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『霧笛が俺を呼んでいる』 その7

先週後半からいつもよりお客さんが増えました。なんだろうと思ったら、クリスマス需要がはじまったようです。検索キーワードを見ると、クリスマス・ソングが増えています。

これだから、みなクリスマス・ソングをレコーディングするわけですよね。当ブログでも、一昨年の十一月から十二月にかけてクリスマス・スペシャルをやっただけで、毎年時期になると、それを目当てのお客さんがいらっしゃるぐらいなので、盤をつくって売っている人たちとしては、これをやらない手はない、というものです。

もう、一昨年のような怒濤のクリスマス・ソング特集はできませんが、昨年はサボったので、今年はクリスマス・スペシャルをやろうと考えています。まあ、スタートまでに少なくともまだ一週間はかかるでしょうけれど。

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一味に殺されそうになったホステスを赤木圭一郎が自分の船室にかくまう。昔の映画はどんどんセットをつくってしまう。

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◆ シティー・ホテルの先駆 ◆◆
うまくすると、今日中に『霧笛が俺を呼んでいる』を完了できるような気がするので、張り切ってスタートします。

西村晃たちに発見された葉山良二は、地下道から抜け出せなかったハリー・ライムとは異なり、地下出入口のおかげで、危うく窮地を脱します。そして、バンド・ホテルの赤木圭一郎の部屋にあらわれ、明日、「日比谷ホテル」(実在しない)に芦川いづみを連れてくるように頼みます。親友を逃げ延びさせてやろうと決めていた赤木は、この申し入れを承知します。

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逃亡を企てる葉山良二を尾行していた深江章喜が、葉山の動向をボスに連絡する。どうやら丸の内ロケらしい。背後の煉瓦のビルはいわゆる「一丁倫敦」ではないだろうか。

まあ、だれが考えてももう話は煮詰まっています。翌日、赤木圭一郎と芦川いづみ(彼女のほうは赤木の考えには不賛成で、葉山良二に自首させようと思っている)は、東京のホテルに出向きます。

このホテルがアッハッハです。日比谷の日活ホテルでロケされているのです。いえ、このときはまだできたばかりで、いわば「シティー・ホテル」のはしり、お膝元で撮影しやすいというだけの理由で使ったわけではなく、この非日本的風景に充ち満ちた映画の、クライマクスの舞台として最適だったのでしょう。

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キャメラは日活国際会館の外壁を面白いアングルで捉えた。

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アメリカン・ファーマシーの看板

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出典を思いだせず、いまは確認できないのですが、昔は地下駐車場というものがほとんどなくて、そういうロケが必要になると、かならず日活国際会館、すなわち、日活ホテルの入っているこのビルが使われたという話を読んだ記憶があります。

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地下駐車場に降りていく急カーヴ。「時速5メートル」とはすごい。たしかに「デッド・スロウ」だ。いや、このMはメートルではなく、マイルなのだろう。はじめから日本人は相手にしていない?

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こういう日本映画には思えない絵が欲しくて、地下駐車場を使いたかったに違いない。

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葉山良二を深江章喜が尾行している。

そういえば、戦前のオフィス・ビルには駐車場がなく、使い勝手が悪いために取り壊されたものがいくつもあるということを、建築関係の本で読んだことがあります。「老朽化」のための取り壊し、という言葉の意味は、そういうことだったりするようです。

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以下三葉はセット。ホテル内部はほとんどセットと思われる。勘定してみると、やはり昔の映画、セットの杯数はいまどきの映画などくらべものにならないほど多い。

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西村晃らに追われて、葉山良二は外に逃げる。上掲二葉のセットは、逃亡シーンのために、外壁もつくってあったのである。このショットは、外からレースのカーテン越しに室内の芦川いづみを捉えている。

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ビルとビルのあいだから遠く議事堂が見える。その左側に葉山良二(というか、スタントマン)がいる。

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細かくカットを割って、ていねいに撮っている。時代のパラダイムといってしまえばそれまでだが、昔は良かったという禁句が、喉元まで迫り上がってくる。

日活国際会館は、その後、日活の屋台骨が傾いて売却され、日比谷パーク・ビルとなって、ついこのあいだまで(年寄りの時間感覚はあてにならない)あったのですが、気がつけばすでに建てかわっていました。日比谷パーク・ビルといっておわかりにならない方でも、アメリカン・ファーマシーがあったビルといえば、あのたたずまいを思いだされるのではないでしょうか。灰緑色の化粧タイルが特徴的でした。

以下の地図で、「ザ・ペニンシュラ東京」となっているのが、日活国際会館の跡地です。
日活国際会館跡地

以下は、見つけておいたものの、適当な置き場所がなく、ここまで引っ張ってしまった宍戸錠の赤木圭一郎の思い出。

宍戸錠コメント 調布撮影所事故現場 霧笛が俺を呼んでいる(テレビ) 黒い霧の町(テレビ、デュエット)


◆ 別れの握手??? ◆◆
葉山良二がどうなったかまでは書かずにおきます。まあ、おおかた推測はつくでしょう。プログラム・ピクチャーというのは、落ち着くべきところに落ち着くものと決まっています。

事件の片がついたら、コーダを奏でることになります。残された登場人物たちが、今後どうしていくかを明言したり、示唆したりして、それぞれの道を行くことになる、というように、ここも「型」が決まっています。男と女が結ばれることはまずありません。たいていの場合、淡い慕情で終わります。

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『霧笛が俺を呼んでいる』も、やはりその型に則って、パセティックであると同時にストイックな、日活独特の風味のあるエンディングになっています。当然、音楽も、冒頭と同じように、赤木圭一郎歌うテーマ・ソングが流れます。

エンディング


わが胸に手を当ててよく考えてみました。こういう日活アクション独特のセンティメンタリズム、なかんづく、テーマ・ソングと画面がつくりだす独特のムードが好きなのか、嫌いなのか? 留保なしというわけではありませんが、やはり嫌いではないようです。それはそうでしょう。このムードが嫌いだったら、そもそもはなから日活アクションは見られません。

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留保をつけるとしたら、曲の善し悪しにある程度左右される、ということと、映画のでき次第で、この「日活アクション・コーダ」に浸れるか否かが決まるようです。もちろん、『霧笛が俺を呼んでいる』は、曲の出来も上々、映画の出来も(脚本にはいろいろ文句をつけたが)よく、これで「コーダ」がなかったら腹を立てたでしょう。

ふと思いました。日活には、「ムード・アクション」と呼ばれた作品群がありました。勝手に定義を試みると、「ラヴ・ロマンス色が強く出たアクション映画」といったところでしょうか。『赤いハンカチ』『夜霧よ今夜も有難う』『帰らざる波止場』といったあたりの、石原裕次郎と浅丘ルリ子が共演した映画が、代表的な「日活ムード・アクション」といえるかと思います。

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そういう作品群が登場するのは1963、4年と考えていいのでしょうが、『霧笛が俺を呼んでいる』は、すでにのちの「ムード・アクション」の手ざわりをもっています。たんに、石原裕次郎と浅丘ルリ子ほどには男女の距離が縮まらず、お互いに「好意をもつ」段階でとどまることがちがうだけです。

だから、赤木圭一郎と芦川いづみがはじめて「肉体的接触」をするのは、霧の埠頭での別れの場面、ただ握手をするだけなのです。握手ですよ。日活映画は不良の見るものなんて、だれがいったのでしょうかね!

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by songsf4s | 2009-11-15 23:57 | 映画