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クリフ・リチャードとシャドウズの映画『太陽をつかもう!』(Finders Keepers)

前回、記事をアップしたあとになって、クリップがないからとネグッてしまった曲が気になったので、改めてサンプルをアップしました。

サンプル Both of Us by Manassas

先にクリス・ヒルマンが行き、つぎにスティルズがリードをとります。彼の好むセッティング、自分の声を際だたせる演出です。

昔はそんなことはチラとも考えませんでしたが、ひょっとしたらスティルズはグラム・パーソンズのファンで、クリス・ヒルマンをバンドに招くことで、自分がフライング・ブリトー・ブラザーズにおけるグラムの位置になるようにしたのかもしれません。すくなくとも、ブリトーズのデビュー盤におけるグラムとクリスのバランス(エヴァリーズへのオマージュだったことにも気づいたのか?)に興味をもったから、クリスに声をかけたのだと思います。

f0147840_2355925.jpgサンプル Midnight in Paris by Stephen Stills (feat. Donnie Dacus on lead vocal for the 1st verse, with Stills on harmony)

セカンド・リード・ギターとヴォーカルを担当し、この時期、スティルズ・バンドの現場監督だったドニー・デイカスが先にリードをとり、スティルズが薄いミックスでハーモニーをつけています。スティルズの嫁さんも加わっているかもしれません。フランス語になるセカンド・ヴァース(嫁さんがたしかフランス人だった)でおもむろに御大登場、場をさらう、拍手拍手という、またしても同じ演出です。

f0147840_2394218.jpgしかし、「真夜中のパリ」というタイトルで、なんでラテン風味なのでしょうかね。ジョー・ララがいけない? もうひとつ、いま聴いて思うのは、このドラマーのタイムとスネアのチューニングが、ダラス・テイラーによく似ていることです。スティルズというのは、ドラマーをよく理解していたのかもしれません。好みが明確で、プレイヤーの選択基準が第三者にもはっきり見えます。

◆ まだら模様のサマー・オヴ・ラヴ ◆◆
映画を見る時間はなかなかつくれず、いっぽうで、ノスタルジアのヒステリー状態とでもいう妙なことになっていて、ああ、あの曲が聴きたいな、と思うと、それからそれへとつぎつぎに、しばらく聴いていなかった曲を思いだし、ずるずると記憶をたぐっています。

先日、クリフ・リチャードのI Could Easily Fallのことを書いたら、そういえば、と思いだしたのが、Finders Keepersです。

いや、曲のほうはいまだにシングルをもっていて、何年か前にディジタル化してあるので、そちらは懐かしいというほどではありません。問題は映画です。

オープニング


1967年の夏休みに入ってすぐのことでした。バンド・メイトと有楽町の東映パラスまで、このクリフ・リチャードとシャドウズの『太陽をつかもう!』を見に行きました。

1967年夏といえば、アメリカ現代史ではSummer of Loveと呼ばれる特別な夏です。ヒッピー・ムーヴメントのピークであり、音楽的にはサイケデリックの年、ということに「なって」います。

でも、この時点では、日本はまだサイケデリックに突入していませんでした。どんなに早く見積もっても、この年の終わりごろ、いや、一年遅れだったといってもいいんじゃないでしょうか。

とはいえ、7月の終わりには、モンタレー・インターナショナル・ポップ・ミュージック・フェスティヴァルのことは雑誌で読んでいたし、ジッポのライター・オイルでストラトに火をつけたジミヘンの写真も見ていました。ただし、ジミヘンのアルバムを買ったのはもっとずっとあとでした。最初に聴いたのはHey Joeだったか、Foxy Ladyだったか、もはや記憶の靄のなか。

Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandも世界同時発売だから、いつも半年遅れるわれわれも、やっとリアルタイムでビートルズのリリースを聴けることになり(輸入盤なんてものはふつうの子どもが買うどころか、目にすることすらない時代だった)、夏休み直前に買ったと思います。ジェファーソン・エアプレインのSomebody to Loveの、ライト・ショウ付きライヴ・クリップも、すでに五月か六月には見ていました。

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だから、サイケデリックのなんたるかを知らなかったわけではなく、相応に認識し、おおいなる関心をもっていました。でも、街に出てみれば、ヒッピーなんかいやしないし、路上のフリーコンサートなんかやっていないし、テレビで見る日本のバンドは、身ぎれいにして、当たり前のラヴ・ソングを歌い、プレイの最後には深々とお辞儀をしていました。

