- タイトル
- Between Today and Yesterday
- アーティスト
- Alan Price
- ライター
- Alan Price
- 収録アルバム
- Between Today and Yesterday
- リリース年
- 1974年
久しぶりの連日更新をしたのは、連休に入ってから、一日のユニーク・ユーザー数カウンターが200台を回復したからです。200をはさんで行ったり来たりするようになれば、ピーク時の250を前後するのも目前ではないかというスケベ根性を起こしました。
お戻りになった昔のお客さんにも、新たに訪れたお客さんにも、心からお礼を申し上げます。
◆ アラン・プライスその後 ◆◆
先日もちょっとふれましたが、このところ、しばしばアラン・プライスを聴いています。ご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんが、アラン・プライスはアニマルズのオルガニスト、アレンジャーとして、最初にわれわれの前に姿をあらわしました。もともと、アラン・プライスのバンドとエリック・バードンの仲間が合体した、自民党のようなバンドだったらしく、早期の分裂はスタートの時点から運命づけられていたようです。
その後、アラン・プライス・セットなるグループで、フワッと軽い、あと口のさわやかなホワイトR&Bの盤を数枚残しました。イギリスでもそこそこの人気があり、旧大英帝国の版図においてもスターであると、当時、うちの学校に交換留学できていたニュージーランドの高校生がいっていました。
わたしが、I Put a Spell on Youは、ニーナ・シモンのヴァージョンより、アラン・プライス・セットのほうがあっさりしていて、粋で、ずっと出来がいい、ただしだな、日本ではアラン・プライスの盤は手に入らない、俺はラジオで聴いた、といったら、あっというまに日本語ぺらぺらになったこのニュージーランド人は、大喜びしていました。Oye Wayne, where are you now?
アラン・プライス・セットの盤は入手困難で、I Put a Spell on Youは、福田一郎の日本未発売の盤をかける番組で何回か、さらにFENで何回か聴いただけでした。アメリカではマイナー・ヒットで、トップ40に届きませんでした。
◆ 映画音楽へ ◆◆
70年代以降のアラン・プライスは、映画音楽作曲者としてのほうがよく知られているでしょう。マルカム・マクダウエル主演のO Lucky Manのスコアが評判になりました。リリアン・ギシュとベティー・デイヴィス(本邦で云えば差詰め山田五十鈴と杉村春子か!)の『八月の鯨』(Whales of August, 1987)の極度に音のすくないスコアも、映画ともども印象に残っています。
O Lucky Man
The Whales of August
しかし、どれほど映画音楽の世界で名声を得ようと、わたしにとっては、アラン・プライスはやはりアニマルズのオルガンであり、I Put a Spell on Youのシンガーであり、そして、なによりもBetween Today and Yesterdayの人でした。
Between Today and Yesterdayというアルバムをご存知の方がどれくらいいらっしゃるでしょうか。当時、日本ではリリースされなかったのではないかと思います。わたしは、以前書いた、1974年夏の「決死の密輸大作戦」のときに、短期間に集中的に買った数十枚の一枚として入手しました。わたしにとって、これがはじめて手にしたアラン・プライスの盤でした。APSのデビューがたしか1966年ですから、アラン・プライスの一枚にたどり着くのに、ほとんど永遠の時間がかかったことになります。
そのような艱難辛苦(てえほどじゃあござんせんがね)が背景にあったからということではなく、結局、わたしは、アラン・プライスはBetween Today and Yesterdayに尽きると考えています。いや、Price to Playだって悪くないし、楽曲単位ではいくつかいいものがありますが、アルバムということになると、Between Today and Yesterday一枚あれば、それでいいでしょう。
◆ だれも聴かなかったLP ◆◆
他人の評価と自分の評価が一致しないなんていうのはざらにあることで、いちいちあげつらうほどのことではありませんが、Between Today and Yesterdayほど、だれかが言及したのを見かけなかったアルバムはないといっていいほどです。どこぞのブログで、しきりにmasterpieceを連発している人がいましたが、この人だけが唯一の知己といっていいほどです。
いや、評判が悪いのではありません。評判が「ない」のです。悪評すらないのだから、要するに、だれも聴かなかったということでしょう。
古いものの評価というのは、リイシューのありようによっても決まると思います。アラン・プライスは地味なアーティストですから、CD時代の到来とともに、どっとリイシューがはじまった、などということはありません。しみったれたベスト盤からはじまって、まともなアンソロジーがリリースされ、そして、90年代なかばにオリジナル盤のリイシューがはじまりました。
ところが、わたしが好きではないアルバムはどんどんCD化されるのに、Between Today and Yesterdayの順番はついにまわってきませんでした。いや、わたしが盤漁りをやめてからリリースされたのですが、探しているあいだはついに見つけられず、結局、数年前、状態の悪い手元のLPをディジタル化しました。
なぜかリイシューの網の目から漏れてしまう盤というのがあるものです。そういうのにかぎって、好きだったりするところが不思議ですがね。同じように、不遇だなあ、と思ったアルバムは、ジョニー・リヴァーズのL.A. Reggaeです。ジム・ゴードンとジョー・オズボーンがリラックスしたすばらしいグルーヴをつくっているし、Rockin' Pneumonia with Boogie Woogie Flu(ニューモニアのスペルを思いだせなかった。口惜しい!)という大ヒット曲もあるのだから、最初にリイシューされてもおかしくなかったのに、これまたCD化は遅れに遅れ、つい最近、やっと2ファーで出ました。
