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クリスマス映画6A Pocketful of Miracles (映画『ポケット一杯の幸福』より その1)
タイトル
Pocketful of Miracles
アーティスト
OST
ライター
Sammy Cahn, Jimmy Van Heusen
収録アルバム
N/A
リリース年
1961年
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『レモン・ドロップ・キッド』の原作者であるデイモン・ラニアンの作品はみな短編で、初出は「サタデイ・イヴニング・ポスト」「コスモポリタン」「コリアー」などの雑誌だから、季節感を盛り込んだのだと思われますが、クリスマス・ストーリーがずいぶんあります。

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クリスマス・ストーリーのアンゾロジーにもっとも頻繁に採られているのは、『ダンシング・ダンのクリスマス』(Dancing Dan's Christmas)と『三人の賢者』(The Three Wise Guys)でしょう。クリスマス・ストーリーか否かということにはかかわりなく、『三人の賢者』はラニアンの代表作といえるもので、こちらは妥当な選択だと思います。

The Three Wise Guysは1936年に一度、そして2005年にも映像化されている(後者はテレビドラマらしい)ことが、このリストでわかります。同じくらいに有名な『ダンシング・ダンのクリスマス』が映画化されていないのは、プロットがシンプルで、時間的スパンもクリスマス・イヴの数時間にすぎず、話をふくらませて本編に仕立てるのがむずかしいからでしょう。昔の「ヒチコック劇場」のような30分ドラマの枠なら、ちょうどいいような話です。

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『ダンシング・ダンのクリスマス』は、グッド・タイム・チャーリー・バーンスティーンの酒場で、客に出すのではない、主人がプライヴェートで飲むためにとってあったラム酒(禁酒法時代なのでしばしば酒の質について注釈が入る。客には悪い酒を出す!)で泥酔したダンが、サンタ・クロースの扮装をして町を歩いていて、家族連れにまとわりつかれ、父親と口論になって殴り飛ばしてしまい(なんせブロードウェイ界隈ではちょっと知られた暴れ者だから)、子どもたちが悪者サンタに呆然とする、というくだりは好きですが、それ以外は、ラニアンとしてはとくにすぐれた小説とはいいかねます。練達の話術で読ませるにすぎず、プロットは脆弱といって悪ければ、一直線のシンプル&ストレートフォーワードです。

f0147840_0104850.jpgいっぽう『三人の賢者』(もちろん「東方の三博士」Three Kings of Orientを下敷きにしている。したがって、キリストの誕生にまつわる物語を知らないと笑えない話)は、またしても語り手が、グッド・タイム・チャーリー・バーンスティーンの酒場で、クリスマス・イヴに飲んだくれていると(ラム酒ではなく、氷砂糖を入れた甘いライ・ウィスキー)、またしてもワルがワルを呼び、またしても語り手は悪党どもの悪事の現場に立ち会うことになります。

後年のマイケル・チミノの映画『サンダーボルト』に似た設定で、三人の男たちのひとりが、以前、「仕事」のあとで警察に追われ、ニューヨークからずいぶん離れたある町の厩に隠した金を、警官に撃たれた傷も治ったからと取り出しに行くことになります。しかし、そこで意外な障碍にぶつかって、話は変身をしはじめ(ここがキー・ポイントなので、これからお読みになる人のために伏せておく)、いつのまにか厩の出産に化けているのです。

男たち三人は、「賢明にも」金をあきらめたおかげで警察の不審尋問もパスし、やれやれといって夜中に町を去ろうとすると、町境の看板に「ベスレヘム、ペンシルヴェニア」と書いてあったという西洋落とし噺。「パリス、テキサス」だなんていう野暮な監督の野暮な映画とは月とスッポンですな。

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いやはや、サゲまで書いてしまい、こちらも野暮の骨頂でしたが、ラニアンの話は落語に通じるところがあって、ちがった形で紹介されていれば、オー・ヘンリーのようにファンがついただろうと思います。まあ、オー・ヘンリーよりスタイルがハイ・ブロウ(犯罪者たちが大量に出てくるという意味ではロウ・ブロウ!)で、ちょっと敷居が高いところが魅力にもなっているのですがね。落語ファンはぜひラニアンをお読みあれ。

◆ ハリウッドのエースたち ◆◆
原作はクリスマス・ストーリーではない『レモン・ドロップ・キッド』まで、クリスマスものとして映画化されたのは、デイモン・ラニアンといえばクリスマス・ストーリーという印象が強いためでしょう。