こっちだって中学2年ですからね。世界観はそれに見合ったサイズにすぎず、頬に絵を描いて音楽を聴く人々の考え方が、未来の支配的な方向を示しているとは思いもよらず、ただ楽しいことが起きているらしい、ぐらいの認識しかありませんでした。

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世界の変化とはすなわち、人々の日常感覚の変化の集積である、なんていう単純な理屈も知らず、ライフ・スタイルの変化が長期的に社会を変革する真の原動力となる(いまどき車を乗りまわすなんてダサいじゃない、という人間が増えると、産業構造が大打撃を受け、やがて政治にまでダメージを与える。たんなる「好き嫌いの揺らぎ」がイデオロギーなんか足元にも及ばないマグニチュードで社会を揺さぶるのである。共産圏が崩壊した理由は単純明快、ダサかったからだ!)ことがわかっていないから、いま聴いている音楽が、これから世界がとほうもなく変化していく、その大波の最先端、白く砕けた部分なのだとは思ってもみませんでした。

1967年夏の日本の子どもの世界認識は白でも黒でもなく、まだらでした。うちではへヴィー・ローテーションでSgt. Pepper'sを聴きながら、有楽町までクリフ・リチャードを見に行ったのです。1964年のビルボード・チャートで、ビートルズとディーン・マーティンが共存していたようなもので、べつに異様なこととは思っていませんでした。

◆ 非傑作の楽しみ ◆◆
なんだか、ひどく大束な話になってしまいました。何十年もたって、自分の日常をふりかえり、世界史のなかのどのあたりに位置していたかを大俯瞰でながめちゃったわけです。そんな馬鹿なことはもうこれくらいにして――。

『太陽をつかもう!』も忘れられた映画といっていいでしょう。映画的な価値があると考えている人も見あたらないようです。

ダイジェスト(10分)


クリフとシャドウズは、スペインのどこかの町のクラブに雇われてプレイしに行きますが、着いてみるとクラブは閑散としていて、いったいなにがあったのだと聞くと、まちがってこのへんのどこかに核爆弾が落とされ、それが見つからなくて大騒ぎになり、飲んで歌って遊ぶなんて悠長なことはだれもしないのだ、といわれます。ここから爆弾探しということになり、もちろん、最後はめでたしめでたし、という映画です。

まあ、どう逆立ちしても、名作の、傑作の、という言葉は出ませんやね。だけど、云わせていただくなら、名作だの、傑作だのを見たい人って、どれだけいるのでしょうか。われわれが映画館に行く理由は、アートに接するためなどであるはずがないでしょうに。しばらくのあいだ、楽しい気分になりたいから金を払うのです。

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そういう意味で、『太陽をつかもう!』は、払っただけの料金に値するものでした。だったら、傑作なんかである必要はありません。なまじ芸術的なせいで、まったく楽しめない映画にくらべれば、ずっと上等です。

なぜ楽しいかといえば、音楽が水準以上の出来だったからです。テーマ曲もおおいに気に入りましたが(このあと、自分のバンドでやろうとしたが、うまくいかなかった。ギター・イントロがかっこいい)、ほかの曲も魅力的です。

This Day


映画のなかの順番としては、これはだいぶあとのほうになりますが、テーマ曲のシングル盤ではB面に収録されたバラッドです。このシングルはAB面ともによく聴きました。

La La La Song


記憶というのは微妙に変形されます。This Dayのシーンをわたしは「夜、広場の噴水のまわりを歩きながら歌う」というように記憶していましたが、上記のクリップでおわかりのように、じっさいには洞窟のなかで歌っています。広場の噴水のところで歌うのは、こちらのLa La La Songのほうでした。しかも、夜ではなく、昼間のシーン。あっちでズレ、こっちでズレ、わが記憶は惨憺たるものです。

そんなことはおくとして、この曲だって、小品ながら、楽しめる仕上がりです。ギターがよろしいですな。やはりハンク・マーヴィンのプレイでしょうか。

Time Drags By Real Slow


この曲は、シャドウズだけでやったトラックがあったような気がするが、とりあえず検索では発見できなかった。昔、繰り返し聴いた記憶があるのだが、どの盤だったか思いだせない。

Oh Senorita


これまたギターのオブリガートが楽しめます。ジョン・ロスティルのプレイも魅力的。わたしはこの人のフラット・ピッキング・スタイルが好きだということに、なぜか最近気づきました。

My Way


この映画の挿入曲は、背景に合わせてラテン的なものが多いのですが、やはりこういうロック系のものも必要です。これまた好きな曲。盛り上がります。

Washer Woman


この曲も好きですねえ。ミュージカル風につくられた映画だから、こういうプロダクション・ナンバー風のものが入っているのでしょう。

Time Drags By Real Slow (honky tonk ver.)


