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クリスマス映画7B The Bells of St. Mary's by Bing Crosby (映画『聖メリーの鐘』より その2)
タイトル
The Bells of St. Mary's
アーティスト
Bing Crosby
ライター
Douglas Furber, A. Emmett Adams
収録アルバム
N/A
リリース年
1945年
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(12月20日追記 昨日はソフトウェアのエラーでWAVの変換ができずに断念した、ビング・クロスビー歌うThe Bells of St. Mary'sの映画ヴァージョンのサンプルを追加しました。リンクはすこし下にあります。)

前回、『聖メリーの鐘』のOSTはもっていないと書きましたが、あちこち見ても、とりあえず存在を確認できませんでした。昔の映画にはよくあることです。いや、そもそも、1945年にはまだLPが存在しないので、「アルバム」というのは、SP盤のセットのことでした。文字どおり「アルバム」になっていたのです。『聖メリーの鐘』のOST盤が存在するとしても、映画の公開よりずっとあとに誕生したことになります。

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『聖メリーの鐘』は記録的な大ヒット作だったそうですし、テーマ曲は非常に魅力的につくられているうえに、歌うはビング・クロスビーなのだから、世が世ならすぐさまOSTがリリースされたでしょう。

◆ 「イフェクト付きの新ヴァージョン」 ◆◆
前回は省略してしまった、映画のなかで歌われるオリジナルThe Bells of St. Mary'sは、なかなかたいした出来で、やはり全盛期のビングをナメてはいかんと、おおいに感じ入りました。

当家の過去の記事では、Moon of ManakooraStormy Weatherをはじめ、楽曲をちゃんと元までたどって出自をたしかめないまま書いてしまったものがいくつもあります。性分として、そういうのはどうも気に入りません。ミスをする可能性が高くなりますから。そういう意味で、今回はThe Bells of St. Mary'sの元までたどることができて満足しました。そして、やはりオリジンは重要だということを確認しました。

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映画のなかで、この曲はセイント・メアリー教会付属初等学校の「校歌」として歌われます。それで、なるほど、と納得がいったことがあるのですが、その話はあとにして、まず、オリジナルの歌詞をご覧あれ。最初の2行はダイアローグです。

サンプル The Bells of St. Mary's by Bing Crosby with the Nuns of St. Mary Church

Bing "How about the school song?"
Bergman "Sister has a new version with effects."

Ding-dong, ding-dong
Oh, bells of St Mary's
We always will love you
With your inspiration
We never will fail
Your chimes will for ever
Bring sweet memories of you
So proudly ring out
While we sing out
Hail! Hail! Hail!
So proudly ring out
While we sing out
Hail! Hail! Hail!
Ding-dong ding
Won't you ring them bells?

「イフェクト付きの新ヴァージョン」というのが妙に可笑しくて、歌の冒頭に台詞を置いてみました。なにが「イフェクト」かというと、尼さんたちのコーラスによるding-dong、すなわち「キンコンカンコン」のことです。日本語のオノマトペで書くと馬鹿みたいですが、これがなんともきれいなコーラスで、おおいに気に入りました。

もうひとつ。この曲をご存知の方は、後年のカヴァーとは歌詞がまったくちがうことにお気づきでしょう。あのyoung loves, true lovesなんかどこにも出てこないのです。ビングが「校歌はどうかな?」といったとき、わたしは、ええ、あのyoung loves, true lovesは校歌にはまずいでしょう、と思ったのですが、そんなものはチラとも出てきませんでした!

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Bing Crosby & the Singing Nuns sing the main title of The Bells of St. Mary's

音としてはいい出来なのに、クリスマス・ソングとしてカヴァーされることがあまりないのは、この曲のこうした出自と無関係ではないでしょう。クリスマス・ソングとして書かれていないことはいいとして(そういう曲で、後年、クリスマス・ソングに繰り入れられてしまったものは掃いて捨てるほどある)、冬の曲ですらなく、元の歌詞でクリスマスと結びつけられる要素は、教会の鐘のみというのでは、クリスマス・ソングとして扱うほうに無理があります。

そもそも、どこでこの曲にああいう歌詞がつけられ、クリスマス・ソングとして歌われるようになったのか、そこのところがわかりません。出自までたどって、ひとつ解決したのですが、ひとつ新しい疑問が生じて、結局、差し引きゼロでした。

山勘をいっておくと、映画のプレスコとはべつに、ビング・クロスビーが盤にするときに、一般性をもたせるためにべつの歌詞がつけられたのではないでしょうか。ビングのリリース用録音が手に入らなかったのは痛手でした。

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子どもたちが自作の芝居をリハーサルするところを、ビング・クロスビーとイングリッド・バーグマンが見る。

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出し物はもちろんベツレヘムでのキリスト生誕劇。『聖メリーの鐘』も典型的なクリスマス映画というわけではなく、クリスマスが扱われるのはこの前後のシークェンスのみ。

これはテーマ曲なので、何度もさまざまな変奏曲にアレンジされて登場しますが、やはりタイトルのインスト・ヴァージョンが、アレンジもよく、弦の厚味もあり、映画のはじまりにふさわしい音になっています。映画から切り出したロウ・ファイ・ファイルですが、いちおうサンプルを置いておきます。後半の台詞は、教会に着任したビング・クロスビーと家政婦のような女性との対話で、前任の司教のことを話しています。可哀想に、尼僧たちにいじめられて体調を崩したのです!

