鎌倉駅と『乳母車』(石原裕次郎、芦川いづみ主演、田坂具隆監督、1956年日活映画)

なんだかくどい話になってしまいましたが、「狂った果実 by 石原裕次郎 (OST 日活映画『狂った果実』より) その2」と、「Nikkatsuの復活 その2」で、二度にわたってふれた、鎌倉駅の階段について、今日は決着をつけようと思います。

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田坂具隆監督の『乳母車』に、この階段が出てくることはちゃんと記憶していて、いつかそちらを確認するといいながら、ここまで引っ張ってしまったのは、ひとつにははるか昔のテープが傷んで見られなかったためです。いえ、VHSではスクリーン・ショットをとれないので、見られても同じことですが。

やっと借金を返済する気になって、『乳母車』を見たはいいのですが、見終わって、スクリーン・ショットを格納するフォルダーを開けたら、まったくなんにも撮れていないことがわかり、一昨日も昨日も更新できませんでした。

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VOBをAVIに変換するといいのではないか、なんて思い、DVDdecrypterとGordian Knotでやってみたのですが、昔はオーケイだったGordian Knotが、新しいヴァージョンではなぜかエラーばかりでダメでした。

ではプレイヤーを替えるかというので、ほかのものを試したところ、VLCでうまくいったものの、これも問題ありでした。ひとつは、マウス・クリックしか方法が見あたらず、キーボード・ショートカットがわからないため、ひどく面倒だということ。もうひとつは、吐き出される静止画がPNGで、JPEGよりサイズが大きくなってしまい、HDDを圧迫しかねないことです。PNG→JPEGの一括自動変換は可能ですが、できればよけいなパスはかませずに済ませたいものです。

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そうこうしているうちに、一度はダメだったGOMプレイヤー(ほかのことはともかく、キャプチャーに関するかぎり、これがいちばん手際よくできる)でのISOイメージからのキャプチャーが、なにも設定変更などしないのに、なぜか以前のようにちゃんとできるようになり、話はぐるっと輪を描いて元に戻りました。

はじめからGOMでやろうとしたのに、それがうまくいかなくて、リッピングやらAVIへの変換やら他のプレイヤーのインストールやら、その他、あれこれと大騒ぎをしたのに、これはどういうことだよ、でした。

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まあ、あれこれインストールしているうちに、なにかDLLでも書き換わって、GOMのトラブルを引き起こしていた原因が除去されたのでしょう。だから、ジタバタしたのもまったくのムダではなかったということにしておきます!

◆ 階段話はつづく ◆◆
さて、鎌倉駅の階段です。昔の記事をご覧あれといっても、だれもご覧なぞしてくださらないのは目に見えているので、冗漫ながら、『狂った果実』の階段と、わたしが撮った最近の階段の写真を、古いキャプションごと、ここに再掲します。

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この階段を囲む鉄の手すりもまったく記憶がない。最近の改装ではなく、大昔に作り替えたのだと思う。やはり裕次郎が主演した『乳母車』に、芦川いづみが、家を出る母親をこのプラットフォームで見送るシーンがあったが、いつかチャンスがあったら、ここが映っていないかどうか、あの映画を確認してみたい。

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東京方向に向かって撮影している。したがって、背後が逗子・横須賀方向。平日の午前中だからこんな写真が撮れたが、週末になると、ここはつねに大混雑。

さて、その確認の結果はつぎのようなものでした。いや、そのまえにシテュエーションを説明しておきます。宇野重吉扮する夫が、外に女(新珠三千代)をつくり、子供まで産ませたことを知っていながら、妻の山根壽子は夫を苦しめようという気持と、経済的な理由から問題を放置していました。しかし、娘の芦川いづみにそのことを責められ、結局、家を出ることになります。

その決定的な夜、母が出て行った直後に帰宅した芦川いづみが、母を止めようとあとを追って鎌倉駅に駆けつけ、東京行き終電車に乗ろうとしていた山根壽子を連れ戻そうとするという場面です。

鎌倉駅での最初のショットは、芦川いづみが改札を通るというだけのなんでもないものですが、これだけでわたしは「あれ?」となってしまいました。

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現在の鎌倉駅では、このように改札を通る人間が、直角に曲がって線路下の通路に入る場所は、一カ所しかありません。江ノ電との連絡改札口です。

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はじめは、この赤い線のように芦川いづみが歩いたと考えた。この図は、表駅から裏駅(江ノ電側)に向かって見ている。したがって、右が東京方面、左が逗子・横須賀方面。手前が下り1番線、向こうが上り2番線である。つまり、以下の写真のキャメラと同じ向きになっている。

