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クリスマス映画9 Dark Eyes (映画『The Shop Around the Corner』〔『街角』〕より)
タイトル
Dark Eyes a.k.a. Ochi Chornya
アーティスト
OST
ライター
traditional
収録アルバム
N/A
リリース年
1945年
他のヴァージョン
Chet Atkins, Les Paul (2 versions), the Spotnicks, the Atlantics, 80 Drums Around the World with Mallet Men, Esquivel, 101 Strings, the Ventures
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この映画の邦題はよくわかりません。どうやらフルネームは『街角 桃色〔ピンク〕の店』というようです。なぜピンクなのか、映画を見ても理由はわかりませんでした。モノクロですからね。どうやってピンクにしたのかと考え込んでしまいます。アメリカから送られてきたプロモーション・キットに、なにかそういうことが書いてあったのか、あるいは、わたしが注意散漫でなにかを見逃したのか、「桃色」がどこから出てきたのか、ついにわかりませんでした。

まあ、邦題というのは作物の正しいアイデンティファイアとしての資格のない、地域通貨みたいなものだから、考察するほどの重要性はありません。時間をムダにしたくないので、これでおしまい。

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◆ 黒い瞳を聴けるシガレット・ボックス! ◆◆
小津安二郎はエルンスト・ルビッチのファンだったようで、しばしばルビッチの映画に言及しています。戦後の小津はちょっとちがいますが、戦前の小津映画のスタイルからいうと、この映画ならどこを褒めるか想像がつきます。シガレット・ボックスの使い方でしょう。

以下は当時の劇場用予告篇のようです。なんともめずらしいスタイルで、「すぐそこの店」(The Shop Around the Corner)の店主であるマトゥチェック氏自身が、登場人物を紹介します。



最後にはエルンスト・ルビッチ監督まで登場してサービスにこれつとめています。これはルビッチ自身がみずから手がけた予告篇なのかもしれません。

ジェイムズ・ステュワートという俳優は万年青年(おもととし、などと読まないように。「まんねんせいねん」)みたいなところがありましたが、この映画ではほんとうに若くて、ブタペストにあるマトゥチェック商会の店員という役です。

この予告篇では、マトゥチェック氏に呼ばれ、問屋から持ち込まれたこのシガレット・ボックスをどう思うか、と問われ、言下に、そんなものは売りものになりません、と断言し、いけるのではないかと思ったマトゥチェック氏をガッカリさせるシーンが使われてます。

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このシガレット・ボックスはオルゴールになっていて、蓋を開くと、「オチ・チョーニャ」(と発音しているように聞こえる)というか、われわれは「ダーク・アイズ」ないしは「黒い瞳」として知っている曲がかかります。これが気に入らないジェイムズ・ステュワートは、タバコを吸うたびにオチ・チョーニャを聴きたがる人間などいるはずがない、しかも、ホンモノの革ですらない模造皮革の安物、問題外です、とこき下ろします。

◆ ダメ製品も別人の手にかかれば…… ◆◆
シガレット・ボックスでおおいに揉めた直後に、若い女性(マーガレット・サリヴァン)がやってきて、仕事をもらえないだろうかとジェイムズ・ステュワートに頼みます。しかし彼は、いまは人手を必要としていないし、そもそも主人は目下(シガレット・ボックスの一件で)おおいに不機嫌だと断ります。

そこにマトゥチェック氏が奥から出てきて、彼女はオーナーに嘆願しますが、ジェイムズ・ステュワートがいったとおり、けんもほろろ、とりつく島もありません。そこへ、ご婦人のお客があり、ここが勝負と、マーガレット・サリヴァンはいきなり脇から出て行って、くだんのシガレット・ボックスを、キャンディー・ボックスだといって(無意識につまんで食べ過ぎにならないように、ダーク・アイズのオルゴールが警告する!)、たくみに売りつけることに成功します。

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これで彼女はマトゥチェック商会に職を得、話は一気に半年後、もうすぐクリスマスという時季に飛びます。溶暗から戻った画面の主役はあのシガレット・ボックスです。

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小津安二郎がしきりにエルンスト・ルビッチを賞賛したのは、こういう小道具の扱いのうまさゆえでしょう。台詞では一言も説明されませんが、なぜあのシガレット・ボックスが大量にあり、なぜ大安売りになっているかは、観客はひと目で察します。映画の話の運びというのは、こうでなくてはいけません。

◆ すれちがいロマンティック・コメディー ◆◆
シガレット・ボックスの一件が尾を引いたのか、ジェイムズ・ステュワートは、ことあるごとにマーガレット・サリヴァンと対立し、ケンカばかりしていることが、クリスマス直前の店頭の場面で手際よく説明されます。

