- タイトル
- White Christmas
- アーティスト
- Bing Crosby
- ライター
- Irving Berlin
- 収録アルバム
- White Christmas Original Soundtrack
- リリース年
- 1954年
なんだかなあ、と思いながら、本日のクリスマス映画は『ホワイト・クリスマス』です。
なぜ「なんだかなあ」なのかというと、ひとつは、『スイング・ホテル』を取り上げた以上、その姉妹篇である『ホワイト・クリスマス』を無視するわけにもいかないだろうと、他動的理由で見たということです。
もうひとつ、楽曲のほうのWhite Christmasには、人生をはかなんでしまうほど無数のヴァージョンがあり、とうていすべてを聴くことができないのは、わたしとしては癪なのです!
予告篇
◆ 一面銀世界のはずが…… ◆◆
ともあれ、梗概をできるだけ手早く述べます。
『ホワイト・クリスマス』は『スイング・ホテル』(『ホリデイ・イン』)の続篇ではないものの、同趣向の企画として、当初は『ホリデイ・イン』と同じく、ビング・クロスビーとフレッド・アステアという配役を予定していたようです。しかし、アステアが断ったために、その役はダニー・ケイがやることになりました。
『ホワイト・クリスマス』もまたバックステージものです。二人の主役は第二次大戦中に同じ部隊に配属され、ダニー・ケイがビング・クロスビーの命を救い、すでにソング・アンド・ダンス・マンとして名をなしていたビングが、戦後、ダニー・ケイとデュオを組み、おおいに売れる――ここまでが導入部です。
ビングのところにかつての戦友から手紙(いや、電報だったか。もう忘れてしまった!)が届き、フロリダで舞台に出ている妹たちの歌とダンスを見てくれないかと頼まれて、二人はそのクラブに行き、戦友の妹たちのパフォーマンスを見ます。
Sisters
ここでビング・クロスビーは姉のローズマリー・クルーニーを、ダニー・ケイが妹のヴェラ・エレンを好きになります。ダニー・ケイはひときわ熱心で、ビングを口説き落とし、姉妹のつぎの仕事先であるヴァーモントのインについて行くことになります。
車中では四人でSnowを歌い、いかにも『ホワイト・クリスマス』という気分になるのですが、登場人物や観客の期待に反して、ヴァーモントには雪がなく、ダニー・ケイが「列車をまちがえたぞ、まだフロリダにいるらしい」などといいます。
ウィンター・リゾートなのに雪がないのでは商売あがったり、姉妹の仕事先のインも客がなく、満足にギャラが払えそうもないことがわかります。仕方ない、帰ろうかといったところで主があらわれると、これがビングとダニーの軍隊時代の上官だった将軍。
雪なしスキー・リゾート経営者であるこの将軍のピンチを救おうと、ビングとダニーがあれこれ画策し、いっぽうでビング・クロスビーが誤解され、腹を立てたローズマリー・クルーニーがニューヨークへ行ってしまうというルーティンがあったりして、最後はクリスマス・イヴにインで華やかなショウが繰り広げられ、誤解も解け、盛大にWhite Christmasを歌ってエンド・マーク、という運びになります。
◆ 50年代ハリウッドの色彩感覚 ◆◆
もちろん、傑作を期待したわけではなく、あくまでも個々のショウ・ナンバーの出来が優先、話は二の次と思って見ました。じっさい、プロットのほうはどうということもなく、やはりソング&ダンスの映画でした。
しかし、色彩感覚のすばらしさに圧倒されるいっぽうで、フレッド・アステアの不在を痛感させられるナンバーばかりでした。アステアを前提とした企画なのだから、アステアがダメだとなっても、方向転換はできなかったのでしょう。
The Best Thing Happen
このThe Best Things Happen When You're Dancingでは、ダニー・ケイもがんばっています。でも、これが精一杯で、激しい動きのあるダンスでは、べつのダンサーがヴェラ・エレンの相方をつとめています。
ヴェラ・エレンの姿態とダンスは魅力的なので、ダニー・ケイに合わせて振り付けをスケール・ダウンするわけにもいかず、肝心なところにくると主役はフレーム・アウトし、ヴェラ・エレンの動きについていける本職のダンサーが登場する、という処理にせざるをえなかったことがはっきりと伝わってきて、ちょっと居心地が悪くなります。いやはや困ったなあ、フレッド・アステアがダメなら、ジーン・ケリーに話をもっていくべきだったねえ、と55年遅れのボヤきがでますよ。
しかし、ダニー・ケイとフレッド・アステアを比較するなどという無益なことをしない方なら、どのショウ・ナンバーも楽しめることでしょう。楽曲やアレンジもいいのですが、衣裳と装置の色彩が圧倒的なのです。アステアがダメならジーン・ケリーじゃん、などと無意味な無いものねだりをしなければ、この映画のショウ・ナンバーはどれもたいしたものです。
マンディー(クリスマス・カラー、タンバリン)
この赤と緑の補色をベースにした異様な配色は、クリスマスを意識したものなのでしょうが、それにしても、よくやるぜ、というデザイン。呆れつつ、おおいに楽しみました。楕円形の赤いタンバリンという発想もすごい!
