね。

どこで乗ったかはおわかりでしょう? ちゃんとこの記事のタイトルに書きました。Christmas (Baby Please Come Home)がものすごくよかったのです。

見直さないで書きます。サンフランシスコかどこかの中国人街で、白人の男が見慣れない動物を買います。真夜中を過ぎてから食べ物を与えてはいけない、それだけは守るように、とかなんとかきつく注意されます。男はその動物を、クリスマス・プレゼントとして故郷の息子に贈ります。

ここで画面溶暗。

画面黒みのまま、Christmas (Baby Please Come Home)のイントロが流れたときは、寒気がするほどうれしかったのですねえ。ロードショウ館だったので、ベースがうちとはまったくちがう響きだったのも、ほほう、でした。

f0147840_23553591.jpg

最高のクリスマス・ソングではじまる映画ですからね、きっとすごく面白いにちがいない、と思って当たり前じゃないですか。いい音楽ではじまる映画は、まずまちがいなく楽しめるという絶対的なルールがあるのです。

このルールの例外は、と考えても、この『グレムリン』ぐらいしか思いつきませんよ。よりによって、フィル・スペクター=ハル・ブレインの曲を使って、大ハズレにはずすとは、ジョー・ダンテというのはほんとうに悲しいまでのトンチキ野郎です。

でもねえ、そこで思いだすのですよ。この乾坤一擲のクリスマス・シングルを、乗りに乗っていた1963年のフィル・スペクターがはずしたんですよね。すばらしい仕上がりなのに。いえ、スペクターはいいものをつくったのに対して、ジョー・ダンテはダメなものをつくったのだから、同じ扱いをするわけにはいきませんが。

◆ スウィッチを切るとは失礼な! ◆◆
先日の『L. A. コンフィデンシャル』の記事で、曲の聴かせどころを切ってしまう監督はろくなものではない、当然、そういう映画はダメと相場は決まっている、ということを書きましたが、ジョー・ダンテはそれをやっているます。ひょっとしたら、映画が崩れたのも、そのせいかもしれません。

f0147840_052885.jpg

この曲については、ハル・ブレインのドラミングを分析したAdd More Music掲載の記事、そして一昨年のクリスマス・スペシャルの記事、さらには最近、黄金光音堂でやったエリー・グリニッチ追悼でも書いていて、また繰り返すのは恐縮ですが、話の運びの都合なのでご容赦あれ。

Add More Musicの記事で分析したように、後半に登場する、ハル・ブレインがスネアの四分三連を四小節にわたって叩きつづけ、そのサスペンドが解決すると、こんどは四台のピアノのユニゾンによる上昇するフレーズに突入し、これがまた強力なサスペンスを生み出して、その巨大な位置エネルギーの蓄積を、最後の解決へ向かって怒濤のように放出する圧倒的な展開には、フィル・スペクターじゃなければこういうものはつくれない、と感嘆します。

ハル・ブレインも最後の解決にいたって、ようやく四分三連のくびきを解き放ち、フリースタイルのフィルインをここぞとばかりに投入します。この時期のシグネチャー・プレイだった(といってもアール・パーマーと共有だったが)「ストレート・シクスティーンス・アゲインスト・シャッフル」(straight sixteenth against shuffle)すなわち「シャッフル・グルーヴと対比を成す16分のパラディドル」も、当然、豪快にキメています。

ところがですね、ジョー・ダンテは、主人公にカーラジオのスウィッチを切らせて、この曲の山場をまるごとカットしているのです。わかっているのかと思ったら、わかっていなかったのです。こういう粗雑なことを平気でやれるのは、芸事万般に通じる基本理念を理解していない証拠であり、当然、映画の見せ場もきちんとつくれません。だから、音楽の使い方は映画の出来の指標となりうるのです。すべてはセンスと見識です。

f0147840_054767.jpg

◆ 自前の再編集 ◆◆
まったく、惜しいことをしました。大魚は水面に顔を出したのに、あっさり針をはずして逃げていきました。

フィル・スペクター=ハル・ブレインの代表作を利用しようと思いたったところまでは上出来だし、じっさい、Christmas (Baby Please Come Home)が流れているあいだは、画面にも気持のいいグルーヴがあります。

ところが、基本的なセンスがない人の悲しさ、音楽の使い方の要諦を知らなかったために、傑作クリスマス・ソングをみごとに画面に嵌めこんだ、という名声を得るチャンスを、あたらカー・ラジオのスウィッチひとひねりで逸してしまったのだから、やんぬるかな、です。

でも、わたしは人間がおめでたくできているのか、惜しいなあ、と思うと、ありえたかもしれないオルタナティヴ・ヴァージョンを頭のなかでこしらえてしまいます。いや、『グレムリン』という映画自体は、いじってもムダな出来ですが、タイトルだけなら、ちゃんとエンディングまで流れる完璧なものを頭のなかで編集することができます。やっぱり、雪景色で聴きたい曲ですからね。諸兄姉もひとつお試しあれ。

フィル・スペクター クリスマス・アルバム
A Christmas Gift for You from Phil Spector
A Christmas Gift for You from Phil Spector

グレムリン
グレムリン 特別版 [DVD]
グレムリン 特別版 [DVD]
by songsf4s | 2009-12-23 23:26 | クリスマス・ソング