人間の運不運といっしょで、盤の場合も、質の問題ではなく、たんなる不運からだれにも相手にされないものというのがあるわけで、がっかりしちゃいますよ。
まあ、一歩退いて考えるなら、うまくジャンルにはまってくれない、というのがまずかったのでしょう。Between Today and Yesterdayは、ロック的ではないし、ポップ的ともちがうし、じゃあなんだ、というと、キャッチフレーズらしきものは出てこず、曰く言い難し、になってしまうのです。そのへんが、Pet Soundsやハーパーズ・ビザールのAnything Goesに似ています。
◆ サンプル ◆◆
すこし、サンプルをアップしました。Between Today and Yesterdayというアルバムのいいところは、総体としてよくできていることにあるので、単独の楽曲を取り出すのはあまり好ましいことではないと、いちおうお断りを申し上げておきます。
LPではA面、B面とはいわず、Yersterday sideとToday sideとなっていたのですが、そういう趣向もCDになってはすべてパアです。区分けは単純で各面6曲ずつ。
Yesterday side
01_Left Over People
02_Away, Away
03_Between Today and Yesterday
04_In Times Like These
05_Under The Sun
06_Jarrow Song
Today side
07_City Lights
08_Look at My Face
09_Angel Eyes
10_You're Telling Me
11_Dream of Delight
12_Between Today and Yesterday
となります。2種類あるBetween Today and Yesterdayは、最初がピアノ・ヴァージョン、エンディングがフルオーケストラ・ヴァージョンです。
どれを取り出すかは思案のしどころですが、迷いに迷ったので、アラン・プライス自身がシングルに選んだ曲とテーマのオーケストラ・ヴァージョンにしました。
サンプル Jarrow Song (45 ver.)
自伝的なこのアルバムのなかでも、もっとも自伝的な曲かもしれません。組曲になっていて、途中からまったくちがう曲になります。つなぎ方も含めてすぐれたトラックです。ピアノとストリングスの間奏もけっこう。オーケストレーションは比較的シンプルですが、当時のわたしにはちょうどいいぐらいの使い方で、気に入っていました。
サンプル In Times Like These (45 ver.)
昔から、When the money doesn't go far, we end up drinking up jamjarの意味がわからなくて、ずっと気になっています。
サンプル Between Today and Yesterday (orch. ver.)
これもそれほど複雑なオーケストレーションではありませんが、なにしろコード進行がシンプルなので、ピアノ・ヴァージョンは途中でダレるところがあり、それを回避するには、やはりオーケストラを加えるのはひとつの解決策ではあります。オーケストラによって、うまく厚みと広がりをつくっています。
これを聴いたころは、オーケストラの入った盤というのが好きで、ハーパーズ・ビザールのAnything Goesや、ビーチボーイズのCarl & the Passionsのデニス・ウィルソンの曲などをよく聴いていましたが、アラン・プライスのBetween Today and Yesterdayもその文脈に収まります。
◆ 他のアルバム ◆◆
どうせだから、他のアルバムから、昔よく聴いたトラックを2種加えておきます。
サンプル I Put a Spell on You
この曲については、過去にフル・アーティクルを書いているので、よろしければご参照あれ。アラン・プライスは「うまい」タイプのシンガーではありませんが、この曲をはじめて聴いたとき、エリック・バードンよりずっといいシンガーだと思いました。くどいの、濃いのが不得手なのです。同じような理由で、プロコール・ハルムについても、ゲーリー・ブルッカーよりマシュー・フィッシャーのヴォーカルのほうがはるかに好きでした。
サンプル Groovy Times
結局、アラン・プライスのアルバムで好きなのはBetween Today and YesterdayとPrice to Playだけのような気もするのですが、これは後年のもののなかではわりによく聴いた、Lucky DayというLPのA面2曲目のミディアム・バラッド。アップ・テンポで入り、バラッドで受ける、というのは、王道を行くシークェンスの作り方ですな。
このアルバムも不遇で、いまだにCD化されていないようです。Rising Sunという退屈なアルバムのボーナスとして3曲がとられているのみで、話があべこべ。Lucky Dayのリイシューに、ほとんど聴くべきもののないRising Sunから1、2曲ボーナスとして入れる、が正しいリイシューのやり方です。ものごとの順番もわからない唐変木の会社が多くて、買うほうは苦労の種が尽きませんよ、まったく。
Price to Play
Repertoire (2000-03-07)
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Between Today and Yesterday
Collector's Choice (2008-07-08)
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Anthology
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Rising Sun
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