ジェイムズ・ステュワートはどこかの女性と文通をしています。手紙を読むかぎりでは、知的でチャーミングな女性で、じっさいに会ってみたいと思っていることが、冒頭、やはり店頭で同僚に相談するかたちで説明されています。

さて、シガレット・ボックスです。マトゥチェック氏は、判断ミスの象徴であるシガレット・ボックスがウィンドウに大量に飾られているのが気に食わず、今夜は残業で飾り付けをやり直す、と宣言します。

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終業後に予定のある店員たちはみなあわてふためきます。とくにジェイムズ・ステュワートは、文通の相手とはじめて会うことになっていたので、マトゥチェック氏に残業を勘弁してもらおうと懇願し、感情的に対立してしまいます。マーガレット・サリヴァンもデートの予定があり、ジェイムズ・ステュワートにおべっかを使いますが、そこからまたひと揉めがあります。

そして、その夜、残業でクリスマスの飾り付けをしている最中に、ジェイムズ・ステュワートは、主人に首を言い渡されます。その直後、電話を受けた主人は、残業は終わりだ、残りは明日片づけようといい、みな帰し、ひとり店に残ります。

ジェイムズ・ステュワートは同僚とともに近くのカフェに行きます。相手がどんな女性かわからないので、同僚に外から店内をのぞいてもらうのですが、すでにおおかたの人がお気づきのように、ブラインド・デートの相手は、ほかならぬ店でのケンカ相手、マーガレット・サリヴァンだとわかります。

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ジェイムズ・ステュワートは、自分が文通の相手なのだとは明かさず、偶然に来合わせたかのようなフリをして、彼女と話そうとしますが、やはりすぐに口げんかになってしまいます。

いっぽう、店に残った主人は、探偵を迎え、報告書を読みます。妻の行状を疑っていたのです。匿名の密告によれば、店員のひとりと浮気しているということで、それがジェイムズ・ステュワートだと思い、感情的に対立したのを機縁として馘首してしまったのですが、探偵の報告書には別人の名前が記されていました。

妻に裏切られたマトゥチェック氏が自殺しようとしたところに、使いにいっていた見習い店員がもどってきて、危うく救います(それた弾丸が電球の笠に命中する演出はうまい)。シノプシスをダラダラと書きつづけるのもなんなので、ここらで手じまいとします。ここからが前半の種まきの結果を収穫する段階になるのですがね。

以上でおわかりでしょうが、トム・ハンクスとメグ・ライアンの『ユー・ガット・メール』(You've Got Mail)は、この『ザ・ショップ・アラウンド・ザ・コーナー』を現代的装いで脚色し直したものです。

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◆ 小道具の技 ◆◆
『黄色いロールスロイス』のロールスロイスのように、シガレット・ボックスが主役というわけではないのですが、エルンスト・ルビッチはじつにうまくこの小道具を使って、最後の一滴までムダにしません。

ジェイムズ・ステュワートは自分が文通の相手なのだということを、マーガレット・サリヴァンに教えません。当然ながら、それが笑いを生む仕掛けになっていますが、なによりも可笑しいのは、シガレット・ボックスを利用したくすぐりです。

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店頭から店内に移された売れ残りバーゲン品のシガレット・ボックス

マーガレット・サリヴァンは、クリスマス・イヴに文通相手と会うことになった、ということをジェイムズ・ステュワートにそっと漏らします。クリスマス・イヴだから、なにかプレゼントしようと思い、あのシガレット・ボックスはどうだろうか、というのです。

もちろん、ひと目でこんなものは売れないと断言したジェイムズ・ステュワートは、それをきいて、ウォレットのほうがいいだろうと薦めるのですが、なにしろ、ことごとく意見が対立する相手だからうまくいきません。

そこで一計を案じ、同僚に話を持ち込みます。この同僚は、マーガレット・サリヴァンから相談を受けると、じつにうまく話をもっていき、結局、ジェイムズ・ステュワートがほしがっているウォレットをプレゼントする決心をさせてしまいます。

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「ウォレットのいいところは写真を入れられることでね、わたしはこちら側に妻の写真、こちら側には子どもの写真を入れているんだ」

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「クラリック、ウォレットはきみのものだよ」

最初から最後まで、一貫してシガレット・ボックスに狂言まわしをさせたエルンスト・ルビッチの演出には、おおいに感銘を受けました。ここまで上手に、そして徹底的に小道具を使える人は、そうたくさんはいないでしょう。

クリスマス・イヴには、一致団結した店員たちの努力の甲斐あって、マトゥチェック商会は記録的な売上げを達成し、一時は自殺にまで追い込まれたマトゥチェック氏も精神の危機を乗り越え、どうにも噛み合わなかったジェイムズ・ステュワートとマーガレット・サリヴァンもついに結ばれ、万事めでたしめでたしの大団円になります。