サンプル The Bells of St. Mary's Main Title

◆ 弱コントラスト ◆◆
映画としてどうかということをくわしく書こうと思ったのですが、それほど力を入れるほどの出来でもありませんでした。ご家族向けではあるでしょうし、万事、めでたく解決するので、クリスマスに見るにはいいだろうと思います。しかし、欠点もそこにあります。万事めでたすぎるのです。

「ちきり伊勢屋」という落語があります。長い人情噺で、高座にかけられる人はもう一握りしかいないでしょうが、なかなか面白い話です。伊勢屋のまだ若い旦那が、名人といわれる八卦見に占ってもらったら、まもなくあなたは死ぬといわれてしまいます。旦那は、どうせすぐに死ぬならと遊び暮らすいっぽうで、巨富をなげうって困っている人たちにおおいに善行を施します。死ぬ日まで定められていて、自分で葬式を出そうとするのですが、予定の刻限が来て、すでに棺桶に入って待っているのに、どういうわけか死ねません。結局、葬式はお流れになり(そりゃそうでしょう。死びとがいないんじゃ弔いはできない!)、すっかり財産を失った旦那は落魄して駕籠かきになる――とここまでが前半。後半は謎解きと旦那の「カムバック」となります。

『聖メリーの鐘』という映画は、プロットの柱が三つあり、ひとつは学校ものの定石である「問題児」の運命、ふたつは新任のオマーリー司教(ビング・クロスビー)と、尼僧の代表であるシスター・ベネディクト(イングリッド・バーグマン)の友情ある対立です。

そして三つめが、セイント・メアリー教会の隣に新社屋を建設している会社の社長の話で、これが「ちきり伊勢屋」なのです。子どももなく、友もなく、財産と事業だけしかない人物と設定されています。

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隣の社長。この場面はまだスクルージのはずなのに、こんな好々爺然とした顔では、もう社屋は丸ごとイングリッド・バーグマンに渡してしまったも同然!

いっぽう、セイント・メアリー教会と付属学校は老朽化や資金不足のために、閉鎖を検討されています。その判断をするのが新任司教の役割なのです。シスター・ベネディクトは、教会の隣につくられている建物は理想の学校になると思い、他のシスターたちとともに、新しい校舎が恵まれますようにと祈りを捧げています。

まあ、わたしのような人間は「ちきり伊勢屋」を連想しますが、ふつうはチャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』を連想するでしょうね。隣の社長はスクルージで、怪異を見て、己の半生を悔い、善根を施すことで人生を取り戻そうとする人間です。

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社長は隣の教会をわが社の駐車場にしたいという抱負を語る。

それはけっこうですし、理解もできますが、スクルージにしてはじつに弱い人物設定で、どちらかというと「ちきり伊勢屋」の旦那のように、ふわふわとしたキャラクターに描かれています。スクルージであるには、酷薄でなければいけないのですが、この社長ははじめから口でいうほどの金の亡者には思えず、イングリッド・バーグマンが「これなら社屋をせしめられる」と考えるのも無理はないと思わせる好人物になっています。

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いっぽう、イングリッド・バーグマンは隣の社屋は理想の新校舎だと夢を描く。

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もうもらったも同然という満面の笑み。

さらにいうと、どの時点で自分の半生を悔い、残りの時間を他人に善根を施すことに捧げようと決心したのかもわかりません。ビング・クロスビーが町で出会ったら、すっかり好人物になっていたのです。そういうのはドラマの手法にはありません。わたしはおおいに面食らいました。

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まあ、そのような軽いキャラクターに設定されているおかげで、イヤな味がしなくていいのかもしれませんが、残り少ない人生、人から愛される人間でありたいと願って教会に新社屋を寄付しても、前半での位置エネルギーの蓄積がないので、転換によるエモーションの盛り上がりもなく、いたってコントラストの弱いプロットになっています。

◆ イングリッド・バーグマンの映画 ◆◆
もうひとつ、エンディングに関しても不満があるのですが、そこまで書いたものかどうか……。そもそも、複合的な欠陥だし、ちゃんと指摘するにはもう一度映画をはじめから見なければ確認しようがないので、簡単に片づけます。

イングリッド・バーグマンを転任させるにあたって、医者から変な理由で、転任の原因を話してはいけないと口止めされたビング・クロスビーが、結局、耐えきれずにバーグマンに理由をいってしまいます。これでバーグマンはすっかり安心して、はいハッピーエンドとなります。

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自分が説いた非暴力の教えを遵守したために、手ひどく殴られた生徒の自尊心を取り戻してやろうと、イングリッド・バーグマンは町のスポーツ用品店に出かける。バットの構え方がなんとも可愛らしい!

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スポーツ用品店で1ドルで買ってきた理論書を読んで、懸命にボクシングの要諦を勉強する!

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あとは実践あるのみ。このシークェンスのイングリッド・バーグマンはすばらしく魅力的で、レオ・マケアリーが不必要に長くキャメラをまわしてしまった気持はよく理解できる。この映画のなかでもっとも生彩のある場面。

でも、見ているほうは、おいおい、それはないだろ、でした。そもそも、理由をいわずに転任させる原因が医者の考えひとつというのが弱すぎるのです。わたしは、医者が口止めした時点で、そんなことはまったく理由にならないじゃないかと憤慨しましたが、案の定、ビングは、たいした理由もなしに医者との約束を反故にしてしまいます。だったら、はじめからきちんとバーグマンに説明すればいいじゃないか、という典型的なイディオット・プロットです。

以上、プロットは非常に出来が悪いのですが、それでも腹を立てずに最後まで見てしまうのは、イングリッド・バーグマンの生き生きとした表情のおかげです。『カサブランカ』や『ガス燈』などより、ずっと美しく、また、魅力的に撮られています。わたしはイングリッド・バーグマンのファンではないのですが、尼僧の衣裳のおかげで怒り肩も見えないこの映画は、彼女のベストではないかと感じました。


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by songsf4s | 2009-12-19 23:39 | クリスマス・ソング