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Dancing in the Dark by the MGM Studio Orchestra (映画『バンド・ワゴン』 その1)
タイトル
Dancing in the Dark
アーティスト
The MGM Studio Orchestra
ライター
Arthur Schwartz, Howard Dietz
収録アルバム
The Band Wagon (OST)
リリース年
1953年
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フレッド・アステアの映画は、『足ながおじさん』『イースター・パレード』という、アステアのドラミングが見られる二本で終わりにする予定でした。しかし、ここまで見て、『バンド・ワゴン』を見ないで帰っては、客としての義理が悪いでしょう。

ミュージカル嫌いは縁がないものとして、ふつうの映画ファンは、『イースター・パレード』と『バンド・ワゴン』のどっちがいいと思うか、あるいは、どちらが好きか、といわれたら、長考も長考、大長考したあげく、がまの油になるんじゃないでしょうか。わたしはいくら考えても結論が出せず、よくまあ、すごい映画を二本も残したものだと、ただ呆れるのみです。

バンド・ワゴンに乗り遅れるな!


いえ、アステアに話をかぎっても(この二本については、フレッド・アステアよりもアーサー・フリードの文脈で考える人も多いだろう)、戦前のジンジャー・ロジャーズと組んだ作品群だって、『有頂天時代(スイング・タイム)』や『トップ・ハット』や『踊らん哉』(Shall We Dance)など、好ましい映画がたくさんあります。

しかし、この比較はわりあい簡単に、戦後のもののほうが好き、と結論が出ます。なぜそうなのかは、あとでふれることにします。

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◆ 昔日の大スター、アステア=ハンター ◆◆
『イースター・パレード』もすごいナンバーが目白押しですが、『バンド・ワゴン』も、どれを取り上げようと迷い箸をしてしまいます。考えても混乱するばかりなので、登場順に検討すると……いや、ショウ・ナンバーが出てくる前から、この映画は楽しいのですが、そのクリップは見つかりませんでした。

フレッド・アステアは、トニー・ハンターという、一昔前に一世を風靡した「ソング&ダンス・マン」(いい言葉なのだが、日本にはこの表現にあてはまる一流芸人が出現せず、ついに日本語化されなかった。文字どおり歌って踊るショウマンのこと)という、ほとんどそのまんまの役です。

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ポイントは「一昔前に」のほうで、冒頭ではその点が強調されます。まず、タイトルの飾りの絵のように見えたトップハットとステッキが、キャメラが引くと、じつは絵ではなく、オークション会場に置かれた実物の実景だとわかります。観客はここで意表をつかれ、すっと映画に入っていきます。ヴィンセント・ミネリとしては「してやったり」のファースト・ショットでしょう。

オークションでは、「かの大スター、トニー・ハンターが使ったトップハットとステッキ」と紹介されるものの、だれも入札せず、初値からどんどん下がっていき、50セントでもダメで、トニー・ハンターがすでに完全に忘れ去られた存在であることが強調されます。

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つぎはニューヨークに向かう列車のサロン・カーで、紳士たちが雑誌など見ながら、トニー・ハンターっていうのを覚えているか、家内が昔好きでね、などと噂していると、向こうでメニューかなにかで顔が隠れていた男が、正体をあらわし、フレッド・アステアの登場となります。ここでなにをいうかと観客は固唾をのむのですが、アステア=ハンターは、「トニー・ハンターもおしまいかって? それどころか完全に干上がってるよ」と紳士たちに同調します!

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ダメ押しは、駅(ペン・ステーション?)に着いて、プラットフォームに降り立つと、新聞記者がどっと詰めかけていて、俺もまだ人気があるんだなと気をよくして話していると、あとからエヴァ・ガードナー(本物のカメオ・アピアランス)が降りてきて、記者の目当ては、アステア=ハンターではなく、彼女のほうだったというサゲになります。

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この一連の流れの演出と編集はあざやかで、じつに楽しいのですが、「ソング&ダンス」がすくないためか(プラットフォームでBy Myselfを歌うのだが)、クリップが見あたりません。フレッド・アステアの観点からも、ヴィンセント・ミネリの観点からも、アーサー・フリードの観点からも、ここはだいじなシークェンスなのですがねえ。

まあ、それほどフレッド・アステアのダンスの人気がいまも高いということでしょうが、ヴィンセント・ミネリの映画としてみるなら、ここの演出にもっとも力が入っていると感じます。ショウ・ナンバーでは、フレッド・アステアやシド・チャリシーの芸と魅力にもたれかかることができますが、ここは監督がBy Myselfでやるしかないところですからね。

◆ ショウの本場でのダンス・ナンバー ◆◆
とはいえ、ダンス・ナンバーだって、『足ながおじさん』とくらべると、やっぱりMGM=アーサー・フリード映画はものがちがう、と感じさせるわけで、ここでもスタジオの違いと監督の力量は如実にあらわれています。いや、もちろん、『足ながおじさん』のときのアステアは、もう体が動く限界の年齢だったのでしょうが。

プラットフォームの歌はじつにあっさりしたもので、最初の本格的なソング&ダンスは、ブロードウェイの「アーケイド」(日本語の意味ではなく、英語のamusement arcadeの意味)を舞台にしています。ここはフレッド・アステアもヴィンセント・ミネリも力が入っていて、当然、こちらもグッと映画に入っていきます。

A Shine On Your Shoes


体が動くときではなければ、こういう激しいダンスはできないわけで、いまふりかえれば、そろそろ見納めというパフォーマンスです。いや、このころまではじつにすばらしかった、といいたいだけですが。

◆ アステアの独壇場 ◆◆
ひょっとしたら、つぎの場面が、この映画のもっとも忘れがたいダンス・シーンかもしれません。

Dancing in the Dark


ご存知ない方のために説明すると、この直前、フレッド・アステア=トニー・ハンターは、リハーサル中に演出家と衝突し、ショウを降りると宣言してホテルの部屋に戻ります。いろいろなものを壊したり、蹴飛ばしたりして大荒れに荒れていると、共演のシド・チャリシーがやってきて、もうすこしお互いに歩み寄って、踊り、演じてはどうかと相談がまとまります。

それでは「リハーサル」をしようといって馬車で出かけ(デイモン・ラニアンの「プリンセス・オハラ」を思いだす)、セントラル・パークなのか、どこかの公園に行くと、野外ダンスをやっている、その会場からちょっと離れ、ひと気のないところに出る、といったところから、すっとダンスに入るのですが、この入口の呼吸がじつにいいのです。惚れ惚れします。

ダンスのつづきのように二人が歩いていくと、そこに馬車が待っていて、そのままの流れるような動きで二人が乗り込むと、馬車もいい呼吸で走りだす――すべてのタイミングがきれいに整って、じつになんとも、ため息の出るようなシークェンスです。

『イースター・パレード』より『バンド・ワゴン』のほうがすぐれている点があります。オーケストレーションというか、録音まで含めたストリングスの音のテクスチャーです。とりわけ、このシークェンスで流れるDancing in the Darkという曲のストリング・アレンジメントはすばらしく、中音域の使い方に何度も耳を引っ張られ、ダンスから目が離れそうになってしまいます。こういう曲は盤で聴いてみたいですねえ。手を抜かずに用意するべきだったと反省しています。

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クリップを並べて簡単に終わるはずだったのですが、そろそろ時間切れ、残りは次回に持ち越しとさせていただきます。

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by songsf4s | 2009-10-23 23:57 | 映画・TV音楽