そのように仮定して以後のショットを見ていくと、またしても「あれ?」と疑問が湧いてきます。

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背後にテアトル鎌倉(映画館、現存せず)が見えているので、上り二番線にレンズを向けていることがわかります。しかし、江ノ電との連絡通路を通ってきたのなら、芦川いづみの動きから考えて、逆向き、すなわち一番線側、表駅側が見えなくてはいけないのです。

そういう細かいことにはこだわらなかったのかもしれません。しかし、もうひとつの可能性は、わたしはまったく記憶していないものの、通路と直角になる改札口が昔はあったのだということです。こちらのほうが可能性が高いでしょう。なぜなら、芦川いづみの家は江ノ電沿線ではなく、材木座あたりにあるという設定だと想像されるからです。

だから、江ノ電は使わず、タクシーかバスで駅に着き、表駅の改札から構内に入り、現実の鎌倉駅での人の動きを正確になぞった結果、ああいうキャメラの動きになったのだと考えるほうが自然のように思います。

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つまり、このシークェンスでの芦川いづみも、『狂った果実』の石原裕次郎および津川雅彦とほぼ同じ動線をたどってプラットフォームに立ったということです。ただし、裕次郎たちは下り1番線の電車に飛び乗ったのに対して、芦川いづみは、上り2番線に向かって立つ母親に声をかけるというところで、向きが逆方向になったわけです。

◆ 「ロケ嫌いの田坂組」 ◆◆
そもそも、『乳母車』を再見しようと考えた理由は、『狂った果実』冒頭で捉えられていた階段の手すりの形に見覚えがなかったからです。

しかし、その後、木村威夫の『映画美術』で、『乳母車』では、階段のセットをつくった、ああいうものは「ピックアップ」といって、現実にあるものをコピーするだけの作業だから、退屈きわまりない、といっているくだりを見つけ、それなら、どのようにロケとセットをつないだのか確認したいと思ったのです。そのことは「Nikkatsuの復活 その2」という記事に書きました。

さて、細かくこのシークェンスを検討して、へへえ、と唸りましたね。うっそー、そういう風につないじゃうのー、てなものです。ちょっと重複しますが、また鎌倉駅プラットフォームに戻ることにします。

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テアトル鎌倉の表には『?人船』と『オセロ』というタイトルが見える。1956年の映画ということで調べたら、前者は稲垣浩監督、三船敏郎主演の『囚人船』、後者はソ連映画だとわかった。洋画邦画をチャンポンでかけていたらしい。

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ここまでは鎌倉駅でのロケです。以下はスタジオでのショット、木村威夫が、「実物をコピーするだけだから面白くもなんともないが、仕事だからまじめにつくった」というセットでの撮影になります。

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背景は書き割りではなく、スクリーン・プロセスによる合成。スタジオだからと思っていると、ここで上り電車が入線してきてギョッとする。

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木村威夫が、山根壽子に「よろけ縞」の着物を着せた、といっているが、それがこの着物。よろけたような曲線だからだろう。手ぬぐいなどにも使われる伝統的な柄。いや、ここで愕くのは、美術監督が衣裳のデザインもしたということだ。ほかの映画では、森英恵と衣裳の相談をしたといっているので、やがて分業化されるのだろうが、ただし、森英恵にいろいろ注文をしているので、衣裳デザインは美術監督の職掌という原則に変わりはなかったのだろう。

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もはや当初の目的などどうでもよくなってしまったが、はじめはこの手すりの形を確認したかったのだ!


◆ 終電のあとで ◆◆
お読みになっている方もお疲れでしょうし、わたしもキャプチャーと写真の並びの確認でくたびれましたが、鎌倉駅のシーンだけは一気にやってしまおうと思います。

結局、芦川いづみは麹町の「叔母さん」の家に行くという母を止められず、悄然と帰路につきます。

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そこへ、遅れて駆けつけた宇野重吉が姿を見せるのですが、これがやはり正面や背後からではなく、左手から斜めにフレームに入ってきます。

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こういうところまで細かく演出する監督とキャメラマンが、俳優に現実とは異なる動線をたどらせる可能性は低いので、やはりわたしが記憶していない改札口が昔はあったにちがいありません。

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父と娘が改札に向かって歩きはじめると、灯りが消される。終車が行くと、最後の乗降客を追い出すように灯りが消されるのはいまでも変わらない。だから、リアリズムなのだが、ここではシンボリズムでもある。

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向こうに見えるネオンサインは「ステーション食堂」と読めるが、記憶にない。

美術監督自身が回顧してくれると、映画の見方も変わるもので、今回の再見ではなんども「へえ」と思いました。せっかくだから、「美術監督・木村威夫といっしょに見る『乳母車』」をもう少しつづけたいと思います。なんたって今回は裕次郎の出番がなかったわけで、このまま終わりにするのはどうにも具合が悪いですしね。

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by songsf4s | 2009-10-29 23:57 | 映画