フィナーレ~ホワイト・クリスマス
サンタクロースの衣裳を女性向けにアレンジするというのは、あまり見ないような気がします。たいていは、あのまんまの衣裳を女性が着るのではないでしょうか。いや、アメリカのメンズ・マガジンには、超ミニのサンタクロース衣裳というルーティンがありますが、あれもコートはふつうのデザインでしょう。この映画はサンタクロース装束風ドレス! 後にも先にも、そんなものはこの映画でしか見たことがありません。
◆ 86種類のWhite Christmas ◆◆
さて、ほかにクリスマス・ソングがあればそちらへ逃げるのですが、どういうわけか、クリスマス映画なのに、『ホワイト・クリスマス』に登場するクリスマス・ソングは、White Christmasただ一曲なのです。
しいていうと、Snowは冬の歌なので、最近の超拡大解釈クリスマス・ソング・クラウドに入れても差し支えないかもしれません。とはいうものの、堂々とクリスマス・ソングを名乗って銀座八丁を練り歩けるほどのオーセンティシティーは、もちろんありません。ものを知らない若者を騙すクリスマス・ソング巨大オムニバス・ボックス販売業者の策略にのるなんてえのは、いい年をした大人(今日、アメリカ人の若者に道をきかれたときに、sirをつけられてしまった。よほどの年寄りに見えたのだろう!)のすることではないでしょう。
となると、このシリーズの趣旨からいって、ここでWhite Christmas各種ヴァージョンの検討へといくわけですが、そりゃ無理ってものです。いや、いちおう、できるだけたくさん聴いて、一昨年のWhite Christmas その1とWhite Christmas その2に書ききれなかったこと、二年間で考えが変わった点を書こうと思ったのですよ。
でも、愕きました。いまのわたしの考えるようなことはどれも、すでに二年前のわたしがくわしく書いていたのです。86種のWhite Christmasを流しっぱなしにして、書きものや調べものをしているじゃないですか。で、曲が替わったとたんに、おお、鳴りのいいスタジオじゃん、いいエンジニアだねえ、みごとなバランシング、これこそが録音というものでありんす、いまどきの録音なんか薄っぺらくてお歯に合わないねえ、なんて思いつつ、プレイヤーにフォーカスを移して確認するじゃないですか。
そうすると、ヘンリー・マンシーニのWhite Christmasであると表示されているのです。マンシーニはいつもハリウッドのRCAのスタジオAだから、録音がよくて当たり前。で、一昨年の記事を見ると、ヘンリー・マンシーニのWhite Christmasは、冒頭を聴いた瞬間にすばらしいと感じると、もう先回りして書いてあるのですよ。われながら、なんとみごとな一貫性、と勘当しましたね。いや、感動しましたね。
いや、こんな手前味噌だけで終わってはあんまりなので、なんとか次回、一昨年の自分をロール・オーヴァーするべく、White Christmasのかゆいところに手を届かせる努力をしてみるつもりです。つまり、今日はもう疲れた、さよなら、といいたいだけですけれどね。それはそうでしょうに。一日中、White Christmasを聴きつづけてごらんなさいな!
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ホワイト・クリスマス OST(ホリデイ・インOSTと2オン1)
Holiday Inn & White Christmas
ヘンリー・マンシーニ
Merry Mancini Christmas