本日の『ポケット一杯の幸福』も、やはりデイモン・ラニアンの非クリスマス・ストーリーに、クリスマスをからませて映画化したものです。「クリスマス・ストーリー」と言い切るほどのオーセンティシティーはありませんが、導入部はクリスマス、クライマクスも、それと明示はされませんが、セット・デコレーションはクリスマス風ですし、時期は十二月なのだということがグレン・フォードの台詞でわかります。もっとも、登場人物たちは、一言もクリスマスらしいことはいいませんが。

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また、一昨年のクリスマス・スペシャルにおける、Pocketful of Miracles その1 by Harpers BizarrePocketful of Miracles その2 by Frank Sinatraに書いたとおり、この映画のテーマ曲は、オーセンティックなクリスマス・ソングではないものの、いつもクリスマス気分という歌詞で、考えようによっては、Let It SnowI've Got My Love to Keep Me Warmなどより、クリスマス・ソングらしさがあります。なんたって、Let It SnowやI've Got My Love to Keep Me Warmはただ寒い時期のことを歌っているだけなのに対して、Pocketful of Miraclesは、はっきりとI hear sleigh bells ringingといっているのですから。

サンプル Pocketful of Miracles by Harpers Bizarre

サンプル Pocketful of Miracles by Frank Sinatra

これほどの好勝負はめったにありません。しかも、めずらしいことに一騎打ち、ほかにはいいも悪いもヴァージョンというものがないのです。いや、もちろんOSTはありますよ。でも、あれは盤としてリリースするようにはつくっていないし、リリースするだけの価値はないでしょう。

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ヴォーカルで勝負、というなら、まあ、多くの人はシナトラに投票するでしょう。ハーパーズはスタジオ・シンガーがやってもわからないほど無個性なハーモニーで、あれこれいうほどのものではありません。

でも、わたしの関心はつねに背後のサウンドにあります。これが両方ともおみごと。それも当然、ハリウッドのジャズ系セッションのエースたちと、同じハリウッドのポップ/ロック系のエースの対決なのです。

しかも、舞台は両方ともハリウッドのユナイティッド・ウェスタン・レコーダー、エンジニアは、シナトラのほうは不明ですが、ハーパーズはリー・ハーシュバーグです。これ以上のエンジニアはいないというぐらいの名手。シナトラのこの時期のエンジニアとしては、ユナイティッドのオーナーであるビル・パトナム(シナトラのセッションでかならず卓に坐るという契約を交わしていた時期があった)かリー・ハーシュバーグが考えられます。エディー・ブラケットはまだこの1961年には入社していないか、アシスタントだったのではないでしょうか。

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結局、1961年のハリウッドのエースたちと、1968年のハリウッドのエースたちの対決、旧世代対新世代のサウンド対決なのです。機材はちがっても環境はほぼ同じ、どちらもじつにいい音。これこそが世界を征服したハリウッドのサウンドです。

ネルソン・リドルのアレンジは、この曲に関してはストリングスのラインが流麗であると書こうとして、一昨年の記事を見たら、そう書いてありました。録音のこと以外は、一昨年に書いたとおりで、とくに修正すべきことも補足するべきこともありません。なにしろ同一人物なので、それほど意見が割れないのです!

結局、どっちが好きなのだ、といえば、やはり、ハル・ブレイン、キャロル・ケイ、トミー・テデスコたちがプレイしたハーパーズ・ビザール盤の音が好ましい、ということも変わっていません。キャロル・ケイの、シンプルなだけに、グルーヴのよさが際だつプレイが特筆に値します。

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なぜこれほど好ましい曲にほとんどカヴァーがないのか、と疑問を感じます。歌詞が子どもっぽい、というか、子どもの口調を利用している点が障碍になっている、ということぐらいしかわたしには思いつきません。陰影というものがゼロで、ただただ明るいだけの歌詞というのは、歌いにくいのでしょうね。

もっとデイモン・ラニアンとフランク・キャプラのこと、そしてこの映画自体のことを書くつもりだったのですが、例によってタイム・イズ・タイト、これからスクリーン・キャプチャーもしなければいけないので、本日はここまで。残りは次回以降に持ち越しとさせていただきます。


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by songsf4s | 2009-12-15 23:56