- タイトル
- Dance Band on the Titanic
- アーティスト
- Matthew Fisher
- ライター
- Matthew Fisher
- 収録アルバム
- A Salty Dog Returns
- リリース年
- 1990年

順番からいうと、今回は4枚目のStrange Daysになるはずなのですが、このアルバムはなにかものが云えるほど聴きこんでいないので、5枚目のA Salty Dog Returnsへとジャンプします。
しかし、このアルバム、ジャケットからしていかにもチープで、なんだか場末に入りこんじゃったなあ、という雰囲気です。タイトルはプロコール・ハルムのサード・アルバムからの借り物、フロントの上部にはProcol Harum Founderだなんてよけいなことまで書いてあって、ひどく意気阻喪させられました。

しかし、見かけによらないのは人間ばかりではありません。CDだってそうです。マシューの5枚のアルバムで、最初に聴いた瞬間から「これはいい」と思ったのは、このA Salty Dog Returnsだけです。
という言い方ではやや語弊あり、かもしれません。長く盤漁りをしていると、盤のすがたを見ただけで、ある程度は出来の予測をつけてしまいますが、A Salty Dog Returnsはまさにそういう予測が通用するようなタイプの盤です。デザイン同様、中身もまったく金がかかっていないのです。プレイヤーはマシュー・フィッシャーのみ、スタジオは自宅という、例のパターンです。当然、ドラムをはじめ、多くの楽器は打ち込みです。
しかし、どういうわけか、わたしは最初からこのアルバムが気に入りましたし、いまでもときおり引っ張り出しています。ひどい外見のせいで、いっさい期待しなかったことが、かえってよかったようです。よろしければオープナーをお聴きあれ。
サンプル Dance Band on the Titanic

マシューのドラム・アレンジもわるくありません。クラッシュ・シンバルの使い方にはセンスを感じます。シークェンスしても、当然、その人のセンスがあらわれます。フィルインだって悪くありません。彼がどういうドラミングを望んでいたか、よくわかりました。プレイヤーの選択をまちがえたために、好みとはちがうところにいってしまったのでしょう。
◆ ギタリスト ◆◆
これはインストゥルメンタル・アルバムなのですが、へえ、と思ったのは、ひとにぎりながらギター・インストが収録されていて、しかも、その出来がわるくないのです。
サンプル A Whiter Shadow of Pale
またまた、つまらない語呂合わせのタイトルのせいでゲテものに見えてしまいますが、タイトルが暗示するとおり、シャドウズ風の曲なのです。

他のトラックを駆け足で。
Rat Hunterは、Deer Hunter風のアコースティック・ギター・インストです。もちろん、Deer Hunterのジョン・ウィリアムズのテクニックはマシューにはありませんが、この曲でもきちんとそれらしいムードをつくっています。
G-StringとPeter Grumpは、後者のタイトルが暗示しているように、クライム・ドラマのテーマ音楽という雰囲気の曲であり、サウンドづくりです。意識したのかどうか、アート・オヴ・ノイズのPeter Gunnのカヴァーをちらっと思い起こしたりもします。
Sex and Violenceも同様のムードのギター・インストで、中間部のシンセ・ソロはいらないと感じますが、しかし、ギター・インストとしてはなかなか好ましい曲です。ほんとうにシャドウズ・ファンなのでしょう。年季が入ったパスティーシュづくりをしています。
以上、5枚目はまったく評判にならずに消えていったアルバムですが、わたしはおおいに楽しみました。まあ、どうしたってマイナーな世界になってしまって、評判にならなかったのはやむをえないとは思いますがね。
そして気づいたのですが、このアルバムを聴いているとき、わたしはマシュー・フィッシャーに、もうハモンドを期待していませんでした。ピアノの曲も、ギターの曲、けっこうじゃないの、と楽しんだのです。お互い、過去の亡霊から解放されるのはすがすがしいものです。