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『霧笛が俺を呼んでいる』 その1

前回は「予告篇」をやったので、今日からは『霧笛が俺を呼んでいる』を見ていきます。

しかし、なにをどう見るのか、今回はまだ考えがまとまらないまま、ブログは待ったなし、書きながら考える、でやっていくことにします。思いつきでいうと、「わたしが日活アクションを見たくなる五つの理由」てな方針かもしれません。

◆ 目と耳に訴えかける「非日本」 ◆◆
すでに前回の「予告篇」で見てしまったのですが、改めてオープニングに戻ります。このとろっととろけるような甘みのある夜のクレーン・ショットだけで、わたしはもう「その気」になってしまいます。日活映画にしかない味がたっぷりしみこんだ濃厚な絵作りです。

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このピックアップ・トラックの車種にしても、色彩にしても、偶然のはずがない。日本のトラックではないだろうし、こういう色もそこらにあるものではない。木村威夫美術監督が指定したものに違いない。慎重に非日本的要素が選択され、画面作りに、映画全体のムード作りに寄与するように並べられている。

もちろん、音楽も不可欠です。コンボの4ビートの曲、ビッグバンドでの派手な入り方というのもないわけではありませんが、やはり「正調日活アクション」は歌、それも主役スターが歌うものでなければいけません。だからこそ、歌が得意とは思えない宍戸錠や二谷英明も主題歌をうたったのです。

日活アクションが「無国籍」と評された理由はさまざまあるでしょう。

・台詞が外国映画のように気取っている。
・日本ではありえないような事柄や事件が頻出する(殺し屋の登場やギャングの銃撃戦)。
・ロケ地の選択、セット・デザインが非日本的。
・そうした被写体を捉える手法もまた非日本的で、しばしば外国映画のようなムードが画面に漂う。
・画面に合わせてスコアも非日本的で、コンボによる4ビートの曲がよく使われる。

こんなところでしょうか。アクションものに関しては、こういうファクターについて検討すればいいのではないかと思います。

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◆ 世界一の「4ビート・スコア・スタジオ」 ◆◆
予定では違うことを書くつもりだったのですが、スコアのことを書いたら、自分で、そうだなあ、これは極端だ、と思いました。日活はひょっとしたら「世界でもっとも4ビートのスコアを多用したメイジャー・スタジオ」と定義していいのではないでしょうか。

同時期(1950年代終わりから1960年代なかば)を見渡して、日本ではこのように4ビートを多用した撮影所はほかにありません。これは当然で、どなたでもすぐに想像がつき、納得がいくでしょう。もっとすごいのは、ハリウッドにだってこんなスタジオはない、ということです。

意外だ、などという人は、あの時代のハリウッドのスコアをご存知ないのです。スタジオ所属のオーケストラは50年代後半に解体されるのですが、それまでの遺産がたっぷりあるので、「映画スコアとはすなわちオーケストラ音楽である」というパラダイムは、その後も厳として存在しつづけました(どこでそれが壊れたかは見方が分かれるだろうが、ひとつのきっかけは1969年の『イージー・ライダー』だった)。

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『オズの魔法使い』のスコアを録音中のMGMオーケストラ。

ハリウッド映画で、スコアに4ビートが使われるようになるのは50年代に入ってからのことです。ジャズ・プレイヤーがスコアでプレイするようになるのも同じ時期です。

しかも、どういう映画にジャズ・スコアが使われたかはすでに完璧に研究済みというほど、数は限られています。『巴里のアメリカ人』『欲望という名の電車』『黄金の腕』『成功の甘き香り』などです。後二者はミュージシャンの物語なので、厳密には「スコア」とはいえず、「現実音」に分類すべきかもしれません。それほどにハリウッド映画のスコアでは、4ビートは傍流、少数派でした。

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◆ 日活の特殊事情 ◆◆
日活はハリウッドのどのメイジャー・スタジオにくらべても、圧倒的にジャズ・スコアを多用したと断言できます。なぜそうなったかも、簡単に推測できます。

ヴェテランのエンジニアが話していましたが、ハリウッドの撮影所のサウンド・ステージは、90ピースのオーケストラがプレイすることを前提につくってあったそうです。90ピースといえば、フル・スケールというか、これ以上大きなオーケストラはめったにないぐらいの規模です。

それに対して、4ビートのスコアはどうか? ビッグ・バンドといったって、20人もいれば十分に「ビッグ」なサウンドになります。コンボでよければ、三人にはじまって、せいぜいセクステットかセプテットぐらいで十分です。もうおわかりでしょう。コストの問題です。

いや、もうすこし考慮するべきファクターがあるかもしれません。いわゆる「ジャズ・コン(ジャズ・コンサート)・ブーム」というものがあり、他の撮影所とは異なり、日活(の少なくともだれか)はそれを十分に計算に入れ、『嵐を呼ぶ男』という映画を作って爆発的にヒットさせた、という実績です。

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いろいろな要素が絡まり合って、日活は世界で有数の、いや、おそらく世界一の「4ビート・スコア・スタジオ」になったのでした。リアルタイムではわたしは小学生だったので、スコアがどうだという意識はありませんでした。本格的に日活を見はじめた高校時代には、がちがちのロックンローラーだったのですが、それでも、オーケストラ音楽よりは、4ビートのほうがずっといいと思っていました。

昔は非日本的なものを「バタ臭い」といいましたが、日活は極端に「バタ臭い」絵作りをしたのだから、スコアもそれに合わせる以外に方法はありません。そして、たまたま、当時の日本のジャズ・ミュージシャンのレベルは高く、「バタ臭い」画面づくりとみごとに呼応する、「バタ臭い」4ビートのスコアができあがったのです。

◆ ひどい煙 ◆◆
話が具体性を欠くと退屈するのですが、サントラ盤がなく、唯一のよりどころとなる赤木圭一郎作品の音楽を集めたCDももっていないため、サンプルを提示することもできず、長広舌になってしまいした。

ご覧になった方はご存知のように、山本直純による『霧笛が俺を呼んでいる』のスコアは、ほぼすべて4ビートです。それ以外の音楽というと、赤木圭一郎が歌うテーマ曲と、クラブ・シンガー役の芦川いづみが歌うシャンソンぐらいでしょう。

テーマ曲で「悲しい噂」と表現されている出来事は、この町、すなわち横浜に住んでいた親友の行方がわからなくなったことです。たまたま乗船の機関の故障から出港が延びたのを利用して、船乗りの赤木圭一郎はその友人を行方を捜そうとします。

まずは船員バーでの一暴れが最初の山場ですが、ここまでの視覚デザインは完璧に非日本的です。

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『日活アクションの華麗な世界』で渡辺武信がつとに指摘していますが、この映画はタイトル通り、つねに煙っていて、埠頭も霧、バーの外も霧、バーのなかも紫煙、じつにもって見ているだけで噎せそうなスモークだらけの映画で、撮影が終わったとき、俳優たちはみな薫製になったような気分だったでしょう。

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どうであれ、視覚と聴覚と言語の三面から、日活は「ここではないどこか」をつくりだし、後年のわたしよりもっと切実に、「ここではないどこか」を必要としていた昭和30年代の若年層に、確固たる夢の基盤を与えたのだと思います。

なんだかまるで前に進まず、恐縮してしまいますが、次回からは物語に沿ってデザイン感覚を見ていくことにします。


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by songsf4s | 2009-11-07 23:58 | 映画