すでに出てきた曲のヴァリアント。映画音楽はヴァリアントの使い方のセンスで勝負は決まるといっていいほどですなあ。その意味でこの使い方は……うーん、それほどビシッとはきまっていないか。

Finale


ひとつ思いだしたことがあります。なぜこのとき、クリフ・リチャードとシャドウズに関心があったかというと、この直前にシャドウズが来日したからです。テレビで見ただけですが(スタジオだが、ちゃんとライヴでプレイした)、ライヴ・バンドとしてはヴェンチャーズより数段上、全体のサウンドも「大人」だと感じました。

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いまになるとわかるのですが、なぜ「大人」と感じたかというと、ブライアン・ベネットとジョン・ロスティルのタイムが、メル・テイラーとボブ・ボーグルのタイムより精確だからです。タイムの不精確なプレイヤーがジャストより遅くなるケースはまずありません。ほとんどすべて早くなります。この懐の浅いグルーヴは落ち着きがなく、子どもっぽい印象を与えるのです。

それから、これは年季の入ったシャドウズ・ファンの賛成は得られないかもしれませんが、わたしはシャドウズのサウンドのピークは、キャリアのピークからはズレて、66年前後ではないかと考えています。フェンダーの時期ではなく、バーンズの時期です。67年というのは、熟しすぎて腐る直前、シャドウズがいい音を出していた最後の年なのです。こんなことも、何十年もたったからはっきり見えることなのですがね。

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◆ 傑作と愚作はリヴァーシブル ◆◆
シャドウズが書き、クリフ・リチャードが歌い、シャドウズがプレイした曲は、四割以上の打率をあげています。テッド・ウィリアムズなみだから、音楽面は十分な成績です。そして、クリフ・リチャードの映画を見るときにわれわれが期待するものもまた、楽しい音楽にほかならないのだから、金を払うに足る映画だったといえるのです。

われわれの批評言語には、こういう映画をほめる方法がビルト・インされていません。完成度なんか知ったことか、芸術性なんかクソ食らえ、その瞬間、画面を見、音を聴くのが快感かどうか、それだけを測定する方法はないのか、と思います。

近ごろはなんでもレイティングで、映画もあちこちで投票しているようですが、あれほどくだらないものはありません。わたしは『太陽をつかもう!』に満足して映画館を出ましたが、たとえば、どこかで投票するなら、5点なんかつけません。1点ぐらいにしておきます。そのくせ、好きでもない映画には5点をつけるでしょう。

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なぜそうなるかというと、音楽が楽しかったのであって、映画が面白かったからではないからです。音楽のわからない映画ファンにはなんの意味もないものだから、その点に配慮して、いい点は付けないにきまっています。

音楽のわからない人間、クリフ・リチャードが嫌いな人間にとっては、この映画は0点です。クリフやシャドウズのファンにとっては5点です。そういう意見を集めて平均点なんか割り出したって、意味のある数字にはなりません。

傑作の、名作の、秀作のと、そういう言葉をむやみに使いたがる人がいますが(名物にうまいものなし、ソフトロックの「隠れた名作」にいい盤なし)、他人の意見なんか、どん詰まりにおいては小指の爪先ほどの意味もありません。他人にとっての傑作は、しばしばわたしにとっては愚作です。わたしにとっての秀作は、あなたにとっての駄作である可能性がきわめて高いでしょう。

それでも、われわれはこういう文章を書き、それを読んでしまう習性をもっているのだから、まことにもって人生は謎、人間は不可解。エクサイトの文字数限界ぎりぎりになったので、突然ですが、本日はこれでおしまい。

Finders Keepers
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by songsf4s | 2009-09-27 23:51 | 映画・TV音楽