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『聖メリーの鐘』では、万事めでたすぎるとケチをつけたのに、『ザ・ショップ・アラウンド・ザ・コーナー』では、めでたすぎると文句をいわないのは、レオ・マケアリーとエルンスト・ルビッチでは力量に大きなちがいがあるからです。こしらえごとというのは、上手につくってこそ楽しめるものです。

シガレット・ボックスのおかげで、いや、エルンスト・ルビッチのウィットと才覚のおかげで、最後まで楽しく見ることができました。おみごと。

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◆ チェスター&レスターの黒い瞳 ◆◆
ほかに適当な曲があればいいのですが、『ザ・ショップ・アラウンド・ザ・コーナー』に使われた音楽にはオーセンティックなクリスマス・ソングはなく、もっとも「活躍」するのは、ほかならぬシガレット・ボックスに仕掛けられたオルゴールから流れるオチ・チョーニャ、すなわちDark Eyesです。わが家にあるダーク・アイズの棚卸しをしてみます。

やっぱり、チェット・アトキンズから行きましょう。



恐れ入りました。チェット・アトキンズとくれば、つぎはもちろんレス・ポール。当然ながら、こちらもちょっとしたものです。



ディック・デイルがMisirlouでやったようなことは、レス・ポールがとうの昔にやっていたわけで、知らないというのは幸せなことですな。知っていたら猿真似などできなくなります。

このクリップはライヴですが、レス・ポールはDark Eyesを少なくとも二度録音しています。ひとつは戦前のトリオ時代のもの、もうひとつは戦後の多重録音によるものです。どちらかというと戦後の録音のほうが楽しめます。

◆ ギター・インスト・バンド篇 ◆◆
つづいてスプートニクス。わたしと同世代の方は、スプートニクスのヴァージョンでこの曲を知ったか、または、彼らに刺激を受けた日本のバンドのヴァージョンで知ったのではないでしょうか。



わざとなのでしょうが、リードギターのピッキングが引っかけ気味で、スムーズでないところが好みではありません。

ドラムのタイムが悪く、突っ込み気味なので、これまたあまり好きではありませんが、ヴェンチャーズもやっています。



おかしなことに、ヴェンチャーズより、アトランティックス盤のほうがすぐれた出来です。スプートニクスとくらべても、こちらのほうが数段上でしょう。といって、クリップを探したのですが、見あたらなかったのでbox.netにサンプルを置きました。

サンプル Dark Eyes by the Atlantics

◆ ラテンもまた黒い瞳 ◆◆
非ギターものは3種類あります。もっとも面白いのは、80ドラムズ・アラウンド・ザ・ワールド・ウィズ・マレット・メン(というアーティスト名。もちろん、ハリウッドのスタジオ・プロジェクト)のヴァージョンです。これもクリップがないので、サンプルをどうぞ。

サンプル Dark Eyes by 80 Drums Around the World with Mallet Men

やっぱりなんですかね、スナッフ・ギャレットの50ギターズの向こうを張ったのでしょうか? どうであれ、これはいい、と手を叩いて喜んでしまいました。チャチャチャでくるとはね! ホンモノのラテンの濃厚な味はありませんが、ハリウッドには洗練という武器があります。なにをやらせても、ピシッと仕上げてくるところはすごいものです。ちょっとエキゾティカ味があるのもハリウッドならではです。もちろん、録音も文句なし。

エスクィヴァルも当然ながらラテン風味のレンディションです。これまたサンプルでどうぞ。

サンプル Dark Eyes by Esquivel

わたしはロシア民謡なんて、文字を見ただけで怖気をふるってしまいますし、ロシア語も音が汚くて大嫌い、ロシア映画など死んでも見たくありません(タルコフスキーは二本だけ見たが)。だから、ロシアのロの字もない、80ドラムズやエスクィヴァルのアレンジには大拍手です。とくに前者は軽快を通り越して痛快といいいたくなります!

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街角 桃色の店 [DVD] FRT-143
街角 桃色の店 [DVD] FRT-143

チェット・アトキンズ
Pickin on Country
Pickin on Country

レス・ポール・トリオ
California Melodies
California Melodies

ウルトラ・ラウンジ 第9集(80ドラムズを収録)
Ultra-Lounge, Vol. 9: Cha-Cha De Amor
Ultra-Lounge, Vol. 9: Cha-Cha De Amor

アトランティックス
Complete CBS Recordings Vol 1
Complete CBS Recordings Vol 1

The Spotnicks
ザ・スプートニクス・プレミアム・ベスト
vザ・スプートニクス・プレミアム・ベスト
by songsf4s | 2009-12-22 23:38 | クリスマス・ソング