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Astaire the Drummer その1 『足ながおじさん』
タイトル
Dream
アーティスト
The Pied Pipers
ライター
Johnny Mercer
収録アルバム
Good Deal, MacNeal
リリース年
1955年(盤は1945年リリース)
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この十日ほどで、久しぶりに映画を3本見たので、忘れないうちに書いておこうと思います。予定した日活映画はとりあえず棚上げにして、先にフレッド・アステアの戦後の映画を2本ご紹介します。今日は『足ながおじさん』です。

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戦後の、と断れば、すぐにおわかりの方もいらっしゃるでしょうが、『ジンジャーとフレッド』的な世界ではありません。カムバック以降の映画、しかも、今日の『足長おじさん』は「ダンサーとしての」晩年のものです。

足長おじさん 予告編


ついでにいうなら、たぶん、映画としての評価も高くはないでしょう。評論家が好まないタイプの「通俗的な」作品です。でも、わたしはこの映画を見て、そうであったか、と深く得心するところがありました。開巻まもなく、こういうシークエンスが出てくるのです。

足長おじさん 冒頭


この前に、ダンスをせず、ドラミングをするだけのショットがあって、ほんとうはそちらのほうをお見せしたいのですが、ふつうの人は「アステア・ザ・ダンサー」だと思っているわけで(当然だ!)、「アステア・ザ・ドラマー」に着目する人間は一握りなのでしょう、このクリップはダンスだけを切り出しています。

わたしはこれ以前に、フレッド・アステアが「太鼓」を叩くすばらしいダンス・シーンを見ていましたが(そちらは次回取り上げる予定)、こちらはフルセットのトラップ・ドラムですからね、へへえ、やるじゃないの、でしたよ。

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いや、まあ、メル・トーメのような、本職が裸足で駈けだすようなドラミングなんてことはありませんが、雰囲気があります。ここでいう雰囲気というのは、「打席に立ったときに雰囲気がある」というのと同じ用法なので、お間違いなきよう。非常にいい素材で、若いころから鍛えれば一流になったであろう、という印象を与えるのです。

◆ ドラマー、ダンサー、そしてボクサー ◆◆
思いだすのはアール・パーマーです。伝記を読めばわかりますが、アールは子どものころ、タップ・ダンサーとして、母親といっしょにステージに立っていました。彼自身の主張によれば、ライヴァルはサミー・デイヴィス・ジュニアただひとりというくらいの売れっ子だったそうです。

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そんな話をしようと思ったわけではないのですが、いま、ふと勘定してみたら、フレッド・アステアがジンジャー・ロジャーズを相手につぎつぎと映画をヒットさせていたころ、アールは少年タップ・ダンサーとして南部のサーキットをまわっていたことになります。アステアのことをどう思っていたのか……。

一流ダンサーと一流ドラマーは、共通の資質をもっているのでしょう。タイムの悪い一流ダンサーはいないにちがいありません。「運動神経」と「運動能力」という言い方をするなら、どちらも同じ種類の運動神経が司る能力なのでしょう。あとは、その人の運動能力の種類によって、ダンサーになるか、ドラマーになるか、あるいはボクサーになるかが決まるのでしょう。

Astaire the Drummer その1 『足ながおじさん』_f0147840_23532565.jpgいいボクサーは音楽的に動きます。バディー・ハーマンやハル・ブレインが学んだ、シカゴのロイ・ナップ・パーカッション・スクールでは、何人かのボクサーが学んでいたそうです。ドラミングとボクシングの体のコントロールは共通のものなのだそうです。呼び方を忘れましたが、四肢を協調させながら、それぞれ別個にコントロールする能力が要求されるという点で、ドラミングとボクシングはおなじものだというのです。

というように、アステアのドラミングとダンスを見ていて、いろいろなことを考えたので、世評はどうであれ、わたしはこの『足長おじさん』という、たあいのない夢物語が気に入りました。

たしかに、アステアのダンスにはかつてのようなダイナミズムはありませんが、このとき、彼は五十六歳ですからね。五十六でこれだけやわらかい動きができるのは、やはり驚異です。ふつう、あんな風には関節が動きません。まあ、そろそろ限界だと自覚していたのでしょうけれど。

◆ Dream, when you're feelin' blue ◆◆
この映画の音楽クレジットは複雑で、映画館で見た人は読み切れなかったでしょう。まず、大きくひとりだけクレジットされる人は……。

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ジョニー・マーサーといえば作詞のほうで有名ですが、この映画では曲も書いています。しかし、ジョニー・マーサーはソングライターですが、映画音楽ではそれ以上のものが要求されます。そういう面を担当したのは……。

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アルフレッド・ニューマンだから、当然、20世紀フォックス製作だとおわかりでしょう。アレックス・ノースが1曲書いていますし、オーケストレーターは5人、そのうちの一人はビリー・メイです。ハードコアなミュージカル・ファンは、20世紀フォックスのミュージカルなど洟もかけないかもしれませんが、これはなかなか豪華なスタッフで、じっさいにできあがった音も楽しめます。

いろいろ楽しい音楽はありますが、でも、やはり、しみじみと「いいなあ」と思うのは、失意のレスリー・キャロンが大学の寮で聴く、パイド・パイパーズのDreamです。映画からのクリップではありませんが、その曲をどうぞ。

パイド・パイパーズ Dream


1945年の大ヒットで、パイド・パイパーズにとっても、「作曲家ジョニー・マーサー」にとっても代表作といっていいでしょう。なんで、十年もたってからこの曲を使ったのか、そのへんはよくわかりませんし、そもそもジョニー・マーサーが中心になった理由もよくわかりません。

でもまあ、総じて音楽は平均以上の出来で、楽しめたのだから、けっこうです。ダンス・パーティーのシーンなどで演出が間延びして、やっぱりMGMじゃないからな、と思ったりもしますが、万事めでたくおさまると、よかったよかったと思うわけで、そういう風に単純に楽しめる映画というのは、じつにありがたいものだと思います。

次回も、「アステア・ザ・ドラマー」を予定していますが、肝心の映画をまだ見ていないので、大丈夫かな、と心配しています。

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by songsf4s | 2009-10-17 23:55 | 映